Fate/Meltout   作:けっぺん

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四回戦決着。
オリジナル展開がこんなにも難産だとは、むぅ。


三十四話『情愛』

 

 

 満身創痍。

 肩で息をつく僕の横で、傷だらけになり息をつきながらも耐え切ったメルト。

 役目を終えた『オシリスの砂塵』はただの砂と化し、落ちていく。

 リップは全ての力を使い果たしている。

 そして、白羽さんは。

「あぁ――駄目、だったかぁ」

 

 ――

 

 どちらが止めを刺す前に、二つを隔てる壁は出現した。

「……id_esの解放、やっぱ無茶だったかな。白斗君も、やらない方がいいよ」

 その手から令呪が消えていき、それを追う様に白羽さんの存在が消えていく。

 理解した、魔力の枯渇だ。

 先ほどのコードキャストの影響か、白羽さんはマスターとして存在出来る分の魔力をも失っていた。

 あの状態で勝利したとして、彼女はどうなるのか。

 それを考えるまでも無く、勝敗は決していた。

 片方は魔力が残っており、尚且つサーヴァントは辛うじて立っている。

 もう片方は魔力が無くなり、サーヴァントの力は残っていない。

 この状況を、ムーンセルは決着と判断したのか。

「惜しかったなぁ。せっかく令呪使ってまでコード組んだのに」

 タスクで手に入れた令呪、それの使い道は、トラッシュ&クラッシュを使うためのコードを作る事だったのか。

 令呪はサーヴァントへの強権だけではなく、魔術使用のための強力な魔力源となる。

 それを使って尚、自身の魔力を有りっ丈使用しないと解放できないid_es。

 確かに『オシリスの砂塵』が無ければ、絶望の一手となっていただろう。

「一体どうしたの? その礼装。リップの宝具を受けきるなんて」

「念のためにって協力者に用意してもらったんだ」

 ラニが居なければ、自分はここで負けていた。

 やはり彼女の存在が、今回の勝因だった。

「そっか。私も誰かと手を組んだ方が、良かったかな……」

 はらはらと散るように消える白羽さん。

 また、この光景を見なければならない。

 四回戦で二回目。

 ランルー君も、白羽さんも、間接的には僕の手で殺したようなものなのだから。

「――駄目だよ、そんな目したら」

「……え?」

 小さく笑みを浮かべる白羽さんは、ゆっくりと此方に歩み寄ってくる。

 しかし、二つを隔てる壁はどうにもならず、そこに手を当てるだけ。

「皆の命を預かるんでしょ? だったらそんな目してちゃいけないよ」

 説教だった。

 あんな事を言っておきながら、また罪悪感を感じていた。

 いや、罪悪感を抱いたり、死を悼んだりするのを悪いと言っているのではないのだろう。

 皆の願いの――命を預かって進むのだから、それに恥じない顔でいろ、と。

「……うん、ごめん」

 白羽さんに笑いを返す。

 上辺だけの取り繕いに過ぎないが、少しでも()()らしく見せたかったから。

「……今度こそ、文句なしの合格だね」

 いつぞやの個室事件を思い出す。

 疑問系の挨拶で何とか合格を貰ったが、今度は完璧な合格を貰うことができた。

 採点者は一度だけ頷くと決戦場の上方を見上げる。

 海を模した決戦場。

 その景色に、何か想いを馳せているのか。

「私と君――どちらかが勝つようになっているのかもね」

 そんな呟きに、思わず聞き返す。

 どういう事だろうか。

「両方とも記憶がなくて、サーヴァントも特別。勝つように仕組まれていたら――何て考えたら、少しは気楽になるかな?」

 確かに、ここまでの相手は明らかに自分より優れている。

 そんなマスター達に勝てるのは、何者かの力が関与しているのかもしれない。

 だとすると出来レースになるし、恐らくそんな事は無いとは思うが。

「とにかく君は他のマスターとは違う。その事は肝に銘じておいて」

「……分かった」

 もう殆ど残っていない、その体を崩しながら、白羽さんはリップに向き直る。

 敗者という事はリップも同じ。

 爪の先から、少しずつ黒く染まり崩れていく。

「リップ、ごめんね。勝たせてあげられなくて」

「いえ……きっと、これも運命なんだと思います。それに――」

 白羽さんに笑いかけるリップに、諦めの表情はない。

 未来に希望を持つ少女そのものだ。

「二度目があるなら、三度目があってもおかしくないです」

「……そう、だね」

 その会話にどういった意味が込められていたのかは分からない。

 英霊の身である以上、一度は死んでいる事になり、今回が二度目の生ならもう一度召喚される可能性もゼロではない、という事か。

 それの真意を分かっているのは、白羽さんとリップだけなのか。

 或いは、姉妹であるメルトも理解しているのかもしれない。

「ばいばいリップ。楽しかったよ」

「――はい」

 たったそれだけの、何気ない会話。

 そしてもう一度、顔だけ此方を向き、

「じゃあね。天国で応援してるよ」

 そんな言葉を最後に、白羽さんは消滅した。

 自分に似た、記憶の無いマスター。

 互いに同じ欠陥(バグ)を持ち、共感し、一時期は協力してタスクに挑んだマスター。

 そんな存在は、聖杯戦争の四週目、約一月が経過したその日に命を終えた。

 そしてその従者も、主を追って――

「……」

「え?」

 今の一瞬、何が起きたのか。

 バチリ、という音。

 何だろうか、このデジャヴ。

 リップが消滅していくその爪を振るうと、勝者と敗者を隔てる壁に罅が入る。

 もう一撃、罅が広がり、一部に穴が開く。

 そして、更に一撃。

 壁は大破し、粉々に砕け散った。

「……え?」

 防衛プログラムの強制破壊。

 そんな無茶苦茶を、死に際に易々とこなす事が出来るサーヴァントを目の前に、体が凍りつく。

 メルトに戦う力が残っていない以上、襲われれば絶対に助からない。

「……止めないの?」

 リップがメルトを見ながら問う。

「今の私に貴女を止める事は出来ないわ。それに、別に貴女、殺気を抱いてないし」

「……ありがとう」

 僕の傍まで歩いてきたリップが笑いかけてくる。

 その爪の殆どは失われ、最初に見た頃の怖さは感じられない。

「ハクト、さん……」

「……何?」

 薄幸の少女。

 消え行くリップは、そんなイメージだった。

 その顔が少しずつ、僕に近づいてくる。

 何をしようとしているのか――それを察するも、拒む気持ちは生まれなかった。

 物静かながらも、確かな情念を持った少女。

 その唇が――

 

「……なんて、冗談です」

 いたずらっ子の様に舌を出しながら笑うリップは、そう言って離れていく。

「今度は、負けませんからね」

 満面の笑みのまま、リップは消えた。

 それは四回戦の終了を意味する。

 メルトは特段、何を思っているわけでもなさそうだ。

 悲しむでも、喜ぶでもない。ただ無表情に、リップの残滓を目で追っている。

 黒い粒に手を伸ばし、触れたと思った瞬間弾けて消える。

「メルト……大丈夫?」

「えぇ。特に思うことはないわ」

 それもどうかと思うが、僕のために虚勢を張っている可能性も無くはない。

 だから、ここは追求しないでおこう。

 ともかく、激戦は終わったが、また明日からは戦いが始まる。

 勝者に与えられる束の間の休息を、とりあえずはしっかりと取る事にした。

 

 

 ……ここは、どこだろうか。

 清涼な川のせせらぎ。壮絶な波のまじわり。

 どちらともとれる水の音がどこからか聞こえてくる。

 夢――理解するまで、今までより時間が掛かった。

 白羽さん達に勝った後、決戦場を出たところで凛に会って――何かを話した。

 確か、対戦相手は誰だったとか、そういう事を聞かれたと思う。

 そして保健室でラニに勝利を報告して、それから寝たのか。

 意識を()に戻す。

 メルトの過去を映した今までの夢よりも抽象的で、具体的にどういった場所にいるのかすら分からない。

 大渦に飲まれて奈落へと引き摺り込まれている、と言われれば納得できるだろう。

 自由落下にも思えるそれにしばらく身を任せていると、メルトの声が響く。

 

『快楽の海から、私は生まれた。

 自らを溶かし、

 庇護する相手すら溶かす乳海から。

 

 姿は見えず、カタチは無く、心はからっぽ。

 触れるものすべてを溶かし、奪い、

 私に変えるだけのエゴ。』

 

 自白とも、自嘲ともとれる言葉。

 誰に向けられるわけでもないそれは坦々と語られていく。

 

『多くのものを溶かしました。

 多くの命を取り込みました。

 多くの力を吸い上げました。

 

 生き物はどれも栄養にすぎません。

 あらゆるものは、私の手のひらの上で

 転がる錠剤(カプセル)なのです。

 

 私にとって世界は退屈な食卓(テーブル)です。

 浜辺に作られた砂の城と同じです。

 すべてさらって私に還すだけのものです。』

 

 溶かす。取り込む。吸い上げる。栄養。錠剤(カプセル)食卓(テーブル)。砂の城。

 それらは、僕の知らないメルトの本質。

 何を意味するのか分からないのに、それだけは感じられた。

 

『ああ、でも―――

 私は恋を知りました。

 愛する心を知りました。』

 

 独白は続く。

 どこか悲しみの篭った語調で。

 

『私は完全に堕落しました。

 もうカタチのないエゴではありません。

 目的の無い快楽ではありません。

 

 恋する貴方を守るため、

 私の全身(すべて)を捧げます。』

 

 誰かに対する、愛の告白。

 生前の出来事だとしたら、それは叶ったのだろうか。

 

『私には貴方だけ。

 貴方には私だけ。

 私は、世界をそのように作り替える。

 

 それこそが幸福よ。

 貴方を傷付けるものはなくなって、

 貴方が嫌うものもなくなるのです。』

 

 自己中心的。

 いや違う、“的”ではなく、メルトにとっては世界こそが自分であり、自分こそが世界そのものなのだ。

 自分が中心となるのではなく、自分自身が全てとなる。

 北も南も東も西も、中心すらも無い、メルトリリスという一つの世界。

 

『貴方は笹の船。

 私という海を旅する唯一の生命。

 

 でも安心して。

 この海に嵐は起きない。波も立たない。

 ただ平穏に過ぎる凪の海。』

 

 何一つ問題のない、恒久の平和。

 だが、果たしてそれは平穏な海と言えるだろうか。

 嵐も起きず、波も立たない海は即ち死の海。

 嵐が起きて、波が立つからこその平和な海だと感じるのは、メルトとの考えの相違か。

 

『世界はどこまでも限りなく、

 終わる事もなく、

 ずっと貴方を許容し続ける。

 

 だから―――

 甘い蜜で溺れ溶けて、

 自分の名前も忘れてください。

 

 私の中で、無価値のままで、

 ずっと口をつぐんでいなさい。

 

 氷が水に溶けるように、

 砂糖が蜜にとけるように、

 貴方と私を隔てるものはなにもない。』

 

 歪んだ愛、そんな言葉が脳裏を過ぎる。

 メルトにはかつて、これ程一方的な愛を注いだ存在が居たのだろう。

 

『私の腕の中で、貴方は私の愛になる。

 これ以上の快楽(こうふく)が、

 この世のどこにあるのでしょう?

 

 ……私は恋を知りました。

 貴方の名前を知りました。

 貴方のすべてを、教えてください。』

 

 僕が知るメルトとは違う。

 愛に溺れ、恋に溶ける純な少女。

 だが、その根底は、酷く歪んだものに思えた。

 

『吐息や体液の混じりあいも、

 肌と肌との重なり合いも、

 表面的な快楽にすぎません―――

 

 すべてを取りこんでこその理解です。

 貴方を溶かして、私にまぜる。

 私のすべてを、貴方に与える―――

 

 それこそが完全世界(メルトリリス)

 貴方の為に作る至上の揺りかご。』

 

 意識が現実へと戻されていくのが分かる。

 一体これは、何を見せようとしていたのか。

 少なくともこの光景は、メルトが見た世界とは違うだろう。

 だとすれば、聞こえてくるこの独白こそが、この夢の真意――聞かせたかったもの。

 メルトが抱いた愛、これが彼女の在り方なのだとしたら、今までの夢よりもずっと重い意味を持っている。

 

『もう苦しみはありません……

 愛も、恋も、怯えも、傷も、

 すべてが私でできているのだから。

 

 目を閉じて、口を噤んで―――

 ―――貴方は私、私は愛……

 

 砂糖は蜜に溶けるもの……

 貴方は愛に溶けるもの……

 愛は、すべて、私のもの……』

 

 遠くなっていく声の残響を聞きながら、急速に意識が引き戻されていく。

 これがメルトの在り方であれば――僕はそれを受け入れたい。

 彼女が想った人は誰なのか、どういった結末を迎えたのか、そんな事は知らない。

 だけど、一緒に戦ってくれるメルトの為になってあげたいから。

 目が覚めたら、過去について聞いてみよう。

 そう、思った。




後半は決戦前の台詞ですが、セーフでしょうか。
大幅コピーに引っかかるのであればある程度改変させていただきますね。

次の更新は多分日曜日です。
そこからはまた一日一更新に戻る、かなぁ。
それまでに自分がどこまで書き溜められるかですね。
ちなみに現在、三十八話まで書き終わっています。


以下、下らない呟き。作品どころかFate関係ないので無視して結構です。

そろそろポケモンの複数催眠は公式で規制してほしいところ。
XYで切断対策されるらしいですが、ぶっちゃけそれより先に此方を……
それが無理なら、せめてガッサのASを半分にしてほしい。
パーティ全体催眠対策出来る訳じゃないんですから。
それも無理? じゃあ胞子のPP1で。

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