Fate/Meltout   作:けっぺん

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残り三日間なんて無かった。
というより四回戦だけ長くなりすぎるのもどうかと思った。

あ、それと更新遅れてすみませんでした。
以降はこのような事はないようにしたいです。


三十二話『命を懸けたパ・ド・ドゥを』

 

 

 残された猶予期間の三日間、白羽さんとリップは一切姿を見せなかった。

 四日目――タスクを達成した日に生成されたトリガーを取った形跡だけは見られたものの、それ以外、特訓の痕等は見られなかった。

 怪訝には思いつつも、決戦に向けてひたすら特訓を続け、遂に七日目がやってきた。

「今回の相手はサーヴァントの中でも特別なものといえます。ハクトさん、大丈夫ですか?」

 戦いの前に保健室でメルトとラニと僕で情報整理をしていた時、不意にラニが心配そうに口を開く。

 そう、今回の相手はマスターの実力もサーヴァントの実力も不明瞭なもの。

 サーヴァント、パッションリップ。

 彼女については、メルトからその戦闘能力を聞くことが出来た。

 初めて見た時から脅威と感じていた、巨大な爪。

 あろう事かサーヴァントを包む込み、握りつぶすなどの荒業もやってのけるものだった。

 勿論、その殺傷能力は抜群、メルトの軽装ではただの一撃も喰らわない覚悟で挑まなければならない。

 メルトがくれたマトリクスには、リップが所有するスキルも載せられていた。

 一つは、気配遮断スキル。

 自身の気配を断って行動する、暗殺者(アサシン)の基本能力。

 A+という最上級のランクを持っているが、どうやらあの爪が優れたランクを台無しにしているようだ。

 それに、真っ向勝負である決戦ではこのスキルを使用する機会はないだろう。

 次に、被虐体質。

 メルトと対をなすリップのこのスキルがあったからこそ、メルトの加虐体質というスキルを知る事ができた。

 これは戦闘において標的(ヘイト)になる確率が増すスキルらしい。

 防御値に補正が掛かり、攻めれば攻める程冷静さを欠き、やがて対象の事しか考えられなくなるという恐ろしい効果を持っている。

 メルトの加虐体質との相乗効果で、戦いが長引くほど僕たちが不利になっていく。

 そして最後に、トラッシュ&クラッシュ。

 詳細は不明だが、敵を圧縮してキューブにする能力。

 これは現在使えなくなっているようだが、警戒するに越したことはない。

 そのためにラニに用意してもらったのが、礼装『オシリスの砂塵』だ。

 即席のため、長くは持たないが使用する事で身体への干渉を防ぐことが出来る。

 確かに、こういった情報一つ一つを見てみれば、相手は強力。

 白羽さんの実力もまだはっきり分かっておらず、不利といえた。

 だが、今の僕には絶対的な自信がある。

「……うん、大丈夫だよ」

 だからこそ、そう答えることが出来た。

「僕はメルトがいたから戦ってこれた。それに、今はラニがいる。絶対に負けないよ」

 こうして、自分を助けてくれる人がいるのに、負ける理由なんてどこにもない。

 くだらない。精神面での話でしかない。

 だが、今まで勝ってきた自分は曖昧な精神――ラニは無であったそこに確かなものを見出すことが出来た。

 メルトがいるから勝てる。ラニがいるから勝てる。

 確たる願いを持ったわけでは無いが、彼女達の存在こそが紛れも無い決意になる。

 だからこそ、負けられないではなく負けないと確信を持って言えるのだ。

「……はい、そうですね」

 ラニは一瞬呆けた顔をするも、優しく笑ってくれた。

 そうだ、僕は一人じゃない。

 頼れる仲間がいる、負ける筈がないんだ。

「そう――やはり、あなただったのですね。師の言はやはり正しかった」

「え?」

 ラニの呟きに聞き返すも、微笑むばかりでその呟きの真意は分からない。

 ただ、

「ハクトさん、勝ってください。勝って、またお話をしてください」

 ラニは勝利を祈ってくれている。

「――うん、約束するよ」

 だから、大きく頷いて約束する。

 白羽さんを、リップを倒してまたここに戻ってくる。

「行こう、メルト」

『えぇ――良いのね?』

「うん、()()もう良いんだ」

 戻ってくる事を確信している。

 だから、今はもうお終い。

 次にラニと話すのは、白羽さん達に勝った後だ。

『……まったく、少しは頼れる性格になったものね』

 メルトの言葉に小恥ずかしい気持ちが出てきたので、さっさと保健室を出て決戦場に向かう。

 さぁ、決戦の開始だ。

 

 

「ようこそ、決戦の地へ。身支度は全て整えたかね?」

「はい、大丈夫です」

 言峰神父とのこの会話も、もう四度目。

 二枚のトリガーをセット、決戦場への扉を開く。

「良いだろう。此度の戦いは私としても興味深い。精々健闘を祈っていよう」

 神父の言葉を背に受けながら、扉を潜る。

 エレベーターの様な下降感を受け、しばらくすると向かい合うように二つの人影が現れる。

 対戦相手であるマスター、黄崎 白羽とサーヴァント、パッションリップだ。

「久しぶりだね、白斗君、メルトちゃん」

「そうだね、三日ぶりかな。何かあったの?」

 相変わらず白羽さんはフレンドリーに接してくる。

 会話は今から殺し合う仲とは思えない、友好的なものだ。

「ちょっと活動時間を変えたからね。秘密の特訓をしてたんだ」

「秘密の特訓……?」

「勿論内容は教えないよ。秘密だからね」

 本当なのだとしたら、それは白羽さんなりに勝ちを狙うためのものに違いない。

 リップがいる以上、メルトの情報は行き渡っており、弱点を突くことに特化した練習をする事も当然可能。

 此方は特別、リップに向けての特訓は行ってこなかった。

 いや、行ってこなかったというよりは、単純にリップの力を上手く応用した戦法に注意をしたという方が正しいだろう。

 リップの攻撃は威力を重視したもの。

 だからこそ、その威力だけに頼るのではなく、戦い方を考える事で更なる脅威となりえる。

 単純な攻撃なら、メルトのスピードで避けることができる。白羽さんもそれは分かっているだろう。

 今回の特訓は攻撃を避ける、というよりはどんな戦い方の相手にも立ち向かえるように、色々な種類のエネミーと戦うことにしていた。

 その成果、どうやらこの戦いで発揮することができそうだ。

「やっぱり、白羽さんも勝つつもりなのかな?」

「当然。一時は協力した仲だけど、やっぱり君に負けるつもりはないよ」

 まぁ、君に、というよりは君にも、だけどねと続ける白羽さん。

 やはり、彼女も本気なんだ。

 そう言えば、白羽さんの願いはなんなのだろうかと思い、聞いてみる。

「私の願い、ねぇ……正直なところ、分からないんだよね」

「え?」

「予選突破したときに異常があったみたいでさ。記憶が曖昧なのよね」

「っ――!」

 心当たりのありすぎる事だった。

 そんな欠陥を持ったマスターは自分だけかと思っていたが、まさか当たった対戦相手がそうだとは。

「だから願いも覚えていない。死ぬのは怖いから戦う。死を恐れるのは誰だって一緒でしょ?」

 確かにそうだ。

 死は恐ろしい。だから、白羽さんは相手の命を奪って生き残っている。

「“は”じゃなくて“も”だよ。あの騎士連れた――レオ君だっけ? 彼だって死ぬのは怖い筈。死に恐怖を覚えない生命なんて存在しないんだよ」

 記憶を失っても、それだけは覚えていた、という白羽さんの考え。

 彼女にそれを気付かせたのは、さぞ恐ろしい出来事だったのだろう。

「それで、君の願いは?」

「……僕も、同じだよ」

 怪訝な顔をする白羽さんに、僕は全てを教える。

「僕も記憶がない。地上でどんな生活を送っていたか、どんな願いを持ってこの戦いに身を投じたのか。何一つ覚えていない」

 その目が見開かれ、驚きを露にする白羽さん。

 それを気にせず、僕は続ける。

「そんな僕が命を奪ってきた人たちがいる。こんな僕に手を貸してくれる仲間がいる。だから、皆の為にも負けられない」

 言い訳、そう言われれば、認めるしかない。

 しかし、これが僕の至った結論だった。

 自分が見つからない僕は、自分のために戦うなんて出来ない。

 死が怖い、という気持ちは確かにある。

 でもそれ以上に、メルト、ラニ。そして今まで“生きる”ために命を奪ってきた慎二、ダンさん、ありす。

 この聖杯戦争に関わってきた皆のためにも、勝ち進むんだ。

 皆の命を預かる僕が、聖杯に至るんだ。

「そう、か……立派な心構えだと思うよ。素直に関心したもん。やっぱり君は今までのマスターとどこか違うって」

 ほう、と息を吐いた白羽さんは、口元に笑みを浮かべながら言う。

「それは、倒した相手が殺してきたマスター達の分も含めるのかな?」

「勿論。そう考えていけばキリが無くなってくるけど、それら全部受け止めるつもりだ」

 断固として告げる。

 相手が倒した相手、その相手が倒してきた相手、その相手が……と、どこまでも広がっていく。

 だが、それを纏めて受け止める気はある。

 それが、空虚な自分なりの、責任の取り方だ。

「……うん。なら、君の分も引き受けるよ。私はまだ死ぬ事を恐れる事しかできないけど、君に勝てばちゃんとした考えを持てると思う」

 倒したマスターを糧にする。

 自分もそうしてきたから、白羽さんの言葉も分かる。

 だが、

「……何度も言うけど、僕は負けない。白羽さんとリップを倒して、先に進む」

 これだけは譲ることができないのだ。

「そう。なら、お互いに全力で死を拒絶しようか。命を懸けたパ・ド・ドゥを、ってね」

 何かいきなりしてやったりと言った風な顔でメルトを見る白羽さん。

 決戦に向けて相対し、メルトが初めて口を開く。

「……上手い事言ったつもりかしら」

「いや、僕に聞かれても……」

 パ・ド・ドゥ、どういう意味なのだろうか。

「え、えっと……男の人と女の人の二人での踊りの事です……」

 リップが解説してくれた。

 男女の二人一組、という事は一般的な踊りの様式の事だろうか。

「あ、あの、ハクトさん!」

「うぇ!?」

 いきなり声を大にして向けられるリップの言葉に、思わず今まで出したことのないような声が漏れる。

「あの、私とパ・ド」

「さて、ついたようね」

 リップが何かを言おうとした瞬間、決戦場に到着した事を告げる着地音が響く。

 何を言おうとしたのか聞こうと思ったが、メルトがさっさと扉を出て行くのでそれを追いかける。

 遅れて決戦場に足を踏み入れる、苦笑いした白羽さんと何故か沈んだ表情のリップ。

「さぁ、始めましょう。馴れ合いはお終い。リップ、決着を付ける時よ」

 向かい合って立つ二人に、メルトが戦闘開始を宣言する。

「絶対許さない……せっかく……せっかく勇気を出したのに……」

 何故か凄まじい程の恨みの念を放つリップがその巨大な爪を軋ませる。

「……なんでこうなるのかなぁ?」

 白羽さんが溜息をつく。

 ともかく、戦闘開始、でいいのだろうか?

「ま、いいや。これ以上話すことも無いよね」

 白羽さんが構え、それに対して僕もコードキャストの準備をする。

 面の初撃が吼える、線の初撃が射抜く。

「行くわよリップ!」

「許さない……絶対に!」

 怨嗟を微笑が受け止める。

 運命的な決戦は、どこか緊張感のない形で始まった。




ネタを挟まないと死んじゃう病。
学校が珍しく早帰りだったのでこんな時間のUPとなりました。
エレベーター内での会話は本当はモラトリアム中に差し込む予定だったのですが、前書きの通り全カットしたのでこういう結果に。
というより三日あっても特にやる事なかったので一話分も引っ張れないと思いました。

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