Fate/Meltout   作:けっぺん

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三十話かぁ……なんか感慨深い。
しかし一方で書き溜め的にもリアル的(気温的な意味で)にもやばい。
あ、次回は日曜の予定ですがもしかすると月曜になってしまうかもしれません。


三十話『気狂い道化と串刺公』

 

 

 殺意の篭った魔力を感じ取ったのは、真夜中の事だった。

 飛び起きるが、部屋に何ら異変は無い。

「外で何かあったのかしら……」

 その可能性は十分ありえる。

 だとすれば、一体誰の仕業か。

 と、その時携帯端末が音を鳴らす。

 

『紫藤 白斗よ。緊急事態だ。

 君に与えていたタスクの対象のマスターが校舎内で暴れだした。

 個室には干渉不可能の為マスター達に危険はないが、このまま暴れ続けられては聖杯戦争の続行に支障が出る。

 そこで少し早いが、君たちには戦闘を開始してもらいたい。

 他のマスターには個室待機を命じてあるが、それでも明日の朝にはマスター達は活動を始めるだろう。

 その頃には違反マスターを強制敗退させる為、タスクの達成を目指すのであれば朝までに決着を付けたまえ。

 この連絡は黄崎 白羽にも同時刻に送っている。』

 

 言峰神父からの言伝だ。

 緊急事態であるならば、伝える前にそのマスターを強制敗退させるべきだと思うが、それをしない辺り、僕たちに倒せと言っているのか。

 相変わらず性格の悪い監督役だと思いつつも、今はそんな事を気にしている場合ではない。

「メルト、行こう!」

「えぇ、分かったわ」

 部屋を出ると、そこに白羽さんが立っていた。

「あ、白斗君。準備は万端?」

「大丈夫だよ。早く行こう」

 魔力が放たれている方向は大体分かる。

 方向は――

「一階かな……保健室辺り?」

「ッ――!」

「あっ、ハク!」

 嫌な予感を振り払う。

 まさか、そんな筈は無い。

 個室の使用権限を無くしたラニは保健室に居る。

 だからといって、狙われるとは限らないだろう。

 保健室の扉は吹き飛ばされていた。

 拉げた扉の横で、桜とラニが凶刃を突きつけられている。

「さぁ娘共、大人しく我が妻への供物と成るが良い!」

 荒々しく告げる男が槍を振り上げ――

 

「っさせるかぁ!」

 

 その瞬間、そこに弾丸を撃ち込んだ。

「むぅ!?」

 咄嗟に振り返り、槍で弾丸を斬り裂いた男がこちらに向かってくる。

 金属音と共に男が後退し、こちらを睨みながら体勢を立て直す。

「ハク、急くのもしょうがないけど、命を投げ捨てるような事は得策とはいえないわね」

 焦るあまり、メルトたちを置いていっていたようだ。

「ごめん、メルト」

「良いわ。今はアレをどうにかするのが先決よ」

「桜ちゃん達を助ける算段もつけないとね。リップ、時間を稼げる?」

「は、はい。頑張ります!」

 突然の闖入者を、男は憤怒の表情で迎える。

「おのれ、神聖なる儀式を邪魔立てするか、不義不徳の奴腹共め!」

「邪魔――ゴ飯ノ、邪魔ッ!」

 これが、違法マスターとサーヴァント。

 所々を赤錆色に染めた黒い鎧を着込んだ白髪の男が、ランサーことヴラド三世だろう。

 そして道化の仮面を着けたマスターのランルー君。

 ファンシーな名前とは裏腹の、例えようのない異質な雰囲気を纏っている。

「ランルークン、許サナイ! ランサー、アイツライラナイッ!」

「応とも! 貴様らは食前の贄としてやろう!」

 槍の一撃を、リップの鉤爪が受け止める。

「白斗君、今の内に二人を!」

「ありがとうっ」

 リップがランサーの相手をしている内に、桜とラニの元に走る。

 マスターはランサーの肩に座り好き放題に叫んでいて気付いていないようだ。

「二人とも、怪我は無い?」

「紫藤さん……はい、大丈夫です」

「あれは……一体……?」

「話は後で、早く避難を!」

 二人を守りつつ保健室の外に出す。

 まさかここが戦場になるとは思わなかったが、修復はされるのだろうか。

「くぅ、供物が! 貴様、そこをどけぇ!」

「逃がし――ませんっ!」

 リップの巨大な腕で妨害されるランサー。

 戦闘自体は均衡状態だが、僕らのサーヴァントは二人。

「メルト!」

踵の名は(ブリゼ)――魔剣ジゼル(エトワール)!」

 対応しきれない男の腕にメルトが放った衝撃波が突き刺さる。

「ぐ――ぬぅう! おのれ、汚らわしい贄共めが!」

「ランサー、ダイジョウブ?」

「ふ、くく……妻よ、暫し待たれよ。今すぐにこやつ等を始末して供物を取り返して見せましょう」

「ウン、ガンバッテネ」

 肩に座るマスターを降ろし、ランサーは両手で槍を持つ。

「貴様ら、覚悟せよ。誰一人生きて返さぬぞ!」

 吼える標的を見やり、僕たちは構えなおす。

 しかし、ランサーの行動は常軌を逸したものだった。

「ッ――!」

 自身の心臓を穿ち、尚も不気味な笑みを浮かべたままの男に思わず背筋が凍る。

「――ッ供物は天高く掲げ、飾るべし!」

 高らかに宣言しながら身体を反らしていくランサーは、まるで自らを供物と例えているかのよう。

 槍の刺さった心臓から漏れ出す魔力が槍の形を成し、ランサーの周囲に漂っている。

「では、死ねぃ!」

 魔力で形作られた槍が一斉に襲い来る。

shock(16)(弾丸)!」

bomb(32)(爆発)!」

 僕と白羽さんのコードキャストで相殺しつつ、メルトとリップに反撃させる。

 槍の襲撃が終わると、ランサーが槍を胸から引き抜いた。

「ぬぅ……貴様ら……何故に我々の邪魔をする?」

「……お前たちが違反行為を繰り返すからだ」

「違反――違反、か。察するに貴様らは我々の行為を黙認できなかった運営共が遣わしたマスターだな?」

「そうだけど、だとしたら何? 許してって言われても無理だからね」

 白羽さんの言葉にその怪しげな笑みを一層深くする。

「く――はははは! いや、寧ろ僥倖だ。喜べ妻よ、こやつ等こそそなたの空虚な胎内(はら)を満たす肉だ!」

「本当ニ? デモソイツラ、邪魔シテキタヨ?」

「何、より極上の逸品が自らを献上しに来ただけよ。先の者共は余程不味だったに違いない」

「――ナラ、ソイツラ欲シイ! ランサー!」

 槍を掲げ、ランサーは哄笑する。

「さぁ貴様ら、特と味わえ――裁きの槍をっ!」

 

 

 +

 

 

「ランサー、何が起こってるか分かる?」

「ふむ、外で何者かが戦っているのだろう。先ほどの連絡事項に書かれていないか?」

 携帯端末に送られてきたメッセージには、個室で待機するようにとしか書かれていない。

 何が起きているかは分からないが、この魔力の密度、只事ではないというのは理解できる。

 バカなマスター達が運営に見つかっていないと思い込んで戦ってでもいるのだろうか。

「……見に行ってみようかしら」

「止めておけリン。余計なことをしてペナルティを与えられては戦いに支障が出るぞ」

 まぁ冗談なんだけども。

 ランサーに諭されるのは癪だが、気になっても手出しはするなというのは正論だ。

「この術式(コード)を試す良い機会かもね」

 そう言って、用意してきた術式の一つを起動させる。

 これは遠見の術式。

 個室を覗くつもりならともかく、校舎の廊下とかを覗くくらいなら数秒で終わる程度の簡単なハッキングで事足りる。

 問題は個室からの干渉が上手く効くかだけど――うん、問題ないみたいね。

 術式に意識を集中させると視界が個室の外の廊下に切り替わる。

 個室の前には居ないようだ。

 魔力の波動を辿っていく。

 この方向は――保健室付近ね。

 保健室といえば、私の三回戦の対戦相手、ラニが居たっけ。

 ハクト君(バカ)が助けた少女。

 まぁ、あいつの登場には私も助けられた節がある。

 何せあの時、私はランサーの切り札たる最大宝具の使用を決意していた。

 あれを使えば暴走するラニの熱量を上回った灼熱がサーヴァント諸共跡形も無く焼き払っていただろう。

 それは私の勝利を意味するのだが、最大の切り札を三回戦で失うのは正直気が引けた。

 他者不可侵の決戦場に入り込んできた第三者がラニを助けたとはいえ、ラニのサーヴァントは確かに消滅した。

 ランサーは健在だし、私の令呪も残っているのを見れば、私の勝利扱いになったのは直ぐに理解できたが、どうしてラニは消滅しないのだろうか。

 四回戦の一日目に保健室を訪れた。

 ラニは眠っていたが、逆に幸運と腕を見ると、そこにあった筈の令呪は確かに消えていた。

 運営すら――ムーンセルすらも予測不可能の事態、という事だろうが、そうなるとラニの精神(からだ)はどうなるのだろうか。

 勝利した一人しか生きて帰る事の叶わない聖杯戦争において、イレギュラーの生還者というカタチになる確立は高い。

 何せ四日経過しても、運営もムーンセルもラニに対して何の処置も下していない。

 という事は彼女の生存を黙認しているのだろう。

 魔力もほぼ失い、疲弊状態だった彼女も恐らく四日もすれば目を覚ましただろうが、だとしたら彼女はどうしたのだろう。

 ハクト君に対して感謝の念を抱いているのなら、彼の味方としてサポートに徹するか。

 そうなると、ハクト君の強力な戦力になるだろう。

 あの奇妙な格好をしたサーヴァントの能力も不明だし、いよいよ要注意人物として扱ったほうがいいか。

 彼とレオの危険度を比べてみれば、確かに気にしなくてもいい程ではある。

 だとしても、今残っているマスターは十六人で、四回戦を終えれば八人。

 彼がこのまま勝ち残るのなら五回戦、六回戦辺りで当たる可能性は高い。

 サーヴァントの力が不詳であるのなら、彼らが力をつけることを考えても出来るだけ後半で当たった方がいい。

 鎧が随分完成に近づいてきたし、これさえ完璧になってしまえばランサーはレオとセイバーですら及びもしない能力を発揮するだろう。

 それまでは、レオとハクト君とは当たって欲しくはない。

 後注意すべきはユリウスだが、これに至っては持ち込んだ違法術式(ルールブレイク)をフルに活用して挑むしかない。

 互いに違法術式を連発する戦いになるだろうし、さすがに運営も黙っていないだろうから、出来ればユリウスは他のマスターに倒してもらいたい。

 まぁそれこそレオとユリウスが当たらない限りは無理な話だとは思うが。

 そんな風に、他のマスターについての情報を整理している内に、遠見の視界に二つの人影が映る。

 あれは――ラニと保健室のNPC、桜だ。

 保健室から離れるように走り、個室の方に向かっていく。

 やはり只事ではないようだ。

 術式の移動速度を上げ、保健室に急ぐ。

 破壊の痕が無数についたそこは、既に戦場と化していた。

 ハクト君とサーヴァント。

 そして学生服の少女と、そのサーヴァントと思われる少女……

 あれは少女だろうか。

 触れれば全てを破壊してしまうかのような巨大な爪。

 そして――

 

「――何なのよあの巨乳(バケモノ)はぁっ!」

 

 目の前に広がる信じがたい光景に、思わず叫んでいた。

「リン、何があったかは知らないがそんな欲と嫉妬に塗れた眼をするな。君の性根が知れるぞ」

「アンタも変な所で貧者の見識(スキル)活用してんじゃないわよ!」

 我ながら無茶を言う。

 ランサーのスキルは紛れも無い彼の本質であり、オンオフ可能のものではないというのに。

 いや、ともかく、あのサーヴァントの身体は別として、見たところあのマスター達はハクト君と共闘しているように見える。

 彼らと敵対している者――それは道化(ピエロ)と黒鎧の男性だった。

 あのピエロは地上で見たことがある。

 確か世界チェーンのファストフード店のマスコットキャラクターだった。

 勿論本物ではなくカスタムアバターだろうが。

 それと黒鎧のサーヴァント。

 血塗れの鎧を纏い、長い槍を手に持っている。

 恐らくクラスは槍兵だろう。

 遠見の術式に加えて測定術式を起動させる。

 魔力の総量やステータスを数値化し、大雑把なサーヴァントのランクを測定する術式だ。

 ……うん、大体B+からAくらいか。

 確かに上級のサーヴァントだが、二人のサーヴァント相手に勝てる程でもない。

 ついでにハクト君ともう一人のマスターのサーヴァントのランクも測定してみようと思ったが、出た文字は“測定不能”。

 自身へのハッキングを拒む妨害機能(ジャマー)でも備えているかのように、術式が弾かれた。

 とことん謎の多いサーヴァントだなと思いつつ、何故彼らはこんな真夜中に校舎内で戦っているのかという疑問を持つ。

 強制終了される気配もないし、運営も合意のうえ、という事だろうか。

 どんな事情があってあんなところで戦闘行為を行っているかは想像できないが、ハクト君、それに彼と共闘するようなマスターが違法行為をするとも思えない。

 という事は非は道化のマスターにあるのだろうが、ともかくこれを見逃すわけにもいかないだろう。

 ハクト君への仕返しも含めて、しっかりと彼らの実力をみてやる事にしよう。




橙子さんを「傷んだ赤色(スカー・レッド)」って呼べば執筆速度が上がるらしいんだけど本当だろうか。
うそ臭いしどことなく死亡フラ



T「学院時代からの決まりでね。私を傷んだ赤色と呼んだ者は、例外なくブチ殺している」

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