Fate/Meltout   作:けっぺん

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最初のシーンはCCCルートから。
多分わかる人にはわかるかなと。


二十七話『試練と休日』

 

 

 これは、また夢だろうか。

 また自分は、誰かの視界となっている。

 今回の不鮮明な人影は三つ。

 自分の横に居る、恐らくはあの時と同じ、この体の人物が契約したサーヴァントだろう。

 そして、前方の長身と低身長の二つ。

 その一方、長身の人影の腹を、メルトが貫いていた。

 

「メルトリリス……!」

 低身長の人影が、低い声でメルトの名を呟く。

「そんな……貴女が、私を、殺めるなんて……」

 腹を貫かれた長身の人影が、妖艶ながら掠れた声を漏らす。

「理由がないから、と安心してた? 甘いわね――」

 膝の棘を引き抜き、人影の後ろにメルトは立つ。

「“貴女たちには敵わないから従います”、貴女、BBにそう言ったらしいわね。賢明な判断だけど、ただそれだけ」

 この言葉から察するに、この二つの人影はメルトとBBに敵対していたのだろうか。

「隷属しておけば殺されない? 尻尾を振れば見逃してもらえる? バカじゃないの?」

 メルトとは思えない、辛辣な言葉だった。

 いや、もしくはそれがメルトの真のカタチなのかもしれない。

「虫ケラを潰すのに理由なんていらないのよ。いるだけで目障りなんだから」

 いいながら、また一撃。

 人影が小さく呻き声を上げるのを歯牙にもかけないで、寧ろメルトは上気した表情で眺めていた。

 ――まるで、蟷螂のメスが交尾した後のオスの断末魔を愉しむような。

 そんな、今まで見た事が無いメルトの様子に背筋が凍る。

「私はBBやリップとは違うの。妥協の無い■■の具現。月を汚す全てを私が殺す」

 ここで初めて、メルトの言葉にフィルターが掛けられたようにノイズが走る。

「貴女のような毒はいらないの。これでお終いよ」

 容赦なく振るわれたメルトの足による斬撃で、長身の人影は体を両断された。

 悲痛な叫びと共に消滅する人影。

 それを追う様に低身長の人影が黒く染まっていくのを、朧げながら確認できる。

「サーヴァントなんてこんなものよ。マスターさえ殺せば雪の様に溶けていく。■■■■■■、何か遺言はあって?」

「ふん。未練がましい遺言なんて馬鹿馬鹿しい。そんなもの残して逝くか。このまま消えていくだけだ。だがな……」

 人影の名前にノイズが走って聞こえないが、それが長身の人影のサーヴァントなのだろう。

「呪いは残すぞメルトリリス。哀れな少女、酬われぬプリマドンナよ。お前の愛が果たされる日なぞ、永遠に無い」

「――なんですって? アナタ、子供のクセに何様のつもり?」

「■■■のつもりだ、バカめ。すべてを肯定するおまえの愛は、求愛者の否定によって幕を閉じる。何故なら――」

 真におまえを愛する者が現れたのなら、そいつはおまえの愛を許さない。

 共に生きる事を望むから伴侶と言う。恋人はおまえを愛するが故に、おまえの献身を認めない。

「そんなもんに付き合わされる奴も迷惑だ。一人きりの陶酔なんぞ、ベッドの下で貪ってろ」

 その瞬間、人影が何かを取り出し、短く詠唱をする。

 何が変化したのか、それは分からないが、メルトの驚愕を見る限り、決定的な何かが起こったに違いない。

「余計な真似を……!」

「はははははははッ! 最後まで見届けられないのは拍子抜けだが、俺もそろそろ退場と相成ろうか!」

 人影は大笑しながら、消え行く自分の体に一瞥すらせず、その消失を加速させる。

「少年、そしてそのサーヴァント! 後はおまえたちの仕事だ。小市民らしく賢明に当たり前の幸福を守るが良い――!」

 その言葉を紡ぎきることが出来たのは偶然か。

 憤怒の表情のメルトが足を振るい、消失を強制的に完結させた。

 同時に、突然の浮遊感が襲う。

 こんなタイミングで夢から醒めるのか。

 体に衝撃が起きたのか、それともこの過程を見せるためのものだったのか。

 それは分からないが、もしかすると今のは何か、メルトの重要な過去だったのかもしれない。

 しかし、それよりも――

 

 

 ――長身の人影が消える瞬間の断末魔に、リップの声が重なって聞こえて仕方がなかった。

 

 

 +

 

 

 目が覚める。

 今の夢にはBBの干渉などといった事はなく、単純にメルトの過去を映したものだった。

 断末魔に重なって聞こえたリップの声。

 だが、あの長身の人影は明らかにリップとは違っていた。

 それに、メルトとリップは不仲なようだが、殺しあうまでではないだろう。

「ん……ハク……?」

 ちょうどメルトが目を覚ましたようだ。

「おはよ、メルト」

「えぇ……今日はどうするの?」

「ん、情報は得られたし、特訓を主にしようと思ってる」

 そう、と短く頷き、大きく欠伸をするメルトを見ていると、あの夢で人影を惨殺した本人とは思えない。

 立ち上がり、背伸びをしながら部屋を見渡す。

 そういえば、簡素な机と椅子以外、何も置いていない質素な部屋だ。

 そろそろインテリアみたいなものも置いていってもいいと思う。

 軍資金は十分と言えるくらいある。

 購買のデータを探れば、手ごろな値段のインテリアも見つかるだろう。

 いつもと違い、情報を集める時間を必要としない以上、少しならそういった時間も作れる。

 戦いについては一旦忘れて、今日一日くらい休暇をとっても良いかも知れない。

 その提案をメルトに伝えようとした時だった。

 

 バチリ。

 

 部屋の扉からそんな音がしたのは。

 二、三回バチバチと続けて音が鳴り、メルトが臨戦態勢をとる。

 そして次の瞬間。

「おっはよー、今日も良い一日が始まったよー!」

 さも当然の様に僕の個室(『プライベート』ルーム)に入ってきた白羽さんのモーニングコール。

「……は?」

 こういう反応になってしまうのは、仕方の無いことだと思う。

 おずおずと入ってきて、「お、おはようございます」と控えめに挨拶するリップ。

 メルト共々呆然としていると、

「んー? 元気が無いね。具合悪い?」

「え、あ、いや……そんな事無いけど……」

「じゃあ、挨拶だよ! 一日の始まりは挨拶から、おはよーございます!」

「お、おはようございます……?」

「疑問系なのは気になるけど、まぁ良いか。合格」

 採点していたようだ。

 いや、そんな事よりも、聞かなければならないことがある。

「っていうか、どうやってこの個室に?」

「いやぁ、白斗君がどんな部屋使ってるのかなって見にきたんだけど……」

 辺りを見回して苦笑し、

「……地味だね。見た目通り」

 辛辣かつ的確な評価をしてくれた。

「いや、どうやってこの部屋に来たのかって聞いたんだけど」

「あ、それはリップにちょっと頼んで」

 リップはそんな離れ業が出来たのか。

「そういえばアンタ、校舎にも無理矢理侵入したらしいわね」

「あ、あれは違うもん……未遂だもん」

 何かやらかした経緯があるらしい。

「第一、非常識だとは思わないの? 他人(ひと)のプライベートルームに無断で入り込むなんて」

 そもそも他のマスターの個室に入るのは不可能だと思うのだが……

「私じゃなくて、シラハさんが……」

「えー、リップってば私のせいなのー?」

 わざとらしく顔を手で覆い、よよよと泣き真似をし出す白羽さん。

 重ねて言うが、此処は紫藤 白斗の個室である。

「あ、あの……! ごめんなさい! 泣き止んでください……」

 リップはそれに気付かないらしく、嘘泣きの白羽さんを宥めている。

「あんた達……自分の部屋でやりなさいよ……」

 口を開く事すら面倒そうにメルトが言う。

 ショートドラマを展開する二人を見ながら、それに全面的に同意した。

 

 

「アンタ、プライバシーって知ってる? それも理解できないほど低脳なのかしら?」

「メルトだって……あんなワカメ頭にやられたじゃない……」

「何でそれを知ってんのよ。緑茶なんかにお守り任されてたクセに」

「お……守り……?」

「自覚ないのね……」

 メルトとリップが話しているのを、僕と白羽さんは紅茶を飲みながら眺めていた。

 会話の内容自体は聞き取れないが、何やら一触即発の気配である。

「……止めなくて良いの?」

「うん、リップについては大丈夫。アリーナか決戦場以外で攻撃するなって言ってあるから」

 そう言って、白羽さんは右手を見せてきた。

 手の甲に刻まれた英霊への強権。

 白羽さんのそれは、既に一画が消えていた。

「一回戦で相手を校舎内で殺っちゃったからさ。要注意って言峰君に言われちゃった」

 何に驚けば良いのだろうか。

 一回戦の相手を校舎で殺害したこと、神父に君付けしたこと、リップの行動に対して令呪を使用したこと。

「だから白斗君も令呪つかってメルトちゃんに」

「お断りします」

 動揺に付け込んだ提案をきっちり断ると、白羽さんはわざとらしく舌打ちして紅茶を啜る。

「いーじゃん、令呪の一画くらい」

「いや良くないよ。もう二画しかないんだから」

 手を差し出して令呪を見せる。

 ラニを助けるために使った一画が失われ、残り二画となったそれ。

 そういえば、ラニのところにも行ったほうがいいだろう。

 昨日は此方から逃げ出してしまったが、彼女を勝手な理由で助けたのだ。

 向こうがどれだけ拒絶しても、助けた責任を取るのは僕なのだ。

「何に使ったの? その令呪」

「……」

 どう説明すればいいものか。

 まさか他のマスターを助けるため、なんて言うわけにはいかないだろう。

「言えないの? ……まさか」

 白羽さんがメルトを一瞥し、少し椅子を引く。

「白斗君……戦いの最中にそういうのはちょっと……」

「いや、そんな事してないよ!?」

 未だにこの白羽さんという人が分からない。

 どんな勘違いをしているのだろうか。

「ま、令呪の使い方は人それぞれだし、良いけどさ」

 誤解が晴れない。

 どうしたものかと悩んでいると、個室の扉が叩かれる。

 コードを入力しなければ普通は入れず、当然扉を叩くという行為も出来ない筈だが……

『私だ。入っても構わないか?』

 扉の外から聞こえる声は言峰神父のものだ。

 何か言伝ならば携帯端末を通じて行えばいいと思うのだが。

 さて、部屋に白羽さんが居る以上、神父を入らせるのは得策とはいえない。

 どうやってこの個室に侵入したかは分からないが、当然神父の合意がある訳ではないだろう。

 普通他のマスターが入れない個室に堂々と居座っているマスター。

 こんな光景を監督役が無視できる訳が無い。

 しかも、それが知れてここに来たという可能性もある。

 ここは断って……

「失礼する」

「入るのかよ!」

「おぉ、良いツッコミだね」

 有無を言わさずというより、許可もクソもなく神父は入ってきた。

「……む?」

 当然ながら、神父の目は白羽さんに向けられる。

 紅茶片手にやっほーと呑気極まりない声を発する白羽さんには警戒心のけの字もない。

「黄崎 白羽、何故君が此処に居るのかね?」

「細かい事はいいじゃん、言峰君。で、用件って?」

「ふむ、まぁ、丁度いいか。君たち二人は既に令呪を一画使っているな?」

 神父の質問に頷く。

「ならば良い。君たちに試練(タスク)を与えに来たのだ」

「トリガー入手以外のタスク?」

「そうだ。達成した暁には、予備令呪の一画をそれぞれに与えよう」

 これは願ってもない提案だった。

 使用した令呪を、再び元の形に戻せるというのなら、そのタスクを受ける価値はある。

「それで、そのタスクの内容とは?」

「君たちには違法行為を繰り返すマスターを倒してもらう」

 唯でさえ違法行為はペナルティが与えられるのに、それを気にせず繰り返すマスターが居るらしい。

 それを倒し、これ以上被害を広げないことがタスクの内容のようだ。

「私たち二人で戦えばいいの?」

「あぁ。二対一であれば絶対的有利な状況で戦えるだろう?」

 受ける受けないは自由だがね、と言葉を閉じる神父。

 当然、マスターを倒すという事はつまりは殺すという事で。

 決戦以外にもそれをするというのは、正直抵抗があった。

「私はやるけど、白斗君は?」

 白羽さんは即決だった。

 死に対する耐性がついているのか、それとも自信の望みのためと割り切っているのか。

 ともあれ、記憶も無く、他のマスターのような願いも無い僕にはそういった割り切りはできない。

 だが、受け取った令呪でまた自分が満足できる結果を出せるのならば。

 ラニのように、相手がそれを是としなくても、自分の意思を全うできるのならば。

「……うん、やろう」

 きっと一回戦や二回戦で提案されれば、却下していただろう。

 慎二を、ダンさんを、ありすを倒し、掴んだ決意。

 それが、この答えを出したのかもしれない。

「良いだろう。対象のマトリクスと位置情報は此方が送る。戦いは明後日――四日目に行ってもらう。それまで力をつけておくがいい。決戦ではない、タスクで死んでは元も子もないからな」

 言うが早いか、神父は用を終えたと部屋を出て行く。

「……明後日か」

「それじゃ、連携の練習でもしておこうか」

「え?」

「だって、協力だよ? 連携の一つや二つないと足を引っ張り合うだけじゃん」

 確かに、そういった練習はしておいた方がいいだろう。

 姉妹だというメルトとリップは問題ないだろうが、僕と白羽さんはまだ連携はできないだろう。

 次の対戦相手であるというのが不幸中の幸い、僕と白羽さんは同じアリーナに入ることが出来る。

 互いの手の内を見せることにはなるが、元々互いのサーヴァントが全てを知っているのだ。

 ならば、確実にタスクをクリアできるように連携の練習をしておいた方が良い。

「そうだね、早速行く?」

「うん、行こう」

「私たちの意見は聞かないのね」

 ずっと論戦をしているかと思っていたメルトとリップは、共闘に不満のようだ。

「メルトと協力……ですか?」

「うん、不満?」

「ふ、不満……です。メルトと、なんて……」

「私だって、リップなんかと協力なんて論外よ」

「メルト……」

 どうやら二人の仲の悪さは思った以上らしい。

 無理矢理だと、そもそも連携が出来ないだろう。

 どうにかして二人を納得させなければならない。

「リップ、確実にタスクをクリアするためには協力しないといけないのは分かるでしょ?」

「で、でも……メルトとは、イヤ、です」

「……メルトは?」

「無理ね。私たちは元から相容れないのよ」

 二人とも、協力を頑なに拒んでいる。

 どうしてここまで仲が悪いのか分からないが、ともかくこの状態では連携どころか協力自体無理だ。

「まずはやってみない? ね?」

「イヤよ」「イヤ……です」

 堅い。

「んー、ちょっと白斗君、良い?」

「あ、うん」

 白羽さんに促されてメルトとリップから離れる。

「とりあえず今日一日、時間を置こう。出来ればメルトちゃんを説得してくれる?」

「分かった……白羽さんは?」

「私も頑張ってみるから。こんな状態じゃちょっとマズいしね」

 話は纏まった。

 今日中にメルトを説得し、協力を承諾させないと。

「それじゃ、今日のところはお暇しようか。行こうリップ」

「え? ……あ、はい」

 話が纏まったのを知らないリップは唖然としながらも、白羽さんについていく。

「また明日ね、白斗君、メルトちゃん」

 手を振って個室を出て行く白羽さんを見届け、メルトは息をつく。

「それで、結局どういう話になったのかしら」

「あぁ、この一日で説得しろってさ」

 とりあえず、それを言うべきかは迷ったが、下手に嘘を言ってメルトの気を損ねて協力に更に否定的になっても困る。

「そう。まぁ頑張りなさい」

 他人事のように言うメルト。

 いや、あの笑みは「やれるものならやってみろ」と言っているようなものだ。

 とりあえず、今日一日は予定通り休暇という使い方を出来そうだ。

 その中で、メルトを説得する算段を立てれば良いだろう。

 そう思いながら、まずは部屋の充実のため、購買に向かうことにした。




違法マスターについては、あの方ですね。
ぶっちゃけ一番好きなマスターなんです。
CCCに登場すると確信していたのに……エリザェ……

ともかく、果たして協力体制は取れるのでしょうか?
そういえば、後書きで次回予告みたいな事をする作者様もいますね。
今回は私もそれにならって、二十八話から一文を抜き出して次回の予告とさせていただきます。

→騎士達の羨望の的となる王の様な威風を、その表情一つで台無しにするその人形は、スカートの端に『邪神』と刺繍されている。

……うん、何も伝わらない予告ですね。
ではまた次回←

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