これを書くにおいて、型月wikiが死んでたのはあまりにも痛かったです。
復活してくださった方に感謝を。
力を持つが故に道を踏み外す。
道を踏み外す為に逸脱した力を願う。
この矛盾もまた、人間の証である。
紛争のない世界、調和に満ちた世界でさえ、特例は表れる。
なんのために。
+
三回戦を終えた翌日、携帯端末が鳴る。
対戦相手の発表――これももう四度目だ。
あんな小さな
本当に、自分が生き残っても良かったのか。
その資格はあるのだろうか。
慎二は死にたくないと喚きながら、最期まで生に執着していた。
ダンさんはその想いがどこにあったにせよ、戦いに意義を見出し、覚悟を持ち、その結果を全て受け止めていた。
ありすは、さびしくて、遊び相手が欲しかっただけの、ただの子供だった。
その全てを乗り越えてきた。
この手で、サーヴァントという刃を使って。
まだ死にたくない、それだけの事で、彼らの命に釣り合うだけの目的になるだろうか。
ダンさんが言っていた。
戦いに意味を見出して欲しいと。
だが、自分が誰なのかも分からない僕に、そんなものを見つけられるのだろうか。
記憶が戻れば、願いを、戦う意味を見つけられるのだろうか。
……無いものを求めても仕方ない。
ラニの意識は戻っていないようだし、今はとにかく、四回戦の相手を確認しに行こう。
もう見慣れた掲示板。
そこに書かれた名前は、一つは自分。
そして、もう一つ。
『マスター:
決戦場:四の月想海』
同じ白の字に妙に親近感を覚える。
「紫藤 白斗……同じ白の字かぁ」
「え?」
考えていた事が、耳に届く。
ウェーブのかかった茶髪を伸ばした少女。
特殊なアバターを使わない制服姿。
「あ、君が白斗君?」
「う、うん……君が白羽さん?」
「うん。よろしくね」
手を差し出されたので、少し躊躇いつつもそれを握る。
「正々堂々戦おう。君の最後の戦いなんだしさ」
やはりこの少女も勝ちを確信している。
確たる願いも、持っているのだろう。
「僕も負けるつもりはないよ。正々堂々っていうのに異論はないけど」
「……へぇ、面白いね。ま、頑張りましょ」
少し驚いた顔をした白羽さんは、それだけ言って去っていった。
彼女は、ダンさんの様に正々堂々とした戦いを望んでいる。
ダンさんの時はアーチャーの独断もあり、完全なそれは叶わなかったが、今回はどうだろうか。
それを考えて、ふとラニの事を思い出す。
彼女は無事だろうか。
自分勝手な都合だが、会えば何か、決心みたいなものも付けられるかもしれない。
保健室に行ってみる事にしよう。
ラニは目を開けていた。
映すもののない瞳、それは変わりない。
ラニは、此方を見ないまま、口を開く。
「何故、助けたのですか?」
目の前で人が殺し合い、そして一方が命の火を消しかかっている。
それを傍観できる人間がいるのか。
少なくとも僕には無理だ。
何より、
「……友達を助けるのは当然だと思った」
記憶は無くとも、自分はどうやらそういう人間だったらしい。
「傲慢、ですね。私はもうこれで、師の願いを果たせない。
ラニが淡々と語る。
パラダイマイザーとはラニの心臓の事だろうか。
だとすれば、バーサーカーは消滅する時に、二度と発動できないような処置を施しておいたのかもしれない。
「――貴方は、何者ですか?」
言葉に詰まる。
以前にも聞かれたものだ。
それが何を意味するかも分からず、暫く黙って考えるも、やはり答えは出ない。
重い沈黙の後、搾り出すように名前だけを呟く。
「紫藤 白斗……貴方は、私がここにいる唯一の理由、師から賜った使命を奪った」
「っ……」
「つまり、私にはもう生存の理由などないのです……」
それだけ言うと、ラニは口を噤んでしまった。
これ以上関わるな、そう言うかのように、ただ虚ろに天井を見ている。
彼女にも、生存理由、聖杯を求めるだけの理由があり、それに自らの命を懸けるだけの価値があった。
自分は、それに介入し、その理由に傷をつけた。
そのとき携帯端末が鳴り、トリガーの生成を告げる。
今は、それに促されるようにその場を立ち去る以外の選択肢が見つからなかった。
「――っ!」
アリーナに入った途端、メルトが驚愕の表情で息を呑んだ。
「この気配……でも、そんな事……!?」
「……メルト?」
「っ何でもないわ……この先にあのシラハってマスターも居る様よ。気をつけて」
そうか、今まで通り、相手が既に来ているようだ。
だが相手が出て行くまで待っているわけには行かない。
とりあえず白羽さんの性格からして、すぐに戦闘に入る事は無いだろう。
しばらく歩く。
エネミーの強さも最初の頃に比べ、かなり行動が複雑で強力なものになってきた。
それに苦戦しつつも、危なげなく撃破しているが、アリーナに入った時からどこかメルトの様子がおかしい。
どうかしたのだろうか、と思ったそのとき。
「メル……ト……?」
どこかで聞いたような声が聞こえた。
「ッ!!」
メルトが声の方向に振り返る。
僕もそれに続くと、そこに立っていたのは二人の少女。
一人は対戦相手であるマスター、白羽さん。
そして、いつか夢で見た、とはいってもぼやけて鮮明としなかったもの。
「……リップ」
メルトからその名前が発された時、それを確信した。
メルトの妹であり、あの不鮮明な人影の一つなのだと。
長い紫の髪。
顔つきはメルトよりもあどげなく、それが幼さを感じさせる。
身長は少し小さい。
そこまでなら普通の少女。
だが、大人しい少女というイメージをそれ
一つは、機械的で巨大なカギ爪がついた両腕。
触れればそれだけで切り裂かれてしまいそうな鋭いそれ。
脚に鋭い脚具がついたメルトとは対照的だ。
そして、もう一つ、
「……大きい」
「何の事を言ってるのかしら、ハク?」
呟きに瞬時に反応したメルトが、此方を射抜くような視線を向けてくる。
「いや……なんでも」
「あはは、白斗君もオトコノコだね!」
アリーナで出会った白羽さんの第一声はそれだった。
リップとやらが白羽さんのサーヴァントである事は確実だろう。
「ほら、リップ、挨拶」
「は、はい!」
リップはメルトを怪訝な顔で見つつも、一旦それを此方に向け、おずおずと自己紹介を始めた。
「え、えっと、始めまして。シラハさんのサーヴァント、パッションリップって言います……」
パッションリップと名乗った少女がその腕を前で重ねて丁寧に頭を下げた。
「あぁ、どうも、紫藤 白斗です」
その丁寧さに少し圧され、此方も丁寧な挨拶になってしまった。
メルトと違い、リップは少し控えめな性格らしい。
……控えめではない部分が二箇所ほどあるが。
「で、何でリップがここにいるのかしら?」
「メルトこそ……」
どうやら互いがこの戦いに居ることに驚いているようだ。
確かに珍しいケースなんだろうが、姉妹の英雄が召喚される例もあるのではないだろうか。
ここまで露骨に驚愕するほどの事でもないはずだが。
「ま、そんな事は良いじゃん。姉妹でも、今回は敵同士なんだしさ」
いや、良くないでしょうが。
つまりは、姉妹同士で殺し合わなければならないという事で、それが驚愕の理由というのもありえる。
「そうだ、白斗君、お近付きの品って事でコレ、どうぞ!」
「え?」
白羽さんにカード型のデータを渡される。
それは見違えようも無い――
「……トリガー!?」
決戦場に赴く為の第一条件である二枚の鍵の内、一つ目。
「どうしてこれを……」
「いやぁ、特訓してたら目の前に生成されたからさ。二枚とも取るのはルール違反だけど、相手に渡すのならいいよね?」
原則として、相手の分もトリガーを取る事は禁止されている。
それをした場合、然るべき処罰があるのだが、そのトリガーを相手に渡すという行為はどうなるのだろうか。
そもそも、運営の方もそれをする人物がいるとは思わなかっただろう。
これを素直に受け取っていいものか、と考えていると、
「気にしなくて良いんだって、ほら!」
押し付けられた。
「あ、ありがとう」
一応、トリガーを探す手間も省けたので礼を言う。
リップについても気になるが、どうやら白羽さんは今日の探索を終了するようだ。
「それじゃ、これで。メルトちゃんもまたね!」
「そ、それでは!」
ほとんど会話らしい会話もなかったのに、白羽さん達は友好的だった。
トリガーは入手し、アリーナを探索する理由もなくなったわけだが、特訓をしておいたほうがいいだろう。
何せ相手はメルトの妹。
どんな実力を持っているか分からない。
「それなら私に聞けばいいじゃないの」
そういうと、メルトはコートから手を覗かせ、携帯端末を取り出す。
「リップの事なら分かるわ。逆に今回は図書室でも情報は得られない。私が与える情報が全てよ」
触れているだけで、何ら操作はしていないのに携帯端末に続々情報が追加されていく。
「図書室で情報が得られない?」
「……私たちは真正の英霊じゃないの。世界中、どんな情報網を使ったところで私たちの情報は無いわ」
いつかBBが話していた、メルトは
その中でも特に知られていないもの、という事でもなく、本当に誰も知らない英霊なのだと。
いつもここで追求はしないが、今回ばかりは駄目だ。
パートナーとして、メルトの事を知っていなければならない。
「……勝ったら、ね」
「え?」
「この四回戦、リップとあのマスターに勝てたら私の事を話してあげる」
今は話したくない理由があるのだろうか。
だが、話してくれるといった。
「約束だ」
「えぇ。だから勝ちなさい。リップは強敵だから」
メルトが携帯端末から手を離す。
そこに書かれているパッションリップの情報――
『クラス:
真名:パッションリップ
マスター:黄崎 白羽
宝具:
ステータス:筋力A+ 耐久A 敏捷C 魔力B 幸運E』
ステータスからスキル、そして宝具まで、必要な情報全てが書かれていた。
「ステータスはマスターによって変わるから、今はどうか知らないけどね」
「……いや、十分だよ。これだけ情報があれば有利に立てる」
「けどそれは相手も同じよ。リップが居る以上、向こうも私の情報は完璧のはず」
その通りだ。
僕はまだ、メルトの事をほとんど知らない一方で、向こうの方はメルトの情報を完璧という程に所持しているのだ。
どちらが有利なのか分からないが、とにかくトリガーを一枚手に入れ、相手の情報を手に入れる事が出来た。
これで今日は特訓に専念するだけ。
この後、しばらくの間特訓し、その日の探索を終えたのだった。
「ところでメルト、リップのスキルの被虐体質って……」
「詳しく知りたい?」
「いや……」
「賢明ね」
「じゃ、じゃあこの160センチって」
「詳しく知りたい?」
「ごめんなさいすみませんでした」
「……なんでこんな情報送っちゃったのかしら」
という訳で、四回戦はパッションリップが相手です。
終盤で戦わせたいとは思っていながら組み込める場所が四回戦しかなかったという苦悩…