Fate/Meltout   作:けっぺん

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FGOにてイスカンダルをお迎えしました。なんか知らないけど宝具レベル2です。
冬木各地で固有結界連発してます。
孔明と一緒に戦わせるのが凄く楽しいです。

さて、夢の対決その2です。
……うーん。


夢の対決-2 追想は忘却の彼方から

 

 

 アーサー王との出会い、モードレッドとの邂逅から数日経ち、落ち着きを取り戻した月世界。

 その日の事件は、唐突かつ静かに始まった。

 

 

「……なんだこれ」

 単独での作業を終え、帰路につこうとしていた時だった。

 ふと視界の先に留めたものが見たこともないもので、また何かイレギュラーが起きたのかと確認すべくそれに近寄る。

 扉だった。

 恐らく、こことムーンセル内の何処かの記述とを繋ぐポータルか何かだろう。

 何やら、厳重に封印されていた様子がある。

 というのも、先程までこの扉を雁字搦めに縛っていたであろう鎖の残骸が周りに転がっているためだ。

「……」

 どうするべきか。

 メルトを呼んでくるべきだろうが……いや、別所で作業している彼女に新たな仕事を持っていくのはよくない。

 一体扉の先がなんなのか。それを確かめてから、彼女を呼ぶべき案件か判断しよう。

 扉に手を掛ける。

 特に恐怖心のようなものは感じられない。

 この先に待ち受けているものに関して、命の危険が伴うことはないと直感が告げている。

 だとすれば、誰が何のために封印するようなことをしたのか。

 そして何故その封印が解けるような事態が起きたのか。

 後者については数名、やらかしそうな人物がいる気がするが……

 まあ、いい。開けてみれば全てが明らかになることだろう。

 手に力を込めて、扉を――

「ッ――――ハク! それを開けては――!」

 開く――

 

「――む? 私の役目はとうの昔に終わった筈だが。既に満足した身を叩き起こして起用するとは、抑止の輪はやはり過重労働が過ぎると思うがね」

 

 初めて見る男だった。

 焼けた肌に映える、色の抜けた白髪。

 引き締まった体のラインを如実に現す、ピッチリとした赤い外套。

 男は背中を見せたまま。

 彼が何者かと問おうとした時、既に手遅れな静止の手が伸びてきた。

「――メルト?」

「…………」

 伸びてきた手は何をすることもなく停止し、その手の主はあまりにも微妙な表情をしている。

 まるでこの世の終わりを見るかのような、それでいて頭痛の種を前にした俗的なもののような。

「……待て。()()()、だと……?」

 男の鷹の如き鋭い目が、此方に向けられる。

 その男もまた、出来れば信じたくないといった表情で。

 メルトと男の目線が、ここに交差する。

「――――」

「――――」

 そして数秒。

「――君はメル」

「わー! わーわーわーっ!!」

 メルトの大声が、男の声をかき消す。

 しかし、彼の様子とわずかに聞こえた前半の言葉から考えるに……

「メルト、知り合い?」

「い、いえ、見たこともないわ。赤の他人よ」

 動揺を隠せないその様と、男の驚愕から知己の間柄であることは明白だ。

 見る限り、只事ではないが……

「えっと……サーヴァント……?」

「む? ああ――そういう君はマスターかね? ムーンセルにいる人間ならばそうだろうが……」

「確かにマスターだけど……というか、一体この扉は?」

「……」

 メルトが露骨に目を逸らす。

 なるほど。どうやら彼女が何かしら絡んでいるのは確定のようだ。

 この扉について、サーヴァントが知っている様子はない。

 であれば、メルトに聞くしかないのだが。

「ふむ……」

 男は腕を組み、何やら考える。

「君、もしや彼女は君のサーヴァントか?」

「ん――あぁ、そうだよ」

 怪訝な表情はより深まる。

 なんというか……ありえなくはないがあまりにも低い可能性を前にしている、といったような。

「そうか……そういうこともあるか。まあ、好ましいことではあるのだが」

 頷きながら、何処か安心した表情を見せるサーヴァント。

 どうにも情報の整理が叶わず、八方ふさがり――仕方ない、メルトには悪いが、あちらの方に聞いてみるとしよう。

「一ついいかな?」

「私に答えられる範囲であれば。何分、私も現状の整理が出来ていないのでね」

「――メルトと、何かあったのか?」

「……!」

 

 

 ――数分後。

 とりあえず場所を移し、非常に苦い顔の二人からどうにか聞き出して、ようやくある程度理解できた。

 サーヴァント――アーチャーの証言から察するに、彼はメルトの生前――とある月の裏側の事件で敵として出会ったらしい。

 複数のサーヴァントとの契約の可能性があった一人のマスター。アーチャーもまた、その可能性の一つであったのだろう。

 しかしながら、彼という可能性は随分とまた異質であったようで。

“気に入ったわ。たまらないわ。大好きだわ……!”

“アーチャー! 私、貴方と恋がしたいわ……!”

 ――とまあ、こんな具合に、熱烈なアプローチを受けていたらしい。

 いつかメルトの生前について聞いたとき、恋い焦がれたマスター――岸波 白野のサーヴァントが一人思い出せないということがあった。

 それは多分、彼のことだったのだろう。

 その頃は覚えていなくともムーンセルを吸収した時に思い出し、封印したということか。

 思い出したくはない記憶、それを公にしてしまったように、メルトは現在進行形、完全に脱力してしまっている。

「……」

「……そういうことだったか」

 対して、此方もアーチャーに現在のムーンセルについて説明した。

 互いに謎は解け、一応は納得というのが今の状況。

 そしてその結果、約一名深刻なダメージを受けている。

「なるほど。いやしかし、安心した。なんというか、憑き物が取れたような気分だ」

 どうやらアーチャーにとって、相当手強い相手だったようで、どこか清々しい笑みを浮かべている。

「ところで……今度はその当人に殺意を向けられているのだが。どうにかしてくれないか?」

 メルトは此方に体を預けつつも、鋭い視線をアーチャーに向けている。

 その内心は分からなくもない。僕も多少なり、複雑な気分だ。

「……」

「……メルト?」

「……ハク。あくまで……あくまで、あのアーチャーに恋していたのは昔の話よ?」

「あ、ああ。分かってるけど……」

 メルトの弁解のようなものを聞きつつも、この場をどう収めようかと考える。

 状況が複雑すぎる。決して一筋縄ではいかないだろう。

 何故この扉の先にアーチャーがいたのかはさておくとして、彼にお帰りいただければ収まるだろうが……

「……ふむ。仲睦まじいのは実に良いことだ。何にせよ、メルトリリス。君が気移りし、幸福になったのは私も嬉しいよ」

「――――――――ッ」

 しかしながら。

 晴れやかなその一言が、メルトの琴線のような何かに触れてしまったらしい。

「…………ハク」

「……え?」

「……む?」

 メルトの内心がたった今決定的に変化したことに、アーチャーも気付く。

 アーチャーが一歩後ずさり、此方はメルトに無理矢理一歩前進させられる。

「あの失礼極まりない男との因縁、断ち切るわよ」

「は?」

「ムシャクシャしてならないわ。理由はよくわからないけど、今私イラついてるみたい。さしあたり、あの男を始末すれば治まりそうなの」

「それ僕関係ないんじゃ……」

「貴方は私のマスターでしょ! 手伝うくらいしなさい!」

 あまりに横暴な月の女王さまの命令。

 彼女の癇癪に逆らえる者などこの月には存在する訳がない。

 マスターといえどいざ争うとなればその戦力差は火を見るより明らかで、彼女が言うのであれば従うほかない。

 理不尽にも戦うことになってしまった不運に、頭痛を感じながら呟いた一言は、

『……なんでさ』

 どんな偶然か、アーチャーと重なった。

 

 

 ――さて。どうしてこうなったのか。

「――――おおぉ!」

「――――ッ!」

 アーチャーとの激突。メルトの気が済むまで付き合ってほしい。彼も不本意ではあるのだが仕方なしと承諾してくれた。

 この打ち合いで、彼がある程度実力を抑え配慮してくれているというのは分かる。

 そうでもなければ、今頃僕など容易く切り伏せられているだろう。

 ただまあ、アーチャーにとっては普段の戦い以上の集中力を強いられていると思われる。

 何故ならば――メルトが本気であるからだ。

「ッ、はっ――!」

「ふ……っ!」

 不滅の刃と、白の刃がぶつかり合う。

 完全の刃と、黒の刃がぶつかり合う。

 アーチャーの双剣に対峙しているのは、かつてローズマリーの得物であった一対の女神の刃。

 歪な形状の二本を選択したのには理由がある。

 月の裏側の事件が解決してから、武器の鍛錬は怠っていない。

 使えるものを一通り試してみて、最も手に馴染み、習熟の早かったのがこの二振りだったのだ。

 形状が通常とは大きく異なるため、ただ単に振るうだけでは正しい扱いとはいえない。

 そもそもこれは、一対一での戦いに向いたものではない。

 完全に習熟していないならば、やるべきはサポートの一点。

 出張った刃でアーチャーの双剣を絡め取り、動きを封じ込める――!

「くっ!」

 アーチャーが対処をするまでの僅かな時間。だが、メルトが隙を突くには十分すぎる。

 刺突。寸でのところでアーチャーは双剣を手放し、後方に飛んで回避する。

 敏捷性に関してはメルトはサーヴァントの中でも随一を行く。

 完璧なまでのタイミングだった一撃を躱したのは、恐らく直感か心眼辺りの成せる業か。

「……やはり、侮れないか……!」

 アーチャーの目付きが変わる。

 次なる一手に備え、絡め取った剣を振り払う。

 武器を失ったならば、何らかの形でそれを取り戻しにくるだろう。

 次に狙うのは、その隙だ。

「ッ!」

 しかしその隙を待たずとも、徒手のアーチャーならばメルトが攻められぬ筈もない。

 再び脚を振るうメルト。これで決まりか――否、金属音が響く。

「え……?」

 思わず、声が漏れた。

 攻撃を受け止めたアーチャーの手に握られているのは、確かに先程奪った双剣だった。

 取り戻す時間など、当然ない。

 しかし、周囲を見ても転がっている筈の双剣は何処にもない。

 どういうことか……メルトは何ら驚いている様子もないが……

「相変わらず……容赦がないな!」

「容赦をするなら、相手を選ぶわよ……! 貴方がそれに当てはまると思って?」

 渾身の一撃。疑問の解決に至る前に、メルトは双剣の片割れを砕いた。

 理屈はどうあれ、宝具の消滅が叶えば最早考える必要もない。

 此方は二人。メルトを応戦している以上、隙はより鮮明になっている。

shock(弾丸)――!」

 僅かなりとも動きを封じる弾丸。狙うは剣を持たない片手。

 確実に命中し、メルトの攻撃に繋げられる。そう思っていた。

「――!?」

 しかし、寸前、弾丸は両断される。

 振るわれたアーチャーの手には、破壊した筈の剣。

 その事態にも、やはりメルトは驚かない。

 これはメルトにとっては既知である、アーチャーの特性なのか。

 宝具の効果か、或いはスキルか。どちらにせよ厄介な性能だ。流石はかつて、メルトを破ったサーヴァントと言えよう。

「ところで……全力を出さないのかね? いつぞやよりもレベルが上がってるというのに、数値ほどの力を発揮していないようだが」

 ――そういえば。

 直近の戦いであるモードレッドとの戦いが、レベルの戻った上での戦いであったからか失念していた。

 今のメルトのレベルは兆を超え、やろうと思えばたいていのサーヴァントを軽く凌駕できるだろう。

「……関係、ないでしょ」

「まあ、構わない――がっ!」

 しかし、メルトはその力を使わない。

 あくまでも、月の裏側でそうしていたように、サーヴァントとしての規模で戦っている。

 アーチャーの疑問に答えるメルトの声色は、あからさまに不機嫌だった。

 何やら意地のようなものをぶつけている――そんな印象を抱かせる。

 構わない。メルトがそう選択したのであれば。

 僕は、全力を尽くして支援をするまでだ。

 アーチャーの動き、メルトの動き。双方を観察し、より確実な補助となる瞬間を狙う。

「――セット」

 発動するは、かつての絆。

女神の繰り糸(エルキドゥ)!」

「なっ……!?」

 左手を伸ばし、秘められた縛めを解放する。

 ノートが託してくれた女神の泥。キアラとの戦いにおいて無くては勝てなかった力。

 ノートが持っていた総量と比べたら微々たるものだが、残っていたものは今も確かにここに在る。

 不意を突いた。手を離れても砕いても戻ってくる双剣でも、それを振るう腕を封じてしまえば物の数ではない。

 身体強化を掛ける。少しでも長くアーチャーの片腕を捕えれば、メルトのチャンスもその分増える。

「良いわよ、ハク!」

 メルトの攻撃に、これまで双剣で対応していたアーチャーはこれで戦闘方法の変更を余儀なくされる。

 しかしそれよりも先に、メルトは連撃でもって、アーチャーを押し切る――!

「ッ」

 一撃。

 被弾と同時にアーチャーの力によるものらしい剣が鎖の戒めを断ち、メルトを弾き飛ばして距離をとる。

 だが確かに当たった。メルトの特性上、一撃与えれば絶対的な有利に落ち着く。

 彼女の持つ最大の武器、メルトウイルス。今の攻撃は間違いなく、メルトの思う勝利への布石となっただろう。

「……驚いたな。まさかそんなモノまで持っているとは」

「どうかしら。私のマスターの力は」

「……正確には僕の力じゃないけど」

「何にせよ、不思議な宝具だな。その剣も、随分と正しい剣の概念からかけ離れているようだ」

 僕の持つ双剣をそう評して、アーチャーは苦笑する。

 どちらも僕自身の力ではない。

 この月が微睡みの中で見た一夜の夢、その中で得たかけがえのない絆の結晶だ。

 なるほど確かに、正しい意味での剣ではないだろう。

「さて。id_esを打ち込まれた以上私の敗北は刻一刻と近づく訳だが。全身に回る前に君ら二人を相手取って勝利を掴むのは大変難しい」

 id_esの存在は、当然知っているのだろう。

 その特性を熟知した上で、アーチャーは己の敗北を悟ったようだ。

 だが、

「……難しいって、まだ勝ちの目があるとでも言いたいのかしら」

「無論だ。戦うからには勝利を信じるさ。何の益もない戦いだとしても、それは変わらない」

 決してアーチャーは、敗北を確信している訳ではない。

 双剣の現界を解き、降参の意を示すように上げていた両手。

 そのうち左を下ろし、右腕のみを前に出す。

「故にこそ、まだ勝てるだろう次の一撃を最後としたい。本気で叩き込む。冥土の土産にひとつ、其方の全力も見せてもらおうか」

 それで戦いは終わる――アーチャーの言葉を聞くや否や、メルトの表情が強張る。

 アーチャーが切ろうとしているカードの正体を理解してしまったように。

「……良いわ。今度こそ、真正面から打ち負かしてあげる」

「決闘許諾、感謝する。悪いが出力の加減は出来ない。死なないよう努めてくれ」

 恐らくは過去の確執を振り払うために、メルトは許諾した。

 その回答を確信していたからこそ、アーチャーは申し出た。

 答えを聞いてアーチャーは笑う。対してメルトも、強気に微笑む。

 攻撃的な笑みの交差に、僕の感じたモノは――或いは独占欲だったのかもしれない。

 内心の更に奥底に渦巻くそれが何か、考える暇もくれずにアーチャーは一言、呟く。

「――投影(トレース)開始(オン)

 弓兵である彼が、次から次へと剣を取り出して戦うのは、他に本分があるからか。

 だが、だとしても。

 今そこにある輝きはアーチャーの切り札であると、確信を持って言い切ることが出来る。

「――まったく。我ながら酷い出来だ。贋作の自覚はあるとはいえ、固有結界(セカイ)の外であれば自壊覚悟でもこの程度か」

 一振りの剣だった。

 その輝きに感じる強烈な威力。

 間違いない。最強クラスの聖剣だ。

 未だ、あのサーヴァントの出自は分からない。

 これまで使ってきた剣が、全て時代も国も異なる逸品であることは一目でわかった。

 それら全てを、自在に操る英雄など世界の何処を探してもいる筈がない。

 だがアーチャーがそういう特性を持ったサーヴァントだとすれば……なるほど(それら)の頂点に座すアレは彼の切り札だと言っても良いだろう。

 そうか。アレならば、メルトが敗れるのも理解がつく。

「ハク……?」

「む……?」

「僕が相手をする。メルト、下がってて」

「は――――?」

 我ながら、どうしてここまで冷静に、そんな自殺行為に思い至ったのか不思議でならなかった。

 絆を紡ぐしか取り得のない僕が、最強の幻想に勝負を挑むだなどと。

 だけど、メルトがサーヴァントとしての出力で戦っているならば、瞬間的な火力は聖剣の類の出力には遠く及ばない。

 さよならアルブレヒトを用いれば、受けきることはそう難しくはないのかもしれない。

 メルトに任せて然るべき。マスターは後方支援が定石。

 それでも――“それを出来る力”があるならば、メルトを守りたい。

 エゴだ。どうしようもない自分勝手だ。

 だけれども、向こうが紛い物であるならば、此方も拮抗しうる紛い物がある。

「蛮勇は買うが、感心できたことではないな。確かに最低限の力はあるようだが、果たしてこれを受けられるのかね?」

「ハク、貴方が下がってなさい。私一人でどうにかなるわ」

「嫌だ」

 瞠目するメルトの前に出る。

 英霊の速度、技術とまともに打ち合うことは無理に決まってる。

 事実、全力での勝負であればメルトと打ち合っても、三合持つまい。あのアーチャー相手でもそうだろう。

 だが、一撃の威力だけはメルトに勝る。それはメルトも理解している。

 忘却しているというならば、今ここで思い出させる。アーチャーが知らぬならば、知らしめる。

「メルトは、僕が守る」

 それはメルトに向けてではなく、アーチャーに向けて。

 妙な因果で戦うことになったものの、こればかりは敵として宣言するように。

 そして、その宣言を虚偽にしないべく。虚偽と思わせないべく。

 過去の戦いで紡いだ絆を表出させる。

「それは――」

 アーチャーは、これを見るのは初めてだろうか。

 もしかすると、アーチャーの特性を察するに見慣れたものかもしれない。

 どちらにしても、彼が剣に通じているのであれば、この一振りの何たるか、性質は理解できるだろう。

「なるほど。人を超越した者を守ると豪語するだけのことはある。私としても、ただ受け止められるより好ましい」

「ハク……」

「大丈夫。これが信頼出来る剣だっていうのは分かっているから」

 勝利を信じ、絆を信じる。

 ならば負けない。

「勝負だ、アーチャー」

「ああ」

 こればかりは、メルトが何を言おうと譲るつもりはない。

 そしてその意地をもって、この奇妙な縁を終わらせる!

「っ――ああ、もう!」

 メルトが苛立ちを零す。

 これが終わったら、さぞ小言を言われることだろう。

 仕方ない。励んで耐えるとしよう。戦いから逃げる選択肢は既に失われた。

 既に互いの聖剣は振り上げられている。

 正しき担い手の持たない、紛い物の聖剣は、今ここにぶつかり合う――!

 

 

 

転輪する(エクスカリバー)――」

永久に遥か(エクスカリバー)――」

 

 

 

 

 

 

「――勝利の剣(ガラティーン)ッ!」

「――黄金の剣(イマージュ)ッ!」

 

 

 

 

 

 

 +

 

 

「そこまでセンパイに考える頭がないなんて思いませんでしたよ! 大体センパイは――」

「同意です! まったく、一体何が起きたのかと思って来てみれば!」

「貴方が危機に陥ることの意味を考えてください。サーヴァントの力を知らないとは言わせませんよ」

「あー、はいはい。ちょっと皆勘弁してあげて。急患だから。文句は後で言えば良いから」

 力の抜けた体をメルトに支えられて、引き摺られるように歩く。

 聖剣同士のぶつかり合いは、やや僕の劣勢ながら、その光に体が呑まれない程度に拮抗した。

 死への一線を超えないままに互いの光は収まり、引き分けという決着を、アーチャーは提案してきた。

 アーチャーはもう消えている。

 戦いの痕跡は何もなく、僕とメルトしか知らないちょっとした事件……なんて都合よく終わる筈もなく。

 対城宝具と対軍宝具の激突は一帯に甚大な被害を齎し、騒ぎを聞きつけた月の住民たちの周知の事実となった。

 ただまあ、一つ僥倖だったとすれば。

「サーヴァント相手に痴話喧嘩なんてして、勝てるなんて思ってたんですか!?」

「メルトもメルトで、やりすぎです!」

「ここまで出鱈目にやる辺り、やはり自重を知りませんね、貴女は」

「まあ、なんだろ。よく辺りがこんなになるまでやられて生きてたね、白斗君」

「……うるさいわね。関係ないからさっさと通常業務に戻りなさいよ」

 ――こういう、勘違いで収まったことだ。

 この騒ぎの原因は単なる痴話喧嘩で、後腐れもなく既に解決した。

 僕は力を使い切ってしまったが、それだけで済んだ。

 そういうことになっている。

「……なんで、あんな馬鹿な真似したのよ」

「……」

 集まってきた皆を適当に追い払ってから、メルトが問うてきた。

「こんなになること、分かってたでしょ。なんならもっと大事になる可能性もあったのよ」

 大怪我するかもしれない。そうは思っていた。

 怪我で済まず、死ぬかもしれない。その可能性だって脳裏にあった。

 だが、それでも、負けるとは思わなかった。

 あのあの聖剣に挑んだ理由――

「……負けたくなかった。それだけだよ」

「え……?」

 メルトを守るというのも、正直なところ詭弁に過ぎない。

 非常に申し訳なく思う。

 戦う前から感じていた、もやもやしていたもの。

 アーチャーにとっては何処までも理不尽な話だが、かつてメルトが恋心を向けていた彼が少し気に入らなかったのだ。

 いや、違うか。アーチャーに悪感情は持っていない。

 ……ああ、やはり言葉に出来ない。

 なるほど心とは厄介だ。今でも桜に、言葉で説明することは出来ないだろう。

「……ハク?」

「なんでもない。自分でもよくわからない意地があったんだよ」

 加減されていたとはいえ、アーチャーと打ち合い、最後には聖剣をぶつけ合った。

 溜まった疲労は到底無視できるものではない。暫く休憩が必要だ。

「まあ……今はいいわ。後で改めて問い質すわよ」

「覚悟してます」

 さて、言い訳も通用しないだろうし、かといってどう言っていいのかも分からない。

 どうするべきか……これから始まる尋問への回答を考えながら、帰路を歩く。

 まだもう少しだけ、戦いは続く。

 そう思って歩く帰り道は、随分と重い足取りだった。

 ――そういえば、そもそも何故あの扉は封印を解かれ、剥き出しの状態になっていたのだろうか。

 この時答えが出ないのは当たり前だったのだが……解答は数日後、またも意外過ぎるところから、唐突に判明することになる。




かつてのメルトの想い人を相手に、良く分からないもやもやを覚えるハクの葛藤が書こうとしました。失敗しました。
こういうシーンは書き慣れないですね。
かといって今後書く予定もないので向上もしないです。
戦闘後半はTMエースの漫画でアーチャーが聖剣投影して、アレとの戦いが書きたくなったので急遽変更したものです。
寧ろそっちがメインになって、戦闘描写が短く見える印象。難しいものです。

はい、次回は夢の対決3です。
その後に用語集こそありますがCCC編という括りでは、最後の更新になるかと思います。
だがしかし、どうしてああなった。

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