Fate/Meltout   作:けっぺん

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メルトリリス生誕祭記念短編。
色々細かいツッコミはご容赦を。

零時ピッタリの投稿にしようとしたんですけどね。
なんやかんやのミスがあって失敗しました。最初から予約投稿に頼るべきでした。


2016.04.09『生誕に添える、旅立ちの花束』

 ――では、少し外れた話をしよう。

 

 蕩けた月の、生誕祝う小話を。

 

 

 +

 

 

「して、如何なる用か? 交信だけならまだしも、ここに来るのは難儀だっただろうに」

「実は、頼みたいことがあるんだ」

 ――その場所にやってきたのは、とある目的があってのことだった。

「む? 貴様は最早全てを手に入れた万能であろう。それが余に何を求むのだ?」

「君の――を借りたい。お願い出来るかな?」

 断られるならば、それはそれでやりようはあったけれども。

 そういうことが出来る、と分かっているならば、引き受けてくれればそれ以上はないだろう。

「ほう……なるほど、なるほど。それはそれは! ……む? 寧ろ、まだだったのか?」

「…………ああ」

「……貴様、甲斐性なしと言われないか?」

「……」

 少なからず心当たりのある言葉が容赦なく突き刺さる。

 確かに、メルトだけでなく、他の面々からも多少なり言われている気がする。

 表情で察したのか、呆れた風に溜息を吐いた彼女は。

「まあ、良い話ではある。無論、引き受けよう。万事余に任せておくがいい」

 苦笑しつつも、了承してくれた。

 

 

「……えーと」

「何か?」

「ああ。いえ、いえ。何と言いますか……やっぱりなんでもないです。まあ、外見はある種当然ですよね、はい」

「……?」

 相手が自分で納得してしまったために、何のことだか分からず首を傾げる。

 お父さまとお母さまの知り合いと言っていたが――随分と雰囲気が異なる。

 少なくとも、わたしの知る世界にはいない独特の感じ。

 いや――カズラとよく似ている、と思ったが、何か奥底が違うと本能が告げている。

「それで、どんな御用で?」

「実は――」

 用件を告げると、まず初めにその人は驚いた。

 それから「あー……奥手そうですもんねぇ」と呟きながら何やら同情するような表情になり。

 やがて小さく笑って、頷いた。

「構いませんよ。今更無関係なんて言えませんし」

「ありがとうございます」

 頭を下げ、立ち上がる。

 承諾は得られ、用も済んだ。ならばこの場にいる理由はない。

「あれ? もうお帰りで?」

「はい。あまり長居も出来ません」

「十分と経ってませんけど……まあ、止めはしませんが。また何かあればおいでくださいませ」

 その静かな佇まいを崩さない様は、淑女と呼ぶに相応しい。

 細かな所作まで、まるで演じているかのように洗練されており、一切崩れることはない。

 確かにまだ、出会ってそう時間は経過していないが、その方はまったく嫌悪感を抱かせない女性だった。

 

 

「っ、はー……!」

 長い間の束縛から逃れたように、思いっきり伸びをする。

 師と仰ぐヴァイオレットちゃんに倣って掛け始めた眼鏡(ヴァイオレットちゃんには非常に複雑な表情をされた)を外し、疲労の溜まった目を休めるように軽く閉じる。

 月の裏側の事件を終えてから、それなりの期間ヴァイオレットちゃんに教えを受けて、一定の技量に達したらしい。

 私はようやく、ムーンセル内部の作業の一端に携われるようになっていた。

「よし。一旦休憩……っと」

「お疲れ様です、シラハさん」

 鍛錬から帰ってきたらしいリップの労いの言葉を受け、「リップこそ、お疲れ様」と返す。

「明日、ですね」

「そうだね。うん、楽しみ」

 複雑だとか、そういう気持ちはない。

 寧ろ晴れやかだと言えた。

 私はこの月の世界が好きで、ここにいる皆が大好きだ。

 とはいえこの日を待ち望んでいたという訳でもない――何故ならば、もう済ませてしまった後だと思っていたから。

 思うところは色々あるけども、だからと言って明日に臨む心境には変わりない。

 早く明日にならないか――白斗君やカレンちゃん程ではないだろうが、そういう期待が大きかった。

 

 

 +

 

 ――四月九日。

 

「お母さま、誕生日、おめでとうございます」

「え、ええ。ありがとう、カレン」

 カレンが個人的に用意していたらしいやたらに大きな箱を受け取ったメルトは、苦笑しつつも礼を言う。

 四月九日――即ち、このムーンセルの管理者である月の心、メルトリリスの誕生日。

 CCCという事件を通して、大幅に住民が増えてから、初めて迎えるこの日。

 祝いの言葉が幾つも増え、冷静を繕いつつも小さく身じろぎするのを毎回のように見てきて、今回も確認する。

「……何笑ってるのよ、ハク」

「ううん、なんでもない」

「お母さまの動揺を愉しんでいたのでしょう」

「……ハク」

「まあ、珍しい仕草だったし」

 バツの悪そうに頬を染めるメルト。

 普段見られない側面を見て、こうした日があって良かったと実感する。

「確かに、常に冷静でなければならん筈の観測者とは思えないな。いや嘆かわしいことだ」

「何処から湧いてきたのよ性悪神父」

「人を蛆か何かのように言うんじゃない。我らが主の生誕を祝わん心持だというのに」

「……………………は?」

 「頭でも打ったのか」と言いたげに、その表情を引きつらせるメルトに対し、突如現れた言峰は笑みを濃くする。

「良い表情だ。いや、それを見ながら麻婆と洒落込むのも悪くないな。そうだろう、君たち」

「溶かすわよ変態神父」

「悪くないですね。ねえ、お父さま」

「――む」

 決して良い趣味とは言えない。

 が、果たしてどうかと考えてみれば――なるほど意外と悪くないかもしれない。

 ああ、そうか。これが言峰が度々口にしていた愉悦――

「禁止だけじゃ足りないかしら。月そのものから麻婆という存在を抹消――」

「よし、この話はやめよう」

 あまりにも弄りすぎた。

 ただでさえ知られないように用意するしかないのに、存在そのものを消されては堪ったものではない。

 恐らくはメルトも勘付いていて、あえて黙認してくれている。

 メルトでも理解できるほどの凄まじい辛味は月の住民殆どが受け入れられないものらしい。

 その筆頭がメルトである以上、あまりからかってはならないだろう。

「まったく、貴方と話すとそれだけでどっと疲れるわ」

「恐悦至極だな。ではここでその心労を倍にすべく贈り物をさせてもらおうか」

「……嫌な予感しかしないのだけど。いつかみたいなことしたら本当に承知しないわよ」

 ――いつか。

 そういえば、以前のメルトの誕生日、言峰がプレゼントを贈ったことがある。

 あろうことかメルトの数少ないトラウマらしい人形を、メルトのコレクションをリソースに作り上げたのだ。

 あの時のメルトの怒りと、その後の落ち込みようは忘れる筈もない。

 その悲劇を思い出し、警戒しているメルトを愉快そうに笑い、言峰は背を向ける。

「ではまた後で会おう。私も準備があるのでね」

 訳が分からないと言った風なメルトは今日幾度目かの溜息をつく。

 碌でもないものなのだろうという確信は、既にあるかもしれない。

 ただ、今後計画していることを思えば――そのメルトの確信は、外れてほしいと思う。

 この日のとある物事に、言峰も協力してくれたのだから。

 

 

 それから言峰は姿を見せることなく、暫く時間が過ぎた。

 時刻は昼過ぎ。

 言峰を始めとした月の住民一同に祝いの言葉を掛けられつつも振り回され、メルトには目に見えた疲労が現れていた。

 そうして、ようやく解放されたメルトは小一時間ほど休憩していたのだが。

「カレン、一体何処に……」

「いいから。付いてきてください」

 カレンに手を引かれるメルト。二人の背中を笑いつつ追い掛ける。

 メルトよりも背が高いとはいえ、カレンはこうした子供らしさを時折見せる。

 これで彼女は、生まれて間もない赤子ともいえる存在なのだ。

「はぁ……何なのかしら」

 ただなされるがままになっているメルトのぼやきに、カレンは反応せずに先を目指すばかり。

「……この道」

 どうやら、何処に向かっているかを察したらしい。

 と同時に嫌な確信がより増したようで、足取りは重くなる。

「お母さま?」

「……」

 また大きく息を吐き、意を決したとばかりに向かう先は――学校の施設の一部。

 そこはかつて、全ての始まりだった聖杯戦争において大きな力となった場所。

 毎回のように助言を受けて、幾度となく力を借りた二人が拠点としていたそこは、変わらず今もムーンセルに存在する。

 その場所――教会の前にはこの月で最もその場に相応しい男が立っていた。

「……なんでいるのよ」

「おや。私は神父だろう。教会にいて何が悪いのだね?」

「私、貴方がここで神父らしいことしているの、見たことがないのだけど」

 ――まあ、その通りではあるのだが。

 言峰の役職は神父であっても、それはあくまでNPCとしての形式上のものであって、必ずしもそれに従って行動するという制約はない。

 何やらお気に入りの場所らしく、よくこの教会にいるのは見かけるが、それでも神父らしい箇所などそのカソックくらいのものだ。

「だが此度ばかりは違うぞ、月の心よ。私は月の意思より命じられた役目をこなすまで」

「ハクの……?」

 メルトの疑問に、頷いて肯定する。

 いつもは形ばかりの神父である言峰だが、今日は違う。

 そろそろネタ晴らしかと説明しようとした時だった。

「――!? ハク!」

「おっと――」

 外部からの、何者かによるアクセス。

 即座にその存在に敵意を放ち、対処しようとして――すぐに止まる。

「って……まさか」

 覚えのある信号。

 メルトが許可すると同時に、それの主は飛び込んでくる。

「――はいはい、ちょっとお邪魔しますよ。そこ退けそこ退けお狐が通る……っと」

「タマモ?」

「お久しぶりです、メルトさん。お祝いにやって参りました」

 青の和装に身を包んだ女性。

 彼女が普通の人でないのは、この場にいることもだが――特有の部位が如実に証明している。

 狐耳と、狐の尻尾。

 玉藻の前。メルトが生前因縁のあった、今は悪友のような仲である、れっきとした英霊だ。

「お祝いって……貴女が?」

「ええ。そちらのお子さんに頼まれまして。是非とも来てくれないか、と。いや、何とも母思いで。しかし術式……その手がございましたか。これには流石のキャス狐ちゃんも目から水天日光。こうしちゃいられねー、今すぐ帰って! ご主人様と! 愛の結晶を――!」

 事情説明が何時の間にやら、よくわからない大暴走へと変わっていた。

 その良妻賢母を体現したような外見からは到底想像できないテンションと言葉の羅列。

「――――」

 どうやらその様子を見たことがなかったらしく、カレンは初めて見せる、あってはならないものを前にしたような表情をしていた。

「あれ? その人、二人が呼んできたって人?」

 そんな玉藻の大暴走の最中に、白羽さんがやってくる。

 皆には定めた時間に集まるよう告げていたが、そろそろ頃合いらしい。

「――みこ? おや、そちらが話に聞いていた新入りさんで……みこーん!?」

「へ……? え、ええ!?」

 白羽さんに付いてきたリップと目が合った瞬間、玉藻が独特な驚愕の声を漏らす。

 驚きはリップも同様らしい。

 それも当然か、リップとメルトは姉妹である以上、メルトに面識があればリップにもあるだろう。

「え、えーと、久しぶりに見ましたよバリボー……メルトさん? また妙な厄介ごとを引き入れてきたようで……」

「リップはまだマシだけどね……だけど、誕生日くらいでわざわざ呼ばなくても良いのに」

「へ? ……あー、其方さま、告げてないので?」

「うん。いざその時にって方が良いかなと思って」

「なーるほど。これはメルトさんも気苦労耐えませんね」

 全て察したとばかりの玉藻の頷き。

 その真意は掴めない。もしや、この計画は間違いだっただろうか。

「何の話? ハク、何か企んでるの?」

 流石に不審の目が向けられる。

 うん、そろそろ説明しよう。いざそうなると萎縮してしまうところがあるが、意を決して――

「――余が参ったぞ! 門を開け!」

 ――――なんとも、良いのか悪いのか分からないタイミングでやってきた、二人目の招待者。

 此方がアクセス許可を出す前にそれを突き破って入ってきたのは、どうにも風変りなメルトの悪友の一人。

 まるで演劇舞台に立つかの如く、鮮やかに衆目を集める赤き衣装に身を包んだ薔薇の皇帝。

「……ネロまで?」

「うむ。その者に頼まれてな! 貴様たちの門出とあっては、出向かぬ訳にもいくまいて!」

 ネロ・クラウディウス。

 玉藻と同じく、メルトと縁あった英霊の一人である、ローマ皇帝。

 彼女は僕の依頼を、快く引き受けてくれた。

 また聞きではあるが、彼女の能力は直接会うという困難を超えてでも借りたいものだったのだ。

「門出って……さっきから何を」

「さあさ、何をしている! 中に入れ! 正直な、余は張り切りすぎて今すぐにでも力を振るいたい! 調整に調整を重ね、より細部まで磨いてきたのだ!」

 ネロに背中を押され、メルトは教会の中に入っていく。

 随分と苦労をした。彼女一人にだけ知らせずに、この日を迎えるのは。

 薔薇の皇帝に導かれるメルト。続けて僕とカレン、言峰、白羽さん、リップ……と続いていく。

 やがて桜やBB、アルタ―エゴたち。ありすとアリス、NPCたちも集まった頃。

「……まさか」

 周囲の雰囲気でメルトは薄々察したらしい。

 しかし確信へと変わる前に、ネロが手を振り上げる。

「では、余からここに(はなむけ)を送ろう! この陰気な教会に一時の別れを告げるがいい!」

「陰気、か。まあ、陽気とは口が裂けても言えないが」

 口上に水を差す言峰を意にも介さず、ネロは続ける。

「春の陽射し、花の乱舞! 皐月の風は頬を撫で、祝福の鐘はステラの彼方まで――我が過去の強敵であり現在(いま)の友、そしてそのマスターにこれを捧ぐ! 開け、ヌプティアエ・ドムス・アウレアよ!」

 歌い手の声に威力が灯り、ムーンセルは上塗りされていく。

 たった一時、しかし此処から先に決して消えることなく刻まれる、旅路の新たな始まりとして。

「――――純白白銀の聖婚式(コンジュカリスカエリモニア)!」

 皇帝ネロの誇る、固有結界に似て非なる大魔術。

 顕現するは、白銀の教会。

 

 そして、他に染まらない純白衣装を纏うメルトの姿。

 

「――あ」

「うむ! 中々どうして似合うではないか! 余が直々に仕立てたのだ、貴様のマトリクスは熟知しているゆえな!」

 起きていることが理解できないと言った表情のメルトに、ネロは得意げに胸を張る。

「何とかにも衣装……いえいえ、それは聊か失礼ですか。私が知ってるのはアレな服装ですし、好い印象になるのはある意味必然ですね」

「これ……ハクが?」

「うん。せっかくの誕生日だし、それに、まだだったから」

 何も、必要だったことではない。

 それでも、いつか式を挙げたいという願望があって。

 その新たな門出はメルトの誕生日こそが相応しいと思った。

 誕生日のサプライズとして隠していたことだ。ここにきて、その当人がどう思ったかだけが、残る懸念。

 そして、それは、

「――――――――」

 メルトの頬を伝う雫を見て、杞憂だったという安堵に変わる。

「色々順番も変わったりしたけど、やっぱり、さ」

「わ、たし……」

 メルトの流す涙を、皆が初めて見るものだと驚いて。

 それに気付いたメルトが、頬を少し染めて、笑顔を作る。

 ネロや玉藻からすれば、それこそ“メルトらしくない”と思うだろう。

 否、二人だけに限らない。そんな笑みは、僕もそうは見たことがないものだ。

「うむ、それで良い。今日この日、劇場の歌い手は貴様たちだ。万雷の喝采をその身に浴びる御前婚儀の栄誉を与えよう!」

「まったく、こんな時まで上から目線なんですから。ささ、お二方」

「さて。私も職務を全うしよう。一生に一度くらいは、神父らしいことをだな」

 あくまでもこれは、真似事に過ぎない。

 だけれども、心持は地上で今日も生まれるだろう夫婦たちにも負けないように。

「さあ、メルト」

「うん……ありがとう、ハク」

 涙声の彼女の手を取って。

 ここに来てくれた皆に、協力してくれた皆に感謝する。

「――お父さま、お母さま」

 あまりにも取るに足らない日、しかし彼女が生まれたあまりにも大切な日。

 それにもう一つの記念日が重ねられて。

「――――おめでとうございます」

 『現在(いま)の月』の生まれた日は、こうして今年も過ぎていく。




というわけで、メルト誕生日おめでとうございます。
これより月はより華やかに。
過去を今を未来を、観測していくことでしょう。
ゲストキャラご両人も、お疲れ様です。

夢の対決? すみませんちょっと待っててください。

それとちょっとした報告ですが、最近自分の中でGO編を書きたい方向に纏まってます。いつかの断固書かない宣言は忘れました。もうなんか、やれるところまでコレ一本でやってこうぜな気分です。
そうなったらなったで勝手に書き始めるので、付き合ってくれる方は何卒よろしくお願いします。
合計百話行かないことを目標に、各章十話程度でやってくことになると思います。
書くことが決定したら、最後に用意していた嘘予告が消えて夢の対決→CCC用語集→GO編始動となります。
前話のものから色々変更点等出てきて、CCC編よりカオスになります。
まあ本決定でもないので、とりあえず直近の夢の対決を今暫しお待ちいただければ。

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