Fate/Meltout   作:けっぺん

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ピース→作業ゲーが好きなので楽しい
竜の爪→同上。ただしワイバーンが固い
混沌、逆鱗→そもそも何処でドロップするのか知らない
モニュメント→■■(放送禁止)


Desire of The World.-7

 

 

 多分、あのコウモリランサーの宝具使用は捨て身の策だったと思う。

 ただひたすら力任せの槍術。

 ランサークラスではない私にさえ劣るのではないかというレベル。

 だが、その力押しが功を奏している。

「っ……」

 あのエゴが持ち前の柔術で流しきれないほどの強さ。

 だからといって、エゴが劣っている訳ではない。

 力負けしてはいるが、致命傷を負ってはいない。

 小さな傷は少しずつ増えている。だが、倒しきるにはまだまだ遠いだろう。

 まあ、ランサーに期待はしていない。元々ここは、私がハクトに任された場所なのだ。

「ははははは! さあ、その血、我が槍に捧げるがいい!」

『この、いつまでも、そんな力押しに負けるとでも――』

「ちょっと――私を忘れてるんじゃないわよ!」

 その大振りな槍は流されるだろうが、ならば私がその躱した先に槍を伸ばすまで。

『なっ……!?』

 その反応がどうにも、私の存在を忘れているかのようだったが、この際気にすることもない。

 問題は、ランサーの槍が私を巻き込んでしまわないか。

「ランサー、ソノ娘ヲ巻キ込ンジャ駄目ダヨー」

「無論! 分かっておるとも妻よ!」

「きゃっ……!? こ、このコウモリッ、貴方狙ってるでしょ!」

 言葉と同時に首元を掠めた槍。

 文句を言うも、ランサーは歯牙にもかけずに、獲物を狙って槍を振るい続ける。

 このままでは、どうにも危うい。

 一旦下がる。ランサーのマスターと目が合った。

「ちょっと、痩せネコ。あのコウモリ、どうにかしてんじゃないの?」

「ランサーハ頑張ッテルヨ。君、ランサーヲオ手伝イシテクレナイノ?」

「だーかーらー! 主役(メイン)は私だっての!」

 駄目だ。この痩せネコ、まともに取り合うつもりがない。

 脇役は脇役らしく、主役を盛り立てるために最低限のサポートだけするべきだというのに、まったくもってなっていない。

 これではまるで、私が脇役ではないか。それは認められない。この場の主役は私、それは決して覆らないのだ。

 槍を持ち直し、再びエゴに迫ろうとする、その瞬間。

「ぬ、ぐ――――!」

 ランサーが膝をつく。

 どうやら、エゴに鋭い一撃を喰らったらしい。

 情けない――そう思うも、どうやらエゴの攻撃はそれでは終わらないようだ。

 高く上げられた拳が振り下ろされる。アレが倒れるのは拙い――そう判断し、咄嗟に槍を投げていた。

『っと……』

 見え透いた攻撃だったのだろう。一歩退くことで回避され、槍は二人の間を隔てるように刺さった。

「……よくこんな怪物に一撃決めたじゃない。侮っていたかも」

『言ったでしょう。聖言に造詣はあると。貴女にも効くかしら、吸血鬼カーミラさん?』

 ――カーミラ。

 私の晩年の所業が元になった、吸血鬼伝説。

 ああ、確かにカーミラに対しては、聖言とやらは良く効くものだろう。

 だが――

「ご生憎様。この私は吸血鬼(カーミラ)じゃないわ。どうしようもないくらい、無知だったころの姿よ。そういう記憶はあっても、体は少しも穢れていないわ」

 そんな、領地の乙女の血を啜った吸血鬼としての側面は、この体にはない。

 潔白で、高貴で、完全だった頃の竜の娘(エリザベート)

 それが私。まあそれはともかくとして、覆しようのない過去を否定するつもりはないのだが。

『あらあら。殿方を知らない、女として未熟の過ぎる肉体をよく誇れたものです。一歩踏み出して我執を捨てれば、楽になれるというのに』

 安い挑発だ。そんなものには乗らない。

 ともあれ……投げた槍を回収しなければならないが、それを許すエゴではあるまい。

「さ、起きれるでしょ。さっさと立ちなさい」

 ランサーを促す。槍を杖にして立ち上がるランサーは、明らかに消耗している。

「最初から期待はしてないけど、まだ戦えるわね? 私が槍を回収するまで持ち堪えなさい」

「ふ、ん……傲慢め。だが、良いぞ。この封印、解いてしまった以上、オレは壊れるまで戦ってみせよう」

 鼻を鳴らして槍を持ち直すランサー。それと同時に、その体に更なる変化が現れる。

「ッ――!」

 血濡れの鎧から突き出た、槍とも杭ともつかない棘。

 体の内から生えたのだろう。その証拠に、棘の位置から血が流れ出ている。

 一本ではない。二本、三本と数を増し続け、やがては腕のみならず足、胸からも出現する。

『……より怪物性を増す宝具。暴走を誘発するものであれば、そうした不具合も当然出ることでしょう。裏目に出ましたね、ランサー』

 度を過ぎた暴走が、体に異変をきたしているのか。

 捨て身の策だとは思っていたけれど、どうやら想定以上のものだったようだ。

「問題、は、ない。死ぬ前にその心臓、貫くまでよ――」

『――――、ガッ――!』

 それは、私の目でも捉えるのが難しいほどの刺突だった。

 咄嗟に回避しようとして、エゴは遂にその腹に大きな傷を負う。

 攻撃はまだ終わらない。

 二度目の刺突。エゴは後方に大きく下がることでそれを躱す。

 三撃目。これまでの敏捷性では考えられないほどに素早く、ランサーはエゴに踏み込む。

 正確に首を狙った薙ぎ払い。避けることは出来ない。

 決着がつく。そんな確信は――

「ッ」

 一時にランサーの体から突き出た十本あまりの棘によって消え去った。

 その痛みによるものだろう。僅かに停止したランサーの心臓を、確実にエゴの拳が抉った。

「ラン、サー?」

 痩せネコマスターの、状況を理解していないような呟きが零れる。

 一方で私は驚愕こそあれど、これを好機と見た。

 的確な一撃だったとはいえ、エゴのそれは半ば反射のようなものだ。

 勢いはまだ此方のもの。しかしランサーが戦えなくなった今、再び勝機は薄まっている。

 ならば――流儀に反してでも、このまま押し切る。

「行くわよ――!」

 槍を回収し、エゴに向かって走る。

 力で押すのならば、選ぶ選択肢など一つだ。

 全て、耐え切る。魔術には大したものではないが対魔力がある。精神攻撃はそもそも狂っているのだから気にしない。

 そして、外傷は――

「っ――無敵モード、オン!」

 気合いで、どうとでもなる。

『ふん、貴女程度……!』

 動かない左腕を、無理やり動かす。

 どれだけ力が入らなくても、両手で持てば幾分か威力が増す。

 斬撃。ランサーと同じように首元を狙ったが、エゴが素早く伏せたことで空振りとなる。

「ぐっ――は……っ!」

 心臓目掛けて飛んできた拳。全力でもって体を僅かにずらす。

 致命傷ではない。まだいける。

「あ、ああああああ――――!」

 懐に迫ったエゴを力の限り蹴り飛ばす。その間に槍を持ち直し、今度は刺突。

 それも、躱される。

 頬を裂くだけに留まった槍を引くまでに、また一撃受ける。

 頭を飛ばそうとでも考えたのだろう。既に読んでいた。

 今回は完全に回避したと思ったけれど、それを否定するように尋常ではない振動が脳を揺らした。

 同時に、罅が入ったような乾いた音。確認することは出来ないが、多分右の角が折れたのだと思う。

 決して小さくない、後悔が生まれる。ハクトがあれほど熱烈に褒めてくれたモノを、みすみす失ってしまうとは。

 しかし、くよくよしている暇はない。そんなことをしている内にでも、目の前の敵を倒すべく槍を振るう。

 攻撃。回避。被弾。攻撃。回避。被弾。

 戦いのセンスは、どうやら比べるべくもないらしい。だがそれでも、命に到る傷だけは受けないように。

 エゴに痛覚があるのならば、一撃加えれば私の勝ちだ。それまで私が耐え続ければ良いだけの話。

 折れた骨なんて、最初から数えていない。

 耐えようと努めていたのだが痛覚なんてとっくに忘れている。

 死ぬこと以外は全て掠り傷だと思え。どうか、一撃だけでも――

『その根性、だけは……褒められたものですが。あまりにも、鈍すぎますわ……!』

 

「――――――――あ」

 

 そんな願望は結局、一歩及ばず。

 

 

 内臓全てが破裂せんばかりの致命傷を負った。

 

 

 

 

 

 

 ――――だからといって、まだ終わらない。

 あの男がまだくたばっていないと、分かっていたから。

「ぐおおおおおおああああああああああああぁアアアァァぁアぁァ――――!」

 高く跳躍したらしい圧倒的な質量が落ちてくる。

『なっ……!? 貴方、まだ――――ひっ……!』

 どうやら、下がろうとしているようだ。

 だがそんなこと、私が許さない。

「逃……さ、い、わよ……!」

 渾身の力を込めて、エゴの足に槍を突き立てる。

 先ほどの一撃は肺や声帯にまで治癒不可能の破壊を齎していたらしい。

 息を吸っても、殆どが何処かへ抜けていく。自慢だった声が、自分のものではないように不自然。

 受けた打撃とはまた違うベクトルの、喉の鮮烈な痛み。そして決して失いたくないものを失った、狂った心でも耐えられない精神的な痛み。

 それらへの苛立ちも込めた刺突は、足を貫いて床にまで届く。

『ッ、しまっ……』

「大儀である――さあ、裁きの刻限だ!」

「っ……!」

 落下の衝撃で、体が浮き上がる。

 槍を手放して転がってきたのは、ちょうど痩せネコマスターの傍だった。

 ふと、その右手の刻印が目に入った。

 三画残っていた筈のものが、一画減っている。なるほど。ランサーが動けたのはそれも要員だったのか。

「オ疲レサマ。後ハランサーガ――」

 表情の見えない道化の言葉は、そこで止まった。

 まさか、まだ――そう思ってエゴの方を見れば、確かにその敵は半壊していた。

 核となっていた塊も砕けて、後は消えゆくばかりとなりながら、しかしエゴはまだ存在している。

『く、は……、っ、はぁ……!』

 ランサーの最後の一撃で、消滅しきっていない。

 だが追撃を加えることなく、今度こそランサーはその場に崩れ落ちた。

『ぜぇ……は、ぁ……私の、勝ち、ですね。槍を捨てた、死に掛けの貴女、ならば……私の聖言だけで、十分です』

 聖言を交えた魔術。確かに対魔力を持っているとはいえ、今の私では耐え切れまい。

 そもそも既に、体の消滅は始まっている。

 徒手にして満身創痍。そして気付けば、左腕は肘から先がなくなっていた。

 こんな状態でどうやって勝てというのか。

 そんな、パニックになると思っていたのに、驚くほど落ち着いていた。

「そ、ね……で、も、残念。わた、しの勝ち、よ……」

『何を……』

 エゴが魔術を紡ぐ前に、私は奥の手を開放する。

 ギリギリと鳴動する、背後に聳えていた私の居城。

 思えば、こうした使い方は生涯なかった。

 当たり前か。宝具として昇華されたこの城が、召喚された私の思うように改造されていたのだから。

 痩せネコマスター、コウモリランサー。この二人を巻き込むことは――多分、ない。

 あの敵を倒すための『歌』だ。正確に、確実にアレ一人を倒すことだろう。

「――竜鳴(キレンツ)雷声(サカーニィ)

 壊れた肺に、それでも精一杯の空気を詰め込む。

 そして、歌う。正真正銘の最後の歌(ファイナル)を。

 

「――――Laaaaaaaaaaaaaaaaaaaa――――――――」

 

 正直に言うと、先ほどの思いは偽りだった。

 最後の最後で私は、自分の欲に身を任せた。

 あの敵を倒すなんてどうでもいい。

 抱いていた私の思いは、たった一つ。

 ――遥か遠くにいる、あの人に。私の歌が届いてほしい。

 だから今までで一番の歌になるよう、気持ちを込めた。届いてくれるように、より響かせた。

 拡声の役割を持たせた城の消滅を察知する。うん、じゃあ、これまで。届いていなかったら、所業の清算の一部だと思おう。

 思った通り。やっぱり、私程度じゃ生き延びるなんて無理だった。

 ――――約束、果たせなかったかぁ。

 まあ、仕方ない。寧ろ幸運だ。

 今度会う時までに、罪を償おう。そうして潔白(まっしろ)になった状態で、復活ライブを盛大に開くのだ。

 アイドルごっこはお終い。次はきっと、本物のアイドルとして。

 そう思えばこれから始まる眠りだって、心機一転の――とても意味のあるものになる筈だ。




これにてエリちゃんは退場となります。お疲れさまでした。
アイドルでもフラグには勝てなかったよ……
完全に意識の外にあるため描写はありませんが、無事エゴは倒してます。
そしてヴラドはしぶとくまだ生きてます。

最後にルナステネタを挟もうとして没にしたのは内緒。

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