Fate/Meltout   作:けっぺん

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求)バーサーカーピース
出)アサシンピース

再臨させる子がいないのに20個もあって持て余してます。


Desire of The World.-6

 

「シンジィ! まだ生きてるかい!」

「まだとか不吉だな! いや、どうにか……ああ、余裕だよ!」

「ハハハハハ! それでこそアタシのマスターだ、もっと飛ばすよ!」

 この戦場に身を投じて、多分数十分が経過したと思う。

 痛烈に感じたのは、自身の未熟さだった。

 戦火に揺れる船の上で平然としているライダーとの差を、現在進行形でまざまざと見せつけられている。

 早々に僕は衝撃に耐えるだけで精一杯となり、ほぼお飾り状態となっていた。

 長い戦いになると、高い位置を浮上させ続ける魔力を賄うのが困難になる。

 よって低空での戦いに切り替えたのだが、結果として船に影の腕が届く距離にまで下がっていた。

 この位置であれば、少なくとも後一時間は魔力が持つと思う。

 だけど、新たに現れた問題は船の耐久。

 極僅かな損傷だが、伸ばされた影の腕は確実に船の装甲を削っていく。

「っ、ライダー! あそこだ!」

「くっ……次から次へと、数だけはご立派だ!」

 船に上がってこようとする影をライダーの拳銃が撃ち抜き、反対側にいる影はカットラスで切り裂く。

 今のところ、ライダーはどうにか相手を出来ている。

 乗り込んでくる影が戦闘態勢に入る前に狩る。そして周囲の無数の影は砲撃で殲滅する。

 倒した影の数は既に数百――いや、更にその上の桁に達しているかもしれない。

 一方で僕は、ライダーへの魔力供給をすることが限界だった。

 影の海を進むのは、大荒れな嵐の海を越える方がまだ遥かに楽だろう。

 一メートル進むだけで装甲を削る、死の大海。

 振り落とされないようにしがみつくことが、今の僕に出来る全力だ。

「ちっ、シンジ! 一発ぶっかますよ!」

「あ、ああ……やってやれ、ライダーッ!」

 強いて言えば、こうした逐一のライダーの行動に許可を出すことくらい。

 それだって本当は必要ない。

 寧ろライダーの選択を遅くするだけで、何らメリットはない。

 ただ、ライダーが僕をマスターとして見ていてくれていることの、申し訳程度の証左でしかない。

「よし――出てきな、アタシの艦隊! 一斉砲撃だ!」

 ライダーの号令で召喚される艦隊。

 無敵艦隊を落とした、フランシス・ドレイクが誇る究極の軍勢。

 大丈夫だ、宝具の全力展開一度ならば、まだ大丈夫。

「行くよ! 黄金鹿と嵐の夜(ゴールデン・ワイルドハント)!」

 下方に向けて放たれる、砲撃の嵐。

 餌食となった影はその存在を微塵も残さず、消え去っていく。

 風圧でさえ、影を倒す一因となりえる破壊の権化は広範囲の影を纏めて殲滅するに至った。

「ふぅ……ちょっとばかし休憩だね。といっても、一分二分なんだろうけど」

「……はぁ……っ!」

 周囲には影の姿は見られない。

 だが少し経てばまた、同じような状況になるだろう。

「……発生源はもう、破壊したのか?」

「さあ? どんな形してんのかもしらないし確かめようがないよ。ま、こんだけ派手にやってんだし、本当にこの階にあるんだったら、そのうちぶっ壊すだろ?」

「……そう、だな」

 カットラスを持ち直すライダーは、まだまだ余裕といった様子だった。

「あーあ、こりゃ思った以上に骨が折れる。さっさと終わらせて一杯やりたいもんだ。今日くらいは付き合いなよ、シンジ」

「だから、僕は未成年だっての。二十歳以下の飲酒は禁止なんだぞ……」

「へえ、二ホンの法律は厳しいねえ。こりゃまた、一人寂しく酒盛りだ」

 肩を竦めるライダーは、いつも通りの見慣れた光景だ。

 今はまだ余裕を持っていても、いずれ限界が来るだろう。

 宝具を発動してしまっては、当然戦える時間は減ってくる。

 僕の魔力の限界は遠くない。枯渇してしまうのも、時間の問題だろう。

 こういう時、どうすればいいのか。

 まるで思いつかない。戦いに慣れていない僕では、咄嗟の判断が出来ない。

 これがもし紫藤だったら、この場を乗り切る上手い策を思いついているに違いない。

 だが、僕は全然ダメだ。ここまで本番に弱かったのか、と今更に実感する。

「ん? どうしたんだい、シンジ」

「……別に、なんでもないよ」

「だったらそんな、しみったれた顔するもんじゃないよ。最後なんだから、後腐れないようにしな」

 そんな、ライダーの言葉で一つ、思いつく。

 根本的な解決という訳ではないが、今僕に出来る最大。

 そうだ――まだ僕には出来ることがある。ライダーの役に立つことが出来る。

「……ライダー」

 右手を前に出す。

 『これ』を使って良いかどうか。言外の問いに、ライダーは笑った。

「アンタはアタシのマスターだ。命じなシンジ、アンタのとっておきの命令、聞いてやるよ」

 そうやって、言葉で認めてくれることが嬉しかった。

 まだ自分が魔術師として幼すぎる、三流にも等しい存在であることは分かっている。

 紫藤にすらセンスが及ばない。遠坂やラニ、レオなんて姿すら見えない遥か高みにある。

 追いつけるのは精々ジナコくらい。そんな僕でも、一人のマスターとしてここに立っている。

 どれだけ情けなくても良い。少しでも、マスターとして相応しい行動をする。

 奮い立たせているのは無駄に高いと自覚のあるプライドだ。

 アイツのサーヴァントがいれば、つまらないと一蹴するかもしれない。くだらないと切って捨てるかもしれない。

 それでも、今からやることで見返してやりたい。

 僕が出来る限り最大の援け。これなら、きっとアイツらも舌を巻くだろう。

 ――見てろよ紫藤。負け犬のままでは終わらない。道化のままでは終わらない。これが僕の底意地だ。

「令呪をもって命ずる――」

 一回戦でピンチに陥ったとき、それでも紫藤相手ならなんとかなると思って出し惜しんだ令呪。

 もしかすると、あの時これを使っていればどうにかなっていたかもしれない。

 躊躇いが、命運を断つことになった。

 だが、今ではそれでも良かったと思っている。

 どうせ僕では聖杯戦争に勝ち残ることが出来なかった。

 それが幸いした。こんな思い切りのいい使い方なんて、たとえこれから先に何度聖杯戦争に参戦してもしないだろう。

「僕のサーヴァント・ライダー、この戦い、絶対に生き残れ」

「――了解だ。命じられたからには、やってやろうじゃないか」

 一つ目の令呪が、虚空に消えていく。

 凄まじい魔力量。たった一画だけで、僕が扱える魔力量を凌駕していた。

 だけど、それでは終わらない。

「二つ目の令呪をもって命ずる。ライダー、出し惜しみはするな。全力を出し切るんだ」

「まあ、命じられるまでもないさ。だけどシンジ、そんな命令するなら、当然覚悟はあるんだろうね」

 そう言われると思っていた。元より惜しむつもりもない。

「最後の令呪をもって命ずる――」

 ライダーが全て出し切るなら、僕も全てをもって援助する――!

「ライダー、最後の海を越えろ。お前の航海、僕に見せてみろ!」

「ハッハァ、請け負ったあ! 聞いたか野郎共! 船長命令だ、しくじるんじゃないよっ!」

 消えていく最後の令呪。

 なんとなく、清々しく感じた。

 ライダーは高笑いしながら、再び迫ってくる影を睥睨する。

「さあ、破産覚悟だ! 全財産ぶち込むつもりがないヤツは今すぐ船を下りな! アタシたち海賊の流儀、見せてやろうじゃないか!」

 再開の一発とばかりに砲撃が放たれる。

 令呪こそなくなったが、それでもまだ僕はライダーのマスターだ。

 マスターらしく、最後まで立っていよう。

 そこまですれば――やっと一人前になれる筈だから。

 

 

 +

 

 

『なっ……何故です!?』

 ――弾丸生成、次に備える。

『何故BBに手も足も出なかった貴方に、この私が……くっ!』

 弾丸を放ち、回避によって生まれた隙をガウェインに狙わせる。

 大丈夫だ。この小さな戦場においては、僕もガウェインの動きに追いつけている。

「確かに、僕ではBBに敵いません。彼女の権能と相対すれば決着術式も相性が悪いです」

 ガウェインの攻撃もまた、寸でのところで回避される。

 問題ない。これが躱されても、まだ次がある。

「ですが、だからといって貴女に敗北するということはありません。当然、時を早める手段があれば、話は別ですが――」

 ガウェインの攻撃に合わせて再び弾丸を放ち、同時にステータスを上昇させる。

「っ……!」

 エゴはどうやら、相当の体術を持っているらしい。

 敏捷性も確かなものらしいが、しかしこの戦場はガウェインの世界だ。

 エゴがどれだけ素早かろうと、この結界の内部でガウェインに勝つことは出来ない。

『――、あ――!』

 聖剣による斬撃。まず始めに――エゴの片腕を奪う。

 しかし、一筋縄ではいかない。反撃とばかりの蹴りを受け止めたガウェインが、体勢を整えるべく一旦退いてくる。

 確かにエゴは強敵だ。並みのサーヴァントでは及びもつかないほどだろう。

 だが――脅威とは思えなかった。

 何故なら僕は、目の前の敵以上の強さを持った主従を知っている。

 彼らのために、ここに残った。

 彼らのために、道を切り拓いた。

 今頃彼らは迷宮の果てで、このエゴの本体である事件の元凶と戦っているだろう。

 きっと、いや、必ず彼らならば、勝ってくれるだろうという確信がある。

 決して才能に恵まれている訳ではない。体系的な戦闘論理を学んでいる訳でもない。

 しかし、それを補って余りあるセンスがある。

 そして何よりも彼の力となっている要素。

 それが――あのエゴにはない。

「ガウェイン、同時に仕掛けます」

「承知しました、レオ!」

 ガウェインの斬撃の穴を縫うように、弾丸を放つ。

『くっ――!』

 回避は不可能。しかし、エゴは行動を躊躇わなかった。

 致命傷となりうる斬撃を回避し、弾丸を一斉に浴びる。

 そのダメージをものともしていないように、エゴは距離を取った。

 もしかすると……あのエゴには痛覚が存在しないのか。

『ふ、ふふふ……時間ですね、レオさん?』

 勝利を確信したように笑みを零しながら、エゴは周囲を見渡す。

 ――術式の維持に限界が訪れていた。

 三分というのは、こうして戦ってみると存外短いものだ。

 ハクトさんには宣言してみせたが、やはりこの短時間での決着は不可能だったか。

『今の動きに耐えた身ならば、通常のステータスには劣りません。どうやら私の勝ちですね……?』

 確かに、そうかもしれない。

 この結界の外にさえ出られれば、ガウェインのステータスは通常の状態に戻る。

 そうなれば、或いはエゴもガウェインに及ぶこともあるだろう。

 だが、あくまでそれは、外に出ることを許されたらの話だ。

「――――」

 三分。結界が解けることはない。

 当たり前だ。三分で決着がつかないという可能性も当然視野に入れておいた。

『え……?』

「恐縮ですが、後三分付き合ってもらえませんか。それまでに決着をつけましょう」

『っ、令呪……!』

 二画残っていて、これが最後の戦いならばこれ以上惜しむ必要もない。

 結界を維持できる時間の延長。

 三分程度の維持ならば、令呪一画で事足りる。

『そんな、まさか……』

「ハクトさんを先に送って、僕が負けたのでは格好がつかないでしょう。少し反則でしょうが、手段を選んではいられません」

 そう、負けられない理由がある。

 先があるのならば。次があるのならば。

 再びハクトさんと会った時に、戦い、勝つために、ここで倒れる訳にはいかないのだ。

『……こんな、ところで……』

 後ずさるエゴ。対してガウェインが一歩迫る。

 結界は延長こそしたものの、これ以降の剣戟は必要ない。

「ガウェイン、ここまでお疲れさまでした。これで最後にしましょう」

「御意のままに、レオ。私の持てる全力をもって、最後の障害を灼き払いましょう!」

 今まで付き従ってくれた、最優のサーヴァント。

 彼との戦いも、これで終わる。終幕に相応しい一撃のために、聖剣は少しずつ運動を加速させる。

「令呪をもって命じます。聖剣集う絢爛の城(ソード・キャメロット)を聖剣に収縮、及びこの令呪の魔力を用い、エゴを倒してください」

 正に全力。僕とガウェインに引き出せる、究極の威力。

 駆動した聖剣は炎を巻き上げ、渦を作る。

 結界の炎がそれに巻き込まれ、一層勢いを増す。

『ッ――――』

 好機と見たのだろう。エゴは撤退しようとする。

 結界を解除していれば、聖剣の攻撃範囲から逃げ切れたかもしれない。

 しかし、その結界を取り込んだ以上この一撃の範囲は通常の比ではない。

 何処へ逃げても同じこと。そもそも――逃亡など許してはいない。

転輪する(エクスカリバー)――勝利の剣(ガラティーン)!」

『――――――――――――――――』

 真名開放と共に吹き荒れる灼熱。

 一振りで膨れ上がった太陽は一瞬のうちにエゴを消し飛ばす。

 尚も威力を減衰しない聖剣は階の果てにまで届き、一帯を焦土と化した。

「――終わりましたね」

「はい。貴方の命、確かに完遂しました」

 聖剣の余波によって、未だ暴風吹き荒ぶ迷宮。

 まだどうやら、全ての決着はついていないらしい。

 ならば暫くは、ここにいても良いだろう。

 風を一身に浴びながら、僕は初めて感じる勝利の喜びというものに浸ることにした。




レオの戦いは真っ先に終わりました。
慎二視点のウキウキ具合とは真逆のレオ視点のあっさりさ。
彼が天才だからいけないんです。

ハク以外の視点はあと二話ほど続くと思います。

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