Fate/Meltout   作:けっぺん

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二章終わりました。
ぽんぽこの宝具レベルを上げたらやたら強いです。
今は3ですが、いずれMAXにしたいですね。


Last Battle on Mooncell.-7

 

 

 迷宮も終端に近付いてきている。

 しかし、少なくとも障害は後二つあるだろう――そういう確信はあった。

 キアラさんのエゴが敵として立ちはだかっている以上、残る二つのSGを核にしたものも存在している筈だ、と。

 そして、それを発見する。

「……」

 迷宮十八階。

 ヴァイオレットと激戦を繰り広げた戦場。

 特に仕掛けもない広場の中心に、エゴは立っていた。

「最早隠れ潜むつもりもないか。レオ、如何とします?」

「言うまでもありません。――出来ることならばこのまま、迷宮の出口まで行ってみたかったものですが」

 本音を覗かせながら、レオとガウェインが前に出た。

『あらあら。“私”の相手はレオさんですか。これはなんとも、嬉しいことです。世界の約束された王を相手に出来るなんて』

 エゴも嬉々として、それを迎え入れる。

 ガウェインが剣を抜くということ自体が、この場にレオが残るという何よりの意思表示だ。

「レオ君……!」

「ミス黄崎、ガトー団長。そしてハクトさん、先へ行ってください。なんともありきたりな言葉ですが――ここは僕が引き受けます」

 レオは振り向くことなく、告げてくる。

 向き合った以上、既に戦いは始まっている。

 目を外す訳にはいかないのだろう。

「ぬ……しかしレオ会長。お二人でなど……」

「エリザベートさんはたった一人でアレと戦っています。でしたら僕もそれに続きたい……いえ、それは違いますね」

 軽い冗談なのだろう。

 笑い飛ばし、レオは続ける。

「今まであまり、僕も役割を全う出来ていませんでしたからね。最後くらい会長の職務に恥じないことをしようかと」

 年齢相応のからかいも悪戯も抜きに、レオは本音を述べた。

 それが、会長――生徒会という組織のリーダーにして、最強のマスターの選択。

 多少、見栄や私情も混じっているかもしれない。

 だが、ガウェインは何も言わない。ただレオの剣として、あらゆる命に従うだけ。

「そういう訳です。皆さんは先へどうぞ。すぐに片付けて、追いつきますよ」

 レオが片手を振るうと、レオ、ガウェイン、エゴを囲むように炎の円陣が吹き上がる。

 まだ焚き火程度の火力しか出ていないが、その術式の密度には覚えがある。

 聖杯戦争の決勝戦において、決戦の終盤の舞台にもなった炎の城。

 レオの切り札たる究極の結界。これを発動したのは、彼なりの宣言でもあるのだろう。

 最強のマスターたるレオであっても、この術式を維持し続けるのには限界がある。

 即ち、自身がこの結界を張っていられる時間でこの障害を打ち倒す――そう言っているのだ。

「……分かった。頼むぞ、レオ」

「ええ、勿論。大船に乗った気概でいてください」

 ならば僕は、任せるのみだ。

 既に多くの仲間たちに、道中を任せてきた。

 それとまったく同じ、何も変わりない。

「始めましょう、ガウェイン。最後の戦いです。その剣の全てを、ここに解き放ってください」

「御意のままに――レオ」

 レオの命令にガウェインが短く返す。担い手の戦意に応えるように聖剣に込められた擬似太陽が駆動し、灼熱の火炎を迸らせる。

「では、また後で。一応言っておきますが――生徒会の活動は、実に意義があった。生涯忘れられないくらいに、楽しかったですよ」

「レ――」

 ガウェインが戦闘態勢に入った、これならば大丈夫、と踏んだのだろう。

 最後に此方を振り向いて、柔らかい微笑みを見せながら、レオは言った。

 それに返す前に、王と騎士の姿は見えなくなる。

 吹き上がる劫火が、ガウェインにとって最も力を発揮できる空間を作り上げたのだ。

 決して外に出ることは許されない。この結界を破ることができるのは、確かな力を持った聖剣のみ。

 声の一切が聞こえなくなる。剣戟も術式の音もない。内部の状況で確実に知れるものはたった一つ。

 展開された結界が維持されている間――少なくともレオは敗北していないということのみ。

「……行きましょう。王様がわざわざ引き受けたんだし、時間を無駄にする訳にはいかないわ」

「そう、だね。メルトちゃんの言う通り。さ、ハクト君、ガトーさん」

「うむうむ。レオ会長の意思、とくと見届けた。さあいざ行かん! 残る階層も少ないぞ!」

 やる気を増したガトーが先頭を走る形で、先に進む。あまりにも危険であるためにヴァイオレットによって引っ込められたのだが。

 ともかく、先に行こう。

 レオならば、すぐにこの場を片付けて追いついてくるだろう。

 恐らく数分と経つまい。ならばそれまでに、少しでも進んでいなければ面目が立たない。

 更に先へと、足を速める。

 一層影は数を増し、道を阻む障害は膨大になっていく。

 だが、それでもまだ止まっていられない。

 メルトが溶かし、リップが砕き、カズラが援け、ヴァイオレットが切り裂き。

 完璧なまでの統制によって、先への道を拓いていく。

 ――さあ、迷宮の果てが見えてきた。

 

 

 迷宮二十四階。

 サクラ迷宮最後の階層であり、迷宮攻略において最大の戦いを繰り広げた場所。

 この階に訪れた瞬間から、激しい戦いの音が聞こえてきた。

『ふ――ふふふ。ただ肥大するだけのエゴが、私に勝とうとはよくも思い上がれたものです。貴女の主を私の大元が操っていたこと、知らないのですか?』

「そんなのしらない。でも、わたしはあなたがここにいていいなんていってないもん」

『なんと。獣も同然の縄張り意識ですのね』

「ちがう。わたしはせんぱいをまってるの。じゃまするなら、あなたなんてつぶす」

 空を彩る魔力の塊たる星。

 主の命の通り、敵を粉砕せんと降り注ぐそれらを最後のエゴは優々と回避する。

「――プロテア」

 巨大な少女、最後の衛士がこの戦場で戦っていた。

 反撃の拳を物ともせず、エゴを倒すべく更に星を増やす。

 影の大群もプロテアに押し寄せているが、プロテアにダメージを与えた様子はない。

 プロテアの圧倒的な耐久力では傷を負わないが――反対にエゴに攻撃が当たらない。

 この様子ではやがてプロテアが自身の経験値を使い果たし、エゴの攻撃が通用するまでレベルが下がってしまう。

 ジャックの宝具によってレベルが現実的な範疇にまで下がった以上、あれから上げたとしてもそこまでのものにはなっていない筈。

 ゆえに、そう長持ちはしない。早く手助けをしなければ。

「メルト!」

「ええ――!」

 駆け出したメルト。それを追うように、ヴァイオレットも走る。

『ッ!』

 炎を奔らせながらメルトは膝を突き出す。

 エゴはそれを寸でのところで回避し、反撃に転じようとした瞬間、ヴァイオレットの鞭が襲い掛かる。

 鞭を腕で受け、絡まろうとするそれを魔力で弾き飛ばしつつ、メルトに目を向ける。

 しかし、攻撃は出来ない。ちょうど落ちてきた星によって退避し、戦いは振り出しに戻る。

「せんぱい……!」

「プロテア、大丈夫か!?」

「うん。まだまだ、ぜんぜんだいじょうぶ」

 プロテアには外傷が見られない。だが、それはエゴも同じだ。

『あら。ここまで来たのですね。上のエゴたちも、随分と情けないものです』

 ――エゴと相対し、嫌でも理解する。

 このエゴは今までとは違う。十五階のエゴよりも、十八階のエゴよりも、遥かに強い。

 最後だからと特別力を込めて作られただろうことがすぐに分かる存在だ。

 手を合わせると、現れる十を超える弾丸――僕が使うものとは違う、聖言(マントラ)に近い手法だ。

『どうぞ遠慮なく掛かってきてください。魔術への覚えは多少あります。全員相手にするなど、造作もありませんわ』

 一体どれほどの力を込めたのか。そして、それを作り出せるキアラさんの力はどれほどのものなのか。

 確かな自信は、ここにいるサーヴァントが女神の集合体たちであることを知ってのことなのか。

 いや――知っていて、確かな実力があるのだろう。

 不意打ちのように落とされた流星を弾丸の一つが迎撃し、相殺せしめたことがその証明だ。

「……っ」

「うん……嘘じゃないみたいだね」

 白羽さんがらしくない、苦い顔をしながら言う。

 最強のエゴ。しかしすぐ先に中枢が……本体のキアラさんがいる。

 ならば、僕がすべき選択は一つ。そして白羽さんが考えている選択は、それと同じなのだろう。

「だけど。私たちが本気を出せば、どうとでもなるよね。ね、皆」

「は、はい……! 勿論です。あんな女……一握りです!」

 リップがキリキリと爪を軋ませる。

「私も……少しでも、お役に立ちます。ありったけ、力を振り絞って……!」

 カズラが懐から数枚の札を取り出す。

「勝率を測定するまでもありません。私たちが共闘する以上、勝利は絶対的です」

 ヴァイオレットがもう一度、腕を鞭に変化させる。

「せんぱい、もういっかいさきにいくんだよね。だったらまた、わたし、おるすばんしてるから」

 プロテアが此方に、信頼の笑みを向けてくる。

「うむ! 此処が我が解脱の地! おおヴィシュヌよ、我に慈愛を! これぞ正にハルマゲドンなり!」

 ガトーが、まったくいつも通りのよく分からない叫びを上げる。

「まあ、そういう訳だから。私たちに任せて、白斗君とメルトちゃんは先に行って終わらせてきて!」

「白羽さん……」

『おや……おめおめと逃がすとでも?』

 一斉に襲い来る弾丸。だが対処をする前に、プロテアの星が迎撃する。

 しかしそれで終わりではない。

 一息のうちに迫ってきたエゴが、拳を振るう。

 その動きが、唐突に停止した。いや、動けてはいるが、速度は遥かに落ちている。

 ヴァイオレットが、エゴのみを視認した状態で魔眼の力を発揮しているのだろう。

「さあ――行ってください」

「ああ!」

 ヴァイオレットの視界を避けるように、迷宮の先へと進む。

 影をメルトの斬撃が切り払い、道を拓く。

 背後から聞こえてくる爆音。恐らく、戦いが始まったのだ。

 気付けば、迷宮を駆けているのは僕とメルトのみ。

 メンバー全てを、これまでに残してきた。

 もしかすると、既に戦いを終えている者もいるかもしれない。

 だが、それは与り知るところではない。黒幕を倒せば、全てが解決するのだ。

「ハク。いよいよね。アレを確実に倒すために、貴方がやるべき事、分かってる?」

「ああ、勿論」

 キアラさんに対抗すべく、僕は神話礼装を解放した。

 戦いにおいて、メルトはそれの発動に暫く時間を使うことになるだろう。

 ならばその間、僕がメルトを守らなければならない。

 決して不可能ではない筈だ。決着術式、皆との絆、そして、ノートから譲り受けた宝具。

 これだけ揃っていれば、絶対に。キアラさんの本体がどれだけ強かろうと、負ける訳にはいかないのだ。

「それなら、安心ね。少しの間、任せたわよ、ハク」

「任された。だからメルトは、神話礼装の発動に集中してくれ」

 頷くメルト。最後の長い階段も、終盤に差し掛かる。

 見えてきたのは、事象選択樹(アンジェリカ・ケージ)。ムーンセル中枢に存在する、機構の中心部だ。

「ッ――――」

 そして、その下に見た。

 巨大な繭のような球体と、傍に立つ小さな人影。

「……来たか。良い頃合だ、もう少し早ければ、またご退場願うところだった」

「アンデルセン……」

 黒幕を支えるサーヴァントたる少年は、手に持つ本を輝かせている。

 確かめるまでもない。

 あれはアンデルセンの宝具だ。先程見たものと違う、凄まじい魔力を放っている。

「主賓を待たせる訳にもいかん。キアラを呼ぶとしよう。女の色直しは長いというが、流石にもう問題あるまい」

 メルトが動くより前に、本は開かれる。

 発動した宝具は既に事象を確定させている――繭の中身が、その瞬間変質した。

「それでは、不肖ハンス・クリスチャン・アンデルセン。今一度、物語を世に出そう」

 有無を言わさず解き放たれる宝具は、攻撃のためのものでも防御のためのものでも、逃亡のためのものでもない。

 ただし、それは間違いなくキアラさんが勝利するためのものであり。

 事実、アンデルセンが成せる最大の奇跡。

「さあさあ、どうぞご静聴あれ。終いまで聞けば全てが解る。これが底無しの魔性の物語(はなし)であると。紛いなしの悪魔の物語(はなし)であると」

 口を慣らすように語り始めたアンデルセン。それが書き出しであるように、区切ったところで本のページが捲れる。

「これより語るは世界一悍しい御伽噺だ。主役は煉獄より這い上がった魔性の女、相対するは煌く月の意志と心。溢れんばかりの欲が勝るか、正義の剣が悪魔を討つか。貴方のための物語(メルヒェン・マイネスレーベンス)。はじまり、はじまり――!」

 枯れた声で語られる、最後の物語。

 脱稿された作品が、主役を昇華させる。

 繭が罅割れ、完成された悪魔がここに――降臨した。




レオ:十八階
キアラ・エゴと対峙。

白羽、ガトー、アルターエゴズ:二十四階
キアラ・エゴと対峙。

ハク:ムーンセル中枢
最終決戦。

忘れられていたかと思ってました? プロテアずっとお留守番してました。
ハクたちが下りてくる間、エゴとガチンコの殴り合いしてたと思います。
さて、いよいよキアラとの対峙です。
いやあ、アンデルセンは書きやすいですね。

次回は多分、決戦前の会話です。多分。

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