登場サーヴァントのステータスやパラメータがしっかり書かれてるらしいですよ。
ゲームシステムとかをプレイ前に知れるのは大変嬉しいです。
三階を慎二に任せてから、暫く時間が経った。
相変わらず影の量は多いが、発生源のない階は比較的マシと見える。
しかし、そこはただの道でしかない。
発生源以外の場所の影を幾ら倒しても、まったく意味がないのだ。
出来るだけその発生源は少ない方が良い。
だが、二つ目はどうやら、この階にあるようだ。
「……ここは」
独り言のように漏らしたのは、カズラだった。
そう、ここはカズラの迷宮。
三階層に該当する八階。カズラの無数に分かれたエゴが集落を成していた場所だ。
夥しい数の影は建ち並んでいる民家をも黒く染めている。
だが、その数は三階に比べてそこまで多くは感じない。
元々そういう地点なのか、発生源の活性化が遅れているのか。
どちらにしろ、走り抜けるのならば今が好機だ。
問題は、この地点の発生源を誰が叩くか。
障害物が多く、どこにいても四角が存在する。
ここで戦うというのは、対軍宝具だけでは困難だろう。
「――いいね。オレに打って付けの場所だぜ、旦那」
「うむ。この場であれば、我らに向いた戦いが出来よう」
しかし、障害物があればあるほど本来の戦闘が可能となるサーヴァントがいる。
森の狩人たるアーチャー。
その真の戦い方は何もない場所での一対一の戦闘ではない。
隠れ潜む場所の多い、森などでの殲滅戦だ。
「……ならば、俺も残るとしよう」
「兄さん……」
この場での戦いに、ユリウスも名乗りを上げる。
「サーヴァントを失った身、最低限こうした有利な場で戦うべきだ」
「ふーん。んで、オレの足引っ張るようなことねぇだろうな? たかが一匹二匹潰してご臨終なんて足手まといは間違ってもごめんだぜ?」
「そう心配するな。元よりゲリラ戦は慣れている。それにこの状況ならば、
その目は、此方に向けられている。
聖杯戦争のルールを逸脱する凶悪な力を持った術式。ユリウスは、それを数多く所持している。
だが、ここは月の治外法権だ。厳しく取り決められたルールなど、この月の裏側には存在しない。
恐らくはそれの確認だろう視線に頷きを返す。
敵としてならば、これ以上ないほどに厄介だが、味方としてならば非常に頼もしい。
「ユリウス殿の助力はありがたい。儂も、このような場での戦いは不得手ではない」
そして、ダンさんは理想的な騎士然としているが、数多くの武勲を挙げた軍人でもある。
アーチャー、ダンさん、そしてユリウス。この場での戦いは、少数による完璧なまでに精錬されたものとなるだろう。
「だけど、対軍宝具を持つサーヴァントがいないと不便じゃないの。アーチャー、なんとかなるのかしら」
「んなモン、どうにかなるさ。そっちの兄ちゃんが色々持ってんだろ」
「ああ。だが、俺の術式にも限度がある。早期殲滅を心がけるべき――」
対軍宝具を持っていないと、いざというときの脱出が適わない。
アーチャーは確かに、こうした場での戦いに特化しているだろう。
だが、アーチャー――ロビンフットの真価は敵を待ち受けての防衛戦にある。
敵を待ち伏せ、罠や毒を用いて敵を殲滅する。
しかし相手が既に拠点を確保している以上、その作戦は不可能だ。
早く戦いを済ませねば、数に圧倒される結末となる。それを否定するためか――もう一人、名乗りを上げた。
「――私も残ろう。私が前線に出れば、問題はあるまい」
この場にいる、二人目のアーチャー、アタランテ。
確かに彼女は強力な対軍宝具を所持している。これならば攻撃力も補い、更に隙はなくなるだろう。
「ぬ! ならば小生も――」
「知らん。モンジは先に行け。私が戦うにおいて、貴様に前に出られては迷惑だ」
その目には、拒絶と――違う何かが込められている。
幾つかのものが混ざり合い、一つの悩みになっているような。
だが、それを告げるつもりはないらしい。ただアタランテは、ガトーをこの場に残らせまいとしている。
「しかし……」
「貴様に遠距離の心得があるか。今宵は私より前に出れば、命の保障はせん」
アタランテなりの、それは決意なのだろう。
それにガトーも気付いたのか、伸ばした左手を引っ込め、代わりに右手を突き出す。
「ならばこれだけ、置いていかせてもらおう。令呪をもって奉る。我が麗しの狩人よ、どうか武運を。そして、最後まで生き延びよ」
ガトーは未だ手付かずの令呪を解く。
放たれた命令はアタランテの大きな力となるだろう。
生存しろという命令によって、この戦いにおいて彼女は強化される。
無論それは――彼女がそうあらんとしていれば、だが。
「……善処しよう。さあ突破するぞ。我が矢に続け」
弓を構える。引き絞るその手は僅かに震えている。
表情を苦痛に歪めながらも、しかし狩人としてアタランテは役割を全うする。
「この遠矢、神に捧ぐ――
天に昇る一矢。それと引き換えに、神は加護を齎す。
即ち、敵に対する災厄。
降り注ぐ流星群は、先への道を遮る影を悉く粉砕していく。
「さあ行け、紫藤。全てを終わらせてこい」
「――ああ」
ユリウスの信頼の込められた視線を受ける。
この月の裏側において、度重なる共闘を経て――ユリウスとは真実、友人になれたかもしれない。
その大事な言葉にはノイズが掛かっていようと、根底にはしっかりと刻み込まれていた。
だからこそ、僕はここを任せるのだ。
大切な友と、戦いの意味を示唆してくれた教師。そして、追従するサーヴァント。
彼らを残し――僕たちは終局を目指して先へと進む。
+
モンジを邪険にした言葉は、偽りではない。
真実、彼がいては邪魔になる。かといってこの先であの者が役に立てる場面があるかといっても、知った話ではないが。
「さて。んで、旦那と兄ちゃんはどうするんだ? まず隠れられる場所確保しねえと駄目だろ」
「そうだな。家屋一つ二つの制圧ならば容易い。始めるぞ」
「では、あの場所からだな。後は状況に応じてで良いだろう」
だが、それでも先の判断は、マスターを気遣っての事、となるのだろう。
これから行う選択を前にしては、前に出る者は少ない方が良い。
ユリウスにダン、そしてアーチャーは後方からの殲滅を得意としているようだ。
であれば、私の前に出る味方はいない。
誰かを気にかける必要は、なくなった。
「……おい、アタランテさんよ」
「何だ」
声を掛けてくるアーチャーに、僅かに意識を向ける。
「アンタ、何する気だ」
戯けたことを。どうやら先の話を、何も聞いていなかったらしい。
「前に出ると言っておろう。汝らは後方で戦え。私は近接戦闘にも心得があるゆえな」
ただ少しだけ……
「良いな。決して、私の前には出るな。如何な末路となるか、私自身分からん」
「待っ――」
アーチャーの言葉を待たず、二度目の真名解放を行う。
モンジとのパスは繋がっており、魔力は問題ない。
令呪の働きもあって、この戦いにおいて枯渇するという結末はないか。
周囲の影を殲滅しつつ、一本立ったサクラの木に飛び乗る。
現状、影が狙うのは私のみ。後は彼らで準備を整え、思うように戦うだろう。
それを確認するまでもない。この場の影が私を狙う以上、それを暫くは全て相手取らなければならない。
「……問題ないさ。生きてやると決めた。少しでも長く、永く」
じりじりと迫ってくる影を睥睨する。
これだけはっきりとした、絶望的な死の波。
だが、私はあれに呑まれる訳にはいかないのだ。
そう――生きる。どうあろうと私は死ねない。あの子の最後の頼みを、無為には出来ない。
「ああ。安心しろ――お前たちは死なない。私が美しい世界を見せてやる」
二度の真名解放を伴い、弓を引いた。
存外、消耗というものは激しい。矢を持つ右手は、最早限界を迎えていた。
黒ずんだ手甲を撫でる。矢を持てないが、不要と断じて切り落とすなど出来よう筈もない。
「大丈夫だ、大丈夫。恐れることはない。生き延びてやるさ。お前たちが望む限り、な」
『死にたくない』『死にたくない』『死にたくない』『死にたくない』――
――――死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて――――
耳を澄ませば、生きることさえ許されなかった無垢なる子供の声が聞こえてくる。
命乞いとも、慟哭とも、怨嗟ともつかない。元よりそこに達するまで、言葉の主たちは成長していない。
「……っ、つ……」
奥まで響き、崩しに掛かるような痛みは容認しえるものではない。
なれど、それを耐えてきた。そして、これからも耐え続ける。
アサシンが最後に私に触れたとき、預けてきたものがある。
それは、「生きたい」と願う自身の分体。あの場で果てることを認められなかった、臆病な魂。
糾弾などしない。当たり前のことだ。生まれていないのだから、生きたいのは当然なのだ。
だから私はそれを受け取った。その想いを叶えるために。
「いいや。痛くはないさ。お前たちが抱いてきた痛みに比べれば、大したことはない」
悋気の炎に灼かれ、呪いとも取れる執着に抱かれ。
右手は使い物にならないが、それはあくまでも今の状態ならば、の話だ。
痛みが勝って使えないならば、痛みを感じなくすればいい。
生き延びることができないならば、生き延びることの出来る体になればいい。
そう。私にはそれを可能とできる。
果たしてそれは、アーチャーと言えようか。
知るものか。アーチャーが弓を引かねばならないと誰が決めた。牙も使えば爪も使おう。落ちていれば剣だろうが槍だろうが執ってやろう。
果たしてそれは、英雄と言えようか。
知るものか。元々私に、そんな大それた誇りなどない。私自身が、私を英雄と定めたのではない。私の在り方を真に知るのは私のみ。英雄でなくとも、それは私だ。
では、果たしてそれは、私と言えようか。
――間違いないさ。どう変わろうと、それは私だ。この子たちのためならば、どんな姿にでもなってやる。化け物に変わろうと、それだけは捨てるものか。
では――そう成ったワタシは、一体何だ。
「ふっ……考えるまでもないか。元より私はそういう存在だ」
そう。姿が変わったところで、私の在り方など変わりない。
私は狩人だ。私は野生だ。私は、獣だ。
全て同じ。他の何かを捨てようとも、それが残っていればアタランテだ。
ならばきっと、変わろうとも私はこの子たちを守っている筈。
小さな願望だった。私がこの子たちを捨てる外道に落ちないように、と自身に向けたもの。
「……む」
足を何かが掴む。
影が伸ばした手だ。どうやら、考えに耽り過ぎていたらしい。
三人は今、何処にいるのだろうか。意識を向けるつもりもないが、少しだけ気になった。
まあ、彼らなら問題はあるまい。そうあってもらわなければ困る。
何故ならば、これから先助けることなど出来まい。ただ私は、目の前の敵を屠り続ける
掴む影を踏み砕き、決心する。最後の戦いの始まりだ。
「御アルテミスよ。己が神話を解放するより前に、無論私に力を貸してくれような?」
信仰してきた女神が、この事件の中心人物に組まれていようとどうでもいい。
正しく私に力を齎してくれさえすれば、何を言うつもりもない。
「現れろ――」
再び手にした猪の皮は、決して触り心地の良いものではない。
血の臭いは頗る不愉快で、出来ることならば一時さえも出現させていたくはない。
だが、そんな私情は挟まないと決めた。
私の想いはただ一つ。この子たちを少しでも長く、生きさせてあげたいだけ。
ゆえに、この宝具を纏う。硬く悍しい毛皮で、全身を包み込む。
「御身、存分に解き放て――
影とは違う闇が、体を侵食していく。
ミシリ、と体のどこかが軋みを上げた。喉が絞まるように苦しい。瞳孔が開き、閉じようとしても筋肉が弛緩したように動かない。
ただ体は震えるのみで、思うように動かない。そうしている間にも、軋みと鈍痛が体中を支配していく。
「――――――――あ、――」
私の最終宝具。その力は、纏うことによって真価を発揮する。
この体を魔人にまで
その代償はどうやら、思った以上に大きかったようだ。
やがて鈍痛は激痛へと変わる。全身を常に引き裂かれるような痛み。慣れることのないように、一秒ごとに脳が感覚をリセットしているような感覚さえある。
「――■い! ■■って■だ! おいっ――!」
きっと、聞こえてくるのはアーチャーの声なのだろう。
何をしているんだか。私がこうしている間に、戦の準備をすれば良いだろうに。
やがて、痛みに溺れた体は魔人として完成したらしい。
永遠に慣れない痛みの中で戦う。不可能ではない。この子たちのためならば、いつまでだって続けてみせる。
狂気が脳を焼く。視界に映る全てが――憎らしい。ああ、だからこの怪物は全てを滅ぼそうとしたのだ。
迫ってくる影を、力任せに殴る。呆気なく消し飛ぶのを見て、無意識に口角は吊り上がった。
「――――退け」
影の群れを見下ろす。奴らは全て私の敵だ。
良いだろう。一匹残らず屠ってやる。このアタランテの前に現れたことが、貴様らの死因と知れ。
「消えろ――私の望みを、理想、ヲ、貴様ら如キに邪魔されテナるもノかッ――!」
私が、私でなくなっていく。
知ったことか。出来る限りの私は先程捨てた。ならばこの身、
ダン、ユリウス、アタランテ:八階
影の発生源破壊を担当。
という訳でアタランテの宝具『
いわゆる暴走形態。早い話がバーサー化ですね。
彼女はジャックと最後に抱き合った際、ジャックを構成していた「死にたくない」魂を預かっています。
ジャックの性質上、それは紛れもなく呪いであり、取り付かれているだけで問題です。
それに加えて火傷。戦えるのが奇跡なレベルで弱っていた訳です。
次回は多分、アレも発動します。多分。