Fate/Meltout   作:けっぺん

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――地獄(iOS勢)を見た。

――地獄(泥勢のプレイ状況)を見た。

――地獄(埋められないログボの差)を見た。

――――いずれ辿る、地獄(iOS勢参戦による二度目の鯖落ち)を見た。


という訳で、自分iOS勢です。助けてください。
一日/一個侘び石っていうけどプレイしてりゃ一日二、三個くらい取れるでしょ?


Last Battle on Mooncell.-2

 

 

 作戦を立てるのにそれほど時間を掛けてはいられなかった。

 あの影の群れがこの旧校舎に辿り着く前に動かなければならないのだから。

 そして――作戦を確定すると、次に行ったのは警告。

『――以上。旧校舎にいる、生徒会に所属しないマスターは至急、生徒会室に避難してください』

 彼らにも危険が付き纏う。ならば、出来る限り安全を保障しておく必要がある。

 立てられた作戦は、この生徒会室を守りきるためのものだ。

 だがそれも絶対ではない。

 影の群れを殲滅するにも、その数の底が見えないため、もしかすると何体かを通してしまうかもしれない。

 その数を極力減らし、せめてここに残るサーヴァントが対処できるようにしなければ。

「――再確認です。どうやらあの影は予め定められた階層に発生ポイントを作っています。そこに重点的にメンバーを割り振り、ポイントの消滅を最優先とします」

 そう。影は最下層からのみ、やってくるのではない。

 通った場所に幾つか、同胞を発生させるポイントを作っている。

 それら全てを潰さない限り、この旧校舎は危険に晒され続ける。

 この作戦に携わるのは、生徒会全員だ。

 僕とメルト、ラニを除くマスター及びサーヴァント、そしてアルターエゴは旧校舎の守りとポイント一つ一つの攻略。

 ラニ、桜、BB、カレンはマスターたちの意味消失を防ぐための観測。

 そして――僕とメルトはキアラさんを倒す。

 後のことなんて考えようがない。規格外の敵を相手取る以上、後先考えずに此方も全力をぶつける以外に手立てはない。

 唯一つ、決定事項が存在する。

 ――死なないこと。これはいわば暗黙の了解であり、誰が言うまでもないが、破ることは許されない。

 全員を生きて帰さなければ、返礼の域にすら達せない。

 だから一人として、欠けては困るのだ。

「BB、いざというときの守りは頼む」

「ええ、任せてください。だから私たちのことは気にせず、さっさと終わらせてきてくださいよ」

「――ああ。分かった」

 BB個人には凄まじい力がまだ残っている。

 彼女がいれば、影がここまで来ても暫くは凌ぐことが出来るだろう。

 最悪その間に僕たちがキアラさんを倒せばいい。

「ハクトさん。もう私には戦う力はありません。ですので、せめてもの助力として、これを」

 ジャックを失ったラニは元々、戦闘に秀でた術式に向いていない。

 ゆえにもう自身は無力であると思ったのだろう。

 手渡してきた術式は、見覚えのあるものだった。

 これを渡してくるということは――即ちラニが最も信頼する者の想いをも背負うと同じことだ。

 だが、ラニが本気であるのならば僕は断る理由もない。

 既に背負ってきたものが二重になったところで、この足が止まる理由になろう筈もないのだ。

「ありがとう、ラニ。確かに受け取った」

「はい。お願いですから、勝ってくださいね。貴方が死ぬなんて……嫌ですから」

 勿論だ。死ぬつもりなんて毛頭ない。

 僕は勝つ。負けることなんて、絶対に許されない。

「不要な教室を出来る限り落とし、極限までサーバーの負担を減らしました。これで全てのサーヴァントの戦闘状態を恐らく許容できるでしょう」

 戦いに向けての作業を終えた桜の報告に頷く。

「エリザベートさんの宝具使用も可能ですが……」

「分かってるわ。賄える魔力には限界がある。使いすぎは禁物、でしょ?」

「そうです。特に宝具の最大出力は、短時間に留めてください」

 マスターのいないエリザベートは、しかしサーヴァントを失ったラニやユリウスと契約しなおすことはしなかった。

 曰く、彼女なりのけじめだという。

 エリザベートはマスターのいないはぐれサーヴァントとして、戦いに赴こうとしているのだ。

「そうだ、ハクトさん、行く前にこれをどうぞ」

 そろそろ出発のとき――そんな時、カレンが歩み寄ってきた。

 その手に握られているのは、先に布を巻いた簡素な槍。

 ――『聖者の選択(ロンギヌス)』。原初の聖人の血を吸った宝具に近い礼装だ。

「わたしは戦いに向かいませんから。なら貴方に渡した方が良いでしょう」

「……そうか」

 槍を受け取り、左手に残る泥に収める。

 宝具に定義されるらしく、槍に関する知識は自然と頭に浮かんできた。

「さて――行きましょう」

 この生徒会も、これで見納めとなるだろう。

 誰もが部屋を眺めて、一人ずつ出て行く。

「紫藤さん……」

 最後に僕が出て行こうとしたとき、桜が呼び止めてきた。

「……全部終わったら、絶対に償いをします。だから……」

「分かってる。桜――皆で戻ろう」

 泣きそうなまでに、その表情からは不安が読み取れた。

 彼女が恐れていることが、真実にならないようにしよう。

「さあ、ハク」

「ああ――行こう」

 そして、皆で戻るのだ。

 始めよう、月の裏側の、最後の戦いを。

 

 

 旧校舎の内部は、とても静かだった。

 慎二も、ランルー君も、ありすも、ジナコも。生徒会に所属していないマスターを一人としてみない。

 或いは桜たちが生徒会室に強制転移させたのかもしれないが……

 気にはなるが、探すほど時間がないのも事実だ。

 無事でいることを祈りながらも、外に出る――

「――っ」

 サクラ迷宮への入り口である桜の木は、黒に侵食されていた。

 既に影は、ここまで迫っていたのだ。

 扉は溶けるように消え去り、平たい闇が旧校舎に襲い来る。

 だが、果たしてそれで行き詰ってしまうだろうか。

 ――否だ。

「……早速、お願いすることになるか」

「そうみたいですね。しかし、貴女ならば問題ないでしょう?」

 影を生み出すポイントを潰すだけではない。この旧校舎を守るメンバーは必要だ。

 その役目を担当する者は既に決定していた。

 全員が信頼しうるマスターは、得意げに笑って頷く。

「勿論よ。寧ろ、暇しなくて良かったわ」

 傍に顕現させたランサーを侍らせて、凛は一人、集団から離れていく。

 影が旧校舎に向かってくるならば、倒しきれなかった影は必然的にここにやってくる。

 それらを一手に引き受け、旧校舎を守る最後の砦として凛はここに立つ。

「ま、できる限りはやるわ。少なくともBBが絶対対処しきれるくらいには減らさないとね」

「凛……」

「心配なんていらないっての。そんなことしてる暇があったら、さっさと行きなさい」

 凛が手を振るう。

 それを命令と見たのか、ランサーが槍から火炎を放ち、サクラ迷宮への道を切り開く。

「さあ――!」

「っ……」

「……行くぞ。ここは入り口にすぎない。本当の戦いはこれからだ」

 ……その通りだ。凛を信じて、僕たちは進むしかない。

「凛、任せた。後を頼む」

「ええ、任されたわ」

 新たな影が入ってくる前に、入り口へと走る。

 感傷に浸っている場合ではない。一刻も早くこの事件を終わらせることが、凛の行いへの何よりの礼になる筈だ。

 ゆえに進む。

 凛は最強クラスの魔術師だ。加えて、凄まじい実力を持ったランサーもついている。

 そしてきっと、『アレ』も大いに役立ってくれるだろう。

 心配する必要はない。彼女ならば、確実に大丈夫。

 だからこそ、振り向くことなく。

 サクラ迷宮への入り口を潜った。

 

 

 +

 

 

 遠のいていく背中を見送るのに、小さくはない痛みがあった。

 彼の勝利を信じている以上、心配はない。

 だけど。いや、だからこそ――彼はもう戻ってこない。

 きっとさっきの会話が最後。以降話すことはなく、私は地上に戻ることになる。

「……」

「リン、奴らが来るぞ」

 分かってる。油断はしない。

 手を抜くつもりなんてないけれど、やっぱり、後悔がある。

 もう少し話しておけばよかったとか……言っておけばよかったとか。

 今幾ら後悔しても遅い。追いかけて、役目を放棄するなんて出来ないし、何よりそんなこと、矜持が許さない。

 ならばこれも、人生経験というものだ。

 死ぬ筈だった運命が変わって、未来が出来たのならば、これもきっといつか良い方向に導いてくれる。

「――よし。始めるわ、ランサー」

「ああ――使うのか」

「勿論。ここで使わなかったら、全部無駄になっちゃうじゃないの」

 聖杯戦争のためにかき集めてきた宝石と、それで作った礼装。

 残念ながら、こんな規格外な群れ相手に準備してきたものはない。

 だけど、一部は対軍に応用できるし、何より私には切り札がある。

「いい、ランサー。制御しきれるか分からないわ。いつか言った通りに」

「承知している。元より多くて困ることもない。……慣れぬことではあるが」

「何言ってるのよ。弱音なんて、貴方らしくない。ちょっとばかり出力を上げるだけでいいのよ」

「それは分かっているのだが……いや、命令とあらば応えよう。ではリン、万が一にも巻き込まれないよう、注意を怠るな」

「心配してる余裕は全部、敵に回しなさい」

 そうでなくてもランサーは大丈夫だと思うけど、最後だから悔いがあってもいけない。

 手を抜くなんて、それこそ恥だ。

 本気で挑み、生き延びる。そして彼の頼みをまっとうするのだ。

「さて、どんな代償を請求するのかしら。なんでもいいけど――ちょっとは加減しなさいよね!」

 今、携帯しているのは数えられる程度の宝石と、切り札のみ。

 その切り札を握りこむ。外見だけは無骨な短剣。だがその真髄は、とある系譜に伝わる秘奥にある。

Es laesst frei(解放)――!」

 その系譜から微妙に離れた私では、これの『本物』は扱うことはできないだろう。

 だがこれはあくまでも、私が作った術式だ。

 かつて、とはいっても遥か昔。私は日本にある遠坂の本家に行ったことがある。

 その際にちらりと見た、とある設計図。あれを元にして、私はこの術式を設計した。

 結局、解決はしなかった。しかし月の裏側に来て――正式な月の所有者の手を加えることで遂に完成した。

「最初で最後だし、出し惜しむんじゃないわよ――ゼルレッチ!」

 極光の輝きを放つ短剣。元になった宝石剣の能力に似せたこれの真価は、即ち平行世界に手を伸ばすこと。

 既に失われた旧代魔術と違い、今も世界のどこかで息をしている奇跡の一端。

 平行世界の運営を冠する、第二魔法の限定使用――!

Suchen(サーチ)Anschluss(アクセス)!」

 月の裏側に放逐された並行世界情報を検索。潤沢に魔力(マナ)が存在する世界に接続。

 この剣はデバイスだ。これを主軸に検索、接続を行い、この霊子世界に出現させる。

 一閃、アクセスした平行世界とのリンクを作り、斬撃によって穴を穿つ。

 そこから流れてくる魔力。平行世界の数を考えればその量は真実無限であり、如何様にも応用が出来る。

 私が振るう、単純ながらも威力に特化した斬撃に。

 そして――ランサーが操る、万全を尽くすための維持魔力に。

「フッ――――!」

 ランサーの槍の一振りは、遠慮もなしに攻め込んできた無数の影を薙ぎ払う。

 劫火の範囲は本来、校庭全てを覆って余りある。

 ゆえに、万全を尽くせるとはいっても根本的な部分でランサーは加減をしなければならない。

 本来この旧校舎という戦場は、ランサーにとって小さすぎるのだ。

 しかし、ランサーは笑っている。

「なるほど。いや、悪くない」

 刺突で百を貫き、斬撃で三百を切り裂く。

 その余波の炎が焼き尽くす影は、千を容易く超えるだろう。

 それでも、大挙してやってくる影はその比ではない。

 だからこそ、戦い甲斐があるとランサーは感じているのか。

 さて、ランサーだけに任せているなんて出来ない。

 私も私で、戦わなければ。

「ランサー、深追いは必要ないわ。BBもいるんだから、細かいのは追わないで少しでも数を減らしなさい! 少しだけなら校舎に入れても構わないわ!」

「心得た。些事を気にするなというなら、戦いに集中できる」

 話している間にも、腕は止めない。

 二度目の斬撃で、膨大な魔力を攻撃のためのものに転用する。

 言わばその攻撃は、世界そのもの。極光は影を吹き飛ばし――その代償が、現れた。

「ッ……」

 なるほど。そういうことか。

 問題はない。瑣末過ぎることだ。百使おうとも、実害とはならないだろう。

 迷宮への扉を壊さんばかりに溢れ出てくる影は、数を増していく。

「……この程度、どうにか出来なくて何が霊子ハッカーよ。倍来ても問題ないわ。さあ――上げていくわよ、ランサー!」

「是非もない。――全力で、守護を誓おう。我がマスター」

 それからすぐに、迷宮の入り口は影の群れで見えなくなる。

 最早方向なんてわからないくらい、周囲は黒で染まっていた。

 守るものが何処にあるかも分からない。だけど私は、これらを出来る限り焼き払えばいい。

 限界まで少なくするから、後は任せた、BB。

 絶対に耐え切りなさい――ハクト君が全てを、終わらせるまで。




桜、BB、カレン、ラニ:生徒会室
マスター及びサーヴァントの意味消失を防ぐための観測作業。
また、BBは生徒会室の護衛も兼務。

凛:校庭
迷宮から溢れてきた影と対峙。

最終章は戦場がかなり広いので、こんな感じでまとめていくのもいいですね。
今回のメインは凛。いつぞやにハクに見せた決着術式がついに発動です。
やっぱり、凛の切り札といったらこれのイメージがありますね。

次回は多分、衝撃の展開です。多分。

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