Fate/Meltout   作:けっぺん

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GOで最初のサーヴァントを引くとき、既存のサーヴァントなら嫌いな子がいないのでどれが出ても「おぉ~」ってなるだろうけど問題は新規の子が出たとき。
「お、おう……」ってなりつつリセマラを始める未来が見える気がする。


Break Down is Nigh.-4

 

 

 全てのマスターに、話を終えた。

 これで何の迷いもなく、最後の戦いに赴くことができる。

 その前に、しっかり休んでおかなければ。

 ――この個室も、これが最後になるだろう。

 もう訪れることはない。何となく、感慨のようなものを感じる。

 だが、名残惜しさを感じてはいられない。

 絶対に勝たなければならないのだ。

 そのためにも、しっかり疲れを取らなければ。

 そう思いつつも、扉を開く――

 

 

「あ、お帰りー白斗君」

「ハクトさん、お帰りなさい……え、えっと、その」

「あらハクト、奇遇ねこんなところで」

 

 

 扉を閉める。

 どうやら、部屋を間違えてしまったらしい。

「……はぁ」

 実体化したメルトが、呆れたように溜息を漏らした。

 まったく、部屋を間違えるとは何たる失態か。

 そもそもマスターごとに割り当てられた部屋に通じる鍵しか所持していないので、誰かの部屋に通じるなんてことは普通ありえないのだが、そんな事関係ないくらいに疲れているようだ。

 例外的に凛の部屋の鍵は持っているが、今の部屋に凛はいなかった。

 つまり、今の部屋に辿り着いてしまったのはやはり偶然だったのだろう。

 随分と見慣れた部屋だったように思えたが、きっとそれも気のせいだ。

 或いは、相当に疲れているのだろうか。

 いつも通りの部屋に通じたのに、あまりの疲れのせいでありもしない幻を感じてしまったという可能性もなくはない。

 うん。そう考えるのが妥当だろう。

 鍵も持ってない人の部屋に辿り着くなどありえない。

 だったら今の光景はなんだろう。幻だ。絶対そうだ。

 ではもう一度扉を開いてみれば、普段通りの誰もいない個室に辿り着くか。

 ああ、その通りだ。それが普通なのだ。自覚してしまえば、幻だろうと否定できる。

 よし。もう大丈夫。もう一度、確かめてみよう――

 

 

「あ、お帰りー白斗君」

「ハクトさん、お帰りなさい……え、えっと、あの……その……」

「あらハクト、奇遇ねこんなところで」

 

 

「……」

 決して、間違いではなかった。

 普段通りの、まったく代わり映えのない部屋。

 そこで当然の如く寛ぐ、三人の少女。

 白羽さん、リップ、そしてエリザベート。

 大体最初の二名が月の裏側に来て間もない頃にやらかした事件と同じ方法なんだろうが、最後の最後にそれをしてくるとは。

 それからエリザベート。何が奇遇か。紛れもなく此処は僕の部屋だ。

「……ん? どしたの?」

「……なんで此処に?」

「ああ、それはリップが」

「し、シラハさんに“こじ開けて”と頼まれました……」

「あぅ……」

 随分懐かしさを感じるやり取りだった。

「で、何しに来たのよ……」

 呆れの中に若干の苛立ちを込めて、メルトがぼやく。

「いやー、最後だからさ。ちょっとお話を、なんて思ってね」

 いつもの調子で白羽さんは言う。

「それは……構わないけど」

 だからといって、何故この手段を取ってしまったのだろうか。

 個室に設けられた鍵をぶち壊して侵入するなど、普通ならば考えない。

「それで、私もご一緒させてもらったワケよ」

 説明終わり、と結ぶエリザベートはベッドに座り、得意そうに尻尾を揺らしている。

 まあ、話は分かった。

 しかし、それなら一言前もって告げてくれれば、部屋に通すことに否やはないのだが。

「夜、かあ。マイルームでも、ちゃんと見えるんだ」

「そうだね。随分部屋の雰囲気も変わるな」

 薄暗くなった部屋は、窓から差し込む明かりに照らされている。

 地上のように、月明かりがある訳ではない。

 だが、満天の星空は月に勝るとも劣らない明るさを醸している。

「でも……」

 そんな部屋を見渡し、白羽さんは苦笑する。

「……やっぱり、地味なのは変わりないんだね」

「む……」

 確かに、この部屋の内装に特別拘るといったことはなかった。

 状況が状況だったため、殆ど休む場所としてしか使っていなかったというのもあるだろう。

 白羽さんの視線は、ある一点に止まる。

 そこは、平々凡々を体言したようなこの部屋において、唯一特異な色を放つ場所。

「まあ……表でメルトちゃんにあんな格好させてたから、今更何を言うつもりもないけど」

「……何か凄い勘違いしてない?」

 箪笥の上にずらりと置かれたのは、フィギュアやガレキ、人形の数々。

 どれもメルトが(知らないうちに)言峰の購買で買ってきたものである。

 割と値の張るもののため、迷宮で稼いだサクラメントの大方はこれの購入に使われている。

 形式上は学校の購買である筈だが、そんなものを売っていて良いのだろうか。

 そもそもそれを買う者なんて、メルトくらいしかいない。

 購買層を限定しすぎというか、メルトの購入を確信して仕入れている様子もある。

「で、でも、趣味は人それぞれだから……」

 おずおずとリップがフォローしてくるが、そもそも僕ではないということを理解してほしい。

 ちらりとメルトに目をやると、仕方ないとばかりに頷く。

「……これは私の趣味よ。私、人形が好きだから」

「あれ、そうだったの?」

 心底意外そうな表情の白羽さん。

 どうやら冗談ではなく本気で「紫藤 白斗の趣味」だと思っていたらしい。

 ともあれ、誤解は解けた。そのタイミングで、

「でも私は指先の感覚がないから。ガレキを組み立てたり、あそこに飾ったり、その他の管理は全部ハクがやってるわ。結構楽しそうに」

「……」

 反論しにくい事実が投げ込まれる。

「え、えっと……その……」

「精巧に作りこまれてるわねー。水着とかメイドとか、格好のヴァリエーションもいっぱいあるし」

 恐らく何かフォローできる点があるかと探しているリップに、いつも通りの声色ながらやや温度差を感じるエリザベート。

 白羽さんはなんとも例えようのない、非常に複雑な表情をしている。

 一方でメルトは素知らぬ表情で窓の外を見ていた。

 しかし、その口元は堪えきれないとばかりに震えている。

 ああ――久しぶりに人の弱みを突いたのだ。それがどんな瑣末事でも、こうなるだろう。

「実際のところ、どうなの? これ、楽しい?」

 フィギュアの数々を指差しながら、白羽さんは問うてくる。

「……どちらかといえば、楽しいかな。細かい作業は慣れてるし」

 メルトの手先が器用でない以上、ガレキの組み立ては必然的に僕の役目になる。

 数はこなしてきたし、組み立てに問題はない。それに、苦ではないし楽しいともいえる。

 だがそれを答えると、白羽さんの表情はより複雑になった。

「……うん。リップに言うとおり、趣味は人それぞれだよね」

 納得したように、白羽さんは頷いた。

 少なくとも、趣味というほどのものではないのだが……

「で、シラハ、本題があるんじゃないの?」

「まあね。白斗君からかうの、楽しくてさ」

「それは分かるけど。休む時間があるんだから、手短に頼むわ」

 あまり嬉しくないところで、意見が合致している。

 メルトはともかく、白羽さんにまでそういった片鱗が見えているとは。

「それで白羽さん、話って?」

「ん。なんていうかさ……私、この事件が終わったらどうなるんだろうって」

「え?」

 

「――ずっと黙ってたけどさ。私、地上の記憶が少しもないの」

 

「――――」

 この月の裏側に落ちた頃、聖杯戦争の記憶がなかった。

 そして同様に、地上の記憶も。

 それは当たり前だ。僕には地上に肉体がないから。

 レオたちは普通に、地上の記憶があったと思われる。

 だが、白羽さんにはそれがなかった?

 ――そういえば聖杯戦争の四回戦で、そんな話を聞いたことがある。

 僕と同じ状況――もしかして、白羽さんは……

「此処に来て、一切記憶は戻らない。もしかして私、地上にリンクがないのかもね」

 白羽さんは、僕と同じように、バグによって自我を得たNPCだったのではないか。

「ついでにもう一個話しておくと、私、キアラさんが黒幕だって知ってたんだ」

「なっ――」

 大したことのない、おまけのように白羽さんは言った。

 ――すべてを、知っていたと。

「ちょっと、どういうことよ!?」

 声を荒げて食いかかるメルトに、白羽さんはその物腰を崩さず謝る。

「ごめんね。裏側に落ちた頃に、リップに教えてもらったんだ」

「リップに?」

 リップに視線を向けると、控えめに頷く。

「この事件……前にあの女が仕組んだものと似てたから」

 そうか。メルトもリップも、当然生前の記憶はあるだろう。

 だからメルトはキアラさんを警戒していた。

 それと同じようにリップも彼女の本性を知っていて、白羽さんに教えていたのだ。

「だけど、私はどうにも出来なかった。手を出そうにも、リップは迷宮以外では戦えないし」

 言いながら白羽さんは、右手の甲を見せてきた。

 一画を使用した令呪。その使い道は、確かに聞かされていた。

 アリーナと決戦場以外の場所における戦闘の禁止。

 それによってリップは、月の裏側でのアリーナに該当する迷宮以外で戦えなかったのだ。

 ゆえにキアラさんに手を出すことができなかった。

 彼女を黒幕と確信していながら、殺せなかったのだ。

「言えば良かったじゃない。最初の頃にハクトに言ってれば、もっと早く解決してたんじゃないの?」

「……うん、そうだね。でも、疑いきれなかったの」

 自嘲するように笑う白羽さんには、小さくない後悔が見えた。

「何度も助けてもらったし、リップたちのときと違って完璧な善人かもしれないって」

 それは、僕がキアラさんを疑いきれなかった理由と同じだった。

 今回も首謀者だとは限らない。紛れもなく善人だ。

 そんな願望染みた思い込みが、事態を最悪の形にまで進めてしまったのだ。

「迷ってるうちに、キアラさんは死んじゃった。もう疑う必要なんてないって思ってたけど……それも、間違いだったんだね。本当にごめん、白斗君、メルトちゃん」

 結局僕たちは、キアラさんに都合の良いように勘違いをしていた。

 僕か白羽さん、どちらかが疑っていれば――といった「もしも」を悲嘆するのは意味がない。

 だから、謝られる理由なんてどこにもない。

「気にしないで、白羽さん。まだ負けた訳じゃない。後悔するより、これからキアラさんをどうするかだ」

「……っ」

 重く受け止めている様子の白羽さんの意識を少しでも軽くするよう、言葉を掛ける。

 それにピクリと反応し、白羽さんは可笑しそうに笑った。

「あはは、そうだね。ありがと、白斗君」

「ううん。こっちこそ。話してくれてありがとう、白羽さん」

 何でもないことのようにさらりと言っていたが、彼女なりの葛藤があっただろう。

 笑みを深め、頬を僅かに染める白羽さん。

 肩の荷が下りたように気楽そうな様子だった。

「……ね、メルトちゃん。やっぱ私二番じゃ駄目?」

「……」

 何の話かよく分からないが、どうやら二人の共通の話題らしい。

 提案した白羽さんに、メルトは露骨に嫌そうな視線を向ける。

「ぬ、抜け駆けですっ、シラハさん、私も……」

「ちょっとちょっと! 私を忘れないでもらえるかしら!?」

 そこに参戦するリップとエリザベート。

 一触即発の雰囲気。止めようにも、どうにも手を出せない空間が形成されている。

 そのど真ん中にいるメルトは、呆れやら怒りやら様々なものが混ざった、部屋に入って数度目の溜息を吐いた。




マイルームの変。
白羽について色々と判明しました。
四章での白羽の視点は既に彼女が黒幕の話を聞いている前提のものとなっています。
また、その辺の接触でリップがキアラを手っ取り早く始末できなかった理由も判明。
この令呪がなかったら速攻で物語終わってたでしょうね。ハク爆ぜろ。

次回は多分、最後のアレが判明します。多分。

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