Fate/Meltout   作:けっぺん

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すっごくほのぼのした日常系アニメを友人に教えてもらったよ!
今期のごちうさ枠なのかなあ? ドタバタとした学校生活を描いているらしいよ!
とりあえず明日友人ぶん殴ってくる。


Break Down is Nigh.-2

 

 

 生きて地上に帰還させたい。

 それは返礼と同時に、埋め合わせでもある。

 この事件に巻き込んでしまったという罪悪感もあって、彼らの所に足は自然と向かっていた。

「助かる……ってのか?」

 聖杯戦争の結末、この事件の経緯から、これからの方針まで。

 説明すると、慎二は驚愕を隠せない様子だった。

 隣に立つライダーも信じられないといったように目を見開いている。

「まあ……嘘なんて吐けなさそうだけど。坊や、そんな事、本当に可能なのかい?」

「ああ、可能だ」

 疑うのは当然だろう。

 既に確定した死を否定できるという可能性。

 そんなものを簡単に信じられる筈もない。

「へぇ、良かったじゃないかシンジ」

「……」

 しかし、慎二の表情は明るくならない。

「……お前は」

「え?」

 暫く俯きながら考えて、慎二は顔を上げる。

「お前は、地上には戻れないのか」

「戻れない……というよりそもそも、地上に僕の体はないから」

「は……? どういうことだよ」

 僕はあくまで、一つのNPCが何らかの誤りによって自我が芽生えた存在だ。

 NPCには元になった人物がいる。

 確かに地上にその存在はいて――慎二たちと同じ時代を生きている。

 だが、それは僕ではない。その人物は長い眠りから目を覚まし、一つの命として歩んでいる。

 そこまでを説明すると、余計に慎二は不機嫌になっていた。

「じゃあ、お前は最初から、月からは出れないのか?」

「ああ。この事件は、僕たちの管理が元になって起きたものだ。だから、慎二たちを巻き込んでしまった以上、埋め合わせをしなきゃならない」

「坊や。それ、埋め合わせになってないよ。アンタがやったことの収支付けてるだけじゃないか」

「分かってる。慎二のプラスになるようなことは、何一つ出来ない」

 僕が埋め合わせと称してやろうとしていること。それはマッチポンプにも等しい。

 慎二の死の原因となったのは紛れもなく僕だ。

 そして、それを無かったことにして埋め合わせとしようとしている。

「……まあ、お上との取引なんて得てしてそんなモンだけどね。どうすんだい、シンジ」

 正直なところ、その点を突かれれば僕は何も言えない。

 それ以上のことをしようとしても恐らく時間が許さないだろうし、これが僕に出来る精一杯だ。

「…………別に。どうもしないさ。お前がそうするつもりなら、勝手にすればいい」

「シンジ、良いのかい? それで済まそうって魂胆かも知れないよ?」

「こいつはそんな小悪党みたいなこと考えられないよ。正直過ぎるのが取り得だからな」

「ふうん。アタシとは頗る相性悪いねえ。愉悦の一つでも覚えれば、世界も変わるってのに」

「変なこと教えんなよ。それで帰れなくなったら、本末転倒って奴だ」

 ライダーの言う愉悦の定義は判然としないが、多分それは僕には解せないものだ。

 すぐ傍に約一名、其方の方向に特化している者がいるような気もするが。

「ともかく。僕はもう運命に従うしかないんだ。お前が何をするにしろ、僕は口出ししないよ」

 慎二は、そう結論を出した。

「ただな、紫藤。お前が何をするにしろ、一つ言っておくぞ」

 窓の外を見て――いつの間にか変わっていた空の色に慎二は少し驚く。

 夕焼けの紅が広がっていた校庭は、この最後の夜に限ってその様相を変化させていた。

 遥か向こうが薄らと青みがかった夜。

 桜が権限を使用し、外のテクスチャを変化させたらしい。

 なるほど、月の裏側の最後に相応しい。夕焼けを過ぎ、夜を越えて――きっと朝日を見られるように励もうと、そう思える。

 そんな風景を見ながら、きまりが悪そうに頭を掻きつつ、慎二は言う。

「……絶対、死ぬなよ。お前のことだから、どうせ無茶するしピンチにも陥るんだろうけど……死んだら今度こそ、怨むからな」

「……分かった」

 どこか確信を持った物言いでそれだけ言って、慎二は歩いていく。

 残ったライダーは、その背中を見て苦笑する。

「不器用だねえ、我がマスターは。いつまで経っても、大して成長しやしない」

 まるで保護者のように言うライダー。困ったように眉を落としながら、先程マスターがやったように頭を掻いている。

 だがその口元には、笑みが浮かんでいた。なんとも愉快そうに、ライダーは続ける。

「少ない友人だし、絶対死んでほしくないんだろうね」

「そう……なのかな」

(ここ)で友達作れたのに、地上戻ったら誰もいやしない。それでもシンジは消えてほしくないんだよ」

 慎二は気難しい性格だが、決して悪人ではない。

 彼がそう思ってくれるのならば、それは嬉しいことだ。

 だが……確かにそうか。地上に戻ればそこに、知り合ったマスターはいない。

 交友関係が、世界を隔ててしまうのだ。

 そうすれば、その世界をどれだけ歩いても、決して出会うことはない。

「月から出たらアタシもおさらばだ。そんな思い出を、いつまでも取っときたいんだろうね」

 だから――消えてほしくない、と。

「ライダー! 何やってんだよ!」

「はいはい。んじゃ、頑張りなよ坊や。マスターがああ言ったんだし、アタシも応援してるからさ」

 踵を返して戻ってきた慎二に急かされ、ライダーは歩いていく。

 慎二の消える直前の叫びを、覚えている。

 彼を生きて帰したい。その気持ちを、再確認した。

 慎二が教室に入っていくのを見届けてから、他のマスターを探す。

 この後について、確認したのは生徒会の面々だけ。しかしまだ、マスターは残っている。

 全員と話をしておかなければ。次のマスターを見つけるのに、そう時間は掛からなかった。

 

 

 その特徴的なピエロ姿のマスターは、従者たる黒鎧の男性を引き連れて廊下の隅に立っていた。

 あまり彼女と話したことはない。

 話の通じない敵として出会ったのが最初。

 月の裏側ではどうしようもない壁を前にして、力を貸してくれた。

 それ以外において、殆ど関わりがなかった。

 エリザベートと何かあったらしいが、それは僕の与り知るところではないか。

 ともかく、彼女――ランルー君は全てを話し終わるまで、時折相槌を打つだけで口を開くことはなかった。

「小僧。今の話、真か?」

 虚偽は許さんとばかりに、ヴラドが問うてくる。

「全部本当だ。嘘は一切ない」

「ふむ……との事だ。妻よ、如何とする」

 マスターであるランルー君は表情の見えず、何を考えているのかは一切伝わってこない。

 ゆらゆらと規則的に服の袖を揺らし、不意にそれが止まった。

「……ン」

 小さく声を漏らしたランルー君は、心許ない足取りで此方に歩み寄ってくる。

「ランルー君ハ、帰レルノ?」

 カクン、と人形のように首を傾げるランルー君。

 短い問いに頷くと、再び沈黙が流れる。

 感情の読めない目。いっそ無機質にも思えるそれと目を合わせて少し。

「……シンジクントカ、キット喜ンダンダロウネ」

 自分にとって至極どうでもいいことのように、彼女は呟いた。

「死ニタクナイノハ誰デモ同ジダヨ。シンジクンハマダ若イシ、ショウガナイヨネ」

 大して感慨を持たず、これといって喜びも悲しみもせず、ただ自分の言葉に自答するようにランルー君は頷いている。

「ダケド、ランルー君ハアンマリ嬉シクナインダ」

「……っ」

 誰もが生存、帰還を望んでいると確信していた訳ではない。

 この運命を既に肯定して、それ以外などありえないと思っているマスターだっているかもしれない、と。

「地上ニ戻ッテモ、ランルー君ノオ腹ハペッコペコノママ。ソレッテ、振リ出シニ戻ッタダケジャナイカナア」

「それは……」

 願いを叶えるべく、マスターたちは月に潜入した。

 僕は、その願いを叶えぬままに帰還させようとしている。

 聖杯戦争がなくなったというだけで、そう変わりない生活に戻る者もいるだろう。

 だが、聖杯を手に入れなければどうにもならない立場の者も、当然いる。

 絶対に願いを叶えなければ、どの道未来はないというマスター。

 ランルー君は、その類だったのだ。

「ランルー君ハネ、世界ノ全部ガ好キニナレルヨウ、聖杯ニオ願イスルツモリダッタンダ」

「世界の……全部?」

「ソウ。世界中ノミンナヲ好キニナレバ、ランルー君ハトッテモハッピー。絶対ニオ腹ガ減ラナイゴチソウダラケノ世界ニナルンダヨ」

 手を広げて、それまで無機質だった瞳を爛々と輝かせながら、ランルー君は語る。

 それが、彼女の望んだ世界。

 核心的な部分を隠したようなその願いから、あまり良い想像はできない。

 世界の全てを好きになる。ご馳走で一杯になる。その二つをどうにも、繋げることが出来ないのだ。

 だが、ランルー君の願いに迷いはない。好きなもので満たされた世界。それが紛れもなく、彼女の望むものなのだろう。

 彼女の本質は、僕には分からない。だが聖杯戦争に身を投じるマスターであれば――そういう者もいる。

「ダケドヤッパリ、ソレハ叶ワナインダヨネ」

 肩を竦めるランルー君には、それを惜しむ雰囲気すら見られない。

「……ソレデ、ランルー君ハ何ヲスレバイイノ?」

「え?」

 すぐ近くにある顔が、不意に傾げられる。

 感情を映さずに浮かべられた笑みは不気味だった。

 だが、そんな貼り付けたような表情からは想像も出来ないくらい、その言葉には温度があった。

「アレ、君ハ、コレカラアノ(ヒト)ト戦ウンジャナイノ?」

「そうだけど……もしかして」

「パパモ、ママモ、ランルー君ノベイビーモ消エチャッタ。ダケド、ココノ皆ハ消エテナイヨネ」

 まだ、消えていない。そして、生存という運命も残っている。

 だがそれだけでは――彼女がそんな事を言う理由にはなりえない。

「楽シカッタヨ。シンジクンヤジナコチャントゲームシタリ、アリスチャンタチトカクレンボシタリ」

 語られたのは、僕には知らない、生徒会外の話だった。

 あくまでその表情は凍りついた仮面だ。ながら、その出来事が彼女にとって悪い思い出ではないという事は明白だった。

 顔に出なくても、ランルー君は体の動きに感情が表れている。

 ゆらゆらと揺れる彼女の横で、ランサーは小さく微笑んでいた。

「ネ、ランサー」

「うむ。我が治世にはなかった遊戯に興じれた。確かに、何れも有意義な時間であったな」

「ダカラ、モウソレッテオ友達ダヨネ?」

 大切なものを、失ってしまった。

 だが此処に来て、またそれが出来た。

 仮初のものであろうとも。世界を隔てた関係であろうとも。

「オ友達ハ、何処ニイテモオ友達ナンダヨ。助ケテ、助ケテモラッテ、ソレガ当然ナンジャナイカナア」

 自身にとって、助けたいと思う者が出来た。

 であれば、それを実行するのは当然だ。ランルー君はそう言ってのけた。

 同感だ。今まで助けてもらったから、最後ばかりは皆を助けたい――この決断には、そういう意思もある。

 意外、といえば失礼になるが、それでも驚きを隠せない。

 まさか彼女が、そういった考えで動くとは。

「君ハ、オ友達ニ出会ウ場所ヲ作ッテクレタシ。ソノオ礼ハ、シッカリシナイトネ」

「以前と同じ、恩を返すということだ。妻の決定であれば、オレも槍を振るうは吝かではない」

 ランサーもそれに賛同するようだった。

 此処に来て、まったくの僥倖だ。

 彼女たちが、力を貸してくれるなんて。

「……よろしく、頼む」

「ウン、イイヨ。オ願イサレタラ、引キ受ケナクチャ」

 ランルー君は、今までと変わらず笑っている。

 しかし、その表向きの仮面ではなく、素顔でさえも今度は微笑んでいるような気がした。

 長身を翻し、またもふらふらとした足取りで歩んでいくランルー君。

 ランサーは此方を一瞥した後、彼女を支えるように追従していく。

 ランルー君が力を貸してくれる意思を表明した、そのときに彼も決めたのかもしれない。

 その背中から感じられる闘志の奥の奥に秘めた、禁断の隠し札を切ることを。




三者懇談。
ランルー君に「ありす」って言わせられない縛り。
じゃあもう「アリス」でいいや。どうせ二人一緒なんだし。
そんな葛藤が十秒くらいありました。
ってか、シリアルピエロと串刺公に追っかけられる幼女て……

次回は多分、二者懇談です。多分。

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