Fate/Meltout   作:けっぺん

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GOの戦闘システムは三種類の攻撃を使い分けるみたいな感じですかね。
EXTRAに近い感じなら慣れるのも早そうですけど。


Inner Core Harmonics-3

 

 唖然としていた。或いは、呆れていた。

 どちらだったのか、自分自身良く分からなかった。

 そんな表情を感じ取ってか、輪郭が首を傾げる。

『……およ? どしたのどしたの? ご主人様?』

「……」

 どうしたも、こうしたもない。

 先程から疑問ばかりで、それが次から次へと重なっているのだ。

 その疑問を解消しようにも、一体どれから処理すれば良いのか。

 目の前の女神があまりにも……なんというか、ミーハー過ぎるのが最たるものだろうが。

『あー。もしかして、私のこと? すっごくすっごくツボ過ぎて本体以上に惚れ込んじゃったり?』

「いや、それはない」

『わはー、知っちゃいたけど正直だねーご主人様』

 肩を竦める女神。

 ……どうしよう。酷く厄介な性格らしい。

『言っとくけど、これ素じゃないからね?』

 いや素だろう、と言いかけて、咄嗟に口を噤む。

 相手が如何に軽く話しかけてきても相手は女神だ。不敬と取られてもおかしくはない。

『これは現代の人間に馴染み深いように翻訳してあげてるんだよ? 本来の私たちの言葉で喋ったら神秘に慣れてない現代の人間なんて一言でドーン、だよ?』

 ドーン、をジェスチャーで伝えようとしているようだが、輪郭がぼやけているせいであまり伝わってこない。

 誇張しているのか真実なのか。それはこの際気にするべきことではないか。

 今彼女がこの言葉遣いなことに理由があるのならば、追求することもない。

「……それで。時間がないと分かっているのなら、手早く助力をしてほしいのですが」

『んー、バイオレットちゃん、耳を貸すつもりはないって言わなかったっけ?』

「ヴァイオレットです。耳を貸さないというならば、無視をすれば良いのではないですか」

『うん。それが無理だから黙ってって言ってんだよね。流れる会話、それから逃げるのは私的にご法度なんだよ』

 サラスヴァティーは流れるものを司る神。

 その解釈は広く、言葉や弁舌、それを取り交わす会話までもが彼女の管轄に納められる。

 ゆえに、投げかけられる言葉から逃げるのは役割を放棄することも等しいのか。

『まったく……アプサラスのおチビちゃんたちは無駄にお仕事に忠実だから困るよ。もっと緩く緩く、生きられないものかなー』

「っ、私を構成する存在を……」

『いやいや、その雰囲気見れば一発だよ。あの時のヴィシュヌ様の機転、凄かったねー。思い上がった賢者(リシ)のクソガキなんて取るに足らないっていうか』

 何気なく彼女の言ったそれは、乳海攪拌の出来事についてだろう。

 アプサラスが生まれた原因にもなった天地創造の儀式。賢者の呪いによって失われた神々の力を取り戻すべく行われたヴィシュヌ神の大権能だ。

「……性格、悪いですね。貴女のような者がかの神の配偶神だとは」

『あ、申し訳ないけどブラフマー様の話はNG。トラウマ思い出しちゃうって言うか、ホントのホントにあの(ひと)怖いから』

 ぼそりと呟いたヴァイオレットに、それまでケタケタと笑っていたサラスヴァティーは表情を凍らせた――ように感じた。

『まあそれで不愉快になるほど俗世に馴染んでいる訳じゃないけど――ちょっと言葉が過ぎるかな?』

「ッ!」

 瞬間、圧倒的な神威が眼前の陽炎から放たれた。

 目を逸らすな。動くな。喋るな。呼吸をするな。あらゆる活動を止めろ。

 あらゆる意思を組み入れたような衝撃に、首を思い切り絞められるような苦しさを感じる。

 気を張ってさえいなければ、それだけで死んでいたかもしれない。

 しかし、恐ろしいことに。

「――、っ、ぁ――」

 女神は此方を見ていない。

 神威は真っ直ぐ、ヴァイオレットに向けられていた。

 僕はただ、そのおまけといっても過言ではない余波で死に掛けていたのだ。

『いやー、困るなあ。レヴィちゃんの指先相手にちょっと張り合えたからって調子付いちゃうのも無理はないけど』

 やれやれ、と首を振るサラスヴァティー。

 侮っていた訳ではない。だが、これほどまでだったのか。

 話すことすらおこがましい、遥か高位の存在。そして、その足元にも及ばない下位の存在。

 それほどまでの差。たったこれだけで、深く理解する。女神に打ち勝つことは、絶対に出来ないのだと。

『――なーん、て』

「ぇ……?」

『く、ふふ、はは――キハハハハハ――! いやー最高! 信仰も落ちたご時勢だけど、まだまだ私の神性も捨てたものじゃないね!』

 いつの間にか威圧感は消えている。

 それを自覚すると、体中が安堵したように汗が噴き出てきた。

 解放されたヴァイオレットが膝を付く。肩で息をしている彼女が生きていられたのは、その精神力ゆえか。

「っ……はぁ……!」

『アハハハハハハハッ! 戯れ、戯れ! このくらいの冗談、笑って許してよ、ご主人様。それに、バイオレットちゃん』

 一頻り笑った後、サラスヴァティーは今の威圧を「戯れ」と称した。

 その言葉が真実か否かは理解の外にある。

 代わりに分かってしまうのは、この空間において僕たちはあまりにも力のない存在だということだ。

『まあ、これで分かったでしょ? 女神に勝つなんて思う自体がおかしいって』

「……」

 その力は、戦うまでもなく理解するべき事柄だ。

 先ほどまで勝とうとしていたのは、あまりにも愚かなことだったのだ。

 頷くと、サラスヴァティーも満足そうに首肯を返してくる。

『なら、良し。身の程を知って尚、私たちの力を使おうっての?』

「……ああ。月の中枢に帰るために、必要なんだ」

『ふーん……まあ、あの阿婆擦れは確かに人としては図抜けてるし、出来る限り強くなりたいのは分かるけど』

 サラスヴァティーは全てを理解しているようだ。

 僕たちの事情から、キアラさんの性質まで、全てを。

『アレの壊れっぷりは確かに人の域じゃない。でもそれは、ご主人様も同じじゃない?』

「え?」

「……マスターが?」

『うん、うん。色々混ざりに混ざって、それでも自我が少しも崩れない。さっきのだってその一端でしょ?』

「さっきの……宝具のことか?」

『そう。古今東西の英雄の宝具、そして絆の再現。それだけじゃ飽き足らず、無意識に心臓にまで手を加えてる』

 ――心臓にまで?

 無意識のうちに、僕がそんな事を?

『存在の総量としてみれば、もう人である部分の割合は少ないんだよ。今なら、人では勝てない怪物にも十分勝てると思うよ』

 多くの力を、得た。

 だが、それと相対的に、人からは遠ざかっている。

 というより、“人”が薄れてきている。

 ならばキアラさんに対抗すべく女神の力を借りることもないと……?

「……サラスヴァティー。マスターを悩ませるのは止めてもらいたいのですが」

 僕を傍目に見ていたヴァイオレットは、一歩前に出て進言した。

「どれだけ力に浸っても、マスターは溺れることはありません。事実、その自我の強さはこれまでの道程で証明されています」

『……信頼、してるねー』

「当然です。仮であろうともマスターですから」

『ご主人様の意思の強さは分かってるけどねー。ま、良いか。そのうち壊れるかどうかなんて、私たちの知ったところじゃないし』

 どこか愉快そうに、サラスヴァティーは柱に近付いていく。

 力に溺れて――いつか壊れる。

 そんな日が来ないとは言い切れない。だが、どの道今のままではそれを考慮する事も無意味になりかねない。

 ゆえにそれを今は度外視して、僕は前に進むまでだ。

 ようやく本題と、サラスヴァティーに付いていく。

『それで、ご主人様。レヴィちゃんが何を求めているか、分かってる?』

 レヴィちゃん――先程からサラスヴァティーが言っているそれは、レヴィアタンのことだろう。

 そもそも出自の違う女神を愛称で呼ぶほど交流があるのかという疑問は残るが、一先ずはサラスヴァティーの問いを考える。

「柱から伝わってきたのは……『我、力を求める』って」

『あー。で、それなら力で打ち破ろうって考えに至った訳だ』

「ああ……だけど、それは違うのか?」

『間違っちゃいないよ。もしそれが出来たら、レヴィちゃんも文句はないだろうし』

 だが、それが本来のレヴィアタンの試練ではない。

 であれば一体、どうすれば……

『そんな分かりにくい伝わり方したってことは、やっぱり本体が私たちを道具として使ってるからかなー』

「メルトが……?」

『そ。私たちの世界って言っても、此処は本体の中だし。女神の存在を重視してないから伝わる意思も曖昧で薄っぺらいものになっちゃうんだよ』

 如何に女神が力を振るう空間といっても、その在り方はメルトに依っているということか。

『まあ……真っ向から相手するレヴィちゃんもレヴィちゃんだけど。相変わらず可愛い子』

 言いながら、サラスヴァティーはレヴィアタンの作る大渦に平然と歩み寄っていく。

『レヴィちゃんはね、ご主人様。ただ単に紡ぐ絆の底力を見たかっただけだよ』

「絆の――底力」

『ご主人様自体の力なんてとっくに知ってるだろうしね。だから後は、その外を取り巻く力って事』

 確かに、メルトを構成している女神であれば、僕の力を十分に知っていてもおかしくはない。

 ならば、レヴィアタンが求めていることは、その他のもの。

『バイオレットちゃんのと、後はもう一人の混合物が持ってた宝具の力……そんだけじゃ不満なんだってさ、レヴィちゃん』

「じゃあ……レヴィアタンが求めているのは、それ以外の――」

『そう。ご主人様が持っている絆の全部。この場でバーンって出してみなよ』

 絆を形にして、道を切り開く決着術式――『道は遥か恋するオデット(ハッピーエンド・メルトアウト)』。

 これを以って具現化できる力の全てをこの場で見せろ。それが、レヴィアタンの要求だったのか。

 記憶を辿れば、絆の全てに手が届く。

 だが、

「……無理だ。全部を再現するには、魔力が足りない」

 根本的に不可能だ。

 決着術式に使う魔力は通常の術式の比ではない。

 発動しろとまでは言っていないものの、再現だけでも消費する魔力は多大なものだ。

 全てを発動しろというのは、僕の魔力量では不足している。

『……やっぱり、無意識だ。良いから、ゴーゴー。天啓だと思って信じなさい』

 胸を張って、サラスヴァティーは言う。

「マスター……」

 ヴァイオレットは不安げな声色で、身を案じてくる。

 出来るとは思わない。だが人知を超えた女神は出来ると確信している。

「……分かった」

 根拠が何処からくるかは分からない。

 それでも、出来る限りは挑戦しよう。

 魔術回路を励起させる。記憶を一から辿り、見つけた絆を取り出していく。

「――――道は遥か恋するオデット(ハッピーエンド・メルトアウト)

 

 

 ――いいかな、未来ある若者よ。それだけは、忘れるな……。

 黄緑色の、絆。

 

 ――……こんどの遊びあいては、お兄ちゃんなんだ。

 水色の、絆。

 

 ――ありがとうございます、ハクトさん。私の(ありかた)を示してくれて。

 紫色の、絆。

 

 ――駄目だよ、そんな目したら。

 乳白色の、絆。

 

 ――……決して褒められた人生ではないが、一人も■■がいないまま逝くのは、情けない話だと、思って、な……おかしいか?

 群青色の、絆。

 

 ――面白いじゃない。レオに言い聞かせてやりなさい。きっと今までに無い反応を返してくれるわよ。

 朱色の、絆。

 

 ――僕が知らない、大切なものを……貴方は全て持っていた。今は貴方に……王聖さえ感じます。

 ノウブル・レッドの、絆。

 

 ――ハクトさんたちのお手伝いをして、私はお母様を守ります。

 若草色の、絆。

 

 ――アノ子ノ事、オ願イネ。

 ブラウンの、絆。

 

 ――しょ、しょうがないわね! いい、ハクトがどうしてもって言うからよ!

 紅色の、絆。

 

 ――私は…………ずっと……貴方、を――

 バイオレットの、絆。

 

 ――うん。お礼って、いい気分だね。最初っからいい子でいれば、良かったのかな。

 菖蒲色の、絆。

 

 ――っ、あ■。ア■■が死んだ■、僕の■も無駄に■る。だから、今回■け助■■やるよ。

 曖昧だが確かに感じる、マリンブルーの、絆。

 

 ――おしえて、ほしい。せんぱい……おねがいします。

 ペール・アイリスの、絆。

 

 

 ――ハクも、ありがと。

 ダークパープルの、絆。

 

 

 途中で限界は訪れる筈だった。

 だが、全てを解放し尽くすまで魔力が切れるという事態には陥らない。

 不自然なまでに、自由があった。

 外から体内に、力が注ぎ込まれるような感覚と、断続的に絆を外に引き出していく感覚。

 同時に味わいながらも、前者の答えは出ることなく。

『――ほら、ね。万事上手くいく。それならレヴィちゃんも認めない訳にも行かないよ』

 絆を基にした武器が周囲に現れると、それを見届けたとばかりに渦の勢いは消えていく。

 経験したこともない大きな力の行使。

 体に目立った異変はない。いつも通りの、絆を使用している状態。

 強いて一つ、言うならば。

「……マスター、どうかしましたか?」

「いや……なんでもない」

 胸に手を置く。

 脈打つ鼓動はどこか温かく、ピリピリと電気のようなものが手に伝わってくる気がした。




サラ子「ゲンザギン ビンゼンバンデ ゾゾン ザジョ」
ハク「!?」

サラ子の口調がクッソ書きやすくて困る。これがこの場限りのキャラ補正か。
ハクが得た絆は以上な感じです。全部です。はい。
ランルー君とかいつの間にって感じですが、別に宝具に至るほど確固たる絆でなくても良いのです。
まだ後十数時間ある訳ですしね。え? どういう意味って、そういう意味です。

次回は多分、神域編佳境です。多分。

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