Fate/Meltout   作:けっぺん

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短め。
あたし(ありす)」「あたし(アリス)」率にキレたのが確かこのへん。


二十一話『かいえん』

 

 

 ――あたしはありすの夢。

 ――ありすが読んだお話の姿。

 ――ありすが望んで、聖杯が応えた、お友達。

 

「ジャバウォックもお友達だよ」

 

 ――そう。けれど、あの子はサーヴァントじゃない。ありすの力で、ありすが生んだの。

 

「あの子はアリス」

 

 ――アリスはありす。

 

「ありすは、アリス」

 

 

 昨日、アリーナの前でありす達が言った言葉が、決戦当日である今日も深く心に残っていた。

 あのサーヴァントは、鏡の国に映ったありす自身。

 あるいは、彼女が夢見た物語の主人公。

 それこそ、ありすのサーヴァントの正体。

 正体を確信付けるために、一つ一つ情報を整理していこう。

 まずはじめに、一日目にありす達が呼んだ“お友達”。

 その凶悪さから、あの怪物――ジャバウォックをバーサーカーだと思い込んでいた。

 次に、アリーナの二層に張られた、自我と共に存在を消失させていく固有結界。

 名前を消失するだけではない、あれは迷い込んだ者の存在そのものを皮切りに消し去っていく『名無しの森』。

 そして、青子さんと橙子さんから聞いた話。

 ――バーサーカーでは固有結界は使えない。順当に考えるのなら、キャスターこそ適性だ。

 仮にあの怪物をサーヴァントだとするならありすは双子のマスターということになってしまう。

 それは考えにくい、と判断すれば、サーヴァントは黒いありすだ。

 ジャバウォックに、名無しの森、そして黒いありす。

 導き出される解答は即ち、“全てが同じもの”であるということ。

 ジャバウォックも、固有結界も、あのサーヴァントが使った「宝具」に違いない。

 ……恐らくは、あの少女の在り方自体、既にサーヴァントに取り込まれているのだ。

 黒いありすは白いありすの夢が無ければ動かない。

 だが、あの白いありすも黒いありすがいなければ生きていられない。

 サイバーゴースト。

 死に伏した、あるいは既に死亡した少女の想いの終着点。

 最期の希望、最期の夢を叶える泡沫の夢。

 概念的な考え方だ。何と呼称されるかは定かではない。

 それでもあえて名づけるのなら、それは――

 

 ――ナーサリーライム

 

 英語圏で言う童謡、わらべうた。

 その中でも、イギリスにおける伝承童謡の総称だ。

 有名なのはマザー・グースだろうか。

 ハンプティ・ダンプティ、メリーさんのひつじ、ハートの女王、十人のインディアン。

 子供達に深く愛され、多くの子供達の夢を受け止めていった絵本のジャンル。

 あの英霊は、文字通り子供達の英雄なのだ。

 ゆえにあのサーヴァントはマスターの心に根付く物語によって姿を変える。

 ありすの「自分が物語の主人公だったら」という夢から、もう一人のありすとして召喚されたのだろう。

 ……自分に倒せるだろうか、あの二人を。

 

 

「君に頼みがある」

「え……?」

 決戦場に赴こうとしたところを、何度も助けてくれた男性のキャスターの言葉で振り返る。

「どうか、あの子供()の夢を、君の手で終らせてほしい」

 それは、静かな懇願だった。

「……何のため、かしら?」

 メルトが問うと、男性は目を伏せながら言う。

「彼女達は心の底から、君たちとの遊びを楽しんでいた。どんな形だろうと、あの子たちにとってはかけがえの無いものだったはずだ」

 何故この男性は、ありす達のことをここまで気にかけるのか。

 それは分からないが、男性が本気なことは伝わってくる。

「……約束は出来ません。でも、僕は勝つつもりです」

 勝率は百パーセントではない。

 だが、負けるつもりも無い。

 だからこそ、そう返した。

 男性は笑って階段を昇っていく。

「期待しているよ」

 男性の決戦は既に終わったのだろうか。

 だとすると彼はかなり強力なサーヴァントだという事になるが……

 とにかく、正体の知れない男性の懇願も心に残し、二枚のトリガーを決戦場の扉にセットする。

 三回戦の決戦場に降りるエレベーターに乗りながら、目の前に現れる二人のありすの姿を確認する。

「今日もまたあそべるね」

「今日は何をして遊ぶの? かくれんぼ? おにごっこ? おままごと?」

 問いに答えさせる気も無いように、二人のありすはエレベーターの中をくるくると歩き出す。

あたし(ありす)はおにごっこがいいな。お兄ちゃんを追いかけるの」

「うん。逃げてたらおいかけたくなっちゃうよね。ウサギとか」

「逃げられちゃったらさびしいもの」

「逃げられないようにいっぱい走らなきゃ」

あたし(ありす)、走るのって大好き」

あたし(ありす)はずっとずっと、走ったり出来なかったもんね」

 サイバーゴースト。

 改めてその単語が脳裏を過ぎる。

 長い間、床に伏していた自分の体が、再び自由に動かせるようになったら、誰だって喜ぶだろう。

「走るの楽しいけど……お兄ちゃん、つかまるかなぁ」

「つかまるよ。そしたら首をちょんぎっちゃうの」

 幼い少女の死刑宣告を、黙って聞く。

 あれ程ありすに執着していたメルトも、何も言わなかった。

「ちょんぎっちゃうってこわくない? ……でもオニだもんね」

「そうよ。オニとか女王様は怖くなきゃいけないの。いっぱいこわがってもらわなきゃ」

 そして二人の目が此方に向けられる。

「せっかく同じだと思ったのに。せっかく同じ人だと思ったのに。やっと、さみしくなくなると思ったのに!」

 急に声を大にするありすの言葉は、三回戦の相手を知ったときにも聞いたようなものだった。

「わたしのことをきらうなら、お兄ちゃんなんていらないの」

「そうよ。あたし(ありす)あたし(アリス)だけいればいいの。あたし(アリス)あたし(ありす)だけのあたし(アリス)だもの」

「お兄ちゃんはあたし(ありす)だけのあたし(アリス)じゃない。だからお兄ちゃんはもういらないの」

 二人は、二人だけで世界を閉じていた。

 結局、同じ人の意味なんて分からない。

 だが、今となってはありすは自分(アリス)だけが世界なのだ。

「ハク、分かる? あの子達は人形。世界を自己完結した、二人だけの完全な調和なの」

「……うん」

 メルトの言葉に賛同する。

 そこに余人が入り込む場所なんて、一ミリたりとも存在しない。

「……今となっては哀れにしか感じないわね。何であんなものをバラしたのかしら?」

「え?」

「……昔の話よ。あれに()()()()人形をバラバラにした。それだけの事よ」

 自分自身の、聊か行き過ぎた人形好きが起こした過ち。

 それを悔いるようにメルトは告白していた。

 良く似た人形、それにあのありす達を重ねていたのだろうか。

「……ハク、全力であの子達を倒すわ」

 何か意を決したようにメルトの目が変わる。

 最早、目の前の少女に対する愛らしさ等の念は一切残っていなかった。

 僕はただ、それに、

「……うん」

 そう応える事で、決意を伝える。

 エレベーターが止まる。

 少女との決戦の地。

 少し躊躇いつつも、その土を踏みしめた。

 

 

 城、だろうか。

 水中に沈む巨大な城。

 そんな決戦場の中心に、僕とメルトは立っている。

 その周囲を回るように歩く二人のありす。

「ありがとう、お兄ちゃん。お兄ちゃんと遊ぶの、とっても楽しかったよ」

「ええ、今までのだれよりも楽しかった。ありがとう。あたし(アリス)もうれしいな」

「……うん、僕も楽しかったよ」

 どう答えていいかわからなかったが、確かにそれぞれの遊びは恐ろしかったとはいえ、子供と「遊ぶ」というのはどこか新鮮だった。

「でも、もうお兄ちゃんとはいいの。あとはあたし(アリス)とだけで遊ぶね」

「お兄ちゃんはもういらない。名残惜しいけど、さよならの時間なの」

 ありす達が前に立ち止まる。

「人形さん、永遠に続く夜はないわ。夢はもうおしまい、目を覚ましなさい」

「いいえ、ずっと続くわ……この悪夢は、ずっと」

「私達が飽きるまでずっと……!」

 メルトも二人の少女も、共に本気。

「そう……、なら良いわ。()()寝かせてあげる」

「……メルト?」

 人形と、ありすたちを重ねた上での比喩なのだろうか。

 それは分からないが、メルトはいつもに増してやる気を出している。

 きっと勝てるはずだ。

「こういうときは、なんていうんだっけ?」

 白いありすが黒いありすに問いかける。

「忘れちゃったの? こういうの」

 黒いありすが白いありすの手を取る。

 白いありすの右手と、黒いありすの左手が重なり、それが少女の戦闘の開始を意味した。

 

“あわれで可愛いトミーサム、いろいろここまでご苦労さま。でも、ぼうけんはおしまいよ”

 

“だってもうじき夢の中。夜のとばりは落ちきった。アナタの首も、ポトンと落ちる”

 

「あの子達はまだ遊びたい。それは理解したわ。でも、私達も負ける訳にはいかない。そうよね? ハク」

「うん、そうだ。相手が誰であっても、必ず」

 メルトが体勢を低くする。

「あの子達に思うところはあるでしょうけど、加減はしないわ。それが何より私のケジメだから」

 やはりその言葉の意図は掴めない。

 だが、メルトにもありす達に何か特別な感情がある事は分かった。

 だからこそ、ありすを倒す。

 メルトのために。自分のために。

 四人だけの小さな舞台が、今開演する。

 

 

『さあ――嘘みたいに殺してあげる。ページを閉じて、さよならね!』

 




なんか四回戦もギャグになりそうな気がしてきた。

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