>今夏配信予定
知 っ て た 。
今夏って事は、配信は来年の四月くらいですかね?(真顔)
色々情報も発表されて、ようやく本格的になってきた印象。
早見さんと小倉さんがいるなら、きっとエゴ二人が……!
メルトが出るならお布施も考えています。割と本気で。
え? アニメUBW? 意気消沈の友人に「来週はきっと報われるから!」って言っておきました。
ジナコの部屋に行く、とメルトに告げると、渋い顔をしながらも了承してくれた。
メルトはジナコを嫌っている。というより、出来れば関わりたくないといったところか。
久しぶりに訪れた用具室。ノックをすると「はい、はーい」と声が返ってくる。
「ジナコ、入って良いかな」
『勝手にするッスよ』
短い了承。普段なら長い不満の沈黙の後に断られただろうが、今回は不思議なまでに即答だった。
扉を開くと、いつも通り、布団に寝転がりながらゲームに勤しむジナコが居た。
「ちょりッス。何事もなかったみたいッスね。無事で何より」
此方に目も向けない。
メルトが不満げに眉を寄せるが、それを口に出そうとはしない。
「……ジナコ。フランのおかげで、助かった」
「知ってるッス。一部始終、見てたッスから。あの馬鹿サヴァ、あんな威力出せたなんて思わなかったッスよ」
「……見てたのか」
「簡単な術式だったから、あの雷で吹っ飛んじゃったッスけどね。でもハクトさんがここにいるってコトは、あの雷で生き返ったんでしょ?」
「ああ……」
宝具としての、正しい性質ではないのだが、フランの宝具で助かったのは紛れもない事実だった。
「別に、ボクに礼なんて要らないッスよ」
ここに来た目的を、ジナコは先手を取って拒否する。
「何するつもりだったのかは知らなかったし、知る気もなかった。だから、あれは花嫁さ……」
フランの容姿からの呼び名を普段の通り口に出そうとして、ジナコは止まる。
何か、思うところがあったのか、
「……あれは、フランさんの独断。ボクは何もしてないッス」
ジナコは真名から定めた呼び名を、口にした。
ジナコがフランと契約してから、直接この部屋に訪れるようなことはなかった。
しかし、甲斐甲斐しくフランが世話を焼いていたことは知っている。
元々のサーヴァントであったアルジュナの後を継ぐ者として、ジナコを矯正させようとしていたのだ。
フランがジナコの価値観に変化を与えられた事を、彼女自身は知っていたのだろうか。
少なくとも、結果は残っている。呼び名を変えたという小さな出来事から、それは確かに伝わってきた。
「……そんな事は、ないわよね」
それまで黙っていたメルトが、唐突にジナコの言葉を否定した。
「何スか? ボクはこれまで通り、ジョブゴーストの役立たずッスよ」
「令呪、減ってるじゃない」
「ッ」
動揺からか、絶え間なく動かしていた手が止まった。
少しの油断も許されない状況だったらしい。ゲーム画面には、ゲームオーバーの文字が映されている。
「……ったく、黙って全部フランさんの手柄にしときゃ良いのに。聖杯戦争の勝者さんは全部お見通しッスか」
ゲーム機の電源を切り、漫画の山の頂点に乗せると、ジナコは胡坐をかいて此方に向き直った。
前に出した右手。手の甲に刻まれた令呪は数を減らし、二画になっている。
彼女の令呪を確認したことはなかったが、メルトは確信を持っているし、ジナコの言葉は正解を示している。
少なくとも、四階層、衛士だった頃は三画だったのだろう。
それから今にかけて、令呪は数を減らしているようだ。
「でも、力を貸した訳じゃないッスよ。呻き声しか出さないフランさんに、言葉を喋らせただけだから」
「言葉を……」
それが――令呪による命令の内容。
狂化による影響を薄め、会話を可能にする。
恐らくは、それによってフランの意思を確認したのだろう。
そんな事が出来たのか。令呪の命令は確かに際限なく、可能な限りマスターやサーヴァントの力となる。
彼女の意思の確認が困難ならば、会話を可能にすれば良い。ジナコの考えは、理に適っている。
「そしたら、ハクトさんを助けたいって言ってたッス。だから助けに行かせた。それだけ」
これが、全て。自分は直接関与などしていない。
だから礼などいらない。そう、ジナコは目で告げている。
「ま、これで厄介者もいなくなったし。ハクトさんも邪魔しないでほしいッス。残った時間、自分なりに過ごしたいから」
「……」
関わる理由は今度こそなくなった。
ならば、自分の事は放っておけとでも言うのだろうか。
「あ、そうだ」
自分の世界に戻ろうとするジナコが、思い立ったように声を漏らす。
「……ハクトさん。あのノートとか言うゴスロリサクラさん、死んだ“筈”のサーヴァントを使役してるッスよね?」
「え……ああ、うん。確認している限りだと、ラニのバーサーカーと、ユリウスのアサシンだけど……」
「アルジュナさんの可能性もありうる。そうッスね?」
頷く。ジナコの本来のサーヴァント――大英雄アルジュナは四階層で消滅した“筈”。
だが、その瞬間を、誰も見ていない。
消滅したと見せかけて、ノートが連れている可能性は十分にあるのだ。
「もし、そうだってんなら、相手をしちゃ駄目ッスよ」
「……だけど」
「だけどもだってもない。そのサーヴァント見てる限りじゃ、単純な火力に弱いッスね。だったら、アルジュナさんとの相性は最悪ッス」
言われて、思い出す。
四階層の先でノートがBBの助力に来れなかった理由。
圧倒的で規格外な威力を持ったアルジュナの攻撃で、四階層とのリンクが破壊されたのだ。
それ程の威力を叩きだせる上、最上級の実力を持つアーチャーのサーヴァント。
彼とメルトとの相性は悪い。メルトの毒を使用した搦め手も通じないと見て良いだろう。
沈黙を事実と定めたのか、ジナコは溜息を吐く。
そして、何かを決心したかのように、表情を僅かに硬くして――
「もし――もし、の話ッスけど。アルジュナさんが敵として出てきたら――」
自分に設けられた部屋が、とても懐かしく感じる。
一月にも満たない、短い時間を過ごした部屋。
そこかしこに置かれた人形は、メルトという住人の色を非常に濃く映している。
「なんか……久しぶりね」
同じ感想を、メルトも持ったらしい。
「そうだね。戻ってこれて、良かった」
少しずれた感想かもしれないが、心からの本音だった。
ここまで来て、負ける訳にはいかない。
もうBBは目前。彼女を止める目処も付いた。
「さて、ハク」
「うん」
何を言わずとも分かる。
先程の桜の言葉、事件の真相を聞いているのだ。
僕は桜を咎めないと決めた。だが、メルト自身はどうするか分からない。
脚色を付ける訳にもいかない。真実を、話さなければ。
「……」
全てを話し終えると、メルトは呆れたようにほうと息を吐く。
「……まあ、概ね想像した通りだったわ」
やはり、メルトはお見通しだったらしい。
最初からそれを知った上で、行動していたのか。
「ハク。サクラの処遇は、どうするの?」
「僕は何もしない。中枢に戻っても、彼女は咎めないよ」
「相変わらず、ね」
苦笑するメルト。それでも、最終的な決定権はムーンセルそのものであるメルトに存在する。
メルトが決定すれば、それが即ち確定事項なのだ。
「……良いわ。戻ってもサクラは不問。当然、執行猶予って形だけど」
「うん。ありがとう」
執行猶予。それは、実質的に無罪と同等だ。
桜であれば、言い渡せば二度と同じ事は繰り返さないだろう。
というか、ほぼ全てのNPCが同じだ。例外は……二人程、居るには居るが。
一人は月の裏側に落ちていない。暴走したBBが辿り着く前に余計なコトをしないか、不安で仕方ない。
「まあ、仕方ないわ。報告義務を怠ったのは許されないけど、理由が“それ”じゃ、ね」
言うならば、アップデートを先取りしようとしたようなものだ。
NPCの不満、というか、欲求を察することが出来なかった僕たちにも、非がある。
「さて、お終い。時間もないし、休まないと」
「そうだね。ところで、それは……」
言峰の購買で買ってきたものを指すと、メルトは何も言わずにそれを開こうとする。
今の状態では、梱包で中を見ることは出来ない。
それに手を掛けて、しかし、嫌がらせかと言うほどに厳封された包は手先に神経がほぼないメルトにとって、並のサーヴァントよりも強敵だった。
「……」
チラ、と此方を横目で見てくる。
何を求めているかが分かって、思わず吹き出しそうになりながらも、包を受け取る。
割れ物でも入っているのかと思うほど何重にも巻かれた梱包。
ようやく開くと、そこには、この部屋よりも懐かしいものがあった。
「これ……」
「ええ、私服よ」
中枢において、メルトが良く着ていた私服の中でも、特に気に入っていたもの。
白黒ボーダーのパーカー。青いチューブトップにショートパンツ。
黒いストッキングと、脚具の装着状態と感覚が似ているらしい、スケート靴のようなブーツ。
見慣れたそれだが、何か、違うようにも感じる。
外見的なものではない、内面的な、何かが……
「……なんで礼装に?」
「守銭奴神父に頼んだわ。これを再現してもらうついでに」
拘束具よりも、制服よりも、この私服に込められた性能は高かった。
とはいっても、ステータスを極僅かに上昇させる程度だが、動きやすさに重きをおいたものであるため、今までより戦いやすくなるだろう。
ブーツも、いつでも脚具に上書きできるらしい。ここまで高性能な礼装を作れるほど、言峰のスペックは高かっただろうか。
「まあ、動きやすくなるだけで、意味はあるわ。早速着替えたいのだけど……」
もう一度、何かを求めるような目。
理解している。中枢では日常だった。手先が不器用を超え、簡単な作業すら困難なレベルの感覚障害は、着替えも難しい。
「ああ、うん。了解」
本来ならば休むべき時間。だが、それでも、日常を感じるのは悪くない。
着替え終わり、その仕上げのために髪に触れる。
長い髪を三つに分けて、再び一つに。
三つの束を順に、平等に、一つに編み上げていく。
古代はオリエント時代の文明から一般的な髪型であり、体の無事を祈願する意味合いもあるらしい。
最後に三つを纏めることで、
一片たりとも、不揃いな部分はない。メルトを飾るのであれば、完璧でなければならない。
ちなみに、これはメルトの要望である。僕の趣味でこうした訳ではない。決して。
「ん、ありがと、ハク」
立ち上がるメルトは、いつの間にか部屋の箪笥に置いてあった“それ”を手に取る。
「……それ、ヴァイオレットの……」
「ええ。落とし物は、拾ってあげないと駄目でしょう?」
それは、ヴァイオレットの眼鏡だった。
そういえば、と思い出す。ヴァイオレットが消滅したとき、この眼鏡だけは残っていた。
茫然自失といったまま、生徒会室に戻ったが、メルトはあれを拾っていたのか。
この眼鏡だけが残ったのは、これはヴァイオレットが装備していた、魔眼殺しの礼装であるからだろう。
「まあ、色くらいは変えさせてもらうけど」
メルトは簡単に眼鏡の情報を書き換え、色を変更する。
中に組み込まれている術式を変更するとなると、もっと難しいだろう。
だが、色を変えるだけならば容易だ。赤縁になった眼鏡を、メルトは掛ける。
「っ……」
「……? どうしたの、ハク?」
……予想外だった。まさか、ここまで似合っているとは。
眼鏡が抱かせる理知的なイメージは、メルトと良く合致している。
そんなイメージから生まれる優位性が、メルトのクールさや加虐体質と和を生まない訳がない。正直、迂闊だった。これほど一般的なアイテムに今の今まで目を向けていなかったなんて。
「…………ハク?」
なるほど、誰かが眼鏡の存在を小宇宙と称していたが、それは決して誇大ではない。メルトは眼鏡を掛ける特殊な理由はないため、眼鏡キャラとは言えないかもしれない。だが、ただのファッションでも十分だった。だからこそ、その魅力にのみ目を向けられる。ふむ、偉大なる先人の例に倣うならば――普段眼鏡を掛けない者が、普段眼鏡を掛けている者から受け継いだ眼鏡を掛ける、これをフォースインパクトと称するべきか。それ程までに、目の前の絶大な破壊力は凄まじく――
「ハク! ちょっと、大丈夫!?」
「――――ハッ」
どこか、遠いところへと飛びかけていたらしい。
どうやら、相当疲れているようだ。
「あんな事があった後だもの、疲れていてもしょうがないわ。休みましょう」
「ああ……ごめん。でも、メルト」
気を使ってくれたらしいメルトに申し訳なさが出てくるが、少し、疑問を持った。
「何?」
「どうして、その服を?」
より性能の高い礼装として――ではないだろう。
「ふふ……」
そんな疑問に、メルトは笑い、
「普段のお礼、って事で、どうかしら?」
目元に指を当てて、舌を出しながら言った。
その様子は悪戯っ子のようで、普段のメルトには感じない幼さが見られる。
敵わない、と僕も笑う。確かに――これまで戦ってくれたことへの礼ならば、これを買っても余りある。
彼女がいなければ、僕はここまですら来れなかった。
メルトの存在の大きさを今一度再認識し――いつか、これ以上の返礼をしなければ。そう、思った。
挿絵は駄蛇様に描いていただきました!
その場のノリでポーズも使用。普段と違う印象が素晴らしいです!
ハクが何か暴走してますが、全て彼が抱いた印象です。私は関与していません。私はまったくの無罪です。
ザビ子じゃないだけマシです。ザビ子だったらこの三倍は長いです。
着替えの際には特に何も思ってないし、何も起こってません。
日常なんだもん、仕方ないよね。うん。