Fate/Meltout   作:けっぺん

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一部読みづらい部分があるのはご容赦下さい。
埋め合わせは極些細ですが用意しましたので……


十九話『ななしのもり』

 

 

 色々あって手に入れたマラカイトをラニに渡すと、いとも簡単に錬金を成功させてしまった。

 ラニから受け取った一本の剣を見る。

 見た目は装飾には走らない、ただ武器としての機能だけを持った剣。

「これがヴォーパルの剣です。ですが、私の力ではこれの効果が発揮されるのは一度が限界でしょう」

「分かった。ありがとう、ラニ」

 ヴォーパルの剣を持って早速アリーナに向かう。

 トリガーの前には、相変わらず赤い怪物――ジャバウォックがいた。

 その圧倒的な気配は未だ衰えていない。

 ヴォーパルの剣を使うにしても、どうやってあの怪物のリーチに入っていけば良いのだろうか。

 考えていると、メルトが前に出る。

「メルト?」

「ちょっと待っててハク……うん、この辺りでいいわね」

 メルトが僕とジャバウォックの間に立ち、壁を攻撃する。

 何をしているのだろうか。

「このくらいね。さぁ怪物さん、いらっしゃい!」

 メルトがその壁の前に立って怪物に向かって言う。

 恐ろしい速度で迫ってくる怪物にメルトは恐れを見せず、冷静に回避した。

 メルトがある程度攻撃し、自動的に防御性能を高めていた壁にジャバウォックはその拳を叩き込む。

 瞬間、アリーナの防衛機能が発動し、ジャバウォックは反対側の壁に叩きつけられた。

 これは、二回戦が終わった日にメルトのマトリックスを確認したときに見つけたもの。

 ドレインの項目に新たに追加されていたスキルだろう。

 

『破壊工作:E

 ロビンフッドを模倣したスキル。

 戦闘を行う前、準備段階で相手の戦力をそぎ落とす才能。

 罠の知識は乏しいが、戦闘前に相手の戦力を多少削ることが出来る。

 効果は大きくても戦力の一割ほど。』

 

 アーチャーを模倣して修得した低ランクの破壊工作スキル。

 それを的確に発動させ、ジャバウォックを吹き飛ばしたのだ。

「今よ、ハク!」

「分かった!」

 手に持ったヴォーパルの剣に魔力を込める。

 その瞬間、眩い光を放ちながら剣が鋭い魔力を迸らせる。

 それはジャバウォックを飲み込み、その圧倒的な力を奪い去っていった。

 起き上がり、雄雄しい咆哮を上げるが、それには以前の様な威圧感は感じられない。

「よし、メルト!」

「任せなさい!」

 動きが鈍くなったジャバウォックにメルトは一撃与える。

 ジャバウォックは力任せにメルトを殴りつけようとするが、単純な軌道は簡単に読めてしまう。

 何度目かの攻撃を受けて、名状しがたい叫びを上げながらジャバウォックは姿を消した。

 どうやら消滅とは違う形のようだ。

 確かにあの怪物がサーヴァントなら、あれだけで消滅するはずも無いだろう。

 だが戦闘中、セラフの介入もなかった。

 ジャバウォックはサーヴァントではないのだろうか。

 トリガーを取ろうとすると、その道を塞ぐように二人のありすが現れた。

「あらら、本当にヴォーパルの剣を手に入れるなんて……」

「ふふ、本当。いったいどうやったのかしら」

「宝探しもお兄ちゃんの勝ちだね」

「そうね、じゃあ、次は何して遊ぼうかしら?」

「また考えなきゃ。お兄ちゃん、ばいばい」

 ありすは交互に言って、何もせずに去っていく。

 その先にあるトリガーを取得し、校舎に戻る。

 一旦情報を纏めてみよう。

 まず怪物、ジャバウォックについて。

 あれがありすのサーヴァントである可能性は高い。

 というより、あれ程強大な存在がサーヴァントでないというのは考えにくい。

 理性を無くし、その代償として大きい力を得るバーサーカー。

 ジャバウォックはそのクラスに据えられているのだろう。

 そして、一番の謎は、黒いありすである。

 瓜二つな二人のありす。

 その正体は一体何なのだろうか。

 

 

 その翌日、二人のありすについて、ラニに相談してみた。

「双子のマスター、ですか?」

「うん、ありえるかな?」

 一番の可能性は、あの二人のありすが双子だというものだ。

 だが、ラニはしばらく考えた後、それを否定した。

「たとえ双子が二人とも聖杯戦争に参加しているとしても、システム上、アリーナでの共闘はありえません」

「うーん、じゃあ、二人で一つのサーヴァントを操っているっていうのは?」

「……本当に二人と数えていいのか私には分かりかねます。そもそも、あの子供には生気が感じられません」

「え?」

 生気が感じられない。

 つまり、既にありすは……

 いや、だとするとこの聖杯戦争に参加しているのはおかしい。

「それが何を意味するのか私には分かりませんが……」

「そうか……ありがとう」

 謎は更に深まってしまった。

 二人のありすにジャバウォック。

 どうしたものかと考えながら階段を下りていくと、

「みつけた!」

「みつけたー!」

「っ!?」

 突然声が掛けられる。

 下の廊下から見上げる二人の少女。

 紛れも無い、黒と白のありすがいた。

「なんでこそこそするのかしら、お兄ちゃん」

「あそぼう! あたらしい遊び、かんがえたの。新しい穴の中でなら、きっと見せられるわ!」

 白いありすが言うと同時、携帯端末が鳴る。

 二つ目のトリガーが生成されたのを告げるものだろう。

「待ってるから、絶対にきてね!」

 白いありすがアリーナの方向に走っていく。

「ふふ……やくそく、だからね」

 黒いありすがそれを追う。

 何だったのだろうか、今の殺気とも威圧感とも違う、何とも言いがたい、だが決して良くは感じない何か。

 手足が痺れ、意識が凍り付いてしまっていた。

 ありすが去ったことでそれは消え去ったが、今の悪寒は尋常ではなかった。

 だが、怯んでいる場合ではない。

 期日は坦々と迫ってきているのだ。

 ありすが待ち構えているとしても、アリーナに行かない訳にはいかない。

 ひとまずあの二人の幻像を振り払い、アリーナに向かうことにした。

 

 

 アリーナには案の定、二人のありすが待ち構えていた。

 ありすは此方を見ると、笑顔で言う。

「あ、お兄ちゃん、遊びに来てくれたんだ!」

「やっぱりお兄ちゃんは優しいね!」

「ここはね、ちょっと待っててね。今新しい遊び場を作るから!」

 作る?

 このアリーナで何かをするのではないのか。

「っ、しまった、ハク! 自分の名前を覚えこんで!」

「え?」

 メルトが突然大声で告げる。

「いいから、早く!」

 

 ――ここでは、鳥はただの鳥。

 

 ――ここでは、人はただの人。

 

 メルトの言葉の真意が判明する前に、世界が暗転する。

 全ての事象が上塗りされていく。

 元の世界に何かを置いてきたような虚無感に包まれたまま、その世界は確定された。

「お兄ちゃん、ようこそ、ありすのお茶会へ!」

 ありすが高らかに宣言する。

 塗り固められ、作り上げられたありすのお茶会なるそれ。

 真っ黒で、それでいて真っ白な森。

「……固有結界」

 メルトが呟くそれは、世界を上塗りする大魔術。

 術者の心象風景で現実世界を塗りつぶして、世界を変えてしまう結界。

「ここではみんな平等なの。いちいち付けた名前なんて、みーんな思い出せなくなっちゃうの。お兄ちゃんもすぐにそうなるわ」

「それだけじゃないよ。段々自分が誰だか分からなくなっていって、最後にはお兄ちゃんもサーヴァントも無くなっちゃうの」

 おもしろいでしょ、とあどげない表情でありすが告げる。

 あまりにも許容できない恐ろしい効果。

「じゃあ、ここで鬼ごっこをしましょ。鬼はお兄ちゃんだよ!」

「いくよ。よーい、どん!」

 ありすはアリーナの奥に走っていく。

「ハク、絶対に名前を忘れないで。一刻も早く捕まえるわよ」

「う、うん。分かった」

 だが、近づけば少女は遠くに転移してしまう。

 消えてしまう、という焦燥感が歩幅を自然と大きくする。

 しばらく走ると、少女は立ち止まっていた。

 だが降参という訳ではなさそうだ。

 寧ろ何かを企んでいるような笑みを浮かべていた。

「そろそろお名前、忘れた頃じゃないかしら」

「思い出せないでしょ? お兄ちゃん!」

 少女が言う。

「名前……っ!」

 自分の名前が、抜け落ちている。

 それだけじゃない。

 傍のサーヴァントや、目の前の二人の少女の名前も思い出せない。

 いや、そもそも初めから、名前が無かったのではないか。

「っ、だから言ったのに、気をしっかり持って、■■。飲まれるわ!」

 傍に立つサーヴァントが名前を呼んだようだが、そこに雑音がかかったように聞こえない。

「はやく捕まえないと、次は身体も消えちゃうよ!」

「うふふ、捕まえられるかしら、お兄ちゃん!」

 少女は再びはしっていく。

 自身のそんざいがだんだんと軽薄になっていくのを感じながら、それをおう。

 またしばらく走ると、しょうじょたちがとつぜんたちどまる。

 どうやらいき止まりだったようだ。

「今度こそ追い詰めたわ。結界を解きなさい、■■■■■!」

「何か怖いよ、どうしたの、お兄ちゃん? ひょっとして、怒ってる?」

 傍のさーヴァンとを気にしながら、こちらの必死の表情をいかりととった少女がおびえたようにいう。

「どうして怒るの? ああ……身体が消えかかっているから?」

 はやくこの結界をとかないときけんだ。

 しょうじょに詰め寄ると、しょうじょは一歩あとずさる

「怖いわ、あたし(アリス)。何でお兄ちゃんは怒っているの?」

「わからないわ、あたし(ありす)。少し遊んでいるだけなのに……」

 そういって少女たちはまたてんいする。

「■■、しっかりして! 次は何としてでも結界を解かせるわ!」

 サーヴァンとの言葉で、きえかかった意識が覚醒する。

 必死で走り、こんどこそしょうじょを追い詰めた。

「なんでそんなに怒っているの? ……お兄ちゃんと遊びたかっただけなのに」

 しょうじょがないている。

 だが、こちらも必死だ。

 けっかいをとかせなければ……

「ここはもう危ないかもしれないわ。いきましょう、あたし(ありす)

「ひっく……ごめんなさい、お兄ちゃん……」

 しょうじょがアリーナをでていく。

 しまった、このままでは……

「■■、リターンクリスタルを! 早く!」

 サーヴぁんトに促され、懐にしまっていた石を使用する。

 瞬間、何故名前を忘れていたのか不思議なほど、直前の状況に不自然さを感じるようになる。

 どうやら無事、校舎に戻ってこれたようだ。

「間一髪ね……」

「あぁ、ありがとう、メルト」

 メルトの名前を口に出せたことで、改めて安心する。

「まさか固有結界を使ってくるなんて……」

「やっぱり覚えこむだけじゃ駄目ね……」

 名前を忘却し、それと同時に存在そのものを皮切りに消失させていく固有結界。

 どうすればあれに対処できるだろうか。

「ん? これは……」

 気がつくと、手に一枚の紙切れが握られていた。

「『あなたのなまえはなあに?』……ありすのメモか?」

 結界を解くヒントだろうか。

 あの結界内で自分の名前を思い出せば、結界は解けるということだろうか。

 だが、どうやって。

 真っ先に名前を失ってしまうあの結界で、一体どうやって名前を思い出せば良いのだろうか。

「そんなの簡単じゃない」

「え?」

 メルトがさも当然、というような顔で平然と言う。

「方法があるの?」

「えぇ。今夜にでも準備をしましょう」

 やはりメルトは頼りになる。

 ありすの事も少し知っているようだし、本当にこのサーヴァントは何者なのだろうか。

 ともかく、対策についてはメルトに任せて良さそうだ。

「ふふ……楽しみね」

 ……任せて良いのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その夜。

「ちょ、メルト、やめ……くすぐっ……」

「良い声で鳴くわねハク! ほら、大人しくしなさい!」

「うわっ、乗ってこないでってば!」

「そんな事言っても身体は正直ね」

「何言ってるの!? 訳が分からないよ! いいから降りて!」

「ふふ、さぁ、力を抜いて……」

「――――ッ!!」

 何となく感じていた嫌な予感は、ある意味的中したのだった。




きじょうすきる。



きじょうすきる。

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