Fate/Meltout   作:けっぺん

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曲芸士事件からやたら回復泥推しが強いですけどなんかあったんですかね。
旧エジプト神にまで回復絡めてくるのはやめてほしかったです。ホルスはよ。

という訳で、七章ラストとなります。幕間みたいな感じなので少し短めですが、どうぞ。


Rosemary.

 

 

 ああ、行ってしまった。

 どうやら、ボクの恋は終わってしまったらしい。

 送り出したのは確かだけど、やっぱり悲しいなあ。

 こうなる事が分かっていれば、カズラみたいに媚を売っても良かったのに。

 ボクはセンパイのために楽園を作ろうとした。けれど、センパイはその楽園を望まなかった。

 そして、そのすれ違いに気付くことなく、価値観を押し付けようとした。

「……馬鹿、だなあ」

 なんで、気付けなかったんだろう。

 やることなすこと、全部がセンパイのためになると思っていた。

 いや、それは本心なんだけど。ボクはそれが、センパイも望んでいる事だと信じて疑わなかった。

 センパイの理解者でありたかったのに、センパイを理解しようとしなかった。

 ボクの価値観が、即ちセンパイの価値観だと思っていた。

「ホントに、悪い子。でも……」

 ボクはBBに作られた欠陥品で、壊れた存在。

 殆ど全部が間違いだったボクだけど、一つだけ、間違いじゃなかったものがある。

「……大好き。それは、変わらないよ」

 間違いだったとしても、ボクの全てはセンパイのために捧げてきた。

 この気持ちは間違いじゃない。

 だから、それを最後まで貫き通してきた。

 捨て去る事など出来ない。誰かに渡す事も出来ない。持っているだけで幸せな感情。

 それも、もうすぐ終わる。きっと何も考えることが出来なくなって、全部無になってしまうんだろう。

「もう、会えないのかな」

 言葉にしてみると、本当に寂しく感じる。

 さっきまでセンパイがいた場所に手を伸ばしてみるも、届くはずもない。

 届いたところで何もないのだけれど。少しだけでも、センパイに近付きたかったから。

「っ……」

 立とうとすると、視界が揺れて、落ちていく。

 足が消えてしまったらしい。受身をする気にもならず、仰向けに倒れこむ。

「……冷たい」

 背中に感じるひんやりとした感触。床の冷たさを、直に感じる。

 当たり前か。何も着ていないんだから。

 真っ白な虚空が、その冷たさを際立たせる。

「そっか。ボク、裸だった」

 こんな格好で、当然のようにセンパイの前にいたんだ。

「恥ずかしいな……」

 それまで、どうとも思っていなかったことなのに。

 どうしようもなく、恥に感じている。

 ――このまま恥を晒して生きていくのは、センパイに申し訳が立たない。

 悪い子のままでいよう。悪い子は、悪い子のまま死ぬのが正しいんだ。

 でも――センパイには、良い子に見られたい。

 見てくれるかな。ボクがしてあげられた、唯一の手助け。BBをどうにかする役に立ってくれるかな。

 本当に、魔が差した。センパイだけならまだしも、あの女にも手を貸してあげるなんて。

 まあ、それを使いこなせるか。そもそも理解出来るかなんて、知ったことじゃないけど。

 ただ、センパイのサーヴァントなんだから、命を懸けて守らないと――ボクは許さないよ。

「頑張ってね、センパイ……なんて。ボクらしく、ないな」

 

「――ええ。まったく、その通り。貴女らしくありませんよ」

 

「――」

 後は静かに、消えていくばかり。

 静寂が包んでいた世界で、足音が聞こえた。

「貴女は最後まで、狂ったままで良いのです。過ちに気付かず、手の平の上で踊らされたまま昇華される。それが救いとなりましょう」

 足音が近付いてくる。

 その声には聞き覚えがあって、しかしどうでも良かった。

 そんな事を考えている時間があったら――最後まで、センパイを想っていたい。

「哀れなエゴ――せめて最後は、私が看取りましょう」

 一人でいたかったけれど、それを追い払う力はボクにはない。

 ならば、放っておく。ボクは興味を持っていないし、アレはいないも同然だ。

 体が軽くなっていく。

 そろそろ時間らしい。

 意識が遠くなっていく。これが最期というものらしい。苦しくはなく、嫌悪感もない。悪くはない感覚だ。

 ただ、ちょっとした後悔があるだけ。

「にしても、私としては……――を望んだのですが。貴女には、失望しました」

「――ぇ?」

 ……今、何が聞こえた?

 ボクの認識が間違っていなければ――もっと根本的なことを、ボクは間違っていたということになる。

 それはおかしい。だって、確かにボクはそう聞いて……

 ……聞いて、いない。一言も、そんな事は……

「まあ、それはそれで仕方ないこと。おやすみなさい。目を閉じれば、全てが終わります」

 ――ああ。ボクはどこまでも、欠陥だった。

 壊れていたから、理解できなかった。壊れていたから、勝手に思っていた。

 壊れていたが故の罰。それを気付かなかったが故の罰。

 あまりにも残酷だけど、気付くことができなかったのだから全て、ボクが悪い。

 まるで道化だ。これじゃ、笑いものにしかならないじゃないか。

 道化は道化らしく、出番を終えたら舞台裏に引っ込んで、二度と表に姿を見せない。それが在るべき、ボクの姿。

「――せ……ん、ぱ……」

 舌も、その役目を終えようとする。

 言葉を紡げなくなった舌。でも、まだ出来ることがある。

 唇に、軽く触れるだけ。最後に感じるにはこれ以上ない多幸感が包む。

 センパイだ。あの女に貰った、センパイの味は、まだはっきりと唇に残っていた。

 最期を見られるのは、嫌だけど――センパイが生きて、傍にいるという感覚は、決して悪くない。

 そう、か。センパイを殺すことが出来なかったのは、当たり前のことなんだ。

 ボクはセンパイが好きだった。全てを捨てても、センパイだけは捨てられないくらい、大好きだった。

 一緒に居たいからといっても、好き勝手にこの世界との関わりを断ち切るなんて、おこがましいにも程がある。

 (ハルワタート)食物(アムルタート)――生を守る恵みを司る二柱が、愛する人を殺すなんて、出来る訳がなかったんだ。

「――――あ、は」

 嬉しい。ようやく理解できたことが。センパイを感じながら逝けることが。

 この感覚と共に旅立てるなら、それは最上の終わりだ。

 だから、笑みを浮かべたまま。

 遠のく意識に身を任せて、ボクはゆっくりと目を閉じた。

 

 

 +

 

 

 ――あと、少し。

 

「……七階層が、突破されました」

「……そうですか」

 最早、残る階層は後一層。

 ローズのあの暴走は予想外。それでも、センパイとメルトリリスは突破した。

 ……他愛のない存在だと思っていたが、生徒会なる集団は油断ならない存在のようだ。

 十階での敗北は、忘れていない。

 あれから恐らく、彼ら彼女らは更に強くなっている。

 寝返った三人のサーヴァントも、それぞれ警戒すべき存在で、先までのローズとの戦いでもアーチャーとアサシンはなくてはならない戦力となっていた。

「ローズは――」

「……残念ながら。二十一階の生命反応は消失しました」

 そう。それが、七階層の結果の全て。

 ローズは敗北し、迷宮を明け渡した。

 後に残るものは何もない。唯一挙げた戦果として――バーサーカー・フランケンシュタインの消滅。

 それでさえ、あの生徒会の戦力とは考えられておらず、駒と数えられていない存在だ。

 気紛れか何かか――恐らくは、至極どうでもいい理由で出撃し、果てたのだろう。

 或いは、バーサーカーの事だ。最初から死ぬつもりで――特攻宝具を使用するつもりで出てきたのかもしれない。

 理解できない。命を賭してまで、やるべき定めがあるのか。

「……ノート」

「はい。なんでしょう」

「八階層――“最後の階層”を貴女に預けます。重要性は、理解していますね?」

「それは勿論、重々理解していますが……良いのですか? 私は既に、二つのSGを抜かれています。衛士として十全な仕事をする事は出来ません」

「分かっています。ですから――預けるだけ。衛士になれとは言いません。全ての力を使い、()()までの道を守りなさい」

 至極冷静。その声に何らかの感情を宿した抑揚は見られない。

 だが、感じ取れる。

 焦りだ。BBは焦っている。センパイがもう、すぐそこにまで来ている事に。

「了解しました。全力を尽くしましょう」

 ああ、どうやら、次の戦いが最後になる。

 どれだけ強力なサーヴァントがいようと、どれだけ強力な術式を持っていようと、どれだけ強力な宝具を担っていようと。

 私には敵わない。ヴァイオレットやローズと戦ったように、隊を組んで来るのならばそれも良し。

 正しい選択。しかし、それでも無駄だ。

 存在する位階が違うのだ。

 私と相対するならば――その時点で、敗北が確定付けられる。

 絶対。それが私に求められた役目。

 最古であり、最上である私には勝てない。それが、決定した運命(フェイト)だ。

「ええ、全力で――貴女の性質はそのためのもの。全てを使い切ってでも、止めなさい」

 ――それが、(BB)から申し付けられた命であるならば。

「即ち、八階層が決戦の場であると」

 無言の肯定。中枢との戦いは佳境に入っている。

 ここまで会話が出来ること自体、異常ともいえる。

「それでは、全てを使います。勿論――プロテアも」

「ッ」

 笑みを浮かべながら、言ってみる。

 それで動揺して、ムーンセルに敗れてしまっては元も子もないが、BBもここまで戦ってきた意地がある。

 一切意識を動かさず、神経全てを戦いに向けている。

「……それは、必要な事ですか?」

「采配は貴女に任せますが。戦力全てを投入するのであれば、彼女は切り札となりえます。尤も、今の彼女が戦力に数えられる存在であるかどうかは私も分かりませんわ」

 あの子は、BBでさえ手に負えなかった規格外。

 それぞれが異常の集まりであるアルターエゴの中でも飛びぬけて特殊な存在。

 扱いを考えるのも愚かなくらい、手の付けられない問題児だけれども――御することさえ出来れば、聖杯戦争に集ったサーヴァントたちの百余りの宝具を遥かに勝る途轍もない戦力だ。

 何せ、単純に戦力を数値化すれば、私やBBを超えるほどなのだから。

「箱の鍵はあるのでしょう? 貴女は、欠陥品だろうと自身の子を完全に始末出来るほど残酷ではないですよね」

「……」

 暫し、沈黙。

 堕天の世界の蓋を開けないならば、それでも構わない。

 元々私一人でも問題のない役目だ。これは、BBの指示により忠実に応えるためのもの。

「……良いでしょう。許可します。その代わり、私の邪魔をさせないこと。貴女に全て、任せます」

「――承りました。それでは、諸々の準備に取り掛かります。BBも、健闘を」

 五割と五割の拮抗は、ひたすらに続いている。

 しかし、私の目測では――後僅かでBBはムーンセルに勝利する。

 その僅かな時間を稼ぐのが、私の役割。

 たとえ私が敗れることがあったとしても、BBが勝利するまで耐えれば、それで終わり。

 手を抜くつもりは毛頭ない。そして、敗北するつもりなどないし、そもそも確率が皆無だ。

 全ての宝具に異常はない。英霊たちが誇りとしていた神秘は、十全に力を振るうだろう。

 『女神の繰り糸(エルキドゥ)』、異常なし。内に眠る玩具にも、なんら問題はない。

 そして、切り札。私のとっておきは完成した。

 既に披露した二枚に加え、新たに増えた白き手札は五枚。

 これももう、勿体振るものでもない。披露するのが、楽しみだ。

「さて……」

 八階層の内装は既に決定している。

 二十二階、二十三階はすぐに完成する。そして――力を入れるべきは二十四階。

「まずは、あの子を出してあげませんと」

 BBから受け取った術式を起動させる。

 それは、堕天の檻を開くための鍵。

 あの子は、この迷宮の最後の砦となるに相応しい。

 ただの迷宮では信用できない。限界があるというのは、既に痛感している。

 それならば、“こう”してしまえば良い。これこそ、サクラ迷宮らしい決戦の場だ。

「お待ちしていますわ、センパイ。最後の行軍です。精々後悔しないように準備なさい」




これにてローズは退場となります。お疲れ様でした。
最後の最後まで、正統派ヤンデレとして突き進んだキャラです。
書いてて思ったんですけど、なんでエゴってどいつもこいつも世界を自己完結してるんでしょうね。
結局カズラ大正義です。

次回は章末になりますが、少しUP遅れるかもしれません。
短編無しという展開にはならないと思います。

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