Fate/Meltout   作:けっぺん

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メルトはCCCのボス戦では割と楽だった記憶。

一週目キャスター
よっしゃ宝具だ!→アルブレヒト→あれ?
二周目ギル
MP回復あるしガンガンいこうぜ!→弁財天→あれ?
三周目セイバー
聖者吸収された時用に落陽も使っとくか→あれ?落陽も吸うの?
四週目アーチャー
宝具で聖剣ラッシュや!→アルブレヒト→あっ

……うん、記憶違いか。


二話『戦いの開幕』

 泥濘(ぬかるみ)の日常は燃え尽きた。

 

 魔術師による生存競争。

 

 運命の車輪は回る。

 

 最も弱きものよ、剣を鍛えよ。

 

 その命が育んだ、己の価値を示すために。

 

 

 +

 

 

 目が覚めたとき、僕はベッドに横になっていた。

 起き上がって見たところ、此処は保健室だ。

 ……あれは、夢だったのだろうか。

 人形、サーヴァント。まるで夢物語。

「っ……!」

 しかし、現実を直視する。

 ふと見た手の甲には、三画の令呪がしっかりと刻み込まれていた。

 他にも、この保健室自体、僕は見覚えが無かった。

 僕が通っていた学校の保健室は、こんなところだっただろう、か……

 ……いや、そもそも、僕が通っていた学校は、どんなところだったのか。

 記憶が欠落している。

 何も思い出せない。

 とりあえずベッドから起き上がると、ふと気配を感じた。

「目が覚めたのね。小さなマスターさん」

 聞き覚えのある声と共に、あの広場でみた少女が突然出現した。

 一度見たら忘れられない、強烈な印象のその姿。

「ふふ、何を呆けているのかしら。寝顔も可愛かったけど、その表情も中々そそるわね」

 その言葉に思わず頬が熱くなる。

 それを知って知らずか少女は言葉を続ける。

「まぁ、良いわ。聖杯戦争の本戦には間に合ったもの」

 また、その単語。

 この少女なら、意味を教えてくれるだろうか。

「あの、聖杯戦争、って……?」

 一瞬目を丸くした少女だが、すぐに元の表情に戻る。

「あんな事があった後だものね。記憶が錯乱してても仕方ないわ」

 そういって、少女は説明してくれた。

 

 月面で発見された、太陽系最古の物体、聖杯ことムーンセル。

 あらゆる願いを叶える万能の願望器にして、地球の過去現在未来全てを観察、記録する演算装置。

 それを手に入れるべく魂を月と繋げた、マスターたる128人の、魔術師(ウィザード)と呼ばれる霊子ハッカー。

 電子虚構世界「SE()RA()PH()」を舞台に地球上の歴史の記された英雄――英霊たるサーヴァントを操り、最後の一人になるまで戦うトーナメント方式の戦い。

 それが、聖杯戦争。

 

「理解できたかしら?」

「何とか……。じゃあ、君もサーヴァント?」

 歴史に記されるほどの英雄。

 そんな存在が目の前にいるとなると、なんと言うか感慨深いような……

「……そう、ね。そうなるわ。クラスは割り当てられてないけど……」

「クラス?」

 さらに説明が続く。

 

 サーヴァントが生前成した偉業によって割り当てられる七つのクラス。

 剣の英霊、セイバー。

 弓の英霊、アーチャー。

 槍の英霊、ランサー。

 騎乗の英霊、ライダー。

 暗殺の英霊、アサシン。

 魔術師の英霊、キャスター。

 狂戦士の英霊、バーサーカー。

 このほか、幾つかイレギュラークラスがあるらしいが、それらについての説明は端折られた。

 

「でも、何でクラスがないんだ?」

「……ちょっとした事情があるのよ。サーヴァントを呼ぶのはクラス名が普通らしいけど、私の事は真名で呼ぶと良いわ」

「真名?」

「本当の名前の事よ。最初に名乗ったでしょう?」

 そうだろうか、と必死に思考を巡らす。

 何となく、少女から殺気のようなものを感じる。

 応えられなければ殺す、そんな殺気に満ちているような……あ。

「メルトリリス、だっけ?」

「メルトで良いわ。言い方からして忘れてたわね」

「あの時の状況で覚えていろと言う方が無理な気が」

「何か言ったかしら?」

「なんでもないですすみません」

 言い訳を良しとしない少女――メルトの威圧感が半端ではない。

 余りこの子を怒らすのは控えた方がいいだろう。

「それで、貴方の名前は?」

「え?」

「名前よ。私は名乗ったけど、貴方はまだでしょう?」

 そういえば、名乗った覚えはない。

 僕の名前……

「えっと、紫藤(しどう) 白斗(はくと)

 少しの間の後、答える。

「貴方、自分の名前も忘れてなかった?」

 鋭い。

 自分の名前を思い出すのにも時間がかかるとは、これも記憶の欠落による弊害だろうか。

「まぁ良いわ。白斗、白斗……うん、ならハクって呼ぶわ」

 早速渾名を決定された。

 だが、ハク……悪くない。

 ……にしても、どうやらこの記憶の欠落は一般常識的なものは失われていないようだが、メルトリリスという英雄は覚えがない。

 メソポタミアの夜の妖怪にリリスという名前があるが、それとは違うのだろう。

 もしかしたら、ムーンセルが記録しているだけで、明確な資料など存在しない英雄なのかもしれない。

「さて、そろそろ行きましょう。このベッドは貴方のものじゃないんだし、あまり長居するのも迷惑よ」

 そう言うと、メルトの姿がその場から消えた。

 だが、近くから気配は感じられる。

 どうやらサーヴァントに与えられる機能の一つのようだ。

 姿を隠す事で敵に正体を悟られないようにするというのはあるかもしれない。

 とはいっても、英雄なんて普通は見たことないだろうし、姿を見せただけで正体がばれるとも思えないが。

 まぁ、メルトはメルトで、外見の問題はある。

 出来れば姿を見せないままで居てくれれば、僕にあらぬ疑いがかけられる事もない。

 とりあえずそれについては置いておこうと思い、立ち上がる。

 その時、部屋の扉が開いた。

「あ、紫藤さん、目が覚めたんですか? よかったです」

 メルトに良く似た――というよりは瓜二つな少女。

 いや、顔つきや髪の長さ等は似ているが、良く見れば相違点は多々。

 表情から感じ取れる穏やかさとか、胸とか。

 口に出したらまずただでは済まされないので絶対に言わないが。

 

 

 その少女――名を間桐(まとう) (さくら)から受けた説明は以下の事だ。

 聖杯を求めてやってきた魔術師は一旦記憶を消され、この学校で一生徒として日常を送る。

 仮初の日常から自我を呼び起こし、自分を取り戻した者のみがマスターとして聖杯戦争に参加できる。

 これが、先程突破した予選のルール。

 そしてこれを突破した人には、既に記憶(メモリー)が返却されている、と。

 確かに僕は今まで、月海原学園の生徒としての生活を送っていた。

 印象が強かった、癖の強い友人が居たことも覚えている。

 だが、その仮初の生活を突破しても、記憶が戻ってきていない。

 それを桜に説明すると、驚きながらも、自分(わたし)には対処できないといわれた。

「すみません。私は運営用に作られたAIですので」

 AI……つまりこの聖杯戦争を行うにおいて役割を与えられた仮想人格だろうか。

 マスターではない存在、所謂NPC(ノンプレイヤーキャラクター)というところだろう。

「あ、そうです、此方を渡しておきますね」

 記憶についての話は終了したといわんばかりに桜は話題を変え、僕に小さな携帯端末を渡された。

 連絡事項を伝える際に使うものらしい。

 その後一言二言話し、保健室を出る。

 携帯端末を操作してみると、連絡以外にも色々な事が出来そうだ。

 マトリクスという項目を見てみる。

 どうやらサーヴァントの情報を記録する機能らしい。

 幾つか記録する欄があり、その最上部には既にメルトの情報が載っていた。

 

『クラス:--

 真名:メルトリリス

 マスター:紫藤 白斗

 宝具:

 ステータス:筋力E 耐久E 敏捷:E 魔力:E 幸運E』

 

 クラスは割り当てられていないから良いとして、宝具というのはなんだろうか。

「……メルト」

 独り言の様に呟いてみると、『何かしら?』と返事が返ってきた。

 どうやら姿を消していても発言はできるようだ。

「この宝具っていうのはなんなんだ?」

『あぁ、説明を忘れていたわね。まぁ、簡単に言ってしまえば、英雄を象徴する切り札よ』

 切り札。

 英雄を象徴するという事は、その英雄の伝説で特に有名な武器や逸話の事だろう。

 例えば、騎士王に名高いアーサー王なら聖剣「エクスカリバー」、ギリシャの大英雄ヘラクレスなら「十二の功業」の様な。

「メルトにも宝具はあるのか?」

『勿論あるわよ。ただ、ハクの経験もまだ皆無だし、使うのはまだお預けね』

 確かに、僕は戦闘経験が乏しい。

 使う状況を間違え、それが敗北に直結する可能性もある。

『本当に強敵と思える敵と戦う事になったら、私の宝具を披露するわ』

「分かった」

 宝具というからには、派手なものなのだろう。

 そのときまでの楽しみにしておこう。

「それで、このステータスというのは……」

『サーヴァントの能力を数値化したものね。下からE、D、C、B、A。規格外としてEXが存在するわ』

「つまり、メルトは全ての能力が最低値って事?」

『ハクが未熟なせいよ。貴方が力をつければ私も本来の霊格を取り戻すし、或いは本来以上の力も発揮できるかもしれないわ』

 結局、メルトは(マスター)のせいで本来の力がほとんど発揮できないらしい。

 悔しさも感じるが、だからこそ努力して一流のマスターになろうという気が起きた。

『そのポジティブさ、嫌いじゃないわ。私も今出来る最善を尽くしてあげるから、精一杯励みなさい』

 よし、そうと決まれば、早速特訓だ、と言いたいが、何をすればいいのかさっぱり分からない。

 辺りに何人か人はいるが、彼らは多分マスター、即ちライバルだ。

 ライバル達が本当の事を教えてくれるとも限らない。一度桜のところに戻り、聞いてみようか――

「待ちたまえ、そこのマスターよ」

 突然声をかけられた。

 寒気を感じる妙な威圧感を持った神父。

「本戦出場おめでとう。これより君は、正式に聖杯戦争の参加者だ」

 そんな異様な男性から発せられた言葉は、祝辞だった。

 完全に意表を突かれ、唖然とするが、一応祝ってもらった事に代わりはない。礼を言うべきだろう。

「あり」

「私は言峰という。この聖杯戦争の監督役であるNPCだ」

 遮られた。

 何となく気分が悪くなる。

 文句の一つでも言おうと思った矢先、

「今日この日より、君達魔術師はこの先にあるアリーナという戦場で戦うことを宿命付けられた」

 思考すらも遮られた。

 この神父、只者じゃない。

「この戦いは一週間毎に行われる。128人のマスターたちが毎週殺し合いを続け、最後に残った一人だけが聖杯に辿りつくのだ」

 トーナメント方式、それはメルトから聞いていた。

 しかし、聞き捨てならない言葉が混じっていた気がする。

「殺し、合い……?」

 これは初耳だ。

 令呪を失えば、死ぬというのは聞いたが、この戦い自体が殺し合いと?

「疑うのなら、一回戦を戦ってみるといい。勝つにしろ負けるにしろ、その現実を知る事になるだろう」

 これは嫌味だろう。

 だが、生き延びるためにこの神父の話は聞いておかねばならない。

 この戦いのルールを知らなければ、生きることもできないだろう。

「各マスターには六日間、相手と戦う準備をする猶予期間(モラトリアム)が与えられ、七日目の決戦をし、勝敗をつけてもらう」

 つまり、その六日間の猶予で、相手のサーヴァントの情報を探り、決戦に備えろという事か。

 だが、考えてみると、僕が勝ち残るという事は、相手は死ぬという事。

 生きるために一人を殺す。

 そんな事が出来るだろうか。

「それと、マスターは七日目の決戦までに二枚のトリガーを手に入れなければならない」

「トリガーですか?」

「そうだ。二枚のトリガーを集めないと、決戦場の扉は開かれない。トリガーはアリーナに設置されている。猶予期間内に探すが良い」

 どうやら猶予期間で行うことは、相手の情報収集と特訓だけではないようだ。

 トリガーを入手しなければ、そもそも決戦場へ赴く事すらできない。

 最優先にしたほうがいいだろう。

「さて、他に質問はあるかね?」

 言峰が用意していた説明は以上らしい。

 戦いの大まかなルールは理解したが、重要な事が知らされていない。

「僕の一回戦の相手は誰ですか?」

「む? ……ふむ、妙な話だが、システムにエラーがあったようだ。君の対戦相手は明日発表しよう」

 仕方ないが、明日までは分からないようだ。

 システムのエラーは気になるが、詳細を教えてはくれないだろうと確信している。

 何かと掴めない言峰神父であるが、嫌がらせが好きというイメージが早くも定着した。

「それと、マスターにはそれぞれ個室が与えられる。2-Bの教室が入り口となっているのでこの認証コードをインストールするといい」

 そう言って、神父は僕の携帯端末にコードを送った。

 個室か。休息や情報整理に使えるだろう。

「さて、これ以上長話をしても仕方あるまい。アリーナの扉を開けておいたので、今日のところは空気に馴れておきたまえ」

 入り口は予選の際通った倉庫の扉だ、と説明を受け、神父との会話を終えた。

 まずは個室に行ってみよう。

 少し休んでから、アリーナで特訓を開始だ。




レベル999なんてなかった。
ちなみにCCCのボスで一番楽だったのは真の英雄は目で殺すさんでした。

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