Fate/Meltout   作:けっぺん

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もうすぐバレンタインかぁ。何か六章章末と被りそうな気もする。
今回は短編自重しようと思ってるけど、チョコか……
メルトがホワイトチョコ体に塗って……うん……うんっ!
そんでもって「私を食べて」とk


Grimoire "Sword, or Death".-1

 

 

「……起きていますか、ローズ」

「……何?」

 何時間どころか、何日も経っている気がする。

 変化のない闇が広がるばかりの視界。そんなところに幽閉されて時間が経つと、時間の経過を感じられなくなる。

 何かやることがあるかといえば、時間を潰すために寝ているか、センパイのことを思っていることだけ。

 募る感情はただ溜まっていくだけで、一向にセンパイに告げることが出来ない。

 ああ――悲しい。悔しい。腹立たしい。会えない自分が、会わせてくれないBBが、憎らしい。

 そんな事をただ考えるだけだと思っていたのに、ふと耳に声が響いた。

 ヴァイオレットだ。ボクが思うに、エゴの中で一番愚かだと思う。素直じゃなくて、真面目すぎて、何よりもBBの傀儡であるのだから。

「大した用事ではありません。貴女の反省の度合いを確かめようと」

「反省も何も、ボクは悪い事してないし」

 この空間に拘束した彼女の言葉は、正直分からない。

 何を省みろというのだろう。センパイに会えたこと?

 それは嬉しい記憶だ。反省するものでは決してない。

「まだまだのようですね。もう暫く此処にいてください」

 それだけ言って、ヴァイオレットは去っていこうとする。

「ちょっと待ってよ、ヴァイオレット」

「何ですか?」

「センパイ、迷宮に潜ってるんでしょ? 今、誰が衛士やってるの?」

 確か、カズラは三階層で使われて、センパイ側に引き込まれたんだよね。

 そして、BBが捕まえた二人の女はその前に負けちゃったし、四階層の女でもない。

 五階層のエリ……なんだっけ? 名前も良く覚えてないけど、十五階は彼女の迷宮だよね。それが突破されたって話は聞いているし、だったらセンパイは今、六階層を攻略している筈。

 もう衛士に使えそうな女のストックはないし、だとすると……

「……」

「……ヴァイオレットでしょ」

「……そうですが」

 ノートは……アレだし、プロテアも何となく違う気がする。

 だとすれば選択肢は一つだ。

「どう? センパイは。凄くかっこいいでしょ」

「それは……主観によるものでしょう。私の意見を求めるものではないと思いますが」

「ああ、出た。言葉をぶつくさ並べ立てて、何となしに誤魔化そうとする。悪い癖だよね、ヴァイオレット」

「……そんな口を叩ける余裕があるのですね。その鎖、貴女には解けないでしょう」

 ほら逃げた。誤魔化しが下手だというか、もしくは感情表現が下手なのかな。

 どちらにしろ、その適当にあしらおうとする性質も、気に入らないことの一つだった。

 ま、鎖が解けないのは確かなんだけど。ボク相手にこんなもの用意するのも間違ってるよ。

 強力すぎるっていうか、迷宮の罠に使った方がよっぽど有効だと思うけど。

 いや、センパイが負けちゃったら困るし、これはこれで幸運だったかも。

「第一、貴女には関係ないことです。彼は此処で、食い止めますから」

「……それが出来れば良いけど。勝算はあるの?」

「決まっているでしょう。これまでのものは加減していたに過ぎないということを、彼らに思い知らせます」

 口は達者だ。でも、

「無理だね。ヴァイオレットじゃ、センパイを止められないよ」

「……どうして、そう思うのですか?」

「だって、全力じゃないもん。確かにヴァイオレットは本気かもしれないけど、全力を出さないとセンパイの全力には立ち向かえない」

 これは、もしかするとヴァイオレットも自覚していなかったことかもしれない。

 それを指摘するのは、悪い気分じゃないかな。寧ろ、ちょっとだけ心地良い。優越感に浸った感じ。

「どういう事です? 説明しなさいローズ」

「して良いの?」

 小馬鹿にしたような笑みを浮かべてやると、ヴァイオレットが苛立ったように拳を握り締める。

「しなさい。私は全力を以て、彼を止めるつもりです」

「それはBBに指示された全力でしょ。そんなの全力じゃない。BBが指定した百パーセントがヴァイオレットの百パーセントな訳ないでしょ」

「――――」

 結局、ヴァイオレットの最大の枷がそれだ。

 BBに従っているから、ボクの癇に障る存在でしかない。

「自分も縛って楽しい? 解き放ってみたら? 凄く、気持ちいいよ?」

「……そんな、事……」

 あ、否定はしないんだ。

 BBに束縛されているって自覚はあるんだね。

「最後だし、未練はないようにしないと。強制はしないけどね――ノート」

「――呼びました?」

「……いつから、いたのですか?」

「いつからと問われれば、最初からです。ローズは良い話相手です。プロテアの精神は幼いですしね」

 ボク自身は“良い”話し相手とは思ってないけどね。

 ただ、暇潰しにはなるけど。

「それで、何の御用ですか?」

「ヴァイオレットにさ、ノートの玩具貸してあげてよ。センパイに絶対勝つために」

「おや……貴女は、センパイに負けてほしいのですか?」

「な訳ないじゃん。でも、ヴァイオレットの為になることだし。今のままじゃ絶対勝てないから、少しでも勝算がある方向に向けてあげてるんだよ」

「あら、姉妹思いで。ではヴァイオレット、一つ、貴女にお貸ししましょう」

「……」

 悩んでいるようだけど、きっとヴァイオレットは承諾する。

 してくれるのならば、ボクの目的に一つ近付く……筈。

 だよね? 期待してるよ、ヴァイオレット――そして、センパイ。

 センパイも大変だよね。あんな女の傍にいなければならないなんて。

 敵同士の愛なんて、障害ばかりだ。でも、約束するよ、センパイ。

 ボクはセンパイを助ける。そして、その後はボクがセンパイを守ってあげる。ずっと、ずっと、ずっとずっとずっとずっと。

 もう少しの辛抱だからね。それまで、頑張ってね、センパイ。

 

 

 +

 

 

 これで、ヴァイオレットのSGは二つ取得した。

 残りは一つ。それで強敵であった彼女の迷宮を遂に突破することが出来る。

 彼女は月の裏側のリソースを管理している存在だ。突破すれば、此方の有利になることは確実だ。

「という訳で、今回も誰か、サーヴァントを伴って迷宮へと向かっていただきます」

 十六階の件で、この作戦は有効というより必要不可欠に感じた。

 やはりアルターエゴは強力だ。ノートがバーサーカーを連れている以上、戦力の差は相手側に更に傾いている。

「ランサー、セイバー、そしてリップさん。お願いできますか?」

 選出されたのは、三人。

 神話と叙事詩に名を残す二人の大英雄と、メルトの姉妹であるリップだ。

「――ちょっと、ランサーとセイバーはともかく、何でリップなのよ。私と相性が悪い事、知ってるでしょ?」

「そ、そうです……メルトとなんて……」

「技術や速度に秀でているサーヴァントに加え、力に秀でている貴女がいればバランスが良い。それに、今回はヴァイオレットとの決着を付けることになるでしょうから」

 バランス。確かに、筋力の面でいえば、生徒会の――いや、旧校舎で一番秀でているのはリップだ。

 聖杯戦争の四回戦、白羽さんに教えてもらったリップの筋力ステータスはBランクだった。

 しかし月の裏側で五階層を攻略している途中、僕が本当の記憶を取り戻した頃か。

 リップのステータスが上昇している事を、白羽さんが確認したのだ。

 数値はA+。平均を遥かに超えている。あの爪で引き裂かれれば、どんな頑丈なサーヴァントでも重傷は免れない。

 言わずもがな、メルトは速度を重視したサーヴァントだ。その真価である吸収や浸透を用いた相手の虚を突くような戦法は、決定打に欠けるのが弱点だ。

 性格的相性が良ければ、二人が組めば相当強力になる。しかし、それが不可能なほど、彼女たちの仲は悪い。

「ほら、リップ。白斗君も頼りにしてるよ」

「えっ」

 と、その時白羽さんが此方を指しながら言った。

「え……あ……本当、ですか?」

「ん――ああ、うん。リップが一緒に戦ってくれれば、心強いよ」

「……わ、分かりました。一緒に、戦います」

「……何も言わないんですね、メルト」

「正直疲れたわ……天然だし、治しようがないのよ」

 リップが参戦を決意してくれた横で、カズラとメルトは何やら良く分からない会話をしていた。

 リップの引っ込み思案な性格に、二人とも思うところがあるのだろうか。

「では、三人を。それと、出来れば――ジナコさんのバーサーカーにも協力を頼みたいのですが」

『はあ?』

 唐突に話を振られたジナコが反応したことに、最早誰も驚かない。

 彼女がモニターしているのは大体分かっていたし。

『何言ってるッスか。ボクたちの事は居ないも同然、気にしないで良いって言ったッスよ。ジナコさんの新職はゴーストッス』

「気配を消すのなら実に頼もしいですね。是非力を貸してください」

『だが断る。何でボクがそんな――』

『ウィィ……ゥゥァ……』

『……え? 花嫁さん、行くッスか? でも――』

『ゥゥゥ……ゥィ……』

『……分かったッスよ。勝手に行けッス』

 苛立ちを浮かべながら、ジナコは観念したようにフランの同行を許可した。

「でも、何でバーサーカーを?」

「ランサーやセイバーの戦いによる、魔力の飛散が考えられます。ヴァイオレットは強敵です。そういった魔力も無駄にしないことが勝利に繋がるでしょう」

 なるほど……フランには、サーヴァントとしては特殊極まりないスキル、ガルバニズムを所持している。

 死霊魔術と錬金術によって作り出された、近代の英霊であるフランだからこそ持てるスキル。

 ガルバニズムは錬金術に属するフランの性質であり、周囲に飛ぶ魔力を電気に変換し、自身の力にするものだ。

 フランのサーヴァントとしてのステータスは平均より劣る。それを補うのがこのスキルなのだ。

 飛び散って無駄になるべき魔力を有効に扱えるのなら、それに越したことはない。

「では、四人を含めた六人での攻略とします。目標は六階層攻略及びヴァイオレットの打倒。良いですね、ハクトさん」

「ああ」

 ヴァイオレットとの決戦。彼女のSGはまだ一つ残っている。

 それを取得することがあくまでの最優先だ。

「では、準備が出来次第出発を。健闘を祈っています」

 何を準備することもない。

 決してこの多勢での攻略は過度ではない。

 ヴァイオレットの戦闘力を十二分に過大評価した上での態勢のつもりだった。

 しかし、それが認識不足であったことを、すぐに痛感することになる。

 そしてそこには、過小評価の後悔をより痛烈なものにする悲劇も追従していた。

 

 

 迷宮十八階。そこは、十一階を思い出す広い空間だった。

 転移をしやすくするという理由だろうか。

 いや、ヴァイオレットに限って、逃げ回ると言う手段は取るまい。

 その根拠として――ヴァイオレットはすぐ正面に立っている。

「――良い判断です。予測していたのか、或いは此処で私を討伐するつもりだったのか。どちらにせよ、その判断は間違っていません」

 普段通りの、抑揚の無い淡々とした声。

 どうやら、ヴァイオレットもまた、僕たちと同じ決定をしたらしい。

 即ち――この場での決着。

「前の階で表出したSGを、私は認めません。故に、貴方たちはこの階に来る資格がない。無断で踏み入った侵入者は、排除します」

「ッ――」

 その戦意は、確かなものだった。

 隙なんて存在しない。ヴァイオレットはサーヴァントたちを順に確認するように見て――フランを見据えて止まった。

「貴女がいる事は想定外でした、バーサーカー」

「……ゥゥ」

「どう繕っても平均以下でしかない貴女が、大英雄と轡を並べるとは」

 ヴァイオレットは、決してフランを馬鹿にしているわけではない。

 冷静にステータスや総合した戦力を把握した上で、判断をしているのだ。

 それに対して、フランは不機嫌そうに呻る。

「何か異論があるというのなら、その手で示しなさい。貴女のような怪物が、私に勝てるのならですが」

「怪物か。だが、それはお前にも言えることだろう。その身に怪物を宿した欲心(エゴ)よ」

 怪物。その単語に更にフランの呻りが大きくなるが、それを止めたのはランサーだった。

「たった一つの体。それに幾つの怪物を記している?」

「……やはり貴方は危険ですね。私の性質を、一目で見て取りましたか」

「ランサー、どういう事なんだ?」

「言葉の通りだ。アルターエゴは女神の集合体と聞いたが、その中に奴は怪物性を所持している」

「ご明察です。それが私の宝具。そして、私の一部である、メリジューヌの力」

「メリジューヌ――」

 フランスに伝わるとある伝承に登場する半人半蛇かつ竜の因子も持つ女性。

 そのルーツはケルト神話の女神に遡るとされる。

 ならば、メリジューヌが女神として定義されることもあろう。メリジューヌ――それが、ヴァイオレットに組み込まれた女神の一柱。

「メリジューヌが持つ力は、存在を否定された怪物性。あらゆる伝説に残る怪物は、(メリジューヌ)の蔵書に組まれています」

 ヴァイオレットの腕から、繊維が離れていく。

 彼女を守るように前に集まり、形を成していく。

「体を魔力へ。魔力を、また体へ。ある時は天馬、ある時は竜。そしてある時は、狂人の作りし怪物」

 セイバーもランサーも、メルトもリップも、あくまで受けの態勢だ。

 相手の出方を伺うように、武器を構えるだけ。

 しかし、フランは違う。何か不吉を察したように、

「ゥァアアアアアアアアアア――――!」

 メイスを構え、突っ込んだ。

「来なさい、フリークス。そして己を省みるのです。発動せよ――『紐解かれし獣の蔵書(メイドメリジューヌ)』」

 解放された真名。発現した現象は、接近したフランを迎撃した。

 繊維で紡がれた新たな体は、人型。

「ゥゥッ……!」

「あれは……っ!?」

 同じだった。味方として、一緒に戦ってくれているサーヴァントと。

 完成された容姿と花嫁衣裳は理想の体現。

 目は虚ろで、何も映していない。それだけならば、まったく同じといっても良い。

 だが、決定的に違う点が一つ。

 その理想が穢れていたのだ。傷つき、汚れ、継ぎ接ぎは鮮明となり、華やかな衣装は黒ずんでいる。

「貴女の怪物性。英霊ではなく、怪物としてのフランケンシュタイン。伝承に残る、穢れた醜い怪物です」

 それ以外の全てを排して、怪物だけを残す。

 存在の怪物性だけを再現し、体から切り離した魔力で構成することで召喚される特殊極まる使い魔。

 それが、宝具『紐解かれし獣の蔵書(メイドメリジューヌ)』の力。召喚されたのは、怪物しか残っていないフラン。

「ゥゥッ……ァアア……ッ!」

「フラン!」

『花嫁さん!?』

 生まれるべきではなかった。しかし誕生してしまった狂気の産物。

 それは怪物ではない。しかし怪物となってしまった悲劇の産物。

 一つの物語に語られる、強制された役割を全うできなかった存在。

 そう。それが生まれたのは、十一月の物寂しい夜の事――




紐解かれし獣の蔵書(メイドメリジューヌ)
魔力を体から切り離して、怪物に再構成する宝具。
三章の天馬とか竜とか、前話の竜の首もこの宝具によるもの。


策士ヤンデレこええ。書いてて自分で引きました。
え? 前書き? いえなんともありませんよ。
ギリギリのところで逃げきっt

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