Fate/Meltout   作:けっぺん

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水着回(前編)。
始終章末短編とかその辺のノリで見てくだされば幸せになれると思います。


Seaside Red Zone.-2

 

「うんうん、お似合いですよセンパイ。さすがBBちゃん、良いセンスですね」

 迷宮十七階。そこは、BBによって作られたビーチだった。

 青い空、白い雲。ありきたりではあるが、これ以上に海に映える色はない。

 踏み締める砂は太陽の熱を受けて焼けるような熱さになっている。

 波の満ち引きを見ているだけで、幾らでも時間を潰せそうだ。

 無論、これらは“造られた”ものだ。しかし、これほど再現を出来るBBの技量には驚かされる。

 本物の海を見たことがないからこそ、感動は小さいものではなかった。

 さて、それは良いとして、だ。

「……なんで、BBも水着なんだ?」

「え? なんでって、センパイであそ――センパイと遊びたいからに決まってるじゃないですか」

 ……うん。「で」と「と」、一文字変わるだけで随分と意味合いも変化してくるものだ。

 普段通りの服装のヴァイオレットと違い、BBはこの海に相応しい服装になっていた。

「BB、あまり羽目を外しすぎないように。この階のルールは、貴女にも適用されますから」

 そんなヴァイオレットの注意を意に介した様子もなく、BBは飄々としている。

「それで、どうですかセンパイ?」

「え? 何が?」

「水着ですよ水着。どうですか? 何かこう……くるものがあります?」

 くるものというのが如何なるものなのかは置いとくとして。

 言いながらポーズを決めるBBは今、黒いビキニを着けている。

 特徴といえば、背中に付いた悪魔の羽か。

 大人びたデザインが、BBのスタイルを否応にも主張している。

「うん、似合ってるよ」

「月並みですねー。ま、センパイにそんな機転は求めてないですけどっ」

 地味ながら確実に心を抉る一言だった。

「お待たせしました、ハクトさん」

「レオか……済んだみたいだね」

「ええ、問題なく」

 先程まで僕も居た、男子更衣室と書かれたプレハブ型の建物から水着姿のレオが出てくる。

 サーフ型の水着、上半身には薄い上着を着込み――何故その姿に、王の雰囲気を感じるのだろう。

「王よ! 何故私があれを纏ってはならないのですか!」

「モラル的に危険だからだろう。お前と言えど、していい格好とそうでない格好がある」

「ユリウス、貴方まで……!」

 続けて出てきたのは、コートを脱いで薄着になったユリウスといつもの鎧姿のガウェインだ。

 ユリウスは泳ぐ気がないらしく水着に着替える事もなかったが、問題はガウェインだった。

 BBが用意した彼の水着があまりにも……だったからだ。

 それの着用を止めるべく、レオは時間を費やしていた。

「第一、私の何が危険なんですか! この場を纏める大人として尽力し、そのついでにミス・リップらとの児戯に興じようというだけなのに!」

「ガウェイン、貴方は大人しくしていなさい。令呪は使いません、良いですね?」

「くっ……………………我が君、畏まりました」

 長い長い沈黙の後、苦悶を押し殺したようにガウェインは頭を下げた。

 レオは普段の命令に加え、令呪という単語を強調させることで重みを持たせている。

「ぬはははは! 行くぞ少年! モーゼの如く、海を割って見せよう! お主も産まれた海に帰るがよい!」

「無理に決まってるだろおっさん! 後、僕の故郷は海じゃない!」

「おお、本当にしょっぺえや。旦那は、海って入ったことあんのか?」

「随分昔だがな。今は見ているだけで十分だよ」

 既に、男性は揃っている。

 セイバーとランサーは、特に理由もなく作られている消波ブロックの上に座り、何かを話している。

 両者の格好も変わりない。英霊の水着姿というのもシュールだろうが。

 強いて言えば、アーチャーだ。森の狩人はその顔のない王(マント)を脱ぎ、水着を着て不思議そうに海の水に触れている。

「完全にチャラ男ですね」

「聞こえてんぞ王様」

 狩人という雰囲気の無くなった彼に対して、真っ先に出てくるであろう感想をレオが述べる。

 というより、軽い性格を知っている以上そんな言葉しか浮かんでこない。

 アーチャーは不満げだが、自覚はあるのか否定はしなかった。

「――で、ありすたちはまだかい? 右の人差し指が疼いて仕方ないのだが」

「キャスター、お前も黙っていろ。蔑視はされたくないだろう」

「彼女らの視線なら熱くても冷たくても構わないがね」

 スーツ姿のキャスターは、何処から持ってきたか、カメラを構えて女子更衣室と書かれた建物を凝視している。

 爛々と輝いているように見えるその目は、自身の幼い子供に向ける目そのものだ。

 手に持つカメラも、子供の写真を撮る親なんて幾らでもいるだろうし、なんら不思議ではない。

 だが、キャスターはサーヴァントである。ありすとアリスの親のような立場とはいえ、サーヴァントである。

 しかも、大の大人が女子更衣室に向けてカメラを構えている――この場で最も参考にしてはいけない大人という危ない絵がそこにあった。

 溜息を吐いて視線を動かすと、そこにはBBとヴァイオレットを除き、唯一更衣室の外にいる女性――ランルー君とそのサーヴァントがいた。

「ランサー、アレ見テ。オサカナガ沢山泳イデルヨ」

「うむ。心安らぐ景観だ。妻はどうだ?」

「ウン、トッテモ綺麗。オサカナ、美味シイカナ?」

「あれは術式で再現されたものだろう。食べることは出来ぬと思うぞ」

「ムーンセルの七つの海から直接取り寄せたお魚ですから、食べれますよー。鮮度抜群、栄養抜群です」

「暫し待つが良い妻よ! あの魚、一匹残らず今晩の夕食に飾ってやろう!」

「イエーイ」

 普段通りの格好で、普段通りの会話をしていた二人にBBが一つ情報を投げ込んだ途端、ランサーは海に飛び込んだ。鎧で。

 鎧の重さがあるとか、塩水に鉄を触れさせて良いのかとか疑問はあるが、楽しそうだし放っておこう。

 戦闘不可能のルールが設けられている以上宝具も槍も使えない。ならば手掴みしかないのだ。

「賑やかですねー。これも素晴らしいビーチのおかげ、さすがは私です」

「ああ……改めて、BBを凄いと感じる」

 レオとガウェインを封殺するほどの強大な戦闘力。

 そして、ルールをも改変できる全能さ。迷宮の自由な構築。

 こうした謎のイベントを作るのも、余裕の表れか。穏やかな雰囲気の空間の裏側に感じる脅威は、小さなものではない。

「そう、ですか……? ま、まあ当然です! BBちゃんは天才なんですから!」

 得意げに胸を張るBB。それを見て、ヴァイオレットは何やら複雑そうな表情をしていた。

「お世辞バリバリのセンパイだけど、今のはまあまあ嬉しかったですよ」

「そ、そうなのか?」

「はい。ですので、特別にこれくらいは許可してあげますっ」

「え――え!?」

 言うが早いか、BBが抱きついてきた。

 地肌のすべすべとした感触。水着だからこそ、その感触はより鮮明に伝わってくる。

 その中でも、()()から、今までに感じたことのない厚さというか、弾力というか、ともかく『凄い』何かを感じる。

「ちょ、BB――!?」

「どうしたんですか? せっかくのBBちゃんサービスなんですから、堪能しても良いんですよ、えっちなセンパイ」

 水着の布越しに感じられる温かさ。そして、外から感じられる複数の生温かさ。

「ほほう。敵に対してもお構いなしとは、さすがはハクトさんです」

「レオ、止めておけ。紫藤の生まれ持った呪いのようなものだ」

「ふむ。美貌の呪いを持った騎士の話なら知っていますが、ミスター・シドウもそれに類するものですか。顔は頗る平均的に思えますが……」

 しかし、外からのそれは殆ど気にならない。

 それ程までに、二つの圧力は強大だった。

 

「――――ハク?」

 

 そしてそんな兵器すら気にならなくなる程の、底冷えする絶対零度の恐怖が、この世界には存在する。

 これは事故だ。そんな事は関係ない。事故に遭うのが悪いのだ。

 意図的ではない。そんな事は関係ない。偶然を呼ぶ方が悪いのだ。

 何を言おうと、大体そんな感じで返されるというのは目に見えている。

 数秒。若しくは十数秒。或いは数十秒。時が止まった。

 太陽の熱気は、いつの間にか冷気に負けてしまったらしい。

「何してるの? 私というものがありながら……」

 声がいつもより、一オクターブほど低い。一瞬で鳥肌が沸き立ち、冷気で体が震える。

「あらメルト、嫉妬? どんなに望んでも、私みたいな理想の体(ナイスバディ)にはなれないわ」

 そして、その氷の刃が僕に全部向かってくることなどお構いなしに、BBが煽る。

 メルトが気にしている事堂々の第一位にランクイン――SGに存在しないことが奇跡な程だ――する事柄の指摘によって、更に気温が下がっていく。

 冷気の中心は間違いなく背後なのだが、正直、怖くて振り向けない。

「……」

 誰も喋らない、沈黙の世界。

 そんな中で、背中に何かが触れた。

「ひっ――」

 情けないだろうが、声が出てしまうのは仕方ないのだ。

 しかし、今触れたのは一体――考えている内に、背中に触れている何かの面積は広がった。

 正面から感じられる豊満な圧力に比べて、背後から感じられるのは慎ましい、慣れた感触。

「……BBより」

「え?」

「BBより、私の方が良いわよね……?」

 普段のメルトの加虐体質など微塵もない。

 どうにも、その様子に今の状況への申し訳なさを感じさせる。

「じゃあ、センパイに決めてもらいましょう! センパイ、私の究極な体(ナイスバディ)とメルトの凡庸な体(バッドバディ)、どっちが良いですか?」

「ハクはそんな肉の塊に興味はないのよ」

 どっちの体が好みであるかは一先ず置いといて、体の前後で言い争うのはやめてほしい。

「さあ、センパイ――!」

「ハク――!」

 どう答えてもバッドエンドの予感しかしない。

 何が起きても、メルトが好きであることに変わりはないのだが、かといって今回の論点はそれではない。

 人としての好みではなく、体の好み。

 決して豊かであるとは言えないメルトの体つきは、嫌いな訳ではない。

 しかしBBのように、豊かに実った体つきが嫌いであるといえば――それも嘘になる気がする。

 では、どちらが好みと言えるのか。それの答えを出すのには、短くない時間が掛かりそうだ。

「――あ、ほらやっぱり。先にメルトちゃん行かせて正解だったでしょ」

「本当ね。やっぱり危険分子として封印した方が良いんじゃないかしら」

「……フラグブレーカーの製作を、本格的に考えましょうか」

「紫藤さん……貴方は、本当に……」

「王者ゆえの苦労ですね」

「あっはははは! さすが坊やだ。隅に置けないどころか、常にど真ん中だね!」

 答えの出そうにない考えは、新たな第三者の登場によって遮られる。

 そして何となく、新たな“刃”の登場も直感で察した。

「ハクトさん……! わ、私だって……!」

「は、ハクト! 貴方がどうしてもっていうのなら……あ、アイドルのお肌(ドラゴンスケイル)に、触れさせて、あげても……」

「え、えと……私は……いえ、でも……」

「ねえ、アーチャー。あのお姉さんたち、何をしてるの? 混ざった方がいい?」

「それは汝の自由だが……あの小僧に寄り付く理由が分からぬのならやめておいた方がいい。それでは触れることも出来ぬだろうからな」

「ねえあたし(アリス)、あれ、何ていうか知ってるわ。女たらしって言うの」

「物知りね、あたし(ありす)。あんな人になっちゃ駄目ね」

 いや、これ以上は駄目です。

 色々と駄目なんです。もう。

「はーい。二名追加入りまーす。さ、行っといで、リップ、エリちゃん。カズラちゃんはどうするの?」

「……あ、う……いえ、遠慮しておきますっ。ハクトさん、困ってますし……」

「やばい、良い子すぎるこの子」

 ああ、煽らないでくれ、白羽さん。

 アタランテも、ジャックの説得だけじゃなくて、その前の二人を止めてもらいたい。

 そしてありすとアリス、陰口が聞こえている。

 というか、駆けてきてる。多分二人の足音。ガシャガシャと音がするのは、気のせいだろうか。

「……メルト、BB」

「何かしら」

「何ですか?」

「離れて」

「イヤ」

「イヤです」

 この状況下で消えたと思っていた加虐体質は復活したらしい。

「と言いますか、センパイが早く決めればそれで済む話なんですよ。『BBちゃんに僕はメロメロだよ』、これを言うだけで開放されるのです」

「ハクに変な刷り込みしないでくれる!? リップ、エリザベート、近寄らないで!」

 ようやく全員が揃って間もない頃に訪れた、混沌(カオス)の渦中。

 何をするのも無駄だと分かり、僕は考えるのをやめた。




今回登場した水着一覧
ざっと二行で。一行目はゲーム表記と思ってください。

『男子スクール水着』
学校指定の普通の水着。地味な少年に良く似合う。
ハクの水着。CCCの男子版水着と同じ。

『ぶらっくびゅーてぃー』
あざとさ全開子悪魔デザイン。BB曰く自信作。
BBの水着。EXマテに同梱している画集、40Pのデビル下着からのインスピレーション。

『わくわくすいまーうぃずはーうぇい』
王だけが許される水着ファッション。
レオの水着。ハーウェイに受け継がれた王の威光。

『休息時間用衣服』
過ごしやすい薄着。暗殺者に有意義な束の間を。
ユリウスの服装。EXTRA七回戦状態でチラッとコートの下に見えるアレ。

『まうんとおぶがらてぃーん』
尊く示すは星の聖剣、中心の輝きは擬似太陽の如く。
ガウェインの水着。アレ過ぎてお蔵入り。あえて深くは語るまい。

『しゅうれんみずぎ』
修行に水の抵抗は致命的。極限まで無駄を排した修練水着。
ガトーの水着。割と少ないリソースで作られたふんどし型。

『ますたーじーにあす』
ワカメに装備させるとHPが二倍になる。
慎二の水着。多分ハクと同じような感じ。

『しーおぶしゃーうっど』
森から解放された狩人のための、海用ファッション。
緑茶の水着。派手な柄のサーフ型。チャラ男。

BBちゃん以外の女性陣は焦らすんですよ。
なんかそこかしこに惚気が混じりこんでますね。爆ぜろ。

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