Fate/Meltout   作:けっぺん

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皆さん、いよいよお別れです!
地球を守るサーヴァント連合は大ピンチ!
しかも、INOSHISHI最終形態に姿を変えたアタランテがアキレウスに襲い掛かるではありませんか!
果たして、全人類の運命や如何に!
英雄武闘伝アキレウス最終回『アキレウス大勝利! 希望の未来へレディ・ゴーッ!!』

書きたくてしょうがなかった。後悔はしていない。
外典五巻及び本作にはほぼ関係ありません。


Foolish World Manager.-2

 

 

 咆哮はただ狂気に呑まれただけのものではない。

 そこに邪悪が孕み、威圧感よりも恐怖が先に来る。

「ッ、ハク、気をしっかり持って」

 同じく狂気に呑まれかねない咆哮だが、メルトの一言でどうにか正気を取り持つ。

「すみません。ご挨拶で驚かせてしまうとは。ですが、ご安心を。鎖は繋いでありますゆえ、それを解かない限り襲い掛かることはありません」

『ノート――何故、バーサーカーを……確かにバーサーカーは消滅しました。此処にいるのは……!』

「あら、消滅ですか。では、その瞬間を貴女は見たのですか? ラニ=Ⅷ」

 その瞬間――バーサーカーの消滅。

 限界を超えて尚宝具を使用し、ノートに一矢報いようとしたが、及ばなかった。

 しかし、あの瞬間宝具の一撃の爆発によって視界が覆われていた。

 消滅を、直接見たわけではない。

『ま、さか……』

「私の『女神の繰り糸(エルキドゥ)』は理を紡ぐ女神の泥。確かにバーサーカーは死にました。これは不足した構成要素を泥で補った人形。バーサーカーゆえに感情がない分、創りやすかったです」

 あの場で、バーサーカーは果てる。それが彼にとっても、主を庇っての本懐だった。

 それを、ノートは否定したのか?

『っ……!』

『ノートアンタ……英霊の誇りとか知らないの?』

「知ってますとも。心から素晴らしいと思います。狂戦士とはいえ、その勇ましさは健在でした」

 ノートの言葉は、確かなものなのだろう。

 それでも、尚――

「――それが何か? 誇りを持つ人形が悪いと? 人形が他人を想って悪いと? 最古の神話に至り、この泥で作られた人形がいるのですよ」

『そういう問題じゃないのよ! ノート、バーサーカーはラニのサーヴァントよ!』

「今は違います。勇壮な、私の人形です」

 ――微かな、脈動。

「その辺りにしなさい、ノート。そのバーサーカーの出番はありません」

 しかし、それが確かなものになる前に、ヴァイオレットが前に出てくる。

 そうだ。ここはヴァイオレットの迷宮だ。

 彼女の秘密を探さなければ。バーサーカーの登場によって忘れかけていたが、僕たちは今逃げられない状況なのだ。

「これで分かったでしょう。私たちと貴方たちの力の差が。だから、大人しくしなさい」

 まずは、ヴァイオレットのSGを探し、旧校舎に戻らなければ。

「……僕たちを、どうするつもりだ?」

「どうもしません。このまま、貴方をBBの管理下に置くまでです」

「……その後は……?」

「私の知ったことではありません」

 素知らぬ表情のヴァイオレットだが、依然としてその言動に五停心観は動いている。

 ……分からない。あまりに大きな事がありすぎて、考えが回らなくなっているのか。

「――まあ、基本は私が担当することになるでしょうね」

「……え?」

「BBの副官として、私は存在しています。BBが中枢を目指しているのならば、その間、私が貴方たちを管理します」

 理屈としては、合っている。

 だが、手に感じる脈動は大きくなった。

 何かがある。先程よりも、SGは鮮明になった。

「――悪いけど、そうなる訳にはいかない」

「逃がしませんよ」

 反骨精神は、決して許されない。

 思考が次へと移行するよりも先に、ヴァイオレットの腕は無数の繊維に分離していた。

 そして、

「ッ――!?」

「ハク!? ッあ――!」

 一呼吸の瞬間には、それらが雁字搦めに巻きついていた。

 動けない。まったく行動を許しはしない束縛。

 メルトも、その繊維の一部を相手にして動きを制限されている状態だ。

「くっ……!」

「これは決定事項です、貴方は私が管理する。それが、貴方にとっての最適解であり、BBの望み、私の望み」

「っ……ヴァイオレット、の……?」

「そうです。貴方はすぐに知ります。それが幸福であることを。縛るくらいが丁度いい。私が全てを支配して、ゆえに永遠の幸福を約束します」

 ――縛る。

 何気なくヴァイオレットが漏らした単語に、遂に確信した。

 ……SGは分かった。でも、縛られた状態では、動くのもままならないか。

 ……いや。

「そう。ならば、時折お借りしても?」

「駄目です。貴女であっても、それは許可できません」

「……そう言わず、ちゃんと宝具を質に出しますので」

「駄目です」

「ちょっ……とっ! ハクは私のものよ! 勝手に争ってるんじゃないわ……よっ!」

 脈動はより強く、際限なく、断続的なものへと変わっていく。

 思えば、メルトとの交流――そしてカレンの存在がなければ、こんなことは出来なかったかもしれない。

 どうにも感謝は出来ないが、どうやらまだ奥の手を使わずとも良さそうだ。

 ヴァイオレットは余所見をしている。今が好機だ。

「――cure_seal(解除)

「な――」

 縛られている状態、即ち、これはれっきとした状態異常だ。

 ヴァイオレットが感づく前に、術式を紡ぎ終える。

 巻きついていた繊維をすり抜けるように脱出する。

 メルトの相手をしていた繊維が此方に向かってくる。

 再び襲い掛かる繊維から逃れるべく身体強化の術式を続け様に紡ぎ、ヴァイオレットに向かい走る。

「ッ――!」

 ノートは動かない。その指示を受けていないバーサーカーも動かない。

「SGは――」

 五停心観が起動する。

 取得するべきSGは分かっている。

 そして――――分かったSGが一つだけではないという事も。

「――束縛願望!」

「う――く……ぁ……っ!」

 ラニの管理願望や、支配という関係を望む支配願望の、更に上位に位置する願望。

 無駄を許容できないからこそ、相手にもそれを強制しようとしてしまうのはラニのそれと良く似ている。

 だが上位の性質であるがゆえに――相手の無駄を許容できず、完璧にしようという精神が生まれてしまう。

 いわば、ヴァイオレットが完全であることが、このSGを生み出してしまったのだ。

「――所有欲求!」

「えっ……?」

 蒐集癖と相まって、何かを欲する気持ちが強まる要因。

 誰かが持つ何かが欲しい。それに対して積極的に動こうとする性質。

「わ、私もですか……?」

 ノートの二つ目のSGまで、一緒に抜いてしまった。

 今の状況で分かったことだが、複数人のSGは別々に感じ取ることが出来るようだ。

 ヴァイオレットの背後にあったシールドが粉々に砕け散る。ヴァイオレットとノートの驚愕は、等しいものだった。

「くっ……一体どうやって……」

「あのくらいなら……もう何度も受けているからね」

 束縛が初めてであれば、この術式を作っていなければ、もしかすると解除の手段は無かったかもしれない。

 当然、この迷宮のために準備してきたわけではない。

「何度、も……?」

「……」

 この場にいる当人が、目を逸らした。

 元々これは、拘束能力を持ったとある聖骸布への対抗策として作り上げたものだ。

 しかし、あの聖骸布による拘束中は術式の使用が出来ない状態だったと気付いたのは、術式が完成した後だった。

 結局使い道のない術式になった……筈だったのだが、こんなところで役に立つとは。

「……そうですか。やはり、真の問題児は其方だったわけですね」

「……誰が問題児よ。ハクが何もしなければ私だって……」

「……苦労しているのですね、貴方も」

 ヴァイオレットに同情の視線を向けられた。

「しかし、SGを取ったとしても私を超えられなければ旧校舎には戻れません。ノート、バーサーカーの力を借りますよ」

「……ええ。分かりました。まあ、殺しはしませんが」

 問題は――此処からだ。

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッ!!」

 ヴァイオレット、ノートに加えてバーサーカーが相手となると、僕とメルトだけではどうしようもない。

 ノートとバーサーカーの存在は完全に予想外だった。

 予め作戦を立てていなければ、それこそ脱出は不可能だっただろう。

 武器を振り上げ、咆哮しながら駆けてくるバーサーカー。

 だが、それに対する迎撃は、僕がする事でもメルトがする事でもない。

 

「――呪いに塗れるその身、抵抗も出来ぬか。真、哀しきは狂戦士のクラスよな」

 

「■■■■■■■■■■■■■ッ!!」

 バーサーカーの進行が唐突に停止し、音速を超えて飛んできた“それ”を咄嗟に武器を振り上げ弾く。

 僕たちの後方から二、三と続けて迫る攻撃に、バーサーカーは後退した。

「矢――。まさか」

 ヴァイオレットの驚愕に応えるように、その矢を放った射手が隣まで歩いてきた。

「――ありがとう、アタランテ」

「何、講じた策に則ったまでだ。多少、急いたかも知れんが」

「いや、僕やメルトじゃ、あのバーサーカーの相手は不安があるから」

「……まあ、そうね。適切だったと思うわ、アーチャー」

「そうか。ならば良いが」

 アタランテ。BBの側から此方に付いてくれたサーヴァントの一人。

 ヴァイオレットという強敵を相手にすべく、生徒会が取った作戦。

 それが、他のサーヴァントの潜入。

 遠距離攻撃が得意なアタランテを抜擢し、危険があれば、援護をしてほしいと頼んでいた。

 ヴァイオレットの表情からして――気づいていなかったのか?

 衛士は迷宮内部の状況を詳細に把握出来るものと思っていたが……

「……そんな、何故……」

「あら、気付いていませんでした? それでは足を掬われると言ったでしょう。“既にいた”とヒントを出した筈ですが……」

「ッ……こういう事は報告しなさいっ……! 私としたことが、こんな見逃しを……」

「執心は良い事ですけど、慢心へと繋がります。かつての教訓ですね」

 ノートは気付いていて、しかし黙っていたのか……

 どうやら、本当にノートは「作品」を見せに来ただけのようだ。

 しかし、だからと言っても此処を見逃す道理はない。

「さて。それで、どうします? 彼女諸共、止めますか?」

「当然です。無断で進入した以上、容赦はしません」

 言って、ヴァイオレットは眼鏡に手を掛ける。

「ッ――!」

 この場でその行動を起こす理由はただ一つ。

 彼女の持つ特異な能力、凍結の魔眼――!

「露骨な行動だな、ヴァイオレットよ」

「なっ……!」

 しかし、その手は迎撃に使われることになる。

 先端を尖らせ、鞭のような形態に変化した腕が振るわれ、上空から落ちた光の矢を打ち払った。

「見事。だが、後六射。その間に逃げる吾々を捉えられるか?」

 その言葉に上空を見ると――六つの光が見えた。一つ欠けているが、その柄杓のような並びは北斗七星のようだ。

 欠けた一つは、今ヴァイオレットに放たれた矢か?

 とすれば、あの星はアタランテの攻撃――宝具の一つだろう。

 真名解放を伴ったものではない。あくまでもあれは、牽制のための攻撃だろう。

「……無論、そのつもりです。ノート、バーサーカーを」

「承知しました。アーチャー、貴女の矢は確かに強力ですが、私たち三人を相手に出来るものですか?」

「当然だ。自身の矢を信じずして、何が弓兵(アーチャー)か」

 アタランテの言葉は自信に満ちている。

 確かに、今の矢だけではアタランテの実力は測れまい。

 宝具として分類されるからには、勝利を掴み取るに足る効果を持っていても一切不思議はない。

「なるほど、これが英雄なりの矜持ですか。それを踏み躙る趣味はありませんが、ヴァイオレット、貴女はどうです?」

「私に変態的嗜好(フェティシズム)はありません。ですが、力の差を見せ付けることに異論はありません」

 悪寒――このままでは危険だ、本能が告げる。

 魔眼から逃れ、脱出に至る道。それを思い描き、口を開く。

「脱出する――ジャックッ!」

「――わかった。霧の夜に、ご招待」

 早く脱出しなければならない、そう判断し、アタランテともう一人迷宮に潜入していたサーヴァントを呼ぶ。

 瞬間、霧が少しずつ出てきた。

 ヴァイオレットたちが行動を起こすまでに周囲を覆うことは不可能だ――なんの補助もない、通常の状態であれば。

「使います、青子さん――(blue)――!」

 意思のないものの時間を加速させる、聖杯戦争決勝戦、レオとの戦いで勝利への最後の一手になった術式。

 幾度となく助言をしてもらった女性から授けられた、時間操作の秘奥。

「な――!?」

 発生し始めたばかりの霧は術式によって加速し、瞬間的に立ち込める。

「っ、ヴァイオレット! この宝具を!」

「くっ……!」

 霧で視界が埋もれる直前、ノートがその腕から布を取り出したのが見えた。

 切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)の宝具、『暗黒霧都(ザ・ミスト)』によって発生する霧は標的と定めた相手に対して、肺を灼き喉を潰し目を侵す公害となる。

 それに対して取り出した布だとすれば、状態異常への対抗策となる宝具だろう。

「お兄さん!」

「ジャック!」

 複数が混じったような声による呼ばれ慣れない呼称に一瞬驚くが、今はそれどころではない。

 後は、三人を潜り抜けて走り抜けるだけ。

 霧の中ならば、それは決して不可能なことではない。

「小僧、サーヴァントの手を取れ!」

「あ、ああ!」

 アタランテに左手を捕まれ、もう片手でメルトの腕を掴む。

 アタランテの左手はジャックに握られており、それはアタランテが先導するという意思表明だった。

「ヴァイオレット。私の持つ災厄は汝の怪物性にも劣らんぞ」

「――何を……」

 霧の向こうからヴァイオレットの声がする。

 何のことか分からない。そんな疑問の声にアタランテは応える代わりに獰猛な笑みを浮かべる。

「見よ、集いし英雄を幾多滅ぼした魔獣の牙を! ギリシャ全土に不和を齎した災厄の牙を! 来たれ、宝具――『諍いの戦利品(ドロモス・カリュドーン)』!」

 アタランテの真名解放により、その肩に巨大な黒い塊が顕現する。

 尖った棘のような毛に覆われた、不気味な皮膚。

 獣に感じられる気高き獰猛さといった要素とはかけ離れた、純粋な悪逆のみで鍛え上げられた太い牙。

 双眸に光は点っていない。それは、その魔獣が既に討ち取られた存在であることを示している。

「あら、それは……」

 これが、カリュドーンの猪。アルテミスの怒りによって放たれた、恐るべき獣。

 功績(くび)を巡ってギリシャ全土に諍いを起こし、更なる災禍を齎した魔獣。

 神話に曰く。

 時にその牙によって、時にその首を狙おうとした槍の誤射によって、多大な犠牲者を出したカリュドーンの猪。

 狩りに終止符を打ったメレアグロスは、最初の傷を与えた愛しきアタランテにその魔獣の皮を授けたという。

 淡い恋心から始まり、しかしその不和はメレアグロスの死に繋がった。死して尚災厄の種となった獣の皮は、その所有者たるアタランテの宝具に相応しい。

「往くぞ! 災禍の猪突、捉えてみよ!」

 凄まじい速度による猛進。それが、この宝具の効果。

 果てから果てまで刹那の間に走りきるような、速度だけを求めた宝具ではない。

 進路上の悉くを破壊し、不和を顕現させる魔獣の突進を速めるのは、アタランテが本来持つ俊足だ。

「今だ、アサシン!」

「うんっ――!」

 その速度は僕が感じとれるものではない。

 だが、ノート、バーサーカー、ヴァイオレットの傍に差し掛かった瞬間、そんな声が聞こえた。

「――――ッ、させません――!」

 霧の中での、瞬きよりも早い一瞬の出来事。

 何があったかも分からないまま、霧を突き抜ける。

「アーチャー……! 宝具、効かない……っ!」

「宝具同士の激突があった、仕方あるまい。このまま下りるぞ」

 会話から察するに、今の瞬間、ジャックは自身のもう一つの宝具を開帳したのだろう。

 だが、それは相手――ノートの宝具によって相殺された。

 ジャックの切り札は、それこそ一撃必殺だ。だが、防がれたのならば深追いは禁物。

 霧が遠くなっていく。階段を抜け、次の迷宮、十七階に下りてきた。

『帰還術式、発動します!』

 予め組んであったらしい術式が発動される。

 どうやら、勝利を収めたようだ。ヴァイオレットたちが来るよりも先に、旧校舎へと転移した。




諍いの戦利品(ドロモス・カリュドーン)
アタランテの宝具。英雄をも殺すINOSHISHIの毛皮を召喚する。
直線状を高速移動出来る。破壊力抜群で、ルート上の敵を低確率で混乱状態にする。
Apocryphaオンライン構想時の宝具。外典が書かれるに至ってお蔵入りされたので再利用した。
暗黒霧都(ザ・ミスト)
ジャックの宝具。猛毒スモッグを発生させる。
目を開けていたり息を吸うだけで焼けるような痛みが襲い、一般人なら一分もあれば死亡する。
サーヴァントは死にはしないが、ステータスが低下する。脱出には直感等の補助が必要。
スモッグには指向性があり、ジャックの判断で影響を起こす人物と起こさない人物を判別出来る。


黒化はノートの泥の影響でした。万能すぎるこの子。
そして、ヴァイオレットのSGとノートの二つ目のSGが判明。
待たせたな。次回は多分水着だ。前段階で終わるかもしれないけど。

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