東方の明るい二次創作なんですけど、ざっと検索してみた限りネタの被りもなさそうだし良い感じ。
こっちの息抜きにってのも考えたんですけど、そしたらこっちの完結が一年後くらいになりそうだし。
かといって完結してからってのももどかしい。どうしたものか。
「ハクトさん……先程のは?」
「僕の決着術式だ。今までは使えなかったけど……」
レオの声色は重かった。
予想していた事態ではあるが、生徒会室に戻ってすぐ、術式について聞かれた。
レオに真実を告げないでおくという方針の上で、決着術式の存在自体についてはさほど引っかかることでもない。
「なんで今まで使えなかったの?」
「……未完成だった術式を、実戦では使えないから」
多分、違和感を感じているメンバーも少なからずいるだろう。
だけど、これが僕に出来る弁明の限界だ。
「個室でハクは術式の研鑽に励んでいたわ。昨日の
メルトが回答を手伝ってくれなければ、僕はどこかで答えに詰まっていただろう。
少々無理矢理すぎるでっち上げの理由だが、この際構わない。
心は痛むが、それでも、僕にはやるべきことがあるのだ。
「しかし……何故バーサーカーの宝具を? 威力はともかく、あれは間違いなく――」
「それが、ハクの決着術式よ。絆から能力を再現し、魔力で構成する可能性。ハクらしい術式だと思うわ」
「だからって、宝具の再現って……」
これは、僕も答えようがない。
どんな仕組みで宝具の奇跡さえも模倣出来るのか、僕自身分からないからだ。
だが、この力は聖杯戦争においても大きな助けとなっていた。
バーサーカーの『
この二つの宝具が再現できたからこそ、レオに勝利できたといってもいい。
「……習得の経緯は良いとして。シドウ君、それは、どんな宝具も使用出来るのかね?」
「それは……無理だと思います。可能性はありますけど、今の段階では……」
ダンさんの疑問で僕も不思議に思い、少し検索をしてみる。
『
バーサーカーの宝具を使用できたのは、彼のマスターであるラニとの絆が関係している。
聖杯戦争において、ずっと力を貸してくれた彼女の従者。その関係性により間接的に絆を得ているのだ。
月の裏側に来ても、どうやらそれが失われている訳ではないらしい。
ラニにとって記憶が存在する決勝戦一日目まで。その時点で、バーサーカーの宝具を使用するに必要な値までには達していたということか。
しかし、まだ謎が多いか。
……もう少し、この術式について把握をしておくべきだった。
それを今考えていても、仕方ない訳だが。
ともかく、現在使用できる力についてくらいは把握しておかなければ。
決勝戦で使ったように、ランサーの宝具は――使用可能だ。
後は……アサシンか。
しかし、アサシンの宝具『无二打』は彼の圏境と卓越した中国拳法スキルを利用した宝具。
それらまで含めて一度に再現は……現状難しいか。
さすがに、英雄の経験値そのものを模倣するのはこの術式でも可能かどうか分からない。
となると――
「とりあえず、ラニのバーサーカーの宝具と、凛のランサーの宝具は使用可能みたいです」
「ランサーの?」
当然というべきか、凛が怪訝な表情をする。
「……ごめん、理由までは分からないけど」
「なんか……謎が増えたわね」
「ハクトさん。バーサーカーの宝具が使用出来るなら、同じく私と契約したジャックの宝具はどうでしょう?」
「……ん」
ジャックの宝具……それで思い浮かぶのは、あの霧の宝具。
可能性を検索してみるが、頭には浮かんでこない。
その宝具の真髄を知らないから、という可能性も考えてみるが、思えばバーサーカーの宝具もその全てを知った訳ではなかった。
つまり、宝具についての考慮はあまり関係ないのだろう。という事は、まだジャックの宝具を使用できる域には達していないようだ。
「まだ、無理みたいだ。でも――」
そうか。月の裏側で得た絆の可能性も考えておかなければ。
バーサーカーとランサーに関しては、表側、聖杯戦争で得た絆。
なら、裏側で深まった絆で開いた可能性もあるのではないか。
出てきた可能性は――二つ。
……? そのうち、一つは名前に覚えがない。
「あと、二つ使えそうな宝具がある。一つは、リップの宝具だな」
「わ、私の……?」
白羽さんの傍に出現したリップ。何故か、頬を染めて大きな爪で口元を隠している。
「リップのか……それで、もう一つって?」
「誰の宝具だろう……真名は分かるけど、使い手が分からない」
「真名を告げても良いと思うが。表側で生き残っているのは紫藤とレオ、ラニのみ。レオはガウェインの存在を開示している。デメリットは見当たらん」
ユリウスの言葉に、全員が頷く。
誰のものかも分からない、隠すべきマトリクスをここで明かして良いものかとも思ったが、皆が納得しているなら、良いのだろうか。
「――『
「あ――」
宝具の真名を挙げると同時に、驚いたような声を出したのはカズラだった。
「カズラ?」
「はい――それは、私の宝具です」
そうか――不思議でもない。
メルトやリップも、アルターエゴという同一の性質を持ち、そして宝具を持っていた。
だったら同じくエゴであるカズラが宝具を所持していてもおかしくはないか。
「……今後サクラ迷宮を攻略していく上で、宝具を扱えるのは大きいですね。カズラさん、貴女の宝具がどんなものか、開示できますか?」
「はい。構いません」
頷くと、カズラは皆から少し離れ、その魔力を解放する。
「ッ」
突如放たれた魔力に、サーヴァントたちが警戒したように出現する。
しかし、カズラの魔力は決して攻撃的なものにならず、寧ろカズラを守るように、周囲に再び集まっていく。
「――
真名が解放されると、カズラの周囲に集まった魔力が桜と化す。
桜はまるで、炎のように激しく蠢きながらカズラを守る。
触れることは――出来ないだろう。これは……内部を不可侵とする宝具なのか?
暫くして、桜の嵐を収めると、一呼吸の後、カズラは説明を始める。
「――今展開したのは、私の周りだけですが、本質は神殿、ないし工房の内部を守る結界です。インセクトイーターの応用で、侵そうとするものを喰らう防衛本能も持っています」
守りに特化した宝具。それも盾などではなく、結界宝具か。
「ともなると……攻める一方の身としては、あまり使用の機会はなさそうですね」
「それに――宝具は模倣できてもid_esの再現が出来るかどうか……」
「……それは、現状は難しいかな」
id_esは、BBが作り出した、特定のスキルを異常進化させたチートスキルだ。
階位としては、スキルは宝具よりも下にある。
では、宝具の模倣が出来るのならばスキルの模倣も出来るのではないかと問われれば、答えはNOだ。
スキルと宝具という隔たり。何故こんな制限があるのかは分からないが、ともかく今のところ、試してみてもスキルを再現することが出来ない。
そうなると、アルターエゴの宝具は再現において格が落ちるだけでなく、それ以上の制限があるか。
まず、メルトの宝具『
これはメルトが作り出した融解の波によってすべてを洗い流し、メルト自身に還元する宝具だ。
メルトというサーヴァントを構成する女神の一柱、
彼女のid_es――メルトウイルスとオールドレインによって機能している能力だ。
つまり、宝具自体の再現は出来ても、この能力を発動させることは出来ないだろう。
次に、リップの宝具『
リップの両腕による、強い感情によって威力が上昇する強力無比な愛憎の槍。
この宝具の元になっている女神は、シグルズへの復讐のために槍を振るった戦女神、ブリュンヒルデだ。
しかし、この宝具に付随する強力な特殊能力――id_es、トラッシュ&クラッシュによる物質圧縮は女神の権能によるものではない。
確かに槍単体でも強力だろうが、真骨頂たるこの能力が無ければ対処可能な攻撃になってしまう。
カズラの宝具『
自身が活動に集中出来るように、外敵を寄せ付けず内部を守る桜の炎たる結界を周囲に張る宝具。
まだカズラを構成する女神について、詳細は知らされていないが、宝具の真名とメルト、リップの宝具の真名の共通点からして、この宝具の元になっているのは日本神話に登場する女神、
夫である
それに加えて、インセクトイーターによる絶対的な防衛能力によって、侵攻に対して正に鉄壁という性能を発揮する。
この宝具の真髄はまだ知らないが、防御能力の度合いと応用性によってはかなり使いやすくなるかもしれない。
「……ハクトさんの決着術式に関しては、今後考えていく事にしましょう。現状、謎が多すぎます」
レオの声色は、相変わらず重いままだ。
術式で宝具を再現したという異常を先に問い詰めただけで、問題はまだ残っている。
あまりにも大きい問題が。
「――ハクトさん、万色悠滞は……」
「あぁ――確かに、ここに」
五停心観に重なるように、埋め込まれた術式。
ローズの凶刃に掛かる直前に、キアラさんが渡してくれたものだ。
「……それは、元々病弱だった彼女が治療の一環として研究・開眼した密教修法よ」
「密教修法……?」
「そう――殺生院 キアラが、西欧財閥によって国際手配を受けた原因。電脳史上最大の禁忌だ」
「――」
国際手配だって? キアラさんが……?
この万色悠滞は、そこまで危険なものなのか?
「その術式は、他人の電脳に進入・交信し、管理する禁断のコードキャスト。一度進入を許せば、術者は相手のすべてを受け入れる事になります」
「元々は医療目的だったんだけど、得られる多幸感、安心感は電脳ドラッグを上回るわ。実際に、苦界――要するに、現実に戻ることを放棄するという事例も多発しているのよ」
「挙句の果てには政府高官にも流行しだしてしまってな……」
「結果、西欧財閥はこの術式を違法と認定し、キアラさんを国際指名手配としたのです」
「そう言えば――儂の国でも一時的に流行していたようだ。数年前に、一斉検挙が行われていたな」
キアラさんが作った術式が……そこまでの問題を……
「キアラさんが最後にそれを白斗さんに渡したのは、きっと僕たちに力を貸そうと思っての事でしょう。それがキアラさんの意思であるならば、使わせてもらいましょう」
レオの言葉は、彼女への信頼が篭っている。
間違いない。彼女は、最後まで僕たちの味方だった。
「今後は、彼女の力は借りれません。それに、ローズマリーが危険であることが判明しました。今まで以上に、慎重になる必要がありますね」
分かっている。
対峙していたのは僅かな間だったが、感じ取れた狂気は小さなものではない。
彼女ともいつか、本格的に戦わなければならないのだとしたら、対処をしなければならないか。
問題が多すぎる。
レオを初めとして、皆に秘密を隠し続けなければならず、それを意識していては探索に集中も出来ないだろう。
「気を取り直して、ハクトさんには十五階の探索をしてもらいます」
「分かった――」
席を立ち、扉に向かう途中――ずっと黙っていた桜と、目が合った。
「――」
何故か、怯えるようにたじろぐ桜。
取り戻した記憶――それには確かに、桜との出来事もあった。
だが、そこまで怯えられるような事はない筈だが……
「ハクトさん?」
「ああ、ごめん。すぐに行くよ」
何かあるのならば、後で話をすれば良いか。
とにかく今は、迷宮に向かおう。無事SGを取って、休憩の時間にでも声を掛けてみよう。
今回は主にハクの決着術式について。既に嘘が苦しい。
そして、カズラの宝具が判明。百花繚乱の読みが後に来る新鮮さを出しました。
盾じゃない守りに特化した宝具があっても良いと思うんです。
でもって、カズラの女神も一柱判明。
もしかすると、想像していた人もいるかもしれませんね。
あ、ホウエンの冒険はまだ終わってません。