Fate/Meltout   作:けっぺん

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プロローグを抜かすと、今回でEXTRA編の全話数と並びました。
そして、正確には今回または次回辺りが後編の始まりだったりします。
起承転結で言えば、今回からが「転」。物語は大きく動き始めます。
では、結構短めですが、どうぞ。


No Past.-1

 

 

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「――ようやく、時間ですか」

 

「まったく、たった一回でこれだけの疲労感とは。意地の悪いことをしますね」

 

「しかし、これがわたしの存在意義。であれば、なんの文句も言わずにせっせとこなすのが普通なんでしょうか」

 

「そうなのであれば、何故わたしを起用する必要があったのか。NPCなんて、適当にあてがえばいいものを」

 

「機械であるべきものに、変に心なんて持たせるからこうなるんでしょうね。わたしはやっぱり間違っていたと思います」

 

「だって、バグが管理するプログラムなんておかしいでしょう」

 

「……口が裂けても、あの人たちの前では言えませんね。命は惜しい。命は大事。ああ、もう。理由を説明できない役目なんて持たせるものじゃありませんよ」

 

「支離滅裂な観測機が、いよいよ目を覚まします。目を覚ますだけですけど、間違いなく、ここは大きく変わるでしょう」

 

「真っ先に罰されるのは、貴女ですよ、サクラ」

 

 

 +

 

 

 新たな情報が入ってこない睡眠中。

 だからこそこれまでの情報の整理に使われるし、手動で情報を挿入するのにこれ以上適した時間はない。

 ゆえに、(わたし)は確認する。

 まず始めに、名前。

 紫藤 白斗。記憶に間違いはない。

 では次に、契約したサーヴァント。

 メルトリリス。これにも間違いはない。何故なら、月の裏側にまで彼女は付いて来たからだ。

 それでは、表における(わたし)の状況。

 聖杯戦争六回戦において、遠坂 凛と対決し勝利。

 その後、決勝戦。レオナルド・B・ハーウェイと当たり、その瞬間に月の裏側に落とされた。

 それで表側の記憶は全て終了。

 これが記憶を取り戻した、紫藤 白斗(わたし)の証言である。

 間違いない。これが開封された記憶の最後であり、疑う余地もない。

 ――しかし、この記憶にたった一つ誤りがあった場合は。

 あり得ない。

 だって、記憶は確かに開封されたのだ。

 その記憶に食い違いがなかったのは確実、他のマスターとも確認しあった。

 ――しかし、それが上手く仕組まれたものだったら。

 あり得ないと言っている。

 万が一、それが正しいとして、誰がそんなことをするのか。

 ――すぐにわかる。わたしはこのために遣わされた存在だ。

 何を――

 

 

 ――――

 

 

 ――――――――

 

 

 ――――――――――――

 

 

 ――――――――――――――――

 

 

 

 

「この敗北は王道に必要なものだった。それを活かせないのがただ、残念ですが……“また”があるのなら……きっと……」

 

 

「その是非を。君の目で、判断してほしい。私たちは本当に、正しかったのかという事を――」

 

 

 

 

 

 

 

 

「契約が切れても、私は貴方のサーヴァントである事に変わりはない。貴方の指示には応えるわ。ムーンセルは、貴方次第よ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 思い出す。

 

 絶対に忘れてはいけなかった、記憶の数々を。

 

「……やっぱり」

「……? どうしたの、ハク」

「契約していないと、なんか空虚な感じがする」

「……そうね。それは私も思っていたわ。必要性は薄いと思ってたけど、それでも違和感があるものね」

 これは――全てが終わった後の記憶。

 

 僕は、聖杯戦争に勝利した。

 

 メルトに想いを打ち明けて。レオを倒し、中枢に待ち受けていた最強の敵を倒し、ムーンセルに接続したのだ。

 そこで消えるべき運命、それを覆したのが、サーヴァントであるメルト。

 そして――その後の、記憶。

「再契約、しようか」

「勿論、良いわ。……って、ハク……その左手、どうしたの?」

「あぁ……術式で令呪を痕跡から復元させようとしたんだ。あまりムーンセルの機能に頼りすぎるのも良くないだろうし、いざという時に備えて術式の鍛錬はしておいた方がいいと思う」

「それ、難しいと思うわ。術式で復元が可能なら聖杯戦争の優勝候補は令呪が使い放題になるもの」

「うん。さすがに無理だった。これは形だけのハリボテだよ」

「……? そうでもないみたいよ?」

「え?」

「令呪の命令権としての機能はないけど、聖杯戦争のマスター権を維持する力は残ってる。その状態なら消費することで限定的な契約も可能かもしれないわ」

 模索するまでもなく、その記憶は覚えていた。

 メルトとの契約が解かれ、しかしメルトは傍にいてくれて。

 しかし感じた喪失感を言い出せず、埋めようとして考えたのが令呪の補填。

 ムーンセルの機能で補填するのは簡単だ。だが、充実した機能と権限だけに甘えるのは果たして良いことなのか。

 そんな考えに至り、術式の鍛錬として令呪を復元させようとしていたのだ。

「でも、その状態でも完成度は充分だと思うわよ? 魔力は充分に込められてるし、真っ白で綺麗だし」

「そうかな……なら、このままでもいいかな。ある程度の機能は付けられたみたいだし」

「……」

「メルト?」

「……浮気は駄目よ」

「し、しないよ!」

 結局そのまま、令呪の形を取った術式はサーヴァントとの限定的な契約という機能だけに留まった。

 名を白源令呪(ホワイトアウト・ムーンコマンド)

 令呪から命令権を抜いた、マスターとしての証明という僅かな機能を残した術式。

 それが、サクラ迷宮三階における凛との戦いで発現した白い令呪の正体。

 本当に失くしていた、記憶の欠片――

 

 

 更に拾い上げられる、記憶の欠片。

 これもまた同じく、中枢での生活の中のもの――

「メルト! また教会前のサーバーが落ちたっ!」

「っ、また!? どうせ虎と外道神父の仕業でしょ! 行くわよハク!」

 ……これはさほど、重要性がない。

 事件に繋がる記憶なら、まだ他にある筈だ。

 

 

「……難しいね」

「分かりきっていたことよ。私は楽しいけれど」

「僕もだよ。さすがに、提案されたときは驚いたけどね」

「だって、普通の方法では無理なんだもの。私たちなりの方法でやるしかないわ」

「うん。でも、完成した暁には、ムーンセルの防衛機構は更に強固になる」

「それだけじゃないでしょ……? “これ”は、私たちの――」

「そうだね。勿論、もっと大切なものだ」

 ――これは、何をしていたときだったか。

 最奥に至るまでの記憶は戻ってこない。

 ただ、とても重要であることは確実だ。

 なんとなくだが、引っかかるものがある。

 忘れてはならない。しかし、思い出せない。そんなもどかしさが。

 しかし、それを拾おうとする前に、次の記憶が流れ込んでくる。

 

 

 

 

「紫藤さん……心って、何なんですか?」

 

 

 

 

 答えることの出来なかった、その質問。

 それが、最後の記憶。

 だが間違いなく、その瞬間。何かが起きて、事件に至った。

 では、今の言葉が――今の言葉の主が、事件について何かを知っているのか?

 分からない。だが、その場合、僕は。

 全てを。全てを。全てを。全てを――

 

 

 

 

 

 

 

 

「……っ!」

 目を覚ます。“いつも”と変わらない、旧校舎――個室の天井。

 全て、覚えている。――否、全て、思い出した。

 聖杯戦争の結末。その後に待っていたもの。それを乗り越えて、作り出した未来。

 横を見る。そこには、同じくして月を管理していた筈のサーヴァント。

 ――最愛の人の姿があった。

「ッ――――――――! メルトッ!」

「――ッ、ふぇ!? は、ハク!?」

 何故忘れていたのか。こんな大事な、絶対に、何よりも忘れてはいけない記憶を。

 思い出した喜びと嬉しさ。忘れていたことの悲しさと申し訳なさ。

 綯い交ぜになった感情をただ、一方的にメルトにぶつける。

 抱き締めた小さな体の抵抗を許容するほど、落ち着いてはいられない。

「ちょ、ちょっと、ハク……!」

「ごめん……! 本当に、ごめん!」

「落ち着いて! 何が……」

「全部思い出した! 忘れていたことを、全部っ!」

「え――」

 抵抗の収まった体を抱く力を強めると、少し苦しそうな呻きがあがる。

 それでようやく冷静になり、込めた力を弱めた。

「あ……ごめん」

「えぇ……それより、思い出したって……?」

 メルトの困惑の表情――その中に、小さな期待が見える。

 以前、記憶を取り戻した際。それは完全なものではなかった。

 その時の感じたメルトの痛みは、大きなものだっただろう。

 だからこそ、安心させてあげたい。今度こそ、全ての記憶を取り戻した、と。

「聖杯戦争に、勝ったんだよね。それに、僕から言ったのに……それさえも忘れるなんて」

 本当に申し訳が立たない。でも、僕は確かに思い出した。

 消滅の運命にあった僕を助けてくれて、二人でまた一からムーンセルの管理を始めて。

 そこから先にあった、色々なこと。そして、それより前にあった、戦いの記憶。

 だから、それを――その証拠を、告げておかなければならない。

「……本当に?」

「あぁ、だから言える。――好きだよ、メルト」

「あ――」

 目を瞬かせるメルト。

 しかし、次第にその目を潤ませ、胸に顔を埋めてきた。

「馬鹿、馬鹿っ! わた、私がどれだけ――」

「うん、ごめ――」

「もう謝らないで! 思い出してくれただけで、充分だからっ!」

 忘れていた本心を告げて、やはりメルトも覚えていて。

 しかし、これで全てが丸く収まる訳ではない。

 寧ろ、ようやく振り出しに立ったと言っても良いだろう。

 表側に帰らなければならない理由が固まった。

 だが、それと同時に、残酷な結末を告げなければならない人物が増えた。

 レオ――決勝を戦う生存者と思われていた最強のマスター。

 彼とは聖杯戦争の勝者を決める最後の戦いで、死力を尽くして戦っていたのだ。

「……」

 レオは生存を信じている。

 自らの使命を全うするために勝利を手にし、世界を管理する西欧財閥の王として君臨する運命のために、表への帰還を望んでいる。

 だが、僕はレオに対して、その当たり前だと思われている運命を否定する現実を突きつけなければならない。

 それが、勝者としての責任。

 僕がしなければならない役目の一つなのだ。

 それでも、その前にしなければならない事がある。

「う……うぅ……」

 メルトの見せた弱さを、受け入れてあげなければ。

 これは弱い僕が彼女に出来る、数少ないことだ。

 

 

 +

 

 

「――どうやら、記憶は戻ったようです。しかし、これで終わりというほど、甘くも無いんでしょうね」

 

「えぇ、分かってますとも。私はそれを快諾しなければならない。断れない。引き受ける機能しか与えられていない」

 

「見ているだけ。何も出来ない、というのも辛いものです。NPC風情が愚痴を零すな? 断ることも出来ない上に文句も言うななんて、ほとほと不遇なものです」

 

「この労働条件の悪さだけは、どうにかしてほしいものですね」

 

「改正するなら、近いうちが良いです。わたしにも実感できるくらいの」

 

「っ――」

 

「……結構、後から来るものですね。精々あの程度、と思っていましたけど、じわじわとですか。予想していた事態ではありますが、まるで、月の性質を現しているような」

 

「後一度使ったら、なんて、考えたくもありませんよ。どうなってしまうことやら」

 

「まぁ――もうしばらくは、わたしは役目を全うします」

 

「ただ、最後までいられるかどうか」

 

「もしかすると、もしかするかもしれません。それは全部、彼次第ですね」

 

「至らない主を補佐するのも、わたしの役目。そうなれば、彼がまた一歩成長することになる」

 

「……なんて、綺麗な考えは持ってませんけれど。彼は苦労の先で勝手に成長しているだけですからね。わたしがどうこうできる存在ではない」

 

「望むなら? そんなの決まってるじゃないですか」

 

「こんな役目、一刻も早く終わらせて――表でゆっくりしたいです」




現時点でのまとめ
・本当は聖杯戦争終了後。従ってレオ敗退済み。
・ハクとメルトはムーンセルの管理をしている。
・白令呪はお手製。
・そこまでにしておけよ藤村

一応、これまでに伏線はちょいちょい張ってました。
最たるものが、「メルトからの好意描写」。これで大体察しの付いていた方もいたかもしれません。
決勝戦の一日目、メルトへの告白直前という中途半端な時期までの記憶というのは、今後に関わってくることでもありますがちょっとしたヒントでもあったり。
さて、今後はメルトが味方ということもあり、オリジナル要素が大半を占めることとなってきます。
あ、エリちゃんの話はしっかりやるんで、ご安心を。

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