色々と準備する合間にリラックスと休憩を兼ねて執筆していますが、速度が増しています。
ただ、一週間後どうなってるかはしりません。
最悪の可能性だけは考えず、ポジティブに乗り切っていきたいですね。
誰か面接の必勝法とか知ってたら教えてください。マジで。
最上級命令の発動を確認。
きっと、間違っていない。この選択は。
+
「……ごめんなさい」
「いや……こっちこそ、ごめん」
あの後、気付かない間に眠ってしまっていた。
そして目が覚めたとき、何故かメルトと抱き合ったような体勢で。
結果として、二人で謝ることからその日は始まった。
「SGを取るためだもの、仕方ないわよね……どうかしてたわ。おかしいのは向こうなのに……」
メルトは目に見えて落ち込んでしまっている。
ただ、メルトなら今までの如く大丈夫だろう……そう思う。
「大丈夫だよ。僕が原因なのは、変わりないし……」
「まあ、それはそうなんだけど……」
随分と正直である。
「もう行きましょう。このことは不問にしてあげるから」
「え……あぁ、うん」
複雑な心境だが、気にしなくてもいいというならそうしておこう。
個室を出ようとして、しかし足が止まる。
――妙な、違和感。
身体に感じる、例えようのない異常。
しかし
どちらかといえば、良い状態なのかもしれないが、確信は持てない。
「……? ハク?」
魂の奥底に新たに何かが根付いたような……
「ハク?」
「……っ、ごめん、メルト。なんでもない」
気にならない、というほどでもないが、探索に必要な時間を潰してまで考えることではないかもしれない。
ともかく今は迷宮の攻略が第一だ。
「……ん?」
外に出ると、足元に何かのデータを発見した。
「これは?」
「テキストデータ、かしら?」
差出人は書かれていない。
容量的にも何ら仕掛けは施されていないように思える。
ただのメール……だろうか。
少々警戒しながらも、とりあえず封を開けてみる。
『――
なんかもう読みたくなくなった。
手紙の始まりとしてはこの上なく失礼極まりない書き出しに、早速脱力する。
溜息を吐きながらも、続きを読む。
『――
昨日は危ないところを助けていただき、意味がわかりません。
しかし、せめてものお礼にと思い貴方を招いて念には念を入れた食事会を開きたいと思います。
サーヴァントを連れず、一人きりで迷宮十四階までやってきなさい。
――毒殺アイドル・エリザベートより』
「……」
「……」
貴族だということを証明するような丁寧な字体で綴られた、どこか致命的に貴族とは思えない手紙だった。
えっと……一人で来いというのは論外として、食事会とは一体……
「……なんでこんなに……」
メルトの呟きが何を意図してのものなのかは分からないが、またしても生温い殺気を感じる。
ともかく……どう考えても罠だ。
しかも、えらく古典的な誘い。
どのみちSGを手に入れるために十四階には行かざるを得ないのだが……
一応、生徒会に相談しておこう。何しろ、嫌な予感しかしない。
「おはようございます、先輩」
「ああ、おはよう、桜……」
生徒会室には、既にいつもの面々が揃っている。
いや……一人だけ欠けた状態で。
「カレンは?」
「少し不調があるようで……保健室で休ませています」
「不調……? 大丈夫なのか?」
「彼女は問題ないと言っていますが……どうでしょう。AIには問題を報告する義務があるので、心配はないと思うんですけど……」
何も問題はないとしても、少なからず心配が残る。
後で保健室に行って、様子を見てこようか。
「カレンはさっきまでここにいたし、大丈夫だとは思うけどね。それよりも、考慮すべき事態があるわよ」
「え?」
「次の階についての報告だよ」
凛と白羽さんが提示した映像。
これは――迷宮?
と、次の迷宮の情報については一つ持っていた。一応それを皆に見せておく。
「あぁ……やっぱり。確証が取れたわね」
「はい。後はハクトさんの健闘を祈るばかりです」
「やっぱり? 健闘?」
「説明するより、見てもらったほうが良いかな」
映像が再生される。
「これは少し前に録画された、十四階の監視カメラ映像です。何か情報が得られればと思い、術式を潜り込ませておいたのですが……」
そんなことをしていたのか……と感心しながら、その映像を見る。
それには、迷宮に不釣合いなテーブルを前にしたエリザベートとヴァイオレットの二人が映し出されていた。
高級感を醸しだす白いテーブルクロスの上には、やけに赤い何かの入った皿がある。
『……貴女一人にこの迷宮を任せろというのですか?』
『ええ。貴女に選択肢はないわよ。主役を放って逃げ出す腰抜けには任せられないもの』
『腰抜け……』
ヴァイオレットの複雑な表情は、映像越しでも読み取れた。
百歩譲っても、彼女に非はないというのに……
『SGを取られたのだって、油断しただけ。後二つを守れば良いんでしょ?』
『それはそうなのですが……』
『だったらそれを私のやり方で守るまでよ。アイドルらしい、華やかな作戦でね』
華やかな……
如何に華美な言葉で繕っても、正直エリザベートが用意するというだけでよい予感はしない。
ガッツポーズで盛り上がるエリザベートをよそに、ヴァイオレットは相変わらず眉根を顰めている。
『……その華やかな作戦というのが、これですか?』
その視線が、赤い料理に向けられる。
『そうよ! アイドルといえば、チャレンジ料理! 私お手製の料理にチャームをかけて、子ブタを強制降伏させるのよ!』
「……」
その作戦は現在進行形で筒抜けている訳だが。
そもそも、この得体の知れない何かを、僕は食べなければならないのだろうか。
『子ブタはあまりの美味しさに咽び泣き、私の足元に跪いてもっと食べさせてくださいと縋りつく。なんて美しい光景かしら!』
『それはアイドルとは言わないのでは……』
『……それもそうね。お茶の間アイドルになってしまうわ』
『お茶の間にそんなアイドルは不要です……』
呆れながらも、ヴァイオレットはその料理に目を向ける。
その様子に自然と此方も目が行くが……やはり赤い。
これは一体何なのだろう。
アングル的に中身が何かまでは見られないのが不安でしょうがない。
『あら、試作品が気になるの? 貴女のために作ったわけじゃないんだけれど』
『いえ、そういう訳では』
『良いわよ、紛いなりにもマネージャーだし、おこぼれをあげるわ。感謝して試食なさい』
『結構です。それに、見た目はともかく味に不安が』
『食・べ・な・さ・い! マネージャーとして! じゃないと裂くわよ! 市販のチーズになりたいのかしら?』
『……』
なんて横暴な……
顔を引きつらせながら、暫くエリザベートと睨みあっていたヴァイオレット。
しかし、マスターとしての義務を優先したのか溜息を吐いて椅子に座る。
フォークを手に取り、その赤い何かを突き刺して、口元に運ぶ。
他人事とは思えない。一体どんな味がするのか……
ヴァイオレットは口元に運んだ料理をまた離し、近付け……を数回繰り返している。
分かる。その迷いはよく分かる。
そして意を決したのか、その料理を口にして――
[しばらく音声のみでお楽しみください]
『ッ、ズ――がふっ――――ッッ!』
『うきゃああああああ!?』
「ヴァイオレット!? 何があった!? ヴァイオレット!!」
「女性として不覚かつ大変見苦しい光景だったため、映像に一部加工を入れておきました」
「え!? ちょ、大丈夫なのか!?」
『――なん、ですか、これ……チキンのソテーです、よね? なんでイバラが……しかも、爆発……悲鳴……くふっ……』
「何!? イバラ!? 爆発!? 悲鳴!? どういう事なの!?」
「ちょ、ちょっと落ち着いて白斗君。キャラ崩壊してるから」
『え? フツーに食べるわよね? イバラ。シャリシャリして美味しいじゃない?』
『今すぐ、ハンガリーに行ってきなさい……! 貴女の国にイバラを常食する文化があるか見てきなさい……! それにこれでは魅了以前に胃が崩壊……』
『黙りなさい。これで行くといったら行くの。もう決定したんだから、マネージャーらしく材料集めてきなさい!』
『ぐっ……私には、止められない……どうか幸運を……材料だけは、一級を用意しますから……』
ラニは、そこで映像を止めた。
生温い哀れみの視線が、一斉に此方に向けられる。
「……」
首を全力で横に振る。
嫌です。胃が崩壊とか聞こえました。そんな物騒なの嫌です……!
「いや、食べないで済むならそれが一番なんだけどね」
「……危険度で言えば、或いは今までの比ではないかもしれん。気をつけろ、紫藤」
「……」
ああ、なるほど。
ここが僕の死に場所なのか。
「あの、先輩……気休めかもしれませんけど、これをどうぞ」
桜に小さな瓶を渡される。
『桜印の胃腸薬』。ああ、嬉しい。これがあればどんなモノを食べてもきっと平気だ。
その優しさが、ほろりと胸に沁みる。
「え、えっと……私、口直しの軽食、用意しておきますから!」
ありがとう、カズラ。
それを食べられる時が、来るといいな。
「――ちょっと、私は認めないわよ……! そんな、ハクを命の危険に曝すようなこと……」
「いや、いいよメルト。守ろうとしてくれてありがとう」
「なんで諦めてるのハク!? 駄目よ! こんなところで……」
「大丈夫ですよ。ハクトさんならばこの程度の困難、乗り越えられる。信じていますから」
レオのにこやかな笑み。
その奥に感じる黒いものを指摘はしない。
さて、今日の目標は十四階の攻略、およびSGの取得だ。
何より、生きて帰ってこれるように頑張ろう。
若干の諦めと自棄を自覚しながら、席を立つ。ともかくまずは、カレンの様子を見に行こう。現実逃避も兼ねて。
保健室の前でメルトに待機してもらい、扉を開く。
鍵が掛かっているなどということはなく、自然に開いた。
「おや……サクラかと思えば」
カレンは特に何事もない、といった様子で椅子に座り、ティーカップを片手に寛いでいた。
「カレン、体は大丈夫なのか?」
「ああ、その事ですか。大丈夫です。補助に必要な要素には欠陥はみられません」
「……? “には”って……もしかして、他の箇所に?」
「……」
「カレン!」
何か問題が発生しているなら、教えてほしい。
出来ることは少ないが、それでも何も知らないよりは行動を考えられる分マシだ。
しかし、ほんの少し逡巡した後、カレンは緑茶を楽しむ作業に戻る。
駄目か……ふと目を離した場所には、カレンが使っているらしい角砂糖の瓶があった。
中には砂糖の粒が入っているばかりで形になっているものはない。
カレンは無表情のまま一口飲んで、スプーンを手に取りカップに沈ませて混ぜる。
浮き上がってくる砂糖の粒。既にそのカップに入った緑の液体は、飽和していた。
「……カレン?」
一体どれだけこの中に放り込んだのだろう。そんな疑問を余所に、カレンはそんな甘さの限界を超えた茶に再び口を付ける。
「……AIにも、癖というのは生まれるのですね。常習的に行っていれば、それが
「え?」
「他でもない自分が、味覚がないと一番分かっている筈なのに、尚甘さを求める。砂糖の甘みを当然と思っている。なるほど、心の再現が難しいのも頷けます」
「――味覚が、ない?」
「はい。少々体に負担を掛けてしまいまして。通常行動を可能にするために味覚を遮断しました。五感のうち、最も必要性に欠けるので」
まるで他人事のように平然と言いながら、味を感じない液体を喉に通していく。
それが空になると、底に残った湿った砂糖をスプーンで掬い口に含む。
しかしその無表情が晴れることはない。
「ただ熱いものが通り抜けていくだけというのは、不愉快に感じますね」
「……」
カップを置いて一息ついたカレンの暗い目が此方に向けられる。
「……まだ、兆候すら見られませんか」
「……? 何の?」
「当然、この月の裏側の事件を解決に導く事象の、ですよ」
おもむろに立ち上がり、カレンは窓の傍まで移動する。
夕焼けの光で赤く染まる髪。カレンは、振り向くことなく言葉を続ける。
「――やっと得られたわたしの役目は、あまりにも重過ぎました」
その視線の先に、何が在るのか。
何が見えて、何を思い、何をしようとしているのか。
すべてが判然としない。そこまで、カレンというAIは曖昧で、無色透明な存在だった。
「近く役目が終わるならば、恐らくわたしは消えて無くなる。わたしが望む結末になれば、しかしわたしの苦しみは終わらない」
意図の掴めない言葉は抑揚なくただ淡々と紡がれ、それらに感慨すら持っていないように次へと進む。
動かしている全てがシステム通りであるような、テンプレートに沿った行動。
しかし、不思議な曖昧さはカレンという存在から離れようとはしない。一体彼女は、何者なのだろう。
「ねえ――、」
ぞわりと、背筋を冷たい何かが通り抜けていった。
振り向いたカレンの視線は相変わらず冷たく、しかし口元には笑みが浮かんでいる。
“ねえ”。そこまでは聞き取れた。
では、その後カレンはなんて言った?
ノイズが走ったように不自然に声は消えていた。それがどうしようもなく、不気味に感じられた。
「あらゆる答えを求められる人は、大変ですね」
「――――」
「――さて、わたしは生徒会室に戻りますが、ハクトさんはどうします? そろそろ迷宮に向かう時間では?」
何事もなかったかのように、カレンはカップを片付け始める。
カレンの様子――間違いなく、考えるべき事態ではある。
しかし、これは報告すべきものでも、相談すべきものでもない。それだけは、はっきりと理解できる。
では、どうすればいいのか。自分で考えろ? 無理だ。何故なら、答えに繋がる
「どうしたんですか? 嫌なことは後回しにしても必ず回ってきますよ?」
「……」
困惑の夢の中にいたような感覚から、その一言で押し戻される。
ついでに思い出す、ヴァイオレットの惨劇。
そういえば、カレンについて考えるよりも先に、大きな試練が待っていたのだった。
更に増えた難関に出てきた溜息は至極仕方の無いもので、保健室を出ようとする足取りが重くなるのも当然だった。
メルトの「……なんでこんなに……」は「あざといのよ……」と続きます。
エリちゃんの
二話だか三話前はエリちゃんを弄っていたヴァイオレットさんですが、もう苦労人ポジションに落ち着いてますね。
本編モードからタイころモードに入るのが早すぎやしませんか、ヴァイオレットさん。
そして、謎が深まる一方のカレン。
色々判明してくると言ったな。あれは本当だ。
ただし謎が増えないとは言ってません。はい。