Fate/Meltout   作:けっぺん

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ノートの宝具ですけど、いくつか考えてあるだけで所持している(らしい)百以上なんて考えてません。
でもそれじゃいけないと思い、使う使わないは別として考え始めました。
ついでなので聖杯戦争に参加したサーヴァント全員考えることにしました。
よく「本気出すのは良いけどやりすぎ」って言われます。鋭意製作中です。

余談ですが、上記の結果某JKセイバーの宝具と同文字数オール漢字の宝具が誕生しました。
国はやっぱり日本です。なんだこいつら。


Despair.

 

 無傷のBBは、レオたちを小馬鹿にしたような目で見下しながら笑っている。

 あの宝具の一撃で傷一つ負わないなんて――規格外にも程がある。

「今のが最大の攻撃ですか? それなら悪いですけど、ぶっちゃけ無意味レベルですよ?」

 平然とBBは言う。

「くっ……」

「一体何が……」

「今の私は月のルールを操れる存在。だから今の攻撃も痛くないし、こんなことも出来ちゃいます」

 BBが教鞭を振るうと、それまで荘厳な灼熱を放っていた結界が消滅した。

 まるで、初めからそんなもの無かったかのように。

「なっ……」

「三分経過です。たったその程度の時間、進めるのなんて朝ごはん前なんです」

 あまりにも度を過ぎている。

 BBは時間まで操ることが出来るのか?

 そこまでの権限を持った相手に、今まで勝つ気でいたのか?

「さて、そろそろ向こうも片付いた頃ですね。って、あれ? 十二階とのリンク、切れちゃってます?」

 首を傾げるBBの言葉に、悪寒を感じた。

 十二階――そこで行われていることに、覚えがあったからだ。

「順に存在してなければならないのが迷宮なのに、面倒なことしてくれますね。さすがは最強クラスのサーヴァント、といったところでしょうか」

 何度か教鞭を振るい、BBは肩を竦める。

「こんな簡単な修復はなりませんか。ま、ちょっと時間を掛けて直せば良いですね。――ノート、其方はどうですか?」

『滞りなく……私としては、宝具は頂戴できず、二人逃がし、階段(リンク)を壊されてと散々ですが』

 聞こえてきたノートの声。

 十二階からの通信らしいそれは、最悪の結果を仄めかす内容だった。

『――リン』

『って、ランサー!? 貴方、何でここに……』

 今度の声は、生徒会室からだ。

 凛の驚愕と、帰還したらしいランサー。ノートと戦っていた筈の彼が生徒会室にいるということは、つまり――

『ちょっと待って? だって、まだ十二階の映像じゃ戦って――』

「はい。それは私が細工したものです。何度そっちに視覚ジャミングを送っていると思ってるんですか? そのくらい、警戒しているものだと思ってましたけど」

 生徒会が確認していた映像が細工されていた。

 まったく把握できないまま、戦いは行われていたのだ。

「で、ノート。あと一人は、どっちを逃がしたんですか?」

『バーサーカーです。今頃旧校舎に戻っているでしょう』

『……え?』

 小さな声は、ジナコのものだった。

 まさか。まさか、とは思うが――

『ですが、間違いなくサーヴァント・アルジュナの消滅は確認しました。最後の足掻きの結果、十二階は完全消滅。私自身自己保存で精一杯なので、修復は早めにお願いします』

『――――ッ』

 アルジュナが、あれほどまでに強力なサーヴァントが、負けたというのか?

『――あ、あぁああああぁぁぁあああああ!』

『落ち着いて、ジナコ! ランサー!?』

『……すまない。少しでもあの場での被害を少なくするため、との事だ』

 負けるのであれば、せめて全滅しないように。

 その為に、アルジュナはランサーとフランを逃がしたのか。

「ま、そんなところです。旧校舎に逃げたところで、意味なんてないですけど」

「その通り――貴方たちの戦いは、ここで終わりです」

 BBの背後から歩いてくる、二つの影。

「――セイバー、ヴァイオレット」

 カズラの迷宮で共闘した二人。それでも、本質はBBの部下だ。

「絶体絶命、ですか……」

「その通り。まずは貴方からです、レオナルド・ハーウェイ」

 BBの傍まで歩いてきたヴァイオレットは、レオをその冷徹な目で見つめながら――眼鏡を外した。

「ッ――」

 瞬間、目に見えた変化が起きた。

 まるでその場に佇む岩にでもなったかのように、レオが停止していた。

「ぐっ……レオ……!」

「さすがはセイバークラスの対魔力。私の魔眼を以てしても完全停止とはなりませんか」

 魔眼……ヴァイオレットの瞳には、そんな力が……?

 どうやら、その効力は凄まじいらしい。

 レオは完全に動けず、ガウェインでさえもかなり動きを制限されているようだ。

 ……このままでは、本当に全滅してしまう。

 せめて、レオたちだけでも旧校舎に帰す――そうすれば、まだ解決の可能性はあるかもしれない。

「ッ――ガウェイン! 魔力放出を使って!」

「な……なにを……!?」

「良いから、早く!」

 僅かな確率だ。だが、何もしないよりは遥かにマシだ。

「くっ……!」

 ガウェインが放出した魔力は炎を伴い、正面にいるBBとヴァイオレットに向かう。

 教鞭の一振りで二人に防壁が張られ、攻撃自体は届かないが、これで良い。

 これほどの火炎であれば、ヴァイオレットの視界を防ぐのには十分だ。

「っ、動ける――!」

 魔眼の呪縛から逃れたレオが声を上げた。

 これなら、出来る――!

「レオ! 旧校舎に戻って!」

「ハク!?」

「な……何を言うんですか!?」

「早く! 皆と一緒に作戦を練って!」

 最悪、ノートに襲撃される可能性もある。

 だが旧校舎には多くのマスター、サーヴァントがいる。このままレオが倒れるよりは、帰還の可能性はある筈だ。

「だけど、それでは――」

「そうですよ。それに、リターンクリスタルも帰還の術式も此処では機能しません。諦めるが吉、です」

 そうだろう。だが、それでも手段は残されている。

「僕には手段はない。でも、レオにはある」

「っ……」

「ここで全滅するよりはマシだ。レオ……早く」

 BBの防壁でヴァイオレットの動きを実質的に制限できている。

 ガウェインの魔力放出でヴァイオレットの視界を覆えているのもそれが理由だ。

 だが、それももう限界が近付いている。そして……レオも理解できており、確率を知らないレオではない。

「……すみません、ハクトさん。すぐに救助に来ます」

「させませんっ……!」

「ガウェイン、令呪を以て命じます。契約マスター、レオ・B・ハーウェイを連れ、旧校舎へと転移してください!」

「――!」

 リターンクリスタルや術式の効果はなくとも、最上位の契約であれば不可能も可能に出来る。

 令呪による命令は英霊をも束縛する。

 ムーンセルのルールにおいても上位に位置するだろう。

 リンクが破壊され、行き来の手段が断裂した旧校舎と迷宮最奥部。

 その二つを繋げた上での移動を、瞬時に可能とするのが令呪の力だ。

 ガウェインは命令を受理し、レオを連れて転移した。

 あと少し遅ければ、また魔眼の餌食になり同じ手段は通用しなかったことだろう。

「っ、三人とも! 何故妨害をしなかったのですか!」

 セイバー、アタランテ、ジャックの三人に当たるBB。流石に、この方法は予想外だったのだろう。

「何故も何も。頼まれなかったからだが。お前の命令が絶対なのだろう?」

 平然と言うセイバー。アタランテは同意を示すように頷き、ジャックはその隣で困惑した表情をしている。

 悔しげに歯噛みしているBB。それでも、此方が危機であることに変わりは無い。

「……さすがのBBちゃんも今のは少しイラッときました。もう、許しませんよ」

「……メルト、ごめん。聖杯戦争に戻れないかも」

「……諦めないで。何とかして旧校舎に戻れば――」

「無理ですよ。メルト、お馬鹿なマスターに当てられて、判断が出来なくなりました?」

 もう、何も許容しない。

 BBにはそんな意思が見られる。

 しかし、どちらにしろ僕とメルトだけでは彼女たちに歯向かうことすら出来ない。

「第一、旧校舎に戻るだけで令呪使うとか、本当に馬鹿げてます。確かにここにいてもハッピーエンドは無いですけど、帰還したところで全部無駄だって分からないんですかね?」

「――それって……?」

「だから……ノート以外に私が旧校舎に手を回していないと、本当に思ってるんですか?」

『な……』

「ユリウスさん。もうやっちゃっていいですよ」

 BBから発された名に、一瞬思考が停止した。

 何故ここで、ユリウスの名前が出てくるのか。

 何故ユリウスにBBが命じたのか。

 全身を嫌な予感が巡り、次の瞬間、

『っあ!』

「凛!?」

『な……ミス遠坂、何が……ッ!』

 凛の高い悲鳴が発端となるように次々と短くくぐもった声が聞こえてくる。

 やがて何も聞こえなくなる。それを確認していたように暫く間を置いて聞こえてくる声。

『……BB、旧校舎のマスターとサーヴァント、すべての処理を完了した。NPCたちはお前に降伏したいと言っているが、どうする?』

「当然、オールデリートです。都合が良すぎますもんね。それにしても、やっぱりアサシンさんは凄いです。何人サーヴァントが居てもお構いなしなんて」

『儂が望んだものではないのだがな。これも至った道の宿命よ。……しかしBBよ、お前の子がいたようだが?』

「関係ありません。私を裏切った時点で、情けを掛ける理由も無くなりましたから」

 ユリウス――そして、アサシン。

 まさか、二人が皆を……?

 初めから……裏切っていた……?

「はい。これで、心の枷も消えました。後はセンパイ、貴方だけですよ」

「ッ……」

 身体が動かない。

 これが、目の前にいる、今まで戦っていた相手の力……

 ムーンセルを乗っ取ろうとする、最大最恐のAI。

 巨大すぎるエゴの膨らみを奥底に潜める、電脳空間の基本構造すら逆転させる侵食の泥。

「動けますか? 術式を使えますか? 抵抗が出来ますか?」

 何一つ、出来ることが無かった。

 ただ、目の前にいる最悪の存在を見ていることしか出来ない。

「これが私のスキル、十の王冠(ドミナ・コロナム)の力。ムーンセルを介して、すべてを掌握する力です」

 いつの間にか、風景が完全に消滅していた。

 視界に入っているのは、メルトとBBのみ。

 他は何も存在しない。延々と無だけが広がっている。

「分かってくれました? この世界もセンパイも、とっくに私のおもちゃなんだって」

 この正体不明のスキルに、メルトも体を支えるので精一杯のようだ。

「でも、安心してください。このBBちゃんが、センパイを楽にしてあげますから」

 微笑みは不気味以外の何物でもなかった。

 BBは教鞭を此方に向け、高らかに宣言する。

「私は、みんなのためにムーンセルを使いましょう。私は、人間の欲望を全肯定します。私は、全能力で人類に奉仕します。全ては人類と、私の楽しい未来のために!」

 建前なんかない世界。人が生まれ持った欲望を、素直に吐き出して許される世界。

 愛する、奪う、生かす、殺す、守る、侵す。全てが自由。

「そう、ムーンセルと私が一つになって、全ての人の欲望をあるがままに叶える世界を作ってみせるのだ!」

 そんな、世界の破綻に直結する宣言をBBは言ってのけた。

「はい、ご静聴ありがとうございました。皆さん、遠慮せず自分の欲望に素直になってくださいね」

 冗談じゃない。

 慈しみも秩序もない世界。

 ほんの数日、悪ければ、ほんの数時間で世界は滅亡しかねない。

 その光景は地獄。そう形容する以外になかった。

 被害者の数は聖杯戦争の比ではない。尊厳もなしに、何百億もの命が欲望の渦に巻き込まれるのだ。

「……私の作ろうとしている世界がどれだけ素晴らしいか、まだ分からないんですか?」

 怪訝そうに問うてくるBB。

 その目だけは純粋で、心の底から破綻していると実感出来る。

「……当たり前だ。理解できる訳がない」

 健康管理AI――考え方としては、その域から外れたわけではないのだろう。

 人間に奉仕するAI。どんなに暴走していても、その基本的な思想は人間のためから外れていない。

 しかし……BBはその地獄を楽園(ユートピア)だと認識してしまっている。

 そんな世界を作ってから一時間と経たずに起こるだろう惨状を、人間のためだと本気で信じている。

 全てを肯定してくれる世界は、ある意味人間の夢。だが、それはあってはならないのだ。実現してはならないのだ。

「……そうですか。結局、分かってくれないんですね……ま、良いです。それも承知の上ですから」

 BBは悲しげに呟いた。

 肌に異常なまでの寒気を感じる。

 本気で、このAIを怒らせてしまったのだ。

「もう見逃し期間サービスは終了です。この空間ごと虚数空間の底に落ちてください」

「ッ――」

「ダメよBB! 本当にそれが貴女の望みなの!? 目を覚ましなさい!」

「うるさいサーヴァントですね。さすが、欠陥だらけなだけあります。生憎ですが私は大真面目です」

 メルトの声も、BBにはまるで届かない。

「当然、貴女にも罰を受けてもらいます。具体的に言うと――消滅ですね」

「ッ――――!」

 消、滅?

 消える? 滅びる?

 一体、BBは何を言っているんだ?

「……センパイを守る? 馬鹿らしい。元々、貴女なんて必要なかったんです。貴女が降りてさえこなければ、私は――!」

「BB……ッ!」

 怒りに満ちたメルトに、BBが一瞬向けた表情は今まで見たことのないものだった。

 教鞭を持つ手に力が入る。

 それを突き付けられたメルトを包む光の輪。

「っ、止めなさい、B――」

「メルト! メルトッ!」

 光に飲まれて消えていく――その姿を、脳が必死で否定しようとする。

 だが、視界を動かすこともできず、その最後までをまざまざと見せ付けられる。

「あ、ぁ――」

「――さて、次は誰の番か……分かりますね?」

 BBの言葉は、殆ど耳に入ってこない。

 今起きたことを否定したくて、しかし目に焼きついた光景がすべてを物語っている。

 肌を刺すような冷たさが一層強くなる事すら、どうでも良いことと思えるくらいに。

 息苦しさが増していく。気が遠くなっていく。

 

「はーい、海の底に、沈んでいけー!」

 

 緩やかな落下感。

 思考が深い霧に覆われていく。

 その落下に逆らうことが出来ない。

 

 すまない、皆。

 もう、戦う力はない。

 

 ――メルト

 

 

 最後に浮かんだ名前は、最後まで支えてくれたサーヴァントの名前だった。




完。

そんな訳で、ガトーとレオの死亡フラグをぶっ飛ばした結果、アルジュナさんが退場なさいました。お疲れ様でした。
詳細については、追々補足が入ると思います。立場が完全にFateルートの紅茶。

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