道を踏み外すところでした。
――問おう。貴女が、私のマスターですか。
聞いてなかった。
自分がこんなに臆病だという事を――ジナコは忘れていた。
死ぬのは本当だと思っていた。
しかしそれでいて、勝ち残れると思っていた。
――確かに、ジナコには天賦の才が無いかもしれない。しかし、選ばれぬ者の強さを私は知っています。貴女にも、その兆しはあると思いますよ。
ここは天才たちが集まる地獄だ。
自分は一戦だって勝ち残れない。勝ち組だったネットとは違う世界だ。
ここでは無様に負けるだけ。きっと1ダメージも与えられない。
だから、逃げなければならない。
誰も居ない場所に隠れて、いつものようにしていれば、いつの間にか全てが解決している筈だ。
友達だって一人もいない。今までずっと一人だった。
そういう人生を選んでしまった。
――……貴女がそれを選ぶのならば。どうやら此度は、私は必要とされていないようだ。
逃げないと。
この自分まで壊れてしまっては、本当に空っぽになってしまう。
脇目も振らずに、ジナコは背を向けて逃げた。
いつもの暗い部屋に閉じこもって、鍵を掛けて、布団に入れば元通り。
だから――
“その鍵は、開けないで”
精一杯の強がりを、暴かないでほしい。
本当の姿を見て、笑わないでほしい。
誰も入ってくるなと、強力な拒絶。居場所なんて無いのだから、と。
――ですが、本音を言わせて貰えば……私は貴女をこの部屋から出してあげたい。そう、思います。
「ハク!」
「ッ……メルト」
確かに今、垣間見た。
ジナコの心の一部。そして、ジナコが経験してきた人生の一端を。
家のような箱に目を戻す。開いた屋根、その箱の中には、小さな鍵が収納されていた。
これが、扉を開ける鍵だろうか。
「……ハク?」
「行こうメルト」
「え……? えぇ……」
あれがジナコが生きてきた生涯。だったら、ジナコの根底には何があるというのか。
扉のもとまで走って戻る。
凛とランサー、アルジュナは相変わらずその場に立っている。
「戻ってきたわね。鍵は?」
「ここにある。アルジュナ、通っていいかな」
「構いません……偶には、荒療治も必要でしょう」
頷いて、扉を開く。
「凛、少し待っていてくれ」
「……何かあったみたいね。良いわ。ジナコを引っ張り出してきなさい」
凛の強気な発言に苦笑しながら、その扉を潜る。
その先は、迷宮とは根元から違った。
暗い真っ直ぐな道。迷宮ではない、隔離された空間。どうやら通信も繋がっていないようだ。
ひたすら続くそれは、さながら産道を思わせる。
そしてその先に――ジナコはいた。
「……ジナコ」
「……またこんな奥まで来て。迷宮のリソースが幾らあっても足りないじゃないですか。保護者ッスか? ストーカーッスか?」
道の先にあった一つのベッド。布団に包まるジナコは目に見えて落ち込んでいる。
此方に目も向けないまま、ジナコはぼそぼそと呟く。
「……ハクトさんは、ジナコの何なんですか?」
「……僕は、友達だと思っている」
「そうッスか。じゃ、友達って何なんすかね。見守ってくれる、ありがたいッスねー。見守ってどうするんスか。自分は自分しか見守れないッス」
友達、という言葉に反応したジナコの目は敵意と拒絶、その両方を持っていた。
布団から出て一歩近付いてくる。後ずさろうとする自分を、何とか押しとどめた。
「知ってるッスか? ホントのトモダチって、自分より不幸な人の事を言うんだって。そうなりたいんだったら、ずっと一緒に迷宮にいてほしいッス。それで対等、お相子ッス」
「ッ、貴女――」
「メルト」
体勢を低くしたメルトを手で制する。
それを冷たい表情で見つつ、ジナコは鼻で笑った。
「仲良いッスね。外目指してるんだっけ。無理だから。膝丸めて此処で過ごすのが正解なの。いい加減、そのくらい分かれっての!」
声を荒げたジナコには苦悶の表情が見て取れた。
「こんな状況で絶望しないとか、頭おかしいんじゃないの? そんなのトモダチなんて言わない。それに、まだ希望だのなんだの言ってる善人サーヴァントなアルジュナさんもトモダチには含みません。おかしーんだって、絶対っ!」
「……ジナコ……」
物理的にも精神的にもジナコを追い詰めてしまった。
床を闇雲に蹴って荒れているジナコは、アルジュナまでもを視界の隅に追いやってしまっている。
全てを遠ざけて、独りになりたがっている。それが、一番楽だから、と。
「何度も言わせんな! 構わないでくれッス! この世の何処かにジナコさんの友達だっているッス! まだ
五停心観が反応しているのは分かっている。
だが、SGをジナコに告げてしまっていいのだろうか。
それこそ、取り返しのつかない傷をジナコに与えてしまうのでは……
それは、ジナコにとって救いになるのだろうか。
「……っ……ハク、取ってあげなさい。これじゃ
「……」
メルトの言葉が、決意に変わった。
僕はジナコを放っておけない。友達じゃなくてもいい。隣人として、伝える言葉がある。
「……ジナコは独りじゃない」
「それが上から目線だってのがわかんないかな! ハクトさんは強いからわかんないんだよね!」
「それでも、独りじゃない」
「あーはいはい。皆仲良くね。お涙頂戴なテンプレ乙」
「――――独りじゃ、ない」
「ッ――――!」
瞬間、SGが表出した。
「やめてよマジでさ……! あたし、ここに“いたい”んだから。どうせ“いたい”なんだから、死に体なんだ、何も感じないんだ、から」
精一杯の強がりを、しかし飲み込むわけにはいかない。
それが、僕がジナコに出来る唯一のコトだから。
「――いたい、痛いよ……何でよぅ……」
表出したSGを左手が掴む、その間際。
「――――寂しいよぅ」
ジナコの
砕けるSG。その名称は……名付けるならば、独りぼっち。
ジナコの心に空いた、大きな穴。
消える体をぼんやりと見ながら、ジナコは自嘲するように呟く。
「……これって、BBに怒られるかな。理不尽にも、本体が。良かったッスね、また一歩近付いたッスよ、ハクトさん」
SGと同じように消えたジナコ。
それと同時に、空間が軋みを上げた。
空間の主だったジナコの分身を追いかけるように、消滅が始まっているのだ。
「ハク、戻るわよ!」
ここに来るまでの長い直線の道を走って戻る。
ただ暗いだけだった闇は無へと変わっていく――勿論、そこに道が存在するのならそれも含めて。
思った以上に消滅が速い。
速度上昇のコードを掛けて全力で走り、ようやく辿り着いた扉に飛び込む。
「っ!」
「ハクト君! 大丈夫!?」
「っ、っ……あ、あぁ……!」
息を整えながら何とか応答する。
『シールドの消滅を確認。その扉もどうやら、繋がる場所が無くなったようだ』
これで、二つ目。
ジナコの迷宮は後一階。次が正念場になるだろう。
「……」
扉を暫し眺めていたアルジュナは、何も言わずに転移する。
『お疲れ様でした。帰還して休んでください』
「今回は私の出番が無かったわね。まぁ、出来るだけ無い方が良いんでしょうけど。戻りましょ、ハクト君」
「あぁ……」
凛と戻りながら、考える。
虚言癖、独りぼっち。ジナコがこの二つのSGを持っているのは、ジナコの両親の死が原因だろう。
次の迷宮のSGもその関連かも知れない。
だとしたら……僕はそれを払ってあげられるだろうか。
それを取る権利が、それを理解する権利が僕にはあるのだろうか。
その思考はやはりというべきか、答えが出ることはなかった。
+
『以上、緊急連絡を終わります。各自準備を始めてください』
質問も意見も一切聞かず連絡を終えたBBに、唖然とするほかなかった。
少し前よりも焦りが更に露見している。そろそろ、終幕が近付いているという事だろうか。
否……これだけ手駒がありながら、ここで幕を閉じるとも思えない。
BBが手詰まりに至るならば、それは自分だけになった時だろう。
そうか、それほどまでに、あの少年を……
「……BBよ」
『――何ですか、赤リンゴさん。連絡は終わると言いましたが』
「まずその呼び方を止めろ。不愉快だ」
『…………分かりました。ではアタランテさん、何か質問ですか?』
この状況でも茶化すのをやめないBBには、驚くべきか呆れるべきか。
「吾々の記憶を返せ。カズラドロップが所持していた記憶はあ奴らが開封した筈だ。それで戻っていない以上、吾々の記憶はそなたが持っているのだろう」
BBは黙り込む。その様子から図星であることは明白だ。
『……今回の働き如何で考えましょう』
今度こそ通信を終了したBBに、またかと溜息が零れる。
以前あの少年と見えた時も、そんな誤魔化しをしておいて結局返されることはなかった。
或いは、吾々は良い様に扱われているだけなのかもしれない。
「どの道、やるしかないか」
誇りの感じられない、価値の見出せない戦。
そんなもののために私は……弓を持たないとならないのか。
「アーチャー」
……否、確かに私には、弓を持つ理由がある。
「アサシンか」
声が複雑に入り混じったような声色を持つ、私と同じくBBの配下たる少女。
幼いながらにサーヴァントとしての実力を持った、故にこのような地獄に落ちた哀れな子供。
「此度はローズマリーの傀儡ではなかろう。よって従う道理もない。どうするのだ?」
「……たたかう。だって、これで勝ったら、
「……そうか。そう、だな」
なんと、純粋で希望に満ちた目だろうか。
この子のマスターの安否は知らないが、恐らく――いや、ほぼ確実に無事ではいないだろう。
だが、誰がこんな幼い子の望みを断つ現実を伝えられようか。
ローズと共に居ては長くは持たないだろう。せめて私だけはこの子の拠り所なってあげねばならない。
「今は休め。数時間はあ奴らも動くまい」
「うん……アーチャー、また、お話を聞かせて」
身を寄せてくるアサシンは、空を見ながら呟く。
同じくして空を見、幻想ながら夜空を作り出すというBBの技術に嘆息しながらも自然と笑みが零れた。
「勿論、良いとも。……そうさな、どんな話にしようか」
方角の概念がこの月の世界で通用するのかは分からない。
だが――
「いつものが良いな」
「ふふ……では、希望に応えようか」
微笑むアサシンは私の膝に座ってきた。
その頭を撫でながら、私はアサシンに話を聞かせる。
いつも求めてくるアサシンお気に入りの話だ。
「……遥か昔の事だ。一人の王と女神の間に子が生まれた。その者は王女になる筈だったが、王は男児を欲していた」
最初に話をせがまれた時、私は悩みに悩みながらもこの話を聞かせた。
即興ではあったがその話に詰まることはなかった。何故なら、私はこの話を良く知っていたからだ。
「よって、生まれた女児は山に捨てられた。だが、哀れに思った狩りの女神が熊を遣わし、女児は熊に育てられた」
この話は、私の記憶に鮮明に残っている。
ある狩人の一生の物語。大したものではないが、アサシンは何故か気に入ったようだ。
話を進めるに連れて、アサシンはうとうとと船を漕ぎはじめる。
無理もない。きっと今の今までローズマリーの下らない暇つぶしに付き合わされていたんだろうから。
構わない。せめて私が傍に居るときくらい、この子には安息を与えよう。
結局、話が佳境に至る前にアサシンはその身を預けてきた。
「…………ゆるりと眠れ。良い夢を見る権利は誰にでもある」
私自身も少し休もうかと思ったが、此方に近付いてくる鎧の音に振り返る。
「セイバー? どうかしたのか?」
「いや、特にする事も無いのでな。辺りをぶらついていた」
こんな時までも鎧姿でいるという彼の生真面目さに苦笑しつつ、その音にアサシンが目を覚ましていないか確認する。
深い眠りだ。これなら少しくらいの喧騒で目が覚めることもないだろう。
「随分と懐いているようだな」
「どうだかな。だが、私が必要とされているならばそれに応えるまでだ」
アサシンは現在、安否も分からないマスターを想い、それだけを軸にして存在している。
最悪の状況が起きたとして、自暴自棄になる事だけは避けてほしい。
私がこの子を支える軸になれるのならば、その為に全力を尽くそう。
「……あまり情を抱かない方が良い。BBの下に居て、良い未来は約束されんだろう」
セイバーの意見も尤もだ。
「その通りだ。だが、この子は限界が近い。壊れてしまってからでは遅いのだ」
セイバー――人の望みのために剣を振るった大英雄が、私の気持ちを理解出来るとは思わない。
存在の理由がそもそも違う。万民の為の存在という彼の意義が変わってなかったとしたら、私とは相容れないだろう。
「そなたも主観を持ってみると良い。守るべき存在を自ら選べ。剣を持つ意味も見出せよう」
「……そうか。オレ自身、そうしようとは努めているのだが、在り方を変えるのは難しいものだ」
そういうものなのか。私には分からない感情だ。
まぁ、特段彼に変わってもらおうとも思わない。
彼も含めてこの子を支えられるのならそれに越した事はないだろうが、私一人でもそれは叶えて見せよう。
如何に小規模だろうと私の願いの一部。この子が笑えるのならば、私はどんなことでもする所存だ。
その為に、月の裏側に落ちた多くの希望を断つ事になろうとも。
メルト!メルト!メルト!メルトぉぉおおおぁああああああああああああああああああああああん!!!
あぁああああ…ああ…あっあっー!あぁああああああ!!!メルトメルトメルトぉおおぁぁああああ!!!
あぁクンカクンカ!クンカクンカ!スーハースーハー!スーハースーハー!いい匂いだなぁ…くんくん
んはぁっ!メルトリリスたんの紫色ストレートの髪をクンカクンカしたいお!クンカクンカ!あぁあ!!
間違えた!モフモフしたいお!モフモフ!モフモフ!髪髪モフモフ!カリカリモフモフ…きゅんきゅんきゅい!!
Fate/EXTRA materialのメルトたんかわいかったよぅ!!あぁぁああ…あああ…あっあぁああああ!!ふぁぁあああんんっ!!
ちびちゅき登場して良かったねメルトたん!あぁあああああ!かわいい!メルトたん!かわいい!あっああぁああ!
Fox tailにも登場して嬉し…いやぁああああああ!!!にゃああああああああん!!ぎゃああああああああ!!
ぐあああああああああああ!!!コミックなんて現実じゃない!!!!あ…CCCもマテもよく考えたら…
メ ル ト ち ゃ ん は 現実 じ ゃ な い?にゃあああああああああああああん!!うぁああああああああああ!!
そんなぁああああああ!!いやぁぁぁあああああああああ!!はぁああああああん!!ムーンセルぅうううう!!
この!ちきしょー!やめてやる!!現実なんかやめ…て…え!?見…てる?立ち絵のメルトちゃんが僕を見てる?
立ち絵のメルトちゃんが僕を見てるぞ!メルトちゃんが僕を見下してるぞ!ラフ絵のメルトちゃんが僕を見てるぞ!!
ドット絵のメルトちゃんが僕に話しかけてるぞ!!!よかった…世の中まだまだ捨てたモンじゃないんだねっ!
いやっほぉおおおおおおお!!!僕にはメルトちゃんがいる!!やったよリップ!!ひとりでできるもん!!!
あ、マテのメルトちゃああああああああああああああん!!いやぁあああああああああああああああ!!!!
あっあんああっああんあBB様ぁあ!!プ、プロテアー!!ヴァイオレットぉおおおおおお!!!カズラァぁあああ!!
ううっうぅうう!!俺の想いよメルトへ届け!!月の裏側のメルトへ届け!
+
驚いたのがアタランテ視点の書きやすさ。
書き慣れてるハク視点とは比にならないです。
というのも、ちゃんと守るべき対象がはっきりしているからでしょうね。
さて、そんな彼女たちが何やらアップを始めたようですが、果たして何があるんでしょうか。
いよいよ四章も大詰め?となります。