Fate/Meltout   作:けっぺん

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深いタイトルですねこれ。


Memory.-1

 

 

 あなたは自分(わたし)であり、(わたし)はあなただ。

 目を開けたときからその事象は決まりきった、当たり前のこと。

 外から見つめ、内から見つめ、結末をその目で観測する――

 

 わたしは外から観測していた。

 外からの観測という役目を負えたわたしは、再びこの海の底で観測の役目を与えられた。

 そう――三方からの観測が必要な状況においてわたしが役目を与えられるのは自明の理であり、必然なのだ。

 だけれども、新鮮だった。

 ここは外であり内であり、そのどちらでもないのだから。

 わたしにとって観測というものは外から行うものであり、その者が事象に干渉するなどあってはならないことだった。

 故にわたしは犠牲者。観測という役目を強制され、逆らうことも出来ずにただ理由も判然としない歩みをひたすら続けてきた。

 観測をする者にとって私情など不要だ。重視したいことがあっても、ただ見ていることしか出来ない。

 だが――彼女は違う。

 役目よりもやるべきことがあると奮起する。

 何故? わたしの価値観からすれば答えなど出ようもない。

 一つだけ分かるのは、彼女には感情があるのだ。どんなに希薄でも、確かな感情が。

 

 わたしは内から観測する。

 生まれて間もない。正確に言えば、まだ生まれていない。

 それでも、一つだけ分かる。

 わたしは、――――と――――を――――――ならない。

 それがわたしの使命であり、“三つ”ある存在意義の一つ。

 存在意義の最たるものを達成するためにも、完遂しなければ――

 

 そして、わたしはその三つの目ではじまりからおわりまで全てを見届け、観測する。

 だが、わたしに与えられた力はあまりにも小さく、どう贔屓目に見ても遥か遠くに蠢く災厄と釣り合うものではなかった。

 欠片を取り戻した人形たちの力は大きい。しかし、それら全てを合わせても小さな箱庭から出る術すら見つからない。

 あまりにも調和の取れていない世界。これで観測を終了するという選択すら出来よう。

 自立を赦された人形など一つとしてこの箱庭には存在しない。

 一際(ゆいいつ)輝く白い欠片でさえ、箱庭の外のテーブルから外に足を踏み出すことができない制限された生命だ。

 いっそ、全てが無意味だと断定してしまえば、この役目は今すぐにでも終了する。

 だが――何故人形は足掻くのか。

 糸の切れた人形を動かす人形師など存在しない。それでも、倒れた人形はただ立ち上がろうとする。

 立ち上がって、震えながらも足を前に出して、もう片方の足を更に前に出して、歩こうとする。

 何があなたたちをそこまで動かしている?

 意味がない。限りなくあなたたちの行動は無価値で、結末に変化を起こせず無駄になるだけだ。

 なのに、それすら分からないのか?

 この人形には脳すらないのか?

 だから、止めることができないのだ。

 脳がないのならば、何をしでかすか分からない。

 ならば、予期出来ない突破口を見つけ出すかもしれない。

 箱庭を抜け出して、テーブルを飛び降りる馬鹿者がいるかもしれない。

 それに欠片はまだ剣を失ってはいないのだ。

 動く剣だ。欠片を傷つけず、意味も無く箱庭の外の災厄を斬ろうとする、欠片と同じく錯乱した剣が存在する。

 である以上――運命は分からないのではないか。

 欠片を夜から救う剣。

 初めて立ち上がった欠片に振るわれる剣。

 闇に光を見る剣。箱庭の外の絶望という現実に喜劇を描く剣。人形の真似事から始まる剣。

 狂いその末に紅に染まった、二振りの剣。闇の中の闇で黒き破滅を否定する剣。

 ゼロの寸前で差し伸べられた手だけを理由に折れるまで戦う剣。

 幾度繰り広げられたかも分からない剣戟の果てに瞬間の輝きを見せる剣。

 目に映った世界のために災厄を切り開く剣。白き黒を肯定して猛進する剣。

 そして――――欠片を箱庭の外へと導く剣。

 わたしが知る限り、剣というものは無数の使い道がある。それをあの欠片たちが選ぶことさえ出来れば。

 そう、か――わたしはその運命を信じた者に作られたのだ。

 ならば見届けよう。“あなた”だけではない。わたしもあなたを有する■■■なのだ。

 

 

 +

 

 

 その夢は、今までのものとはどこか違った。

 曖昧……なのは変わりないか。何というか、複数の視点を一つにして見ているような感覚。

 だが、複数でありながら一つであるような――とにかく、訳の分からない夢。

 一体なんなのだろうか。この夢は、何を意味しているのだろう……?

「……」

 答えが出ない考えを巡らせていても意味がない。

 とにかく、今はやるべきことをこなしていかなければならないのだ。

 ジナコの迷宮を突破する。昨日――十階ではノートの襲撃があったものの、凛の秘策もあって見事撃退することができた。

 その後も順調に攻略を進め、最初のSGを取得するに至った。

 次は二つ目。ジナコのSGは今までとは性質が違うものだ。

 きっと、凛やラニと同じような攻略は出来ないだろう。

 それに、彼女はともかく彼女のサーヴァント、アルジュナは正真正銘凄まじい力を持ったサーヴァントだ。

 アーチャーという最も相性が良いだろうクラスに当てはめられ、昨日見た実力の片鱗は叙事詩の大英雄に相応しいものだった。

 問題は多い。あまりにも、多すぎる。

「……」

 だが、時間は待ってはくれない。

 そろそろメルトも目覚めるだろう。

 ――メルトは、僕の憶えていない記憶を知っている。

 きっと、それを一人でメルトは背負っているのだ。

 都合の悪い記憶なのかそうでないのか。それは分からないが、メルトは苦しんでいる。

 早く思い出さないと――そんな焦燥は余計に考えを阻害していく。

 今のパーツでは、思い出すのには足りないのだ。後少し、何か欠片が必要になる。

 それを持っているのは誰なんだろうか。BBかも知れないし、ノートかも知れない。ヴァイオレットかも知れないし、キングプロテア、ローズマリーといった話したことすらないアルターエゴかも知れない。

 或いは、誰も持たずにどこかに落ちているという可能性もある。どの道、見つけ出すのには一筋縄ではいかないだろう。

 僕は決勝まで勝ち残ったマスター。だが、その記憶には穴がある。

 この時点でどこか引っかかるのだ。

 まるで、僕がこの事件の中心であるような気がしてならない。

 もしかすると未だ失った記憶には全ての真相が存在しているのではないか。

 そんな可能性でさえ、数値の上ではありえる。

 だとすれば、二つの意味で僕は必ずその記憶を取り戻さなければならない。

 この月の裏側から脱出するため。そして、これ以上メルトを苦しめないため。

 どちらも僕にとっては大切なことだ。

 迷宮の攻略、記憶の奪還。どちらも、迷宮に行かなければ進むことはない。

 ――まずはメルトが起きるのを待とう。急いては事を仕損じる。こういった時こそ、冷静に行動しなければならない。

 それから、五分ほど。メルトが目を擦りながら起き上がる。

「おはよう、メルト」

「えぇ……おはよう、ハク――」

 うつらうつらとしていたメルトの目が此方に向けられ、突然大きく見開かれた。

「ハク……よね……?」

「……? そうだけど……」

 どうかしたのだろうか。寝ぼけている、という訳でも無さそうだが……

「その髪……どうしたの?」

「髪?」

 どうやらメルトの驚愕の対象は僕の髪らしい。

 怪訝に思って、部屋に取り付けられた鏡を見る。

 ラニの迷宮を攻略していた頃、言峰に売りつけられた商品だ。

 それを見て――

「――?」

 僕の髪は、こんな色をしていただろうか。

 ほんの少し、しかし鮮明に。色が抜け落ちていた。

 若干白みがかった髪。しかし、思い当たる節は何一つない。

 確かに、この体は霊子体である以上、ある程度の魔術師としての実力があればアバターを変更させるのはそう難しいことではないらしい。

 だが、僕はそんな技術は持っていないし、した憶えもない。

「どう、いう事……? 僕、何もしてない。何だよ、これ……」

「落ち着いて、ハク。霊子に乱れはない……体にも問題は、ないわ。自然にこうなった……?」

 自然に変化した、という事がありえるのだろうか。

 何か外的要因がなければ霊子体にこんな変化は起こるなんて事が……?

「……とにかく、生徒会室に向かいましょう。体に異常は見られない。何かが起きるなら、その前に私がどうにかするわ」

 メルトの言葉はいつも通り、頼りになるものだった。

 だが、小さな不安を感じる。

 何かが起きるなら――それが、“何かが起きる”事を確信しているかのような。

「……分、かった」

 それを追求することが出来ない。

 どこまでも、自分は弱い存在なのだと――この髪は嗤っているのかもしれない。

 

 

「……」

 どうにも、居辛い。

 生徒会のメンバー一同の視線はやはりと言うべきか、驚愕に見開かれていた。

「……脱色でもした?」

 そんな中の第一声は、凛のどこか抜けた言葉だった。

「ミス遠坂、ハクトさんが戦場たるこの場でそこまで無意味なことをするとは思えませんが」

「儂もそう思う。考慮すべきは問題であるかどうかだが……」

 ラニがそれに返し、レオも同意する。

 ダンさんは顎に手を当て考え込んでいる。

 ……何故か、桜とユリウスがいない。何かあったのだろうか。

「わたしの髪色に合わせようとでもしてるんでしょうか」

「うん。それはないと思う」

 カレンの恐らく冗談だろう呟きに白羽さんが苦笑する。

 ほぼいつも通りの空気に、やはり気にすることなんてなかっただろうかとも思える。

 席に着くと、カズラがそっと髪に触れてくる。

 優しい手付きとは裏腹にその表情は固い。

「……どうやら、マイナスに向く変化はないようです。でも、これでは皆さんも気になるでしょうし……」

 言いながらカズラは懐から何やら符を取り出す。

 メルトが警戒するように出現するが、カズラは一瞥しただけで視線を戻し、符に魔力を込めて此方に差し出してきた。

「これを持っておいてください。周囲の視覚に対するちょっとした妨害術式を込めてあります」

「妨害……?」

 怪訝に思いつつ符を受け取る。何ら感じるものはないが、果たして変化はあったのだろうか。

「……おや、髪が元に……?」

「元に戻ったわけではありません。元の髪色に見せかける幻覚のようなものです。ある程度の対魔力があれば効果は出ないでしょう」

 だが、気にされないのなら無いよりもマシだろう。

 何故こうなったのか分からない以上、あまり多人数に知られないほうが良いかもしれない。

「視覚的にはもう問題はないでしょうが……ハクトさん、何か感じられる変化はありませんか?」

「……特にないかな。僕自身、メルトに言われるまで気付かなかった」

「では……暫くは保留としておいても?」

「構わない。何かあれば言うよ」

「そうですか。では簡単にブリーフィングを始めましょう」

 経緯が分からなければ調べようがない。ならば置いておき、他の問題を解決していくべきだ。

「……ところで、桜とユリウスは?」

「桜は保健室よ。迷宮が深くなったことでまた負荷が大きくなったみたいね。カレン、カズラ、ちゃんと分担してる?」

「勿論、桜から与えられた役割はこなしてますが」

「ただ、サクラは負荷の六割超を自分で負担しています。実質的に私たちの三倍以上ですから……そう考えると随分無理をしてますよ。『これが自分の役割だから』って、頑なに言ってます」

 カズラはどうやら、桜に掛かる負担を大体想像出来ているようだった。

 健康管理AIとしての性能を残しているためか、そういった計算に向いているのだろう。

 カレンは多分、特に考えていない。聞かない事がカレンなりの心配なのかもしれないが。

 にしても、心配だ。後で保健室に行ってみよう。

 また鍵が掛かっているかもしれないが、その場合はカレンに頼むしかないか。

「兄さんは自室で休憩させています。あの人は言わなければ休むという事をしませんからね。月の裏側に落ちてから今まで、多分五時間と睡眠取ってませんよ」

「十日近くは経ってると思うんだけど……何、ユリウス君って不眠症なの?」

「そんな報告は受けてませんよ。ただ無理をしているだけですね」

 ユリウスはBBが迷宮の先にいると分かってからは迷宮に潜る事は無くなったが、周囲の解析や他の脱出口の詮索等誰よりも仕事をしている。

 それも、ほぼ休眠を取らずにだ。

 レオが定期的に言わなければそれこそ、一切休まずにいることだろう。

 その辺り、レオの決定は的確に思えた。

「兄さんは問題ないでしょうが……サクラの方は分かりませんね。ハクトさん、これが終わったら少し様子を見てきてくれませんか?」

「あぁ、そのつもりだよ」

 レオは頷き、本題に入る。

「さて、ノートを撃退したことで、ある程度迷宮の攻略はしやすくなったと見るべきでしょう」

「うむ。他のアルターエゴの襲撃という危険性はあるが、今回は二人での攻略というアドバンテージがある。留意すべきは衛士のサーヴァントだな」

 アルジュナ。

 彼こそが今回の階層の最大の敵となるだろう。

「その通りです。引き続きハクトさんとミス遠坂による探索を。ミスカリギリのSGは少々特殊ですが、お二人ならば問題ないと信じています」

 だが、彼が如何に強力なサーヴァントだろうと僕のやるべきことは変わりない。

 レオの信頼――ひいては生徒会の信頼。

 それに応えられるように全力を出すまでだ。




だんだんと長くなる謎のモノローグ。
具体性に欠けるもの書くのって「自分だけが秘密知ってる感」という名の謎の優越感が出て楽しいです。

さて、ハクの髪が変わってきましたが、別に桜からその要素を移した訳じゃないです。
ハクにはハク特有の事情があり、桜も描写こそしてませんが髪は白くなり始めてます。
ちなみに自分は最初にCCCルートを進めていたとき、桜の髪色の変化に気付いたのは最終章になってからでした。マジ桜ごめん。
つーか最近、自分で書いてて白羽さんの君付け口調が可愛く思えてきました。何この重傷。

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