ギル「そのような暇、我が与えると思ったか!」
イシュタル「な、なんて手強いのっ!」
ギル「当然だ! あの雄牛同様、貴様も我が手ずから始末してくれよう!」
イシュタル「ううっ…助けてお父さんっ!!」
ギル「くははははっ、イシュタルめ、親に泣きつくとはそこまで落ちたか!」
【アヌの裁き】
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GAME OVER
ギル「ほわぁっ!?」
イシュタル「うはwwwバロスwwwあのクソ生意気キングに遂に一泡吹かせてやったわwwwサンクスパパンwww」
どれだけジナコが怠惰だろうと、アルジュナはサーヴァントとしての義務は果たしている。
軽口は叩き、ジナコの惰性は指摘する。それでも、彼女を守る事に否やは無い。
「さて……とは言うものの、この場で戦うのは戦場として狭すぎますね」
「……何スかそれ。悪かったッスね、狭っ苦しい迷宮しか作れなくて」
それに対して何も返さずにアルジュナは弓を構える。
矢を番える前に、ランサーならば攻撃は可能だろう。
だが、アルジュナは一般的なアーチャーの常識を超えた大英雄である。
弓単体で接近戦をも可能な芸達者なのだ。
「一つどうでしょう。この場で私は一撃放つ。これに耐える事が出来れば、ジナコのSGを持っていくというのは」
「ちょ、勝手になんて約束してるッスか!?」
「どうせこの場で私とカルナが戦えば、迷宮そのものが消滅しかねない。だったらこういった条件を提示するのが良いと思いまして」
「アルジュナさんになんの損も無いじゃないッスか!」
「そうでもありません。私はこれに誇りを込める。必勝を信ずるからこそ、これを放つのです」
ジナコの抗議を意に介さず、アルジュナは言う。
アルジュナの攻撃を一撃耐える。そうすればSGを渡す、と。
「……アルジュナ」
「カルナ。貴方がいるならば、尚更手を抜く訳にはいかない」
纏う戦意を見て取ったのかジナコは下がり、神妙な顔つきになった。
アルジュナは一撃必殺を信じうる力を解放しようとしている。その戦意にジナコはマスターでありながら圧されているのだ。
「……どうする、凛」
「どうするったって。やるしかないでしょ。向こうから提示してきてくれたんだもの」
「オレも同意見だ。何より、アルジュナの提案を無為にする気はない」
ランサーは、アルジュナも挑戦ならば断る理由などない、との事らしい。
凛もやる気だ。では、
「……メルトは?」
「良いじゃない。あのサーヴァントの底力。ここで見ておくのは良い判断だと思うわ」
……メルトもそのつもりだ。
「どうしますか、ハクト」
正直なところ、ここまで高位のサーヴァントと戦うのは決して少なくない恐怖がある。
ノートとは違う。BBとも違う。もっと純粋で、真っ直ぐで、それゆえに研ぎ澄まされた鋭い強さ。
だが、SGを取るにはこれが確実。
これで受けることが出来なければ――元々そこまでだったのだ。
「…………」
「その意気や好し。ジナコ、よろしいですね?」
「あ……う……え、えーい、もう好きにするッス! だけど、ちゃんと追い払うッスよ!」
それにアルジュナは返さず、ただ弓を持たぬ右手を前に突き出す。
「では、そうしましょう」
その右手から発される魔力は、どこか覚えがあった。
ランサーの持つ宝具。それと同じ――
「ランサー」
「……」
「メルト」
「えぇ」
二人が迎撃の態勢を取る。
どちらも、対処法は心得ていると言わんばかりに。
だが、良く考えてみれば、その内片方は大きな間違いではないか。
確かに、生前知った仲であればアルジュナの手の内を熟知していてもおかしくはないだろう。
そうではない――メルトは、経験則によるものでしかない――!
「武具など不要――」
そう。これは必中を謳う宝具。
担い手によって、“千変万化する”武器。
ならば、例え戦ったことのある者が同じ宝具を持っていたとしても、同じ形を取り同じ軌道を描き同じ威力を持つとは限らない――!
「真の英雄は、気で射抜く――!」
アルジュナの右手を囲うように出現する無数の光。
飛び上がり、振り抜かれると同時、此方に広がる閃光は矢の雨となって落ちてくる。
「っ、――!」
盾、これでは駄目だ。
弾丸、話にならない。
どうすればいい。あれではランサーでもメルトでも防ぎ切れない。
無数の矢の雨は命中精度を求めたものではない。
多く当たれば、ではなく全てが対象を追尾し貫かんとする、正真正銘の必中宝具
それも、一つ一つが必殺の域――インドの頂点に立つ神の名を冠する武器に恥じない凄まじい威力、これがアルジュナの『
「くっ……!」
凛の宝石――だが、間に合わない。
何をするべきか、思い浮かばない――思考が回らない内に矢は迫る。
メルトとランサーが動く。
「ランサー」
「あぁ――」
結局、何も出来ないまま。
そんな無力感を抱きながら、降り注ぐ矢をただ見る。
火炎が広がり、それに波紋が広がるようにメルトの魔力が加えられる。
メルトでは防げない。ランサーでも防げない。だが、メルトとランサー、二人が協力すれば、出来ないことも出来るようになる。
メルトの防御スキル、『さよならアルブレヒト』の魔力を火炎に流し、防壁として展開する。
「――」
防ぎきれている。
だが、完全に防げるかとなれば――ギリギリなところか。
それを詰める一手。何らかの形でそれを補佐できないものか。
例えば……メルトへの魔力提供を多くする。どうすれば良いのかは判然としないが、メルトに魔力を渡すパスを増強させることができれば。
「――
自分で術式を作り上げるのは、聖杯戦争の戦いを振り返れば何度かある。
コードキャストの構成要素。それらを組み合わせる事で初めて一定の効果を発揮するのだ。
ならば、最初に紡ぐべき要素は強化。しかし、続く式はステータスに作用するものではない。
「――――
ここに術式が完成する。
「ッ」
流れ込んでいく魔力の量が感じ取れるほどに増えた。
使える魔力が増えれば、炎に流し込める力も同様に増える。よって、炎が持った更に防御力も増える――!
「何……っ!」
矢の雨が止んだ。防ぎきった、のだろうか?
降り立ったアルジュナ。驚きを隠せないといった表情だ。
ランサーもメルトも然程ダメージを負っていない。
「……まさか、これに耐えるとは」
「ハク、今……?」
「うん……急造だけど、パスの強化を……」
「は……? 魔術回路に手でも加えたっての……?」
凛は驚いているが、そこまで難しいことでもないだろう。
何も複雑な術式を組んだわけでもないのだが。
「……ま、いいわ。それで、生き残った訳だけど、アルジュナ?」
凛の声でびくりと、ジナコが震える。
そうだ。僕たちはアルジュナの提示した条件を達成した。
そうなる以上、アルジュナはもう手出しをしない。ジナコは震えながら下がっていく。
「……アルジュナ、さん……?」
「……すみませんジナコ。これは、私の責です」
「…………そ。やっぱりボクのサーヴァントッスねアルジュナさん。大嘘つき同士ッス」
嘘つき。
嘘。それが、この迷宮の象徴といえよう。
嘘だらけだった迷宮の主、ジナコのアルジュナを見る目は今までとは違う、どこか信頼を失ったような眼差しだった。
「アルジュナさんはまだ良いッスよ。最初は信じれるッスから。でもね、アタシは違う。お粗末な嘘しか吐けないし、そんな嘘が必要だったんだ」
ジナコの本心だった。
あれらは全て、ジナコにとって必要なものだったのだと。
「そうでしょ? ……アタシもハクトさんもリンさんも傷つかなくて済む嘘ならそれで良いでしょ!?」
だが、その嘘は。その心情は。
「……本当は、知っていてほしかったんじゃないか?」
「……っ、……っつーの」
ジナコは噛み殺したように呟いていたが、やがて我慢が出来なくなったのだろう。
「っ、違うっつーの!」
叫んで、涙を流して。
ジナコはその嘘で、何かを隠していた。
誰だって嘘は吐く。真実を一切隠そうとしない者は恐らく、最も大切なものを持たない者だ。
だが。
「ジナコは、何かを……大切な何かを知ってほしかったんだ」
「……は。大切なモノを持ってる? アタシが? バッカじゃないの?」
五停心観が起動する。
ジナコが隠し続けたもの――正しくは、その鍵。それを取らんとするために。
「これだから、ガキンチョは、鬱陶しくて、青臭いんだっ!」
心境を止め処なく吐露するジナコは髪を振り乱して此方を睨んでいる。
“鍵”を指摘しておきながら、その“部屋”の内装について何も解っていない。
そんな子供が、知ったような口を利くなと。
「何も分かってないっ、なーんにも苦しんでないっ! 大切なモノとか、それを守る鍵とか、そんなの恵まれた勝ち組のヨユー発言だっつの! 大切なモノも誇れる自分もいない負け組だっている! 積み重ねた嘘が大切な自分になっちゃう人間だっているんだっ!」
アタシは、大嘘つきなんだから――!
多分、その悲痛なまでの叫びをこれ以上聞きたくなかったんだと思う。
自分の弱さを痛感しながら、ジナコの心の秘密を抜き出していた。
ジナコのSGは、指摘する必要はなかった。
自覚しているSGは言うまでもなく、ジナコ自身が吐露している。
虚言癖――この迷宮全体に漂い、何よりもジナコから伝わってきたその雰囲気をSGという形で命名するならば、そうなるだろう。
「っ……」
秘密を抜き出すと、ジナコの分身は消えた。
今までのどのSGよりも重い、後味の悪さを残して。
「……」
アルジュナもそれに続き、何も言わずに転移する。
『……新たなフロアの起動を確認しました。やはり、他にもSGがあるようです』
『帰還を。四人とも、しっかり休憩を取ってください』
言われずとも、そろそろ限界だった。
ノートと戦い、アルジュナの提案を受け彼の宝具を正面から受けた。
これ以上進むのは危険だろう。
「……ノートは倒せなかったわね」
「でも、手傷は負わせた。暫くは出てこれないだろうから、それが収穫だね」
この階層でノートは戦わないと言った。だが、気になるのは、この階層を突破した時に誰かに対して報復するという宣言。
今は気にするだけで、何の対処も出来ない。
彼女が襲ってきたとき、その時こそ二度目の戦い――今度こそノートを倒さなければならないのだ。
個室に戻ると、疲れがどっとこみ上げてきた。
記憶を取り戻してからここまで、精神的な疲労を伴いすぎたのだろう。
……まさか、僕が決勝まで勝ち上がっていたなんて。
負けるつもりで臨んだ戦いではないんだろうが、やはり実感というものは沸いてこない。
それは多分記憶に穴があるためだ。
記憶を失う前、僕はどんな人間だったのか。どんな望みを持ってこんな戦いに赴いたのか。
五回戦、六回戦頃だろうか――に開いた、何か。戦いの記憶自体にも欠損が存在する。
「……さて、私が表の記憶を“覚えていたか”って事だったわね」
「……うん」
メルトはそれを知っていたか。そもそも、裏側に落ちたとき、まだ表の記憶を保持していたのか。
「単刀直入に言うわ。私は記憶を持っていた。忘れさせることが出来なかった、というべきかしら」
「忘れさせることが出来なかった?」
「記憶を奪ったのはBB。それは分かるわね?」
頷く。その記憶はカズラが持っており、カズラが渡してくれたことで僕たちは記憶を取り戻したのだ。
ともなると、BBはメルトに手を出していないという事か?
「BBは各々の思考から聖杯戦争の記憶だけを抜き出した。複雑な工程を踏むけど、結果だけは単純なの」
記憶を抜き出すのには何らかの工程が必要。
だが、どれだけ複雑でも結果としては「思考から記憶を抜いた」だけなのだと。
「サーヴァントとしての私の構造は流体に近いわ。体に記憶情報を溶かし込むことも出来る。そうしておけば、如何にBBが記憶を奪っても体に残った情報はなくならない。まぁ、単純作業の穴を突いた訳よ」
思考以外に記憶を持っておけばそれは奪われない。
メルトのサーヴァントとしての特性を利用した対処法。
だが、良く考えてみれば……
「じゃあ……メルトは裏側に落ちることを知っていたのか?」
「……」
返ってきたのは、小さな溜息だった。
「……確信したわ。やっぱりハク、全部の記憶が戻ったわけじゃないのね」
「っ」
薄々、感付かれていたのか。
「五回戦の三日目……だけかしら?」
「……いや、五回戦の決戦も……後、日付すら分からない穴もあるんだ」
「……そう……変に思い出させても混乱させるだけかしら」
考え込むメルト。
僕の失った記憶はなんなのか。恐らくメルトは分かっている。
そして、それを教えるのかどうか……
「……ううん、やめましょう。きっといつか、貴方は思い出す。自然に理解できるまで待った方が良いわ」
「……そうか」
メルトの結論に対して、反感は覚えなかった。
それが正しいというのなら、僕は信じて待つだけだ。
いつか思い出す……根拠があるかも分からないが、メルトがそう言うのであれば。
「さて、もう休みましょう。明日もまた迷宮よ」
「分かった――」
とにかく、今は休むべきだろう。
ジナコは今までの衛士とは性質が違う。
しっかり休み、次の階に備えなければ――
ギル「ふんぬっ!」
イシュタル「きゃっ!? 何で生きてるの!?」
ギル「舐めるな遊女よ! 我の財宝をもってすれば、命の補填など容易いわ!」
イシュタル「ま、魔法石65,535個ですって!? ちょっとそれチートじゃないのよ!」
ギル「我がルールだ! 去ねよイシュタル!」
イシュタル「きゃああああああああああ!」
ギル「ふっ……仇は討ったぞ、エルキドゥ」
強制では信頼関係は築けません。
無理矢理信頼させられ、しかも裏目に出たため味方に裏切られたという原作と違う結果でSG表出となりました。
アルジュナのブラフマーストラは右手からの無限必中矢となります。
威力はカルナに劣りますが命中性に長けるという事ですね。あれ? 必中武器?