Fate/Meltout   作:けっぺん

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第一次多忙期間は明日で遂に終わります。
最後の最後でかなり重要な予定なんですけどね。
今日の更新はその願掛けという訳ではありませんが、明日は多分疲労でぶっ倒れてるんで。


Sick/Home Sink-3

 

 

 

 

 Now hacking…

 

 

 

 

 OK!

 

 

 

 

『この放送は、ムーンセル特設スタジオ、サクラガーデンからお送りいたします』

 

『モニターの前の皆さん、こんにちは。ムーンセルで来場者数、コメント数、タイムシフト数全てにおいて怒涛の一位、BBチャンネルの時間です』

 妙に久々な気のする放送が視界と感覚をジャックしていく。

 どうやらこの場にいてはカズラでも妨害はできないらしい。

『司会はお馴染み子悪魔BBちゃん。視聴者はワンカップの水溜りでお遊戯に夢中なメダカの皆さんです。いくらマンネリでも番組の発言権はセンパイだけですのでご了承を』

「……」

 毎度の事ながら、何故僕だけ喋れるのだろうか。

 正確にはメルトとリップも発言権を共有できているらしいが……

 その性質を考えると、もしかするとカズラもこの放送で話すことができるかもしれない。

『あ、当然ながら生徒会室外にも放送は発信しています。そこで暴れてる青色ワカメさーん、元気ですかー?』

 (恐らくは)慎二を弄ぶBBは心の底から愉しげだった。

 どうにも、この異様な雰囲気とハイテンションには慣れない。

 痛々しいというかなんというか。この空気の読めなさは間違いなく殺人級だ。

『ひしひし感じるグランマ目線!? センパイのそんな訳知り顔なんて見たくありません! MM5(マジでマジ泣き五秒前)のボロッボロ笑顔がお似合いですよ!』

 クスクスと笑いながら、BBは進行を進める。

 気のせいか、隣で呆れ返ったような溜息が聞こえた。

『さて、まず始めに、そちら側についたカズラドロップに関してです』

「ッ」

 恐らくこの話題は上がるだろうとは思っていた。

 反逆をBBが許すはずない。一体、何をしでかしてくるか――

『結論から言いますと、私は何もしません。カズラ程度の力なら全然障害にならないですし、私はそれ以上の戦力を手に入れましたから』

 戦力外なので、必要ない。BBはそう言った。

 それに対してカズラは口を開かない。

 BBは黙認するという事らしいが、それ以上の戦力とはまさか。

『カズラなんて目じゃない、出口無用攻略不可能、行列のできる人気迷宮! 今回のBBチャンネルは噂の新たな衛士について迫ります。わあ誰なんでしょう全然わかりません!』

 分かりきったことではあるのだが勿体ぶっている。

 認めたくないが、次の衛士は既に知ってしまっているのだ。

『センパイの知ってる人かもですし、予想だにしない人かも――ハッ! アポクリファなゲストサーヴァントを突然一体増やした気紛れの事だしまさか、驚愕の新キャラ――』

 何の話か良く分からないし、驚愕の新キャラとやらな訳がない。嬉々として司会らしいトークを続けるBBの隣にジナコが現れ、BBの口は止まった。

『……』

『……ステマ乙』

 黙りこんだBBに、ジナコは静かに言い放つ。

『ジナコさんはバトル側の人間じゃないんでそれだけ釘刺しに来たッス。ボスとか攻略とか関係ないんで』

『……新衛士は、ジナコさんでした!』

 予想外とかローテンションとか何ぼのもんじゃいと言う様にBBは仕切りなおした。

 ジナコの目は十階で出会ったときと同じ虚ろなものだ。

『さすが、平常運転のYaruki(やる気)/Zero(ゼロ)。ちなみに「/(スラッシュ)」はパイスラッシュの「/(スラッシュ)」です』

『好きでパイスラッシャーやってる訳じゃないッス。あ、でも絶壁無双のラニさんならパイスカッシャーッスね。最たるのはメルトさんッスけど。アレは酷いッス』

 ながら、さりげなくとんでもない爆弾を投下していった。

「……メルト?」

「……………………殺す」

 発言権を持っているサーヴァントから、至極物騒な一言が解き放たれる。

「ハク、良いわよね。アレは最優先抹殺対象よ。BBなんて放っておいてまずアレからよ」

「考え直してメルト! 見えないけど殺気が凄いから!」

 このままだと――BBが許さないんだろうが――ステージの一切をBBとジナコ諸共ブリゼでエトワールしてしまいそうである。

 それはなんというか、色んな意味で駄目な気がする。

 そしてラニが、自分の胸元を不可解そうに見つめていた気がする。

 謎の空気の中でも、ジナコは虚ろな目をしたまま俯いていた。

『顔出しはこれで十分ッスよね、BBさん。今後はノーコメントッス』

 今までどおりの雰囲気を保ったまま、ジナコは静かに呟く。

『こんな無理ゲー、関わっちゃ駄目ッスよ、ハクトさん。構ってちゃんはスルーが大原則ッス』

 遠まわしに――迷宮に入ってくるなというジナコらしい宣戦布告。

 ジナコは消える一瞬、その虚ろな目を此方に向けていた――

『はい、お疲れ様でした。とは言っても、ジナコさんには正直期待していません。隠れスペック高えアピールは鬱陶しいですし』

 しかし、それでもエゴでは無くジナコを衛士にしたという事は何かしらの理由がある。

 ジナコに期待をしていないのだったら、それは……

『ですが、彼女のサーヴァントは正真正銘、超級の大英雄。財宝投げるばかりの金ぴかとは違う、本人自体が究極スペックなのです』

 ――アルジュナ。

 そうだ。ジナコが衛士であれば、そのサーヴァントとしてアルジュナが立ちはだかる。

 如何にジナコが無気力で無抵抗であっても、ジナコを守るべくアルジュナは戦うだろう。

 インドの大叙事詩、マハーバーラタに謳われる絶対的な勝者。先に進むのであれば彼に勝たなくてはならないのだ。

 これほどまでの戦力を持ち、意味不明な誰得コーナーで此方を挑発するBB。

 その目的は何なのだろうか。

「……まぁ何でもいいけど。BB、正直この放送鬱陶しいわ。語るなら語るでいいけど、そのテンション止めてちょうだい」

 先程の苛立ちもぶつけているのか、いつも以上に敵意を込めたメルトの呟きで得意げだったBBの表情は見る間に不機嫌なものになる。

『邪魔なサーヴァントですね……やっぱりスクラップにしといた方が良かったかしら』

「後の祭りね。良いから終わらせて。この空間にいると肌が荒れそうだわ」

 割と酷い言い草だった。

 メルトの言い分にBBは舌打ちする。どうやら相当不機嫌のようだ。二人とも。

『進行の邪魔をするなら、次は一対一、BBの部屋を準備します。楽しみにしててくださいね、センパイ』

 あまり楽しみにしたくない提案を最後に、放送は終了した。

 

 

「いつもながら、あのBB時間帯(バイオレンス・ブロッサム・アワー)は息を止めるより過酷ですね」

 レオが一息つきながら言う。

 ちなみにバイオレンスの頭文字はVである。

「紫藤さん、大丈夫ですか? あの回線、紫藤さんには特にきついですから……」

「あぁ……大丈夫。ありがとう、桜」

 観客席にいるようなものである皆に対して、僕はステージで無茶振りさせられているゲストだ。

 今回は幸い何も無かったが、疲労度は決して小さくはない。

「さて……今後の方針ですが」

 レオの切り替えによって、気を引き締めなおす。

 BBチャンネルで一時的に忘れかけていたが、今は解決しなければならない問題がある。

「迷宮の攻略は今まで通り行います。ですが、その前に」

「うむ。メンバーの再招集を行わなければなるまい」

 白羽さん、凛、そしてガトー。生徒会のメンバーのうち、三人が生徒会室にいない。

 その発端となったのは紛れも無く僕であり、蟠りを解決しなければならないのも僕だ。

 そして、慎二の事もある。まずは皆と話をしなければ――

 

「お待たせ。ごめんなさい、勝手に席を外して」

 

「凛……」

 あれからまだ、殆ど時間は経っていない。

 だが、凛は特に気にしていない様子で戻ってきた。

「ミス遠坂……大丈夫ですか?」

「ええ。適当に鬱憤も晴らしたし。心配ないわ」

 何をしたんだろうという疑問は生まれるが、凛と面を向かって何を言えば良いのか。

 謝るのではない――そんな事を、凛は求めていない。

「ハクト君」

「っ」

「そんなにビビッてるんじゃないわよ。無理はないけど、貴方に負けた人の前でその表情をするのはどうかと思うわ」

 半ば呆れるように凛は言う。

 確かにその通りだ。今の心情はともかくとして、僕は今、勝者としての表情はしていないだろう。

 だが、実感が無いのも事実だ。本当に勝ったのかと疑ってしまうほど、勝利の実感は皆無に等しかった。

「ともかく、裏側にいる間はそんな顔しないこと。表に帰らなきゃ、勝つ負けるの問題すら存在しないんだから」

「……でも」

「あー、もう! こっちだって説教するほどの気力はないの! いいから、シラハとシンジに話つけてきなさい。そしたら今まで通り迷宮攻略。分かった?」

 それは、或いは凛の強がりなのかもしれない。

 凛が内心何を思っているのか、想像はつく。だが、凛がそれをひた隠してまで表に帰ることに協力してくれるのならば。

「…………分かった」

 僕はそれを追求してはいけないのだ。迷わない――そう決意した筈だから。

「レオ、暫く時間をくれないかな。白羽さん、慎二と話をしてくる」

「勿論良いですよ。しっかりと解決して、それから迷宮について考えましょう」

「……ありがとう」

 レオに礼を言って、席を立つ。

 どんな言葉を掛ければいいのか、答えは見つからない。

 行かなければならない、そんな使命感で動いている。無責任にも程がある。

「ハク……」

「大丈夫」

 メルトの心配そうな声に、できるだけ虚勢を張って返す。

 そしてやるべき事をするために、生徒会室を出た。

 

 

 一般のNPCがいる教室。

 設置された机と椅子――その一つに慎二は座り、頭を抱えていた。

「くそっ……くそっ……!」

「……慎二」

「ッ!」

 名前を呼ぶと、慎二の体がビクリと震える。

 ゆっくりと真っ青な顔を上げ、此方を見上げる慎二は――例えるならば、怪物を見るような表情だった。

「な……何だよ。笑いにでもきたのかよ」

「そんな訳ない。ただ……」

「別に、同情なんていらないよ。謝罪も求めちゃいない。だからもう話しかけるな。一人にしてくれ」

 慎二は塞ぎこんでしまっている。

 そして、それに対して僕は何も言えなかった。

 慎二と戦ったのは、一回戦。

 まだ聖杯戦争の何たるかを理解していなかった始まりの戦いだ。

 最後まで助けを求めて叫びを上げていた慎二を殺したのは、紛れも無い僕なのだ。

「まったく……困ったマスターだねぇ」

「っ、ライダー! 空気読めよな、こういうときくらい黙ってろよ!」

「無理。塞ぎこんだマスター相手の命令に従ってられるほど出来たサーヴァントじゃないんでね」

 ただライダーに任せて、黙っていることしか出来ない。

 やはり僕はどこまでも未熟だ。最適解を自分で見つけ出すことが出来ないのだから。

「別にアタシのせいにしてもいいさ。ただね、諦めるのはいただけない。どれだけボロクソにされても最後まで足掻いてやるのが海賊精神ってもんだ」

「誰が海賊だ! 諦めなかったらどうにかなるのかよ!」

「どうにもならない。でも、どうにかなる。その可能性を見出して航路を拓いてやるのがアタシの仕事さね」

 不可能を可能にした女海賊であるライダーは、死の未来さえも覆そうとしている。

 ゼロである可能性を無理矢理一パーセントに増やし、それをもぎ取る――たった一度の人生でそんな偉業を成し遂げたのがライダーだ。

 真名フランシス・ドレイク。生きて世界一周を成し遂げた最初の人間だからこそ平然と言うことのできる、開拓者たる言葉。

 慎二の表情は晴れない。何より、僕が何も解決していないのだから当たり前だとも思う。

「……どうしろってんだよ」

「……」

 細く弱々しい声で、慎二は呟く。

「……慎二。僕は、表に帰る……聖杯戦争に」

「……勝手にしろよ。僕は手伝わないからな」

 夕焼けの外を眺めながら言う慎二の表情は分からなかった。

 だが、その明確な拒絶には何も言い返せない。

「坊や、シンジはアタシが何とかしとくよ。坊やはもう一方の嬢ちゃんのところ行ってきな」

「だけど……」

「良いから行きな。今のアンタがシンジをどうにか出来るのかい?」

 出来ない。本当に情けない――どう考えても、僕が決勝戦まで勝ってきたとはとても思えない。

「……ごめん」

「良いってことさ」

「……でも、ライダー。何でそこまでしてくれるんだ……? 僕は、慎二を――」

「仮初だったかもしれないけど、それでも坊やはマスターの友達だろ? 敵じゃないなら悪くは扱わないよ」

 そう言って、ライダーはニカッと笑った。

 なんという器の大きさだろう――たった七日間の戦いでは、それを知ることはなかった。

「さあ、行った行った。嬢ちゃんも重傷だろ。今出来ることをちゃっちゃとやりな」

 豪胆に笑うライダーは非常に頼もしく、ありがたかった。

 果たせない責任の先延ばし。それをライダーは許してくれる。

 ライダーの気持ちを無駄にしないためにも、足早に教室を出る。

 慎二と少しだけ話して分かった。やはり、僕が白羽さんのところに行くのは相応しくないだろう。

 慎二の取り乱し様は尋常ではなく、白羽さんも同様である筈だ。

 白羽さんにも、或いは拒絶されるかもしれない。それが当然の感情なのだが、それがどうしようもなく怖い。

「ハク……怖いなら、放っておいても良いのよ? 不安もあるけど、リップならシラハをどうにかできるわ」

 心配そうにそういうメルトは、どこか達観して見えた。

 白羽さんのところに行くのは変わらない。だが、それから少し逃げたくなったのも事実。

 先延ばしにしたい――そういう心の表れだろう。気付けば、メルトに対する疑問を口にしていた。

「……メルトは、覚えていたの? 月の裏側に来てからも」

 思えば、メルトはこの裏側で何かを含んだ言い回しが多かった気がする。

 それの回答が、少しでも欲しかったのだが。

「……やっぱり」

 残念そうにそう呟き、口を噤んでしまった。

 悲しげな表情。僕は無意識に、メルトのそれを引き出してしまった。

 もしかしたらメルトにとって、最も聞かれたくない(聞きたくない)ものだったのかもしれないのに。

「……私が知ってることについては、後で話すわ。それより、ハクはどうしたいの?」

 後で――僕は、それを信じることにした。

 記憶という重要なパーツを取り戻したのだ。きっとメルトならば、この回答をくれる筈だから。

「白羽さんのところへ行く。ありがとう、メルト」

 気遣ってくれた最高のサーヴァントに、心からの礼を言う。

「……いえ」

 姿を消したメルトは、やはりどこか悲しげだった。

 だが、それを追求はしたくない。

 今はとにかく、白羽さんのところへ向かおう。少なくとも、僕が現実から逃げるのは論外なのだ。




暗いよ、重いよ。BBチャンネルが清涼剤過ぎるよ。
ハクがヘタレるのは今回ばかりは仕方ない。
だって私自身、こういう時どう思ったら良いか分からないんですもの。
マジこの境遇いたたまれねえ。書いたの自分ですけど。

↓真夜中の金縛りから脱する方法マジで誰か教えてください予告↓
「……でもさ、出来れば……あまり見ないで、ほしいんだけど」

何をって……尼さんマジカウンセラーって事ですけど、何か。

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