二週目のCCCルートでは見逃す選択肢でエゴが味方になって今度こそ席が埋まると思ってました。
許さん黒幕許さん。
聖杯戦争の記憶。
断片のようだが、大まかには思い出した。
六度、勝った。その中で様々なマスターと出会い、思いの丈をぶつけあって戦ってきた。
慎二。ダンさん。ありす。白羽さん。ユリウス。凛。
そして――レオと最後の戦いで刃を交えることになって。
そこまでだ。決勝戦の相手が確定し、そこで記憶は途絶えている。
――その前も思い出せない。
自分が何を求めてこの聖杯戦争に赴いたのか。根底になければならないそれが、抜け落ちている。
この際……それは後でいいか。今は、向き合わなければならないことがある。
「……」
ここにいるマスターの内、少なくとも僕は七人と戦い、勝ってきた。
定められた対戦の外でランルー君と戦い、ラニには協力をしてもらっていた。
「……僕の記憶は、決勝戦の一日目までです。……ハクトさん、それで、良いですね?」
「……」
体の震えが止まらない。ながら、何とか頷くことができた。
「皆さん、記憶の照合は……」
「……済んだわ。私の戦いに関しては、全部」
「私もです。まさか、あんなことに……」
全員の表情を見渡し、レオは口を閉ざした。
決勝戦であたったのはレオと僕――つまり、この場にいる者は二人を除き、敗退者であることを意味しているのだ。
「……ふむ。道半ばで、とは多少予測していた事態だが」
ダンさんの厳粛な声に、僕は何も返すことができない。
ただ俯いて、震えていることしかできなかった。
「ウゥ……」
フランが小さく呻りをあげる。
別れたマスターについて、何かを思い出したのだろうか。
「く――く――ふはははははははははっ!」
呵呵大笑しているガトーだが、彼も既に敗退しているという事だ。
なのに、何故。
「ッ――やめてよっ!」
悲痛なまでの叫びは、白羽さんのものだった。
「何で笑ってられるの!? 私、ここにいるんだよ!? ガトーさんがそんな馬鹿みたいに笑ってたら、私もっと惨めじゃないっ!」
零れる涙を袖で拭いながら、白羽さんはガトーに叫ぶ。
白羽さんと僕が戦ったのは四回戦。
白羽さんの口ぶりからして、それより前に、ガトーと白羽さんは――
「いや失敬。だがのぅ……まぁ良いわ。小生は暫し、外に出ていよう。小生のような者はこの場には相応しくあるまいて」
ガトーはそう言って部屋を出て行った。
キアラさんが白羽さんの肩に手を置く。それを拒まず、白羽さんはただ泣きじゃくっていた。
「……ごめん。私もちょっと、部屋に帰る。すぐ戻るから」
凛も席を立ち、扉へと歩く。
何を思っているか分からない瞳は、一瞬此方に向けられていた。
「……ミス遠坂まで……この際、誰が誰に敗れたか、それは聞きません」
レオのそれは、最低限気を遣ったつもりだったのだろう。
本来ならば皆にとっても
だが――隠し通すのは無理なのだ。
「…………僕だ」
「……はい?」
黙っていられない、それは
だったら生徒会にいられなくなっても、その記憶を取り戻したこと、そして知らない人に伝えなければならない。
「……慎二、ダンさん、ありす、ランルー君、白羽さん、ユリウス、凛――僕が、戦った」
「――――」
「ッ、お前っ!」
仕方が無いことだった。
だから慎二が向かってきて、拳を振り上げても何もしなかった。
「っ」
しかし、拳は下ろされない。
「――違う。違うんだっ。お前を攻めても、何もならないっ!」
「……慎二」
「ああクソ! どうすりゃ良いんだよこんなの!」
声を荒立て部屋を出ていく慎二。
「……キアラさん、ミス黄崎をお願いできますか?」
「はい。さあ、シラハさん、こちらへ」
「……っ」
キアラさんに肩を借りながら、白羽さんもたどたどしい足取りで扉に向かう。
「……」
此方に向けられた恐怖の目。
何も返せない。何を思っていいのかも分からない。
自分が殺めてしまった人がここにいる、いざ相対して、どんな感情を持てばいいのか。
「ハク……」
「……メルト」
今まで、メルトは少なからず記憶を持っている様子があった。
メルトはこれを知っていて、あえて何も言わずにいたのだろうか。
「こういった事があるとは思いましたが……ここまでハクトさんが関与しているとは。何かの嫌がらせでしょうかね」
「カレン……! 貴女はまた……」
「お母様は、この記憶を頑なに隠そうとしていました。ですがそれは……」
「我々の関係を円満に進めるための配慮だった、という事ですね」
実際、記憶の開封によって、この生徒会室は随分と人が少なくなった。
決勝戦で戦うことになるレオとガウェインはともかく、彼ら以外は全員、敗退した者。
本来は、皆慎二や白羽さんのように豹変して当然なのだ。
だが、変わらぬ様子のマスターがいた。
ダンさんであり。
ありすであり。
ランルー君であり。
ユリウス。
「儂は確かに敗北した……だが、それより先があるならば、この流れに従うのみだ」
「サー・ダン、それで良いのですか?」
「うむ。……戦いの意味を見出せ、か……死の際に説教とは儂も酔狂になった」
「……ダンさん」
「分かっているよ。今の君は始まりに戻っている。だが、きっと君は儂の言葉を考え、戦いに臨んでいた……そう信じている」
ダンさんの言葉は慈悲に満ちた、寛大であり厳格なものだった。
許容してくれる人がいる――それは少なからず、救いになっていた。
「ありすさん、貴女は?」
「お兄ちゃんは
「え……記憶が、あったのか?」
「うん――知ってたよ」
ありすは小さく頷いた。
この旧校舎に来たとき、ありすは記憶があったままだったのか?
「あの病院に
ありす――取り戻した記憶に、その正体があった。
いつか教会の姉妹に聞いた、ありすの正体。
サイバーゴースト。魂だけが、霊子世界を彷徨う現象。
ありすがサイバーゴーストであるのなら、記憶の有無についても例外が生まれるのかもしれない。
「ランサー?」
「……妻よ」
今まで口を閉ざしていたランルー君が、突然に口を開いた。
「……ランルー君ハ負ケテ、デモ生キテルヨ?」
「その通りだ。だが、今戻った記憶、それは真実だろう」
ヴラドの目は此方に向けられている。だが、ランルー君はただ俯いて、表情を変えることなく何かを考える素振りを見せている。
「良ク、分カラナイケド、ランルー君ハマダ生キテル」
「うむ。何をすべきかは、そなたに委ねよう」
「……考エル時間ハ?」
「それこそ、山のようにあろう」
カズラとの戦いで見せた苛烈さを微塵も感じさせない優しい声色で、ヴラドは言った。
肩に置かれた手にそっと触れ、ランルー君はヴラドと共に部屋を出て行く。
彼女たちも――当然整理を付けたいはずだ。
何を思って、決戦の外で殺戮行為を行ったのかはわからない。
だが、彼女たちには彼女たちなりの考えがある。きっと、何らかの答えを見つけ出すだろう。
「……ランルーさんは、ハクトさんの対戦相手だったのですか?」
「いや……違う」
「彼女たちは対戦相手ではないマスターを殺害し、違法とされていた……確か、そうだった筈です」
ラニの説明でレオは納得したように頷いた。
「ラニ、貴女は……」
「私は三回戦で、サーヴァントを失いマスターではなくなりました。ですが、死んではいません」
「え……?」
「間違いない。紫藤の補佐として動いていた」
ユリウスの言葉に肯定する。
三回戦が終わった後、僕は凛とラニの戦いに横入りした。
暴走状態だったラニを助けるために無我夢中で行動し、結果バーサーカーは倒れたが彼の助けによって、ラニを救出できたのだ。
ラニはサーヴァントを失いながら、ムーンセルに消されなかった。
最初こそ拒絶されたが、ラニの協力を得れたことで僕は聖杯戦争の後半を勝ち残ることができたのだ。
「記憶が戻ったのならば、私は表と同じように行動します。ハクトさん、貴方を補佐することに、全力を尽くしましょう」
「ラニ……」
柔らかな微笑みに、笑い返す。
普通ならば、そんな事実受け入れることができないだろう。
だが、ラニはその結末を肯定し、尚も協力してくれると言ったのだ。
思わず涙腺が緩むが、これ以上弱さを見せたくないという小さな意地がそれを堪えた。
「まぁ……当事者であるラニとハクトさんが認可しているのなら良いでしょう。では……兄さんは」
最後にレオは、ユリウスに問いかけた。
ユリウスは五回戦の相手だった。今までに無い強敵で、一時絶体絶命の危機を迎えた事もあった。
瀕死に追い込まれたメルトをラニの助けで回復し、そこから――
勝利し――それだけか? 決着が付いた後、ユリウスとは何かがあった気がする。
「……俺は、別に構わん。どちらかといえば、末期の生き恥を思い出した方が堪えている」
「ユリウス……」
「お前は気にするな。少なくとも、今は協力関係だ。俺はお前に危害を加えることはない」
ユリウスの言葉は、裏にいる間は協力体制を保ち続けるという意思表明。
合理的かつ無情に見えて――不思議な信頼を覚える。ユリウスはそんな人間だ。
ともかく、ダンさん、ありす、ユリウス、そしてラニは気にしないといってくれた。
ガトーとキアラさんは不明だが、二人の様子からしてその事実を受け入れたと見える。
ランルー君も何やら自分なりの考えを持とうとしてくれている。問題は――慎二、白羽さん、凛か。
三人の苦悩の原因を作ったのは僕。三人との問題を払拭すべきは僕の役目。僕が解決しなければならない問題だ。
それが、自分のやるべきこと。ならば今すぐ行くべきだろうと思ったその時。
『求めてやまなかった記憶が戻って嬉しいですか? 修羅場な
あまりにも空気の読めない声が聞こえてきた。
+
「リン、随分と落ち着いているようだが」
「うん……不思議とね」
生徒会室から出てきたのは、どうにもならない居辛さがあったからだ。
シンジやシラハの怯えよう、そして、何よりハクト君自身の「どうしていいのかわからない」といった当然の表情を見ていたたまれなくなったのだと思う。
イメージみたいなのもあるし、あの場に泰然と残っているべきだったかもしれない。
だけど、私も考えの整理は必要だった。
聖杯戦争に負けた。それがどれだけ確率が百パーセントに近くても不確定要素があるのだったら、それに応じた身の振りようもある。
確定している。表に戻ったとき、私は敗者として処理される。
決定された事項を受け止め、今後この月の裏側でどうするべきか。それが定まらなかった。
意味のない行動。意味のない思考。これらは全て茶番に過ぎない。
そう、自分の中で整理ができなくて壁に向かって
「……リン?」
「魔力も通ってて、術式も問題なく使えて……私たち、どんな理屈で生き返ったのかしらね」
運命の敗北者が力を行使できる。これが、記憶が戻って最初の疑問だった。
不思議なものだ。“本当に負けたのか”とか“まさか
でも、今の自分の体は何なのかというのは、考えなければならない事だった。
「……リンらしくないな」
「え……?」
「死していることを前提とするのは君らしくない。リンならば“生き返った”というより“生かされている”と考えると思っていたが」
「……生かされている?」
「聖杯戦争の敗者は消滅する。それは変え様のない事実だ。だが、聖杯戦争が狂い裏側に落ちた時点で超常が過ぎる。リンならば何かしらそちらの方面で模索すると踏んでいた」
死んだと割り切るよりも遥かに非現実的で、天文学的数字より更に確率の低いだろう答え。
ランサーは、私がそれを優先すると踏んだらしい。
なるほどそんな考え方もあるだろう。正直、可能性の一つとすら考えていなかった。
「そう、ね……」
どうしようもない。この記憶は本当なんだろうし、敗者という結果はどうにも変わらない。
だけど、だからといって何もしないなんて、私らしくない――ランサーから教えられたことが、妙におかしかった。
「ま、そっちで考える方が希望もあるか」
割り切れたわけではない。
強がり、或いは自分に対する欺瞞ともいえるかもしれない。
構わない。それが私だ。最後まで通してこその遠坂 凛なのだ。
「ありがと、ランサー」
気付かせてくれた相棒に感謝を述べ、今後の方針として思いついた手段の一つを取り出す。
「それは?」
「取っておきよ。未完成だけど」
私の考察――願望ともいう――が正しければ、これまで完成の見えなかったこれにも希望が持てる。
だからといって死の未来は回避できないだろうけど、自分を押し通すと先程決めたばかりだ。
「問題は――」
一つの、可能性について。
限りなく高い可能性だ。
状況から考えれば、考えることすら愚かな低い可能性にも見える。
だけど、直感でほぼ確実と思えるその可能性。
「ランサー、お願いがあるわ」
手は打っておかないと。だからこその、この“切り札”だ。
再起不能レベルがいますけど大丈夫ですかね生徒会。
なんだかんだで大人が多くて助かります。
後なんかフランちゃん久しぶりに書いた気がします。彼女も当然敗退済み。
いつ敗れたかは……追々書くことがあるかなぁ。
一応外典勢のマスター(モブ)は全員決定したんですけどね。
凛が何をしようとしているかはまだ先になると思います。
↓やっぱりぶれねえ笑いが欲しい予告↓
「ハク、良いわよね。アレは最優先抹殺対象よ。BBなんて放っておいてまずアレからよ」