Fate/Meltout   作:けっぺん

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本当は14:19に上げたかったんですが、急遽予定が出来て無理でした。
三話先の書き溜めも終わってませんが今日は記念日なんで問題ないと思います。


Branches in the Blur.-2

「ッ……あ、あぁ……!」

 BBから貰ったNPCは、私が見るなり腰を抜かして倒れこんだ。

「……」

 あまりにも、失礼だ。

 自らの管理者である者に対してこの非礼、一体どういう了見なのだろうか。

「お願い、助けて! 私はまだ聖杯戦争の役割(ロール)が……」

「聖杯戦争にはもう戻れない。貴女は一生この闇を彷徨い続けるんだよ」

「――、――――!」

 最早崩壊しきった精神は、自己防衛のためか言葉にならない叫びを続けている。

 あぁ。つまらない。やっぱりこの人形も同じだ。

 力の差だけで平伏し、助けを乞う。例外なく人形たちは同じ反応だ。

「……ふん」

 いい加減煩わしくなり一思いにその役目を終わらせてやると、一転して静寂が支配する。

「――」

 残ったNPCは四人。発声機能を失った訳ではないのに此方の怒りを買うまいとしているのか黙り込んでいる。

 役割を淡々とこなすだけが取り柄の分際で、そうした自己保存ともつかない沈黙を続けていることも、妙に苛立ちを募らせた。

「――あーあ。つまんない」

 何でBBは三階層をカズラなんかに任せたのだろう。

 任せてくれれば全然問題ないのに。

 邪魔なサーヴァントも全部殺して、センパイを手に入れることが出来るのに。

「……ローズ」

「ジャック、帰ったんだ。それで、センパイは?」

「……」

 はいはい。失敗したと。

 本当に役に立たない娘。マスターを救うなんて殺人鬼らしくもない心掛けは殊勝だけれども、そこに実力が伴わないとただの役立たずにしかならない。

 理から外れた反英雄の分際でサーヴァントらしさは一丁前。可笑しくて可笑しくて――思わず殺してしまいそうになる。

「……おかあさん(マスター)は?」

「だから、返してほしければセンパイを連れてこいって言ってるの」

 どうやらカズラが階層全体に面倒な仕掛けを施したようで、BBならともかくその下にあるエゴでは踏み入ることができない。

 不意打ちに適したアサシンクラスなら楽だと思ったのに、どうやら飛んだ見当違いか。

「霧の宝具、あれは通じないの?」

「……うん。カズラに、防がれちゃった」

「……はー」

 カズラはもう、完全に先輩の味方って事なんだろうか。

 まぁそれが一番手っ取り早くセンパイに近づける方法だけど。

 というか――ズルイ。

 良い子ぶってるカズラとヴァイオレットだって欲はある癖に、なんで一人だけこんなにも迫害されるのか。これからはともかく、まだ悪いことなんて何一つしていないのに。

 ああいや、邪魔者扱いはもう一人いたか。

「――ろーず、せんぱいは?」

「来て早々それ? ま、アンタの頭にはそれしかないんだろうけど」

 あまりにも大きな姿。それは他でもないもう一人の迫害者、キングプロテアだった。

 っていうかプロテア。アンタの来た方向、かなり強固な防御術式張ってた筈なんだけど。

 とは言ってもそんなのでこの子止められれば苦労はしない。

 プロテアはキョロキョロと辺りを見渡して、その後首を傾げた。

「……せんぱい、いないの?」

「いないの。残念ながら」

「…………かえる」

 本当に先輩だけ目的で来たよこの子。

 いたところで渡すわけないでしょうに。

 まったく、突然現れて災害レベルの大惨事起こして帰っていく。まるで台風のようだ。

 貰ってきた玩具(NPC)も全部、アレの下敷きになっちゃったし。

 つまらない。つまらないつまらないつまらないつまらない。

「ジャック。戻ってていいよ」

「……」

 ジャックがどんな感情を持っているかは知らないし、そんな事どうでもいい。

 ただ、駒として有能な働きをしてくれればいいだけの話。

 今のところそれが成される確率は低いし、正直なところこの失敗で信用する気も無くなった。

 どうせならBBも、真正面から戦えて言う事も聞いてくれるセイバーくれれば良かったのに。

 戦闘力的にカズラにの護衛に就かせるのが妥当なんだけども……

 ジャックという駒をくれたのはまぁありがたいが、センパイを手に入れるには役不足が過ぎる。

 もうしばらくは任せるしかない。だけど――ボクの番が回ってきたなら。

「……待っててよ、センパイ」

 今はまだ、何の話も出来ていない。会って話したい。二人だけで、誰にも邪魔されない状態で。

 きっとセンパイは、ボクを受け入れてくれる。だから、早くここまで。

 ここまで来て、センパイ。

 

 

 +

 

 

「おはようございますハクトさん。では、ブリーフィングを始めましょう」

 生徒会室に入り、朝の典型的な話を終える。

 桜の紅茶で意識は話し合いの方向に向く。意識を一旦リセットし、話し合いに集中する――桜の紅茶はそんな効果さえあるかのようだ。

「七階での戦闘データを解析した。あのBBBというロボットは、どうやら欠陥が多いようだ」

 ダンさんがBBBのマトリクスデータを渡してくる。

 サーヴァントと同様にステータスのランクで表示した情報。

 しかし、欠陥が多いとは?

「攻撃手段がビーム攻撃しかない時点で、あの巨体には無駄が多すぎる。人間以上の思考能力があるAIがその無駄を許容する意味が見つからない。故に、あれはBBにとって欠陥だらけの遊びと判断するのが妥当だろう」

 確かに――BBBがあの巨体に備えていた兵器はビームのみだ。

 それ以外にもあったのかもしれないがだったら危機的状況に陥ればそれを使用するだろう。

「問題は、試作品としてあれを作ったかもしれないって可能性がある事ね」

「そうですね。ルールを書き換えられるBBの事です。やろうと思えば欠陥の無いロボットを量産できるでしょう」

 あれほどの威力の兵器を持っておいて、まだ手を抜いていたというのか……

 改めてBBが恐ろしく感じる。

 どれだけ頑張っても、BBの前では遊びそのもの。そんな中で、ただひたすら足掻くしかない。

「ただ一つ、幸運だった点はカズラドロップが此方に協力的だったことですね。迷宮に潜れるのはハクトさん一人。あちらのセイバーやアーチャーを出来る限り動かさないようにしたいものですが……」

「セイバーはカズラドロップに従うようだが、アーチャーはどうなるか分からん。そして、不確定要素のサーヴァントもいる」

 不確定要素のサーヴァント。

 それは、BBBの前に現れた、クラスも真名も忘却してしまったサーヴァントだろう。

「レオ、映像は残っていないのか?」

「駄目ですね。録画データなら或いはと思ったのですが、あのサーヴァントが関わっていた時間のみ、映像が抹消されていました」

「それがあのサーヴァントの能力なのか、BBが何かしたのか、どっちなのか分からないのが困りどころなんだけど」

「情報を抹消したのがサーヴァントのスキルによるものならその方向から真名の予測は立てられますが、とても確定はできないでしょう」

 これが最大の問題になるのは、サーヴァントのスキルだった場合だ。

 記憶や記録から情報を抹消するスキルだった場合、戦う度に振り出しに戻り、相手が絶対有利な状況から毎回の戦いをはじめることになる。

 マトリクスがゼロの状態から始める戦いで、もし初見である相手に対して絶対有利な宝具を持っていた場合、それを防ぐことが出来ないのだ。

「あのサーヴァントについては常に警戒を。引き続き、目標は記憶を探すという事でお願いします」

「分かった」

 カズラが協力的である以上、気が緩みやすい状況にある。

 だが、カズラに戦闘能力はないようだしいざ襲撃を受けたときは、戦うことになる。

 そんな中で記憶を探すのはやはり困難だろう。

 昨日は忘れてしまったが、カズラが記憶を持っているかどうか、聞いておかなければ。

「ブリーフィングはこれで終わりとします。ハクトさん、準備が整い次第迷宮へ。他のエゴやサーヴァントにはくれぐれも注意してくださいね」

 レオはそう締め括る。

 全ての事項を短く纏めたのは、レオの焦燥を表していた。

 平静に見えていてもレオは焦っている。恐らく、BBの危険性を最も把握しているのは彼だろう。

 そしてそれを、ユリウスは多分理解していて、静かに見守っている。ガウェインも恐らく同じだ。

 凛とラニは、BBに操られていた本人だ。そしてラニはバーサーカーを、BBの配下(ノート)によって失っている。

 白羽さんは恐怖を知っている。きっと内心に秘めた焦りは小さなものではないだろう。

 ただ一人、黙し、“緊迫した余裕”を見せているのがダンさんだ。多くの危険を踏んできた実力者特有の雰囲気だった。

 ガトーは至って平常運転だ。だが彼には、いるべきサーヴァントがいなかった。果たして彼は、不安を持っているのだろうか。

 桜とカレン。聖杯戦争を正しくこなすAIがこの事件を小さく見ない筈がない。不安、焦燥、怒り。何かしらの感情を隠しているかもしれない。

 生徒会の皆は、僕を信じてくれている。

 だから、それに応えなければ。

「白斗君……」

 立ち上がったところに、声が掛かった。

 ラニの心の中に潜った時と同じ、不安げな顔と目が合った。

 僅かな逡巡。そして、何か答えに行き着いたのか首を横に振って顔を綻ばせた。

「……、頑張ってね」

「――うん」

 誰が見ても明らかな、作り笑いだ。

 だが、指摘はしない。白羽さんが何を隠していても、それは僕が指摘すべき事ではないのだ。

 白羽さんの激励が何かの上に被せた仮面だったなら、その下を露呈させないように成功を収めれば良いだけの話。

 だからこそ自信を持って頷き、生徒会室を出た。

 さあ、迷宮に出発だ、と廊下を歩き出したとき。

「……なあ」

 夕暮れの校庭を眺めていた慎二が声をかけてきた。

 何故か、その傍にはライダーが壁を背にして座り込んでいる。

「慎二、どうしたんだ――っていうか、ライダーがなんか……」

「あぁ、コイツあの悪質神父のとこで飲んでたんだと。それでグダグダに酔って戻ってきたんだよ」

「……それで、寝てるわけか」

「ホント、傍迷惑なサーヴァントだよ。リソースとしてこの校舎に残ってたサクラメントを少しずつ集めてたってのに、コイツの酒代でパアだ」

 心底満足そうな寝顔のライダーを見下ろしながら眉を顰めて慎二は言う。

 悪態をついてはいるものの、それだけだ。“するな”とは言っていないのだろう。言っても聞かないだけかもしれないが。

 それが慎二とライダーの信頼関係。豪快で酒豪だが、慎二は彼女を信じているのだろう。

「そんな事は別に良いんだ。……それで、今日も迷宮に行くのか?」

「……あぁ」

「……」

 軽い溜息を吐く慎二の群青の目が向けられる。

「……お前、本当にあの迷宮抜ける気なのか? ムーンセルもそろそろ使いを寄越すだろうってのに」

「そうだとしても、僕は止まっていられない。どれだけ困難でも、確実な道を選びたいんだ」

「っ、何だよそれ……ムーンセルは僕たちを見捨てたってのか?」

「そうとまでは言わないよ。でも、これだけ経ってまだ来ないって事は、ムーンセル自体この月の裏側に僕たちが落とされた事を感知していない可能性が高い」

 きっと慎二も、それは薄々感づいていると思う。

 そんな中で、僅かな可能性を信じているのだ。

「だけど、さ。それで死んだら元も子もないだろ。アルターエゴ……だったっけ? そんな化け物に、ホントに勝てるのかよ」

 何故アルターエゴの事を知っているのか、という疑問は置いておく。

 慎二の疑問はもっともだ。規格外の力を持ったアルターエゴたちに勝てる実力など、僕にはない。

 だが、それはあくまで僕だけの力では、だ。

「勝てるわ。何一つ、問題なんてない」

 傍に出現したメルトが自信ありげに微笑み、慎二に言った。

「……紫藤のサーヴァントか。ステータスも並以下のお前が、何でそんなに自信持てるワケ? 何か一つでも、勝算があっての自信なのか?」

「ないわ。だけど死なない。死なないなら可能性はある。分かる?」

「何で死なないってのが前提なのさ? そこがまず謎なんだけど」

「死ぬ訳ないでしょ、こんな茶番で」

 メルトは何故、この事件を茶番と称すのか。

 まるで――事の顛末を知っているかのようにさえ思える。

「シンジ、運命に踊らされる道化でいたいのなら好きになさい。でも、そんな無駄な時間を悪巧みに使うのが貴方らしいと思うわよ」

「何だよ……知った風な口利いて――」

「評価してるのよ。下らない悪巧みで天狗の鼻を折れる実力を持ったゲームチャンプサマを」

「――」

 それは、慎二に対する挑発なのか。

 確かな魔術師としての実力を持った慎二を、奮い立たせるための。

 消えたメルトを訝しげに見ていた慎二。何を言っているのか分からない、そんな表情だった。

「……チッ、言っても聞かないってのは良く分かったよ。だったら早く行け。それで表に戻れるってんなら、僕にとっては好都合だ」

「……あぁ」

 だが、どうやら慎二は動かないらしい。

 諦めて、迷宮に向かおうとしたが、不意に慎二が口を開く。

「…………サーヴァントがあんだけ大口叩いたんだから、死ぬなよ」

「……分かってる」

 慎二の、遠まわしな激励を受け、今度こそ――

「……なぁ、紫藤」

「え?」

「何でお前のサーヴァント、制服着てんだ?」

「……」

 ……やはり、どうにもサーヴァントが制服を着るという不自然さは拭えないらしい。

 

 

 迷宮はより深く。

 八階に入って真っ先に目に入ったのは、中央に聳える巨大な桜の樹だった。

 この階は、迷宮というよりは村か。

 木造の簡素な建物が並び立つ広場のような空間。シンボルとも言うべき樹の真下に、カズラはいた。

「あ、こんにちは、ハクトさん」

 敵意のない笑みを向けてくるカズラに近づく。

 傍に立つセイバーも敵意は示していない。この階も、ひとまずは安全だろうか。

 しかし、カズラの笑みはメルトに向けられた瞬間、怪訝なものへと変わった。

「メルト……? その格好は?」

「気にしなくてもいいわよ。この礼装の性能からすれば、何の問題もないでしょ?」

 言い切った。今メルトは制服を礼装(ミスティックコード)と言い切った。

「確かにそうですが……緊張感が抜けてますよ」

「否定はしないわ。そうさせているのが誰かって話だけど」

 メルトのそれはただの冗談だろう。七階で襲撃してきたサーヴァントという不確定要素がある。そして何よりここがサクラ迷宮である以上、メルトは一切の油断をしていなかった。

 ――ところで、この階はなんなのか。

 今までの西洋の城や七階とは違い、誰かが居住している村といった雰囲気。

「――この階は、集落になってるんです」

 疑問を察したのか、カズラは説明してくれた。

「集落?」

「はい。私と同じくお母様に疑問を持って、お母様から自立した分身体。それが等しくここに集まり防壁を作って暮らしています」

 ……、……?

 とりあえず、この階には前の階と同じように防壁が張ってあるらしい。

 よって、やはり襲撃の可能性は低い訳だが。

 お母様――BBから自立した分身体とは、つまりはアルターエゴのことか? だったら、あの場にいた五人以外のアルターエゴがいる、というのか?

「それって――」

「は――?」

 メルトの驚きの声で振り返る。

 その視線の先には、

「ッ!?」

 “さくら”がいた。

 立ち並ぶ家の一軒から“さくら”が出てきたのだ。

 “さくら”であり“さくら”ではない。しかし、“さくら”としか称することができない。

 “さくら”はその隣の家の戸を叩く。するとその家から“さくら”が出てきて、何かの話をする。

 その二人の“さくら”のうち、一人と目が合った。

「……」

 微笑み、手を振ってくる。

「ッ――――――――――――――――!?」

『なんでさ』

 内心のパニックは隠し切れず、しかしそれら全ては白羽さんが呆然と言い放った一言に集約された。




メルト「五……四……三……二……一……」
ハク「……? 何のカウンt」
メルト「ゼロ……ッ!」
ハク「っ!?」
白羽「わお、大胆。一周年ぴったりにキスはちょっとベタだけど」
リップ「……羨ましい」

何も思いつかなかったんでとりあえず、百字以内で何が出来るかって下らない挑戦をしました。
しかもこれ書いた当初はガチで14:19に上げる気だったんで空回りしてます。畜生。
そんな訳で、これからも頑張っていきます。お付き合いよろしくおねがいします。

今回はアルターエゴ・ローズマリーの初登場回です。
情報を纏めると
・問題児
・ボクっ娘
・ジャックと関与している
・ボクっ娘
・ボクっ娘
ってところですね。病んでる? エゴなんか大体そうでしょ←

後半はカズラ村。
EXマテより、
「あくまで初期アイデアではあるが、ダンジョン内にはノーマル桜たちが集まる村があり、そこにカズラドロップが住んでいた」
との事。事情は違うが美味しくいただきました。

↓カズラ村からなら一人くらいお持ち帰りしても良くね予告↓
「ハク、後で屋上」

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