Fate/Meltout   作:けっぺん

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クソ☆多忙
そろそろ予約投稿なるものを使う事になりそうです。


十一話『黒い記憶』

 

 

「っ!?」

 アリーナに入った瞬間、嫌な空気が肌に刺さる。

 立ち止まるな。そう脳が告げる。

 しかし、恐怖で足が竦んでいる内に、アリーナに異変が起きた。

「……アリーナ全体を範囲にした毒ね。私達が弱るのをどこからか見てるのかしら」

 メルトが辺りを見回して言う。

 アリーナ全体に毒が撒かれている。

 疑いようもない、あのサーヴァントの仕業だろう。

「……だけど、ダンさんがこんな事……」

「サーヴァントの独断という可能性もあるわ。ともかく、今は毒を何とかすることが優先よ」

「っ、分かった」

 ダンさんとあのサーヴァントの仲の悪さは弱点かと思っていた。

 だが、本当に注意すべきはサーヴァントの独断行動かもしれない。

 弛緩性の毒じゃないのは不幸中の幸いだ。

 動けるのなら、この毒を解除することも出来る筈だ。

「これはサーヴァントの宝具かな。だとすると解除には交戦が必須だけど……」

「いえ、結界型の宝具には基点となるものが近くにあることが多いわ。それを壊せば毒も消えるはずよ」

「そうなのか……よし、行こう!」

 話しているだけでも毒は力を奪っていく。

 一刻も早く毒を解除するために走り出す。

 一回戦の舞台となったアリーナよりも入り組んでいて、確かに毒で消耗させるには向いた場所だ。

 少しずつ弱っていく体に鞭を打って走り続ける。

 しばらくすると、通路の先から声が聞こえてきた。

「これはどういう事だ?」

「へ? どうもこうも、旦那を勝たせるために結界を張ったんですが」

 間違いない、ダンさんとサーヴァントだ。

 どうやら予想通り、この結界はサーヴァントの独断による発動のようだ。

「決戦まで待ってるとか正気じゃねーし? 奴らが勝手におっ死ぬんならオレらも楽できて万々歳でしょ」

「……誰が、そのような真似をしろと命じた。死肉をあさる禿鷹にも一握りの矜持はあるのだぞ」

 揉めているのは確かだが、不意打ちを狙うのは得策ではない気がする。

 このまま上手くいけば情報が得られるかもしれない。

 毒で体が蝕まれている今、そんな事は後回しにした方が良いというのは分かっている。

 だが、彼らが通路を塞いでいる以上、これが最善の策だ。

 それに、今仕掛けたら確実に殺られる、そう直感が告げていた。

「イチイの毒はこの戦いには不要だ。決して使うなと命じた筈だが、どうにもお前には誇りというものが欠落している」

「誇り、ねぇ。オレにそんなもん求められても困るんすよね……」

 イチイの毒。

 それがこの結界の正体らしい。

 つまり、それがあのサーヴァントの出自に関わってくるのだろうか。

「っていうか、それで勝てるんなら良いですけど? ほんと、誇りで敵が倒れてくれるならそりゃ最強だ!」

 どうやらあのサーヴァントは誇りとかそういう類のものを重視する英雄ではないようだ。

「悪いね、オレぁその域の達人じゃねえワケで。きちんと毒盛って殺すリアリストなんすよ」

 騎士や王、というよりは、悪党の類で伝説となった人物だろうか。

 一対一などという真正面からの真剣勝負ではなく、より現実的に、確実に勝利する。

 それがあのサーヴァントの在り方のようだ。

「……ふむ、なるほどな。条約違反、奇襲、裏切り。そういった策に頼るのがお前の戦いか」

 ダンさんは自身のサーヴァントに対して、失望を感じているようだった。

「本当に仲が悪いようね。BBやリップも大変だったのね……」

 メルトから聞き覚えの無い名詞が出されたが、ダンさん達の会話を聞くことを優先する。

 個室に戻ったときにでも聞いてみることにしよう。

「今更結界を解けとは言わぬ。だが、次に信義にもとる事があった時は……」

「あー、はいはい。分かりましたよ。ったく、小うるさい爺さんだぜ」

 渋々返事をする声と共に、二人はリターンクリスタルを使ったのかその場から消えた。

 ようやく先に進むことが出来る。

 情報を整理する前に、今は毒の解除が先決だ。

「きっと、この先に――あった!」

 二人が塞いでいた通路の先には一本の木が立っていた。

「アレが基点のイチイの木ね」

 眼前の木からは毒々しい、濃密な魔力が零れ出ている。

 間違いなく、あれこそが毒の基点。

「メルト!」

「分かったわ」

 メルトはその鋭い脚具での一撃により、基点の木を切り裂いた。

 それだけで木はその効力を失くし、跡形も無く霧消した。

 その瞬間、身体を支配していた重圧が消え、蝕む痛みから解放された。

 毒の結界は間違いなく解除された。

「ふぅ……今回の相手は厄介だな……」

「そうね。罠や奇策。常に警戒を怠らないで」

「うん、分かってる」

 とにかく、今回の成果は少なからずあった。

 イチイの木。

 これはあのサーヴァントに関するキーワードであるのは明らかだ。

 後で図書室で調べてみよう、と思いつつ、その場を後にした。

 

 

 個室に戻り、情報を整理した。

 イチイの木と、毒の結界。

 これについては明日図書室で調べることにする。

 ともかく、今分かっているのは、ダンさんとサーヴァントの不仲。

 どちらに転ぶか分からないというのは変に信頼しあう主従よりも、余程性質が悪い。

 危険なのはあのサーヴァントの独断行動。

 もしかするとこの先、あの結界以上に厄介な罠を仕掛けてくるかもしれない。

 あのサーヴァントの出自も気になるが、今分かる事はこれだけ。

 これ以上の情報は無い。

 明日以降の彼らの行動を懸念しながらも、メルトへの疑問に思考を移す。

「なぁ、メルト。さっき言ってた人たちって誰なんだ?」

「何のことかしら?」

「えっと、確か、“びーびー”と“りっぷ”って……」

「あぁ……」

 メルトは何か、今までに見たことの無い、どこか悲しそうな顔をする。

「……簡単に言えば、BBは母親、リップは妹ね」

 どこか曖昧にメルトは答える。

「どっちも、どうしようもなく馬鹿で……不純物よ」

 椅子に座るメルトは、それっきり眼を瞑り寝息を立て始める。

 彼女の母親と妹。

 ……何となく、少し大人びた顔つきになったメルトと、下半身ではなく上半身を露出させたメルトが思い浮かんだ。

 何故強ち間違ってもいないと思えるのだろうか。

 露出家族、という何とも異常極まりない光景を、

「……いや、さすがにそれはないだろう」

 そう否定する。

 うん、さすがにそれはない。

 メルトだけのイメージでそれを決め付けるのはよくない。

 何故メルトがあんな格好をしているのかは分からないが、恐らく家族まで“アレ”なんて事はないだろう。

 そういえば、保健室のNPCである桜もメルトに良く似ていた。

 BBとリップとやらは、多分桜に似ているのだろう。

 絶対、きっとそうだ。

 想像だけで何とも気が抜けてしまったが、明日になればダンさんとサーヴァントの情報を集めなければならない。

 気を引き締めなおし、今は休む事にした。

 

 

 +

 

 

 これは、夢だろうか。

 気がつくと、アリーナの様な場所に立っていた。

 傍に立つのはメルトではなく――?

「――」

 傍の誰かが何かを言う。

 姿に靄がかかったようではっきりとせず、良く見えない。

 前方に眼を移すと、三つの人影。

 その内二つはやはりはっきりとしないが、残る一つは他でもない、メルトその人だった。

 だが何なのだろうか。この立ち位置。

 まるで、僕とメルトが敵対しているかのような――

「ごめんなさい、お母様……私、来るの遅れてしまって……」

 メルトの隣に立つ人影が恐る恐る口を開く。

 そしてメルトは不満そうな顔をしながら言う。

「■■使いが荒いわ、BB。私達、■■■たばかりなのよ? まだ自分の■■も出来ていないのに」

 メルトの言葉には所々フィルターが掛かったように聞こえなくなっている。

 この言葉から察するに、不明瞭な人影の内、中央に立つのがメルトの母、BB。

 そして、メルトの前に恐る恐る話していたのがリップなのだろう。

 

 雑音ばかりでほとんどが聞こえない会話が繰り返されていく。

 時々僕の口も無意識に動くが、やはり内容は分からなかった。

「あ……ありがとうございます……私、頑張りますから……」

 BBが何かを提案したのか、リップがやはりびくびくとしながら礼を言う。

「私の■■はまだまだお預け? それじゃあ■に行っていいBB? まだまだ■■■■したりないの」

 メルトが言った。

「あまり羽目を外さないように。あなた、雑食がすぎるから。栄養は取りすぎてても体の毒よ」

 と、次の瞬間、視界が暗転する。

 メルト含め人影がほとんど消える。

 最後に残ったのは、BB。

 

「――駄目ですよ、センパイの身体に入り込むなんて」

「っ……アナタは……?」

「私はBB。ベベ、でもベイビィでも――あ、やっぱセンパイじゃないから駄目です。BBでお願いします」

 BBとやらはとても面倒そうな性格のようだった。

「にしても……メルトも気変わりしたのね。貴方、確かにセンパイに似たところあるようだけど」

 BBの声は遠くなっていく。

 目が覚めようとしている。

 ならば聞きたい事を聞くべきか。

 これが普通の夢でないことは明らかだ。

 もしかすると、メルトの事が分かるかもしれない。

「あの……」

「一つだけですよ?」

「え?」

「質問は一つだけです。特別に一つに限り、何でも答えてあげます」

 BBは全て分かっているかのように言う。

 一つだけ。

 ならば質問は……

「……メルトは、どんな英霊なんですか?」

 メルトリリスという英霊の詳細は未だ分からない。

 少しでも情報があれば、或いは。

「そうですね……メルトは英霊であって英霊ではない存在です」

 英霊であって英霊ではない。

 どういう事だろうか。

「まぁ、言ってしまえば英霊というよりはハイ・サーヴァント。英霊より高位のものです」

「ハイ・サーヴァント……?」

「えぇ、女神の総称です。そして、今はその力を出し切れていません」

 女神というのに驚愕したが、今のメルトは不完全。

 僕が成長しなければ、メルトは強くならない。

「その通りです。今のメルトは最弱クラスのサーヴァントにすぎない。元の強さに戻るかは、貴方の頑張り次第ですよ」

 遠まわしながら、それはBBからの激励に思えた。

 メルトを元の強さに戻して欲しい、そう言っているかのような。

「当然です……彼女も救われたかったでしょうから」

「彼女、も……?」

「駄目ですよ。一つだけ、です」

 BBに手で制される。

「せめて二回戦くらいは勝ってくださいよ? 緑茶さんは手強いですが、決して勝てない相手ではありません」

 メルトにもBBにも緑茶呼ばわりされるあのサーヴァントは一体なんなのだろうか。

 疑問は深まるばかりだが、意識が覚醒しようとしている。

「頑張ってくださいね、コーハイさん。影ながら応援しています」

 それを最後に、BBの人影も消え去った。

「そうだ、最後に――」

 目覚めるために遠のいていく意識に、最後に声が聞こえてきた。

 

「一つ、プレゼントです。目が覚めたらメルトの情報(マトリクス)を見てみるといいですよ」

 

 

 +

 

 

 いつもと違い、すぐに目が覚めた。

 眠気を一切感じない。

 精神体とはいえ、今まで寝起きの眠さというのを感じていたのだが、これはあの夢の影響だろうか。

 まだメルトは眠っている。

 時間的にはまだかなり早いようで、外もまだ薄暗かった。

「……そうだ、マトリクス」

 BBの最後の言葉を思い出し、メルトのマトリクスを開く。

 未だにほとんど情報の無いメルトの項目は、しかし以前見たときと変化があった。

 

『クラス:--

 真名:メルトリリス

 マスター:紫藤 白斗

 宝具:

 ステータス:筋力E 耐久E 敏捷:E 魔力:E 幸運D』

 

 幸運のステータスが上昇している。

 しかし、それがBBに送られたものとは考えにくい。

 少し調べてみる。

「――これか?」

 それは、サーヴァントのスキル欄。

 

『ドレイン:D

 スキル『メルトウイルス』の機能が停止した事で覚醒したスキル。

 敵の能力の吸収というよりは、経験値の一部を使った敵の能力の模倣や潜在能力の開放。

 主に新たなスキルの修得や、特殊な攻撃の修得に使われる。』

 

 これはメルトに元々あった能力をBBが教えてくれた、という事なのか。

 メルトウイルスなる物騒な名前のスキルも気になるが、ドレインというスキルは、文面を見る限りではかなり強力に思える。

 まさか、上昇した幸運のステータスは、ライダーを倒した事により彼女の規格外の幸運値を模倣したのだろうか。

 さらに見てみると、ドレインのスキルにリンクして、もう一つスキルがあった。

 

『星の開拓者:E

 フランシス・ドレイクを模倣したスキル。

 あらゆる難航、難行が“不可能なまま”“実現可能な出来事”になる。

 ただし発動率はオリジナルに比べ極端に低い。』

 

 ライダー、フランシス・ドレイクが活用した不可能を無理矢理可能にする特殊スキル。

 人類史においてターニングポイントになった英雄に与えられるそれを、メルトはドレインによって修得していた。

 他者の力を吸収し、その分自身が強くなるその特性こそ、メルトにクラスが定められていない所以かもしれない。

 彼女の正体は未だに良く分からない。

 が、彼女は間違いなく強力なサーヴァントなのだと、改めて確信した。

 きっとメルトとなら勝ち進める。

 そう信じながら、メルトの起床を待った。




サクラーズの巻。
メルトはウイルス無しだとこうでもしなきゃ勝てないと思うんです。
敵の力を借りて(脚色あり)強くなる……ロマンを感じませんか?
……感じませんか、そうですか。

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