Fate/Meltout   作:けっぺん

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蟷螂
花花花
花@@@花
「地図が完成していない」
スキュレー
ヤマネコ

そんな色んな思い出があるゲームに再びハマって執筆速度が絶賛低下中。


Bandit Zero Over.-5

 

 長い時間が経過した。

 ラニとジナコがプレイルームに転移してから既に十分は経っているだろう。

 千倍に短縮されたプレイルームでは、一週間以上の時間になる。

 まだ二人が帰ってくる気配はない。二百局という尋常ではない回数は一体どれだけの時間を掛ければいいのだろうか。

『…………』

『……まだ出てきませんね。それはそうと、レディ・リン。レオの顔が曇っているのは私の気のせいでしょうか』

『そりゃそうよ……平等なんて存在しない。完璧なほど差が開く。ジナコの言い分はレオへのアンチテーゼだもの。というより、結論ね。最後に何が勝つか、ジナコが証明する筈よ』

 レオにとってはジナコの答えは複雑なものだったのだろう。平等を謳う西欧財閥への反論が、迷宮を突破する一手になるかもしれないのだから。

「大丈夫かな、ジナコ……」

「どうかしらね。ゲームは得意みたいだけど」

 とは言え、ラニの思考速度は人間を遥かに上回る。

 運を武器として持ち出したジナコが果たしてそれに勝てるかどうか。

 ――しかし、これだけの時間だ。

 思考だけのテーブルゲームとはいえ、これ以上続けるのは危険ではないか。そう思った時――

「っ、ラニ……」

 ラニが戻ってきた。明かな疲労は、何日も繰り広げたであろう激戦を物語っている。

「――こんな、の……」

 悔しげな表情。起きた出来事を否定するように、首を振る。

 まさか――

「こんなの……認めない……認めたくない……!」

『タッハー! 疲れたッスー! 二百局中167敗33勝。運だけでも勝ちは拾えるもんッスなー!』

 167敗、33勝。つまり、結果を見ればラニの圧勝。

 運が絡んでもラニは最強。それをラニは実力を持って証明した。

 しかしラニの表情は、敗者のもの。

「負けた……一局でも、負けた……」

『そうッスよ。運という不安定要素が絡む以上、一パーセントでも勝率があれば均一になる未来が見えてくるッス』

 今の立場はまったく逆。勝ち誇ったジナコの言葉を、ラニは歯噛みしながら聞いていた。

『二百回では駄目だった。千回でも無理だ。だけどこれが億、兆になったら? いつか結果は同一になる未来がある。いや、同一にならないとどちらが優れているか決まらない』

『と、とんでもないロジックエラーです……!』

『結果を出さないと優劣は出ないのに、結果を出したら優劣は無くなる……人間は面白いことを考えますね』

 桜とカレンの驚きは、全員の中でも最たるものだった。

 結果を重視するAIは、だからこそジナコの提唱し証明した結果に驚愕せずにはいられないのだろう。

『音を上げた方が負けって事よ。もう腕前なんか関係ないの』

「っ、現実的ではありません! そんな回数のゲームに人間は耐えられません!」

『ニートを甘く見るなッス。ご褒美のない作業はボクらの領域ッスからね。数をこなすだけが才能ッスよ』

 後ずさるラニに、不敵にジナコは告げる。

『そして思い知れ。真に公平なゲームってのは誰がやっても結果がイーブンになるもの。ラニさんの公平さは嘘っぱちッス』

「そんな事はありません……私は、公平なゲームを……」

『じゃ、次の二百回行くッスか?』

「っ」

『そういう事ッスよ。ラニさんはゲームをしたかったんじゃない。頭の良さを見せ付けたかっただけ』

「違います。私は偶然にもハクトさんがチェスを持っていたからゲームを提案しただけで――」

『そのチェスがあったのはこのフロアッス。ラニさんは自分の絶対に勝てるゲームをわざわざ用意したッスね?』

 ジナコの言葉が確かなものならば、チェスが置かれていた事にも理由がつく。

 そして、その仮説が正しいという事を、左手の疼きは告げていた。

『オレTUEEE(ツエー)したかったッスか? あーあ。ゲームで遊びたかっただけなら可愛かったのにナー。幻滅だナー』

「……わ、私は、ただ皆さんに公平なゲームの美しさを伝えようと……」

『本音が出ちゃったんだニャー。最初はそうだったんだろうけどー』

 一切の否定を許容しない。悉くを結果をもって打ち負かした以上、ジナコは全てを見透かしている。

『SGが無いなんてとんでもない。このフロア自体、ラニさんの無意識の澱み。自分の性能を誇示したくて仕方なかった、理系女子のなれの果てッスよ――――!』

「あ――あ、ああ、ぁ――!」

 その言葉で浮き出たSGを、五停心観を起動させ引き抜いた。

『にゃはは! これがラニさんの最後のSG、ジナコさん命名『最強厨』ッス!』

「……いや、その名称はどうなんだろう……」

 正しくは理系女子となるか。

 自己主張を苦手とし、それゆえに生じてしまった実力アピールの失敗。

「それが……私の秘密。まだ解析できない偏執が、あったのですね……」

 悔しい、それでいて顔に浮かべる小さな微笑みは僅かな嬉しさにも思える。

「……私に自己顕示欲があった事は認めます。ですが――」

 そしてその笑みは、一瞬にして凍りついた。

 

「――――――――――――ッ!!」

 

 ラニに呼応するように迷宮全体に震撼する咆哮。

 覚えのある狂気の叫びは間違いなく、ラニが元々契約していた――

「貴方達は絶対に認めません。紫藤 白斗とジナコ=カリギリ。この二名は排除対象に設定しました」

 無情で冷酷な宣告。何がそうしてしまったかは分からないが、どうやらラニは四階のそれ以上にご立腹である。

「自身に科していた非戦闘のルールはこれに際し、個人的感情に基づき音速破棄。ラニ=Ⅷ本体でのリベンジ、及び体罰戦闘に備えて消滅します。より明確かつ端的に言えば――」

 戦闘を行わないと言っていたラニは、今度こそ戦意殺意を剥き出しにしている。

 武器となるべく現れたのは、既に契約を断たれた赤い偉丈夫。

 威風堂々とした巨躯から発される凄まじい威圧感。狂気に溺れたからこそ機械的でより恐ろしい殺気。

「――つべこべ言わずにかかってきなさい。万全の状態で、完膚なきまでに粉砕してさしあげます」

「■■■■■■――――――ッ!!」

 そんな宣戦布告と共にラニは消滅した。遂に鎖を解かれ戦いを認められたバーサーカーもそれに付き添うようにラニのレリーフに吸収される。

『……あれ、ちょっとやりすぎたッスか? ラニさん、本気にさせちゃった?』

『ええ、間違いなく。ですがこれは当然の結果でしょう。ミス遠坂の時もそうだった以上、ラニと戦うのは必然です」

 その通り。本番はこれからだ。

 しかし、戦闘の厳しさは凛の時の比ではないだろう。

「……今回は、バーサーカーが敵か」

「いくら片方がエリザベートでも……アレ相手で一対二は厳しいわね」

『戦力については、これから話し合いましょう。ハクトさん、一先ずお疲れ様でした。一旦帰投をお願いします』

「あぁ、分かった」

 凛の時以上の出力であるディーバに加えて、一騎当千のバーサーカーまで相手となると僕とメルトだけでは到底及ばない。

 しかし他にマスターを生徒会室に残してサーヴァントが他人の心の中に入るのは容易い事ではない筈だ。

 僕では対処法は思い浮かばない。とりあえず対策を練らなければ。

 

 

「さて、今回はミス遠坂の時のような奇襲ではなく、心の中に潜れることを知っているラニとの戦いです。無論、バーサーカーを連れていった事も対策でしょう」

「罠を仕掛けられている可能性も十分にありえる。そんな敵の陣地に真正面から飛び込まなければならない訳だ」

「正直、運が最大限味方に働いても勝率は十パーセントにも満たないでしょう……」

「……」

 言葉にすると、より恐ろしく感じる。

 仕掛けによっては心に飛び込んだ瞬間に殺されるなんて事態も考えられるのだ。

「ちょ……そんなところに白斗君単身で向かわせるの?」

「ラニの心を解放できるのはハクトさん一人。それに、変換を補助してもらうキアラさんにも負担を掛ける訳にはいきません。必然的に、そうなりますね」

「っ……でも」

「何にせよ、危険に飛び込むより他はない。攻め入るとは得てしてそういうものだ」

 白羽さんは、死を何よりも恐れている節がある。

 僕を心配してくれているのだろう。だが、僕は足を止めることはできない。

 恐いという感覚はある。寧ろそれは決して小さいものではない。

 それでも、聖杯戦争に戻るためにはそれしかないのならば。

「大丈夫だよ白羽さん。何とかなるよ」

「――根拠がないじゃん! どうして言い切れるの!?」

 必死な様子は十分に伝わってくる。初めて声を荒げた白羽さんは今にも泣き出しそうで、思わず行くのを躊躇う程だ。

「シラハ。これしか方法はないわ。今はハクト君に託すしかないのよ」

「だけど……でも……!」

「し、シラハさん……」

 凛と、現れたリップがどうにか諭そうとする。

 聖杯戦争という場では、あまりにも優しすぎる。

 しかし、そんな白羽さんの迷いが僕には良く理解できた。

 だからこそ止まる訳にはいかないのだ。

「ハクトさんにもしもの事がないように、対策を練るんです。心配よりもハクトさんを信じるべきですよ」

「……分かってる。分かってるよ……」

「ラニは表に帰るための最後の壁。彼女を突破するにおいては手は抜いていられませんからね――おや?」

 ――?

 今、空間の霊子が乱れたような――

『はあい、旧校舎に逃げ延びた人間共、そして迷宮の生贄共、聞こえていて? ムーンセル頂点に君臨する太陽系の歌姫・ディーバ様の特別放送よ。心して聞きなさい』

 ディーバだ。彼女もこの校舎に干渉できるのか。

 いや、ラニの手を借りていると考えるのが妥当だろう。

『かねてからラニに作らせていた特別ステージがやっと完成したから、貴方達にも祝わせてあげる。さあ、落成式よ。画面に目を向けなさい!』

「……あれは」

 モニターに現れたのは、ラニの心の中と思しき空間。

 そして、そこに佇む巨大な物体。ラニでもディーバでも無く、そもそも生物ではない。

 あまりにも無機質なそれは、迷宮の一階で見たことがあるものだった。

「……アイアン・メイデンだな。あれほどの大きさならば中に十人は入れられるだろう」

「アレに人を入れるっての!? 拷問も悪趣味が過ぎるわよ!」

 アイアン・メイデン。中に入った者を内部の棘で串刺にする拷問器具だ。

 まさかあれでNPC達を――

「違うな。アレは紫藤対策だろう」

「え――」

『生贄は一人残らずコレで殺すわ。怨むのならあの子ブタを怨みなさい。ラニが本気を出したおかげであっという間に完成できたんだから』

 僕を逃がさないための仕掛けか……こうなれば、もう逃げる訳にはいかない。

『今夜はカロリーもノーカウント。酒池肉林の無礼講(カーニヴァル)ワルプルギス(ファイナル)をぶちかますわ! さあラニ、じゃんじゃん観客(いけにえ)をつれてきて!』

「っ、迷宮内の擬似霊子が……大量のマスター、NPCがレリーフの向こうに消えていきます!」

「くっ……対策がまだ……」

「……行くしかない。レオ、キアラさんに連絡を。僕は迷宮に向かう」

「しかし……」

「考えている間に犠牲者が増えてしまう。とにかくラニを止めないと!」

「……」

 短く逡巡していたレオ。

 だが、すぐに重々しく一つ頷いた。

「……分かりました。その無鉄砲さを僕は知っています。信じますよ、ハクトさん」

「あぁ!」

「紫藤、ラニ=Ⅷとの決着も重要だが、その後のことも忘れてはいないな」

「分かってる――迷宮の先だよね」

 ユリウスは頷く。

 ユリウスとダンさんがこれまで探索をしてきて、BBの隠れ家が見つかったという報告は無かった。

 つまり、ラニの迷宮の先――迷宮の終端にBBがいる可能性は高い。

「ここで奴を逃がせば元の木阿弥だ。ラニを突破した後休む事無く奥に進み、BBを捕える。厳しい連戦だが、行けるな」

「――大丈夫だ」

 自信なんて、これっぽっちもない。

 だが、ユリウスの言葉には信頼が込められている気がした。

 聖杯戦争ではライバルでしかなかった筈なのに、その言葉で胸に熱い血が通ったような――

「よし。では急げ。ぐずぐずしている時間はないぞ」

 頷き、椅子を立つ。

「……そうだよね。ここで止まってたら進展しない。だったら、私は白斗君を信じなきゃね」

 白羽さんの呟きを背後に受けながら、生徒会室を出る。

 ラニは強敵だ。それに、策もない。

 勝てるだろうかなんて期待を持つ事すら馬鹿馬鹿しい戦力差なのだ。

 だが、今までだって止まらなかった。ゆえに、今回も進み続ける。

 これだけが、僕に出来る事。この体はきっと――そういうもので出来ていた。

 

 

 ラニのレリーフの前。

 いよいよ表に帰るための決戦だ。

「……十パーセントにも満たない、か」

 改めて、桜から言われたその言葉を思い返す。

 運が働いてようやくその数値。では五分五分で考えれば、ほぼゼロに等しいのではないか。

 それも分かる。メルトのステータスはまだ不完全で、対してラニは最高の状態であるディーバに加えてバーサーカーがいる。

 二体一な上ステータスの差も大きい。マスターの実力差も明白だ。

 こんな状態で何も考えずに誘いに乗るなど、愚行にも程がある。

「……」

 メルトを見ると、同じく慎重な面持ちでレリーフを見つめている。

 戦力の差を理解しているのだろう。このまま心に潜っていけば、恐らくラニには敵わない。

「少しでも、詰める要因があれば良いんだけど」

「……今回はその令呪も使えないわ。このままで、ラニと戦うしかない」

 左手の白い令呪を見る。

 サーヴァントとの少しの間の擬似契約。これもバーサーカーの同意が無い以上有効には働かない。どころか敵に魔力を送る事態になってしまう。

「――でしたら、ちょうど良かった。一つ策はありますよ」

 そんな言葉と共に、キアラさんが現れた。相変わらず至極面倒そうな表情のアンデルセンを連れ、そして――

「……フラン?」

「……ゥゥ」

 その後ろにつく純白のサーヴァント。何故フランが、キアラさんと共に?

「この物好きな怪物はお前たちに協力してやる腹らしいぞ。まったく、こんなに思慮のある狂戦士とは。サーヴァントとしても失敗作という事だな」

「……フラン、本当に?」

「……」

 アンデルセンの評に睨みを効かせていたフランだったが、聞いてみると頷いた。

 思ってもみない救援だ。なるほど、フランであればレリーフ内でも魔力枯渇の心配は無いしマスターがいない以上不具合も発生しない。

「メルト、共闘はできる?」

「……バーサーカーと連携できる気がしないのだけど。向こうのバーサーカーの動きでも止めててくれればありがたいわね」

 フランにバーサーカーを相手してもらい、その間にディーバを倒す。

 勝率的には幾分マシになったか。どちらもラニ側の方が戦力は大きく上だろうが、可能性は増えたと考えたほうが良い。

「キアラさん、フランを連れて行く事は可能ですか?」

「勿論です。お二人に付随させるかたちでサーヴァントのみの変換ならば、そう難しくもありません」

「ならお願いします。フラン、頼む」

「……ァァ」

 何故力を貸してくれるのか、それは僕には分からない。

 理由を聞こうにも、僕にはフランの意思は通じないし伝わるらしいアルジュナもこの場にはいない。

 だがフランが本気だという事だけは伝わってきた。今はそれだけで十分だ。

「では――桜さん、サポートをお願いしますね」

『はい。紫藤さん、頑張ってください!』

「あぁ――」

 目を閉じ、真っ白になった意識。

 時間が、心が引き延ばされていき、その心はラニへと融けていく――




という訳でフランと共に、戦いへ。
二章も終盤ですね。

↓最近本編じゃなくて茶番のネタだけがどんどん出てきて困る予告↓
「ハク、分かった? コイツはただバカなだけよ」


以下はちょっとした呟き。外典ネタバレ注意です。

今月末に外典四巻が発売ですね。
先生が表紙にいる時点で不安で仕方ないんですが。
これで表紙に出てない大戦サーヴァントは蝉様だけ。
五巻表紙は蝉シロウジークの三人かなぁ。
残り二巻って事は四巻で半数くらい脱落するとして……
…………もう姐さん確定じゃないですかやだー。
ぼちぼちジャックたんに裁きが下り、ケイローン先生の表紙登場がフラグだとしたらアキレも?
そんでもって五巻を主要キャラの最終決戦で動かすとしたら、カルナさんの存在も危うい気が。
シェイクは死なない。アレが脱落する結末が見えない。日輪がカルナさん呪っても生きてそうな感じ。
モードジークルーラーアストの四人で空中庭園に立ち向かうとか何このジークハーレム。
マスター組は死者は出なさそうですね。玲霞は例外。
獅子劫さんは死ぬタマじゃないですし……カウレスとフィオレたんは願望です。
ゴルドおじさま? デレててください。

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