性格というか性癖というかが変わってきている気がして。
Sだからメルトの加虐性に惹かれてこの小説を書き始めたんじゃないのか?
何故
理由らしい理由といえば……
裏表のない素敵な人のルートが忘れられないんだよおおおおおおおおおおおおお!!!!
――うん、さすがパッケージヒロインは格が違った。
あ、そんな訳で今回はオリキャラ三枠目です。
オリキャラ……で良いのか?
再び入ったサクラ迷宮の四階は、先ほどとは何かが違った。
緊張感というか、堅苦しいというか……ラニらしいといえばらしいが、ラニを核とした迷宮だからか、それが顕著になっているように感じる。
その空間に一歩足を踏み入れた瞬間、観測の術式と思しきものに囲われ――
『ラニチェック終了、
どこからか聞こえてくるラニの声。通信だと思われるがそれは迷宮内のどこからか聞こえてくる。
『しかし、その有様では歓迎できません。今の貴方では私の迷宮に踏み入る事は許されません』
「……どういうこと?」
『貴方には至らない所が多すぎます。以下のことに心がけ、私に会いに来てください』
そうしてラニは、読み上げるように言葉を紡いでいく。
『一、無駄な行動をしてはならない。
二、常に完璧でなくてはならない。
三、一つのミスもしてはならない。
四、曖昧な行動をしてもよい。
五、たまには失敗してもよい。
六、一つぐらいミスをしてもよい。
七、肉食系より草食系が好ましい。
八、暖色系より寒色系を好むべき。
九、メガネ女子は至高である。
……以上です。貴方の高い知性に期待します』
「……」
一方的に通信は切れた。
淡々と説明されたがラニの言い分からすると、今の九つを守っていれば良いらしいが……何と言うか。
『ラニらしい迷宮になりそうですね。感情的なミス遠坂とは好対照です』
『誰が感情的だってのよ! この冷血会長!』
『ってかさ、さっきの注意事項矛盾だらけだったけど良いの?』
『恐らく、それがSGの秘密になってそうですが……』
今のラニがエゴなのだとしたら、その可能性は高い。
この矛盾がSGと関係しているのだろうか。
「……」
「メルト?」
どこか、迷宮の先を見つめるメルト。不可解なものを見つけたような、そんな目。
「……サクラ。この階に特定できない生命反応はあるかしら」
『え……? えっと……ハクトさんにメルトさん、場所は特定できませんがラニさんにディーバさん、ガトーさんも確認できますが……あれ?』
『……サクラ? どうしました?』
『特定できない生命反応が、隣接して三つ……ガトーさんの傍にあります』
ガトーの傍に特定できない生命反応――つまり、桜が知らない存在。
「メルト、覚えがあるの?」
「いえ、そういう訳じゃないけど……嫌な予感がするわね。気をつけて、ハク」
「う、うん……」
誰がいるのか分からないが、感覚が鋭敏なサーヴァントであるメルトが気をつけろというからには相応のものなのだろう。
辺りに注意しながら探索を始める。
あまり複雑ではない構造はラニらしい。単調な迷宮には分かれ道が殆どない。
しかし、
『そちらは正しいルートではありません。左です』
どうにも自由な探索ができない。此方の動向を見ているのかラニが指示をしてくるのだ。
『貴方の行動には無駄が多いです。迷宮の構造は術式の使用によってある程度把握できます。ラニチェック、マイナス十点とします』
「ラニチェック……?」
『いいから進んでください。ハリアップ』
ラニに急かされ、歩調を早める。
途中のエネミーはラニによる手が加えられているのか、一層のものより強く感じられた。
とはいえメルトが負けるようなものではなく、さほど苦労もせずに倒せるものだ。
この調子ならば迷宮自体はそれほど手強いものでもない――そう思いながら進むと、大きな広場に辿り着く。
先は封じられており、エネミーが何体か設置されている。
『ハクトさん、貴方のこれまでの戦いを見るに、無駄が多すぎます。もっと完璧な戦闘を心がけてください』
どうにも、先ほどからラニは“無駄”を嫌う傾向にある。SGのヒントになるだろうか。
「完璧な戦闘?」
『反撃を受けずに勝利する――完勝が三回出来るまで道は封鎖します』
確かに、今までの戦いは百点とは到底いえなかった。
この階のこれまでの敵性プログラムは法則性が強く、まるで此方を
まさかそれは、戦闘スキルを測るためのものだったのだろうか。
『まず始めに、サポートのタイミングが不適格です。サーヴァントの隙をを埋める事を重視すべきでしょう』
「ラニ。ハクの教育は結構だけど、貴方は敵じゃないの?」
メルトの疑問は当然だろう。何やらラニは、僕に戦い方を教えてくれるみたいだが……
『言ったでしょう。至らぬ部分を無くす、と。私はハクトさんの無駄をなくし、より完璧にするのです』
「……そ。私としては問題ないけど。まさかとは思うけど私のハクを
『そのつもりはありません。ご安心を』
ラニが断固として言うからには間違いないのだろうが、確かにそれはありえたことだ。
そういった読みの深さも必要なのかと学び、前の障害に目を向ける。
完全勝利を三回。機械的なプログラムなら簡単とも思えたが、恐らくそうでもないだろう。
ラニから聞いた――ただ撃つのではなくサーヴァントの隙を埋める事を重視した戦い。
元々、大体のコードキャストは大した攻撃力を持っておらず相手の攻撃を阻害したりするものが主流だ。
そして僕が使う弾丸のコードも同じ。相手の行動を良く見て発動すれば、今まで以上に有効なサポートになる。
「はっ!」
放った弾丸で動きを止めたプログラムにメルトが一撃。まずは一回、完全といえる勝ちを修める。
『その調子です。次に強化型のコードキャストですが、この場合どんなものを使えばいいか、分かりますね?』
強化型のコードキャストはその名の通り、一時的にサーヴァントのステータスを上昇させるものだ。
今回は一撃も喰らわないというのが戦いの目標。ならば耐久を上げるのは何の意味も持たない。
「
攻撃の回避と攻撃速度の上昇。どちらにも恩恵がある敏捷を上げる事で、一石二鳥のサポートとなる。これで二勝。
『サーヴァントとは違う目線で戦うのがマスターの役目。回避できない攻撃から守るのも、時に重要です』
ラニの言葉を証明するように、メルトの死角からプログラムが襲う。
まさかこのプログラムはラニの操作の下動いているのだろうか――と、考えている場合じゃない。
「
展開した盾でプログラムの攻撃を防ぐ。そしてその盾ごとメルトがプログラムを引き裂き、戦いが終わった。
『エクセレント。ラニチェック、プラス二十点。では、扉を開放しましょう』
扉が開くと、ラニの通信は切れた。
何の他意もなく戦闘の心得を教えてくれたのだろうか。
どうしてあそこまで、無駄を嫌い完全を求めるのか、きっとそこに、ラニのSGの兆しがある。
きっとラニと対峙すれば、それは分かる筈だ。そのためにも早く進まなければ。
とはいえ間違った道を進むわけにはいかない。不完全ではあるが、地形把握の術式で確認しながら前へと進んでいく。
「ハク、この先に誰かいるわ」
「え?」
『……む』
メルトが指すのは、先が行き止まりである道。
だが地形を調べてみると、見えなくなっているだけで進める床がある。
「ガトーかな?」
「だとしたら他にも誰かいるらしいし、注意なさい」
『駄目です。其方は間違ったルート。進むのは許されません』
ラニはそういうが、今優先すべきはガトーだ。
仲間がいるかもしれないのに無視するのは、それこそ許されない。
『っ、歩みを止めてください。ラニチェック、マイナス十点……いえ、二十点です……!』
結局何の点数だか分からないが、それに惑わされる訳にもいかない。
止まらないと知ると、ラニは閉口してしまった。傷つけてしまっただろうか。或いは此方の確認すらも、今は忘れているかもしれない。
「行こう、メルト」
「ふふ……反抗的なのは好きよ」
何故だか楽しげなメルトと共に、“間違った道”を進む。
その先に、ガトーを見つけた。傍に三人、見慣れない人物をつれて。
「プロメテ――――ウス!
「……」
ガトーは空に向かって叫んでいる。あれほど元気なら戻ってこれたんじゃないか。
「落ち着いてくださいガトーさん。耳に響きます」
その横にいるのは、特徴的な白の巻き毛を持った少女。
十代半ばと思しき容姿。黒い修道服は、シスターを連想させる。
「ぬ? お、おお! 来てくれたか少年! 小生は今、蜘蛛の糸を見つけたカンダタの如く感動しておる!」
ガトーは此方を発見するなり、走り寄ってきた。蜘蛛の糸が云々って、生徒会でガトーが自分自身の売り込みに使用していた気がするが良いのだろうか。
そしてもう二人――一人はもう一人に抱きかかえられている。
「少年よ、貴様、どこか安全に休息を取れる場所を知らぬか?」
抱きかかえる側の男性が歩み寄ってくる。
血塗れの黒い鎧。襤褸切れのような赤いマントと、野生的な白い髪。
その威圧感は、間違いなくサーヴァントのものだ。だとすれば、抱えているのはマスターか。
ピエロ。そう例えるほかにない、長身の人物。どうやら気を失っているようで、目覚める気配は無い。
どこか休める場所……旧校舎に案内してもいいのだろうか。
「……レオ、どうする?」
『状況も状況ですしね……いいでしょう、許可します。リターンクリスタルを渡してあげてください』
恐らくレオは、何か思惑があったとしても切り捨てるという考えの下決断しただろう。
確かに目の前のサーヴァントは強力ながら、今は衰弱している。何かをしようと思えばガウェインが即刻処断できるレベルだ。
僕は懐からリターンクリスタルを取り出し、サーヴァントに渡す。
「これをどうぞ。魔力を通せば、安全地帯に行けます」
「恩に着る……では行くぞ妻よ」
足早にサーヴァントはマスター共々消えた。鬼気迫っているようだったが、大丈夫だろうか。
まぁ旧校舎に行けば桜がいる。何かあっても適切な処置を施してくれるだろう。
「ガトーも、これで戻ってくれ……なんで迷宮に?」
ガトーにもリターンクリスタルを渡しつつ、疑問に思ったことを口にする。
「うむ……実は小生も、お主にあてられて迷宮を突破したくなったのだ!」
「分かった。早急に戻って」
心配した自分がひどく馬鹿馬鹿しく思えた。
「感謝するぞ少年、この礼はいつか、必ず返そう!」
哄笑しながらガトーも旧校舎に戻っていった。
残る一人――少女は、何故か目を丸くして此方を見ていた。
「……えっと?」
とりあえず、リターンクリスタルを取り出して渡そうとすると、その手を両手で握られた。
「な、何してるのよ貴女!」
「貴方は……紫藤 白斗さんですね?」
「え……あぁ、うん」
「ふう……やっと会えました」
……表側で知り合った者だろうか。それにしては、一切記憶に残っていない。
映っているのかも分からない虚ろな――人形の様な瞳はしかし確かに此方を見ている。
「何者よ貴女! マスターでもサーヴァントでもない……いえ……サー、ヴァント……?」
メルトが怪訝な表情をしている。だが分からなくもない。
目の前の少女はどうしようもなく曖昧な存在だった。マスターでないのは分かる。ではサーヴァントか、そうとも言いがたい。
一体何者なのか、何かと何かが混ざったような存在。
「わたしはカレンといいます。一応、ムーンセルの上級AIに位置付けられています」
「カレン……上級AI?」
ムーンセルによって生み出された、聖杯戦争の運営をする上位のNPC。
だが、それでもその存在感は納得できないものだった。
『カレン……? カレンって……』
「桜、知ってるのか?」
同じ上級AIならば、知っていてもおかしくないかもしれないがその反応には驚愕が含まれていた。
「桜……? 桜がいるのですか?」
カレンと名乗る少女は首を傾げ、考え込む。
「おかしいですね……だったら何故わたしがいるのでしょう」
「え……?」
『えっと、カレンは私に問題が発生した場合、代わりに健康管理を任されるAIなんです』
『つまりは、桜ちゃんのバックアップみたいなもの?』
『そうなります。私は現在特に問題はないので、通常存在し得ない筈なんですが……』
「ムーンセルの異常でしょうか……そもそもここは何処ですか? 正規のアリーナではないようですが……」
「あぁ、月の裏側だけど……」
「裏側?」
再び首を傾げるカレンに状況を説明する。
何故かメルトが終始不機嫌だったが、恐いので気付かないフリをしておく。
「なるほど……ではそのBBによって生み出されたアリーナな訳ですね」
「そういう事になるかな。でも、それだとカレンがいる理由が判然としないけど」
「とりあえず、“いる”という事は何かしら明確な理由があるでしょう。それがはっきりするまで、旧校舎とやらに置いてもらって構いませんか?」
「僕は構わないけど……レオは?」
『構いませんよ。良ければ演算処理のしやすい部屋を一つお貸ししますが』
「ありがたいです。では桜、座標の指定をお願いします。実はそろそろ存在が曖昧になっていて、安全地帯に行かないと危険なんですよね」
至極どうでもいいことを言う様に、さらりとカレンは重大な事をぶっちゃけた。
『っ、何でそれを先に言わないんですか! 座標を指定しました、早く来てください!』
「わたしはあまり、細かい事は気にしないので。AIにあるまじき
言って、カレンは旧校舎へと転移していった。
『まったく……これだから、任せられないんです』
どうやらカレンは、AIとしてのアルゴリズムに少し問題があるらしい。
一息ついた桜。だが、もう一つ頼んでおかなければ。
「桜、さっきのサーヴァントとマスターの事、お願いできるかな?」
『はい。そのつもりです。健康管理AIとして、全てのマスターを守るのが私の役目ですから』
良かった。何者か分からないマスターでも、例外ではないらしい。
「ありがとう、桜」
『はい。紫藤さんも迷宮攻略、よろしくおねがいしますね』
とりあえず、意外な出来事はあったがガトーを連れ戻すことはできた。
後はラニのSGのみだが……どうやら怒らせてしまったらしい。大丈夫だろうか。
そしてもう一つ。
「……メルト?」
「…………………………………………何かしら」
明らかに、こちらもご立腹である。
どうしたものか、と考えるが、その前にメルトは元来た道――つまりは正規のルートへ歩いていく。
「何してるのハク。早く行くわよ」
「う、うん……」
何故怒っているのか良く分からないが、とにかくこれ以上悪化させてはならない。直感がエマージェンシーを告げている。
とりあえず待たせるのは悪いのでついていく――良い方を選んだはずだが、この道を通ったのは地雷だったのだろうか。
半オリキャラって感じなんですよね。実際のところ。
彼女について、詳細は次々回に解説となります。
ちなみに言っておくと、本作での名称は「カレン・オルテンシア」ではなく「カレン」のみです。
まぁ、別にどこで使う訳でもないんですが。
そんでもって以前から立てていた「好き勝手」という保険の下、拒食ピエロが生き返りました。
そして便乗して最近外典の方が衝撃すぎたせいで影の薄いドラキュラも復活しました。
気付くと一人称が余になってて困ります。
↓え、何? 次回の更新って記念すべき日なの予告↓
――俗に言う膝枕。
これだけだ…好きに想像せよ。多分その想像は覆されるだろう――
ではまた次回!