縁の射手   作:美都
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第3話:“サーベルアロー”

ラルさんの助言で裏の世界大会・アナザーリーグに出場することになったあたしは、あの後ガンプラバトルの仕組みやガンプラの基本的な構造などを教えてもらった。
プラフスキー粒子を利用している、というあたりまではまだ科学的なところだったのでなんとなく理解出来たのだが、ガンプラの専門的なことになるといまいちわからなかったのでイオリ先輩には申し訳ないがよく覚えていない。
実際のバトルでの操作方法などは日を改めて、ということになったので顧問の都合で部活が休みになった土曜日に再びイオリ模型にお邪魔した。

「おはようございます!
イオリ先輩、ガンプラバトルのやり方教えてください!」
「おはよう、チエリちゃん。」

お店に入ってきたあたしに気づいたイオリ先輩は直前まで話していた人から目線を外してあたしに挨拶をしてくれた。
接客中だったのかと思って一瞬焦ったがイオリ先輩と話していた人には見覚えがあった。

「あ!あなたはイオリ先輩の隣の席にいた…」
「コウサカ・チナっていうの。
よろしくね。」

あたしがイオリ先輩にガンプラバトルの指導をお願いした際に助け船を出してくれたチナ先輩がお店にいた。
あのときも仲が良さそうな雰囲気だったが2人とも楽しそうにガンプラの話をしていたところを見ると、

「…先輩方は付き合ってるんですか?」
「「ち、違うよっ!?」」

息ぴったりで顔を赤く染めながら否定した先輩方。
でもその様子だと恐らく付き合うようになるのも時間の問題だとあたしは確信した。

「そ、そうだ!
あなたのガンプラ見せてくれる?
イオリくんが『とてもすごいガンプラだ。』って言ってたから…」

チナ先輩は照れた様子が見えたまま少し無理矢理話題を変えた。
あまり茶化しても悪いと思ったので、あたしはその話題に乗ってバッグからネクサスを出した。

「わぁ!
確かにとてもよく出来てるガンプラだね。
詳しくない私でもわかるわ。
このガンプラ、名前はなんていうの?」
「“ネクサスガンダム”っていいます。
元のガンダムが何かはあたしよりもイオリ先輩の方が詳しいんですけど…」

チナ先輩とネクサスについて話しているとお店のドアが開いたのでお客さんが来たようだった。

「いらっしゃいませ。
サザキじゃないか。」
「お邪魔するよ。」

やってきたのはおかっぱ頭のちょっと自信過剰そうな人で、イオリ先輩と普通に会話していたところをみると先輩たちと同じくらいの歳だと思われる。
“サザキ”と呼ばれたその人は商品を見回しながらお店の奥まで入って来てカウンターに置いていたあたしのネクサスを見て目の色が変わった。

「これは…!
とてもいいガンプラじゃないか!
キミが作ったのかい?」
「いえ、あたしじゃなくて…」

サザキはあたしの返事もあまり耳に届いておらず、興味は完全にネクサスに向いていた。
大して話したわけでもないけどなんとなくこいつにネクサスを触らせるのが嫌だった。
返してもらおうとあたしが声をかけようとしたら、サザキの方からとんでもないことを言ってきた。

「キミは見たところガンプラバトル初心者だろう?
わかるとも!僕は優秀なファイターだからね!
この素晴らしいガンプラは僕にこそふさわしい!
弱いキミには宝の持ち腐れさ。
僕に譲った方がこのガンプラのためでもあるよ。」

さっきなんとなく感じたことが的中してサザキは超自己チュー発言で、早い話が『ネクサスをよこせ』と言ってきた。
確かにあたしはガンプラのことは何もわからない。
でも、このネクサスガンダムはミツキ兄があたしのために作ってくれたもの。
サザキにはいっぱい言ってやりたいことはあったがやっと絞り出せたのが、

「は?」

ドスの効いたこのひと言だった。
サザキはあたしがキレてることに気づいていなかったがあたしの両サイドにいるイオリ先輩とチナ先輩は察したようでひきつった顔であたしをみていた。

「自分の実力がわからないっていうなら今この場で教えてあげてもいいよ?」
「あ?やってやろうじゃない!」

サザキの挑発に乗ったあたしはサザキとともにお店の奥にあるバトルスペースに入った。
しばらくサザキと睨み合ってるとチナ先輩とアワアワとしていたイオリ先輩もバトルスペースに入ってきた。

「サザキ!
チエリちゃんはガンプラバトル初めてだから僕がセコンドに入るけど、いいよね?」
「もちろん!
そのくらいのハンデが無くちゃ、その素晴らしいガンプラを壊してしまうからね!」

サザキの更なる挑発にあたしはひと言言おうとしたらイオリ先輩が「チエリちゃん、冷静になって!」と止めに入った。

「とりあえず、これ…ラルさんが手配してくれたGPベース。
これとガンプラをバトルシステムにセットして。」

あたしはイオリ先輩に言われた通り、GPベースというスマホにも似たような機械とネクサスを指定の場所に置いた。
その間もサザキは「まさか、そこからなのかい?」と更に煽ってきたのでとりあえず睨み付けておいた。
バトルシステムから発生してる光の粒子―恐らくこれがプラフスキー粒子だろう―が強くなると何も無かったバトルシステムに渓谷のようなステージが現れた。
それに驚いていたら今度はネクサスの目が光り、顔が動いた。

(本当にガンプラが動くんだ…)

ガンプラバトルのことはなんとなくしか知らなくて、バトルするどころか実際に見るのも初めてで、頭のどこかで驚きながらも大部分はサザキをぶっ潰すことを考えてコントローラーを握りしめてスタンバイした。

「ネクサスガンダム、いっけぇえ!!」

あたしのネクサスは勢いよく渓谷に飛び出し、ステージに降り立った。

「で、イオリ先輩。
これどうやって動かしたらいいんですか!?」
「よくそんな状態でバトルやろうとしたね!?
えっと、右のコントローラーを動かすと脚が…」
「こうですか!」

イオリ先輩に言われた通り右のコントローラーを動かしたが、動いたのは脚では無く手で何故か万歳の状態になってしまった。
その後も必死に動かそうとするが、歩くことすらままならなかった。

(うっそ、ガンプラバトルってこんなに難しいの…!?)

子供でも出来るものだからもっと簡単だろうと高をくくっていたが、思いの外操作が難しい。
なんとか四肢を動かせるようになった頃、警報音とともにイオリ先輩から通信が入った。

「サザキのガンプラが近づいて来てる!
気をつけて!」
「は、はい!!」

装備の項目の一番上にあった剣っぽいものをネクサスに持たせてあたしは戦闘体制に入った。
それとほぼ同時にサザキのガンプラが姿を現した。

「アレは……ガルバルディα!!」
「ガルバ……なんです?」

イオリ先輩はサザキのガンプラをみて瞬時にどんな機体なのかがわかったようだったが、その声には驚きの色が強く出ていた。

「ジオン軍の次期主力機競争を行ったギャンとゲルググの利点を融合させた機体。
でも、本来は旧キットですらガルバルディβしか出てないのに……まさか……!」
「そうともセイくん!
これはHGUC、それもREVIVEのギャンをベースにスクラッチしたガルバルディ……その名も『ギャルバルディα』だ!!」

ドーンという効果音が聞こえてきそうなほど高らかにガンプラの名前をあたしたちに告げた。
どうやら結構手の込んでいるものらしく、サザキは自信たっぷりだった。

「っていうか、その機体にもギャンのミサイルシールドを!?」
「これが無ければ、ギャンではない!!」

驚くイオリ先輩とどや顔のサザキ。ガンプラを知っている2人は盛り上がっているが全くわからないあたしは完全に蚊帳の外だった。

「ガルバルディだかギャルバルディだか知らないけど倒しちゃえば同じでしょ!」
「まだ減らず口を叩く余裕があるとはね。
ろくにガンプラも操作出来ないくせに、さっ!!」

ギャルバルディはさっきイオリ先輩が指摘していたミサイルシールドの裏からソードを出してきてネクサスに斬りかかった。
あたしはとっさにさっきネクサスに装備させた剣っぽいものでそのソードを受け止めた。

「ふーん、やれば出来るじゃないか。
火事場の馬鹿力ってやつかい?」
「ネクサスはあんたみたいなやつには傷つけさせない!」
「フン!口だけは立派じゃないか!
じゃあ遠慮なく行かせてもらうよ!」

ギャルバルディはいったんネクサスから距離を取り、今度はスピードをつけてネクサスに斬りかかった。
またなんとか受け止められたがギャルバルディに勢いがあったためネクサスはバランスを崩して倒れてしまった。

「片足ならまあいいか。
本当に口ほどにもないド素人だったね。
…じゃあ、トドメだっ!!」

ギャルバルディはネクサスの左足に切っ先を向けてソードを振り上げた。

(このままじゃ、負けてネクサスをとられる上に左足壊されちゃう…!
やだ、やだ…!
どうすれば、)

負けを悟ってせめてネクサスが壊れる瞬間を見るのを避けようとして目を閉じたそのときだった。

「チエリちゃん!
ネクサスの身体を右に捻って!!」

何故、とか理由を考える前に聞こえてきたイオリ先輩の声に従いネクサスを動かすと紙一重でギャルバルディのソードを回避出来た。
サザキもそのことに驚いたのか、一瞬隙が出来たのでネクサスを高速で動かしてギャルバルディから距離を取った。

「さすがはセイくん。
最近ファイターとしても腕を上げてきただけあるね!
でも…これはどうかな?」

ギャルバルディがミサイルシールドを構えると、イオリ先輩からの通信が入った。

「追尾機能付きのミサイルが来る…!
チエリちゃん、地形を生かして岩の影に隠れながら距離を取ろう!」
「はい!」

あたしが動くのと同時にギャルバルディはミサイルを発射してきた。
イオリ先輩が言ったとおり追尾する機能がついているようであたしの不規則な動きにも合わせて向かってきた。
それでも必死に岩や渓谷などを利用してミサイルを回避して、外れて岩にミサイルが当たったことにより煙が上がってサザキの視界を遮った。
それを好機としてさらにサザキから距離を取って岩影に隠れた。

「回避出来たけどこのままじゃ防戦一方だ…
サザキはあんな感じだけど結構な実力者だからね、次のミサイルはかわしきれないかもしれない…
なんとか反撃しないと…」

イオリ先輩の言うことはもっともだ。
サザキはまだあたしをなめていて本気を出していない。
次に本気でミサイルを撃たれたらかわしきれないのは目に見えている。

「わかってます、でも…あたしに攻撃手段なんて…」

「無い」と諦めようとしたそのとき、
ふと、ミツキ兄の言葉を思い出した。

―「このガンプラにはちょっと変わったライフルを装備させたんだ。
弓道が上手なチエリをイメージしてね。」―

ネクサスを貰って恐る恐る触りながら飾っているあたしを笑いながらミツキ兄はそう言っていた。

(ライフル、弓道…追尾するミサイル……)

あたしに出来る攻撃はこれしか無い。

「イオリ先輩、このガンプラの装備にライフルってあります?」
「えっと…今装備させてる剣…“GNソード”っていってライフルにもなる特殊な武器なんだ。
今の装備だとライフルはそれだけかな…」

あたしが適当にネクサスに装備させたこの剣がライフルにもなる武器で、恐らくミツキ兄が言っていた「ちょっと変わったライフル」というのはこれのことだろう。
コントローラーを少しいじると剣は形を変えて銃のようになった。

「イオリ先輩、このライフルでミサイルを全部撃ち落とす、というのはどうでしょう?」
「あのミサイルは一斉に12発撃ってくる。
それが2つあるということは全部で24発、防ぎきるのは難しいよ。」
「あたしに考えがあります。
少し危険な賭けだけど…」

イオリ先輩に作戦を話そうとしたら、ギャルバルディの接近を知らせる警告音が鳴った。

(上手くいくかはわからないけど…何もせずに負けるくらいなら危険な賭けでもやってやる!)

あたしは決意を固めて岩陰に隠れたままギャルバルディを狙撃出来る体勢を整えた。

「どこに隠れたって無駄だよ!
僕のギャルバルディのミサイルからは逃れられない!」

そう言いながら近づくギャルバルディの背中を狙って銃を撃った。

「なっ…!?
そこか!!」

あたしの狙撃で背中に被弾しながらも位置がわかったサザキはあたしがいる方向目掛けてミサイルを一斉に撃ってきた。
あたしはネクサスに銃を構えさせながら四方から飛んでくるミサイルを集めるように動いて、

「いっけぇえええ!!」

一点に集まったタイミングで何かはわかっていないけど出力の高い弾丸を撃った。
ちょうど、その瞬間は弓道の射と同じ距離感であたしは表面上では興奮しているようだったが深層は弓道のときとまったく同じように集中していた。
まるであたしが弓を持っている意識だったのがネクサスに伝わったように、放たれたのは弾丸ではなく、

(光る…矢……?)

光で出来た矢がほぼ一点に集まったミサイル全弾を貫いて爆発を起こさせた。

「な、んだって…!
僕のギャルバルディのミサイル全部を…!?」

唖然としているサザキは完全に隙だらけでミサイルを補填することも忘れていた。
そこをついてあたしはギャルバルディの両足を銃で撃ち抜いて動けなくした。

「あ……あ……!」

サザキは負けを悟ったようで、意味の無い音を漏らすしか出来なかった。
そんな無抵抗のギャルバルディ、そして散々あたしをバカにしたサザキに対して、

「誰が弱いって?」

情けをかけることなく以前ミツキ兄からガンダムの心臓部であると聞いていたコックピット部分をゼロ距離で撃ち抜いた。

「ギャルバルディイイイイ!!!」

サザキの叫びと同時にバトルシステムがあたしの勝利を機械的に告げた。

「うわぁああん!
覚えてろよ!フリムラ・チエリ!!」

サザキは壊れたギャルバルディを持って捨てゼリフを吐きながらお店を出ていった。

「すごい、すごいよチエリちゃん!
ガンプラバトル初めてとは思えないよ!」
「すごかったわ!あの光る矢!」

セコンドのイオリ先輩に外から観てたチナ先輩は「すごい、すごい」ととても誉めてくれた。
ちょっと気恥ずかしかったけど、弓道以外のことをここまで誉められたのは初めてだったから悪い気はしなかった。

「ふむ…あの光る矢、『サーベルアロー』といったところか。」
「「ラルさん!?いつの間に!」」
「イオリくんがセコンドに入ったあたりから私の横でずっと観てたよ?」

驚きの声をあげるあたしとイオリ先輩を見てチナ先輩は苦笑いしながらラルさんの来たタイミングを教えてくれた。
あのときのあたしは頭に血が上ってたからまったく気づかなかった。

「で、ラルさん。
『サーベルアロー』って…」
「チエリくんが放ったあの光る矢の正体は『ビームサーベル』なのだよ。
チエリくんのネクサスのGNソードは狙撃に特化していてサーベルを弾丸として撃てるようになっているようだな。
…知らないでやったのかね?」
「はい、あの剣?銃?の一番出力の高いのがあれだったので。」

あたしがしれっとそう言うとラルは一瞬驚いた顔をしたけどフッと笑って1枚の封筒を差し出した。

「見事なまでの才能だ。
そこまでの力があるのならアナザーリーグでも心配あるまい。」

受け取った封筒には“アナザーリーグ参加証明書”と書かれていた。
ラルさんは本当に手配してくれたみたいだ。

「アナザーリーグ開催は1週間後、3ヶ月間という短い期間で100勝…しかも血気盛んな猛者たちを相手にしなければならない過酷な戦いだ。
…だが、君はそれでも目的のために進むのだろう?」
「はい!
何があろうともあたしの意志は変わりません。
ネクサスとともに戦い抜いていきます。」

それがどんなに辛く厳しい戦いだとしても、ミツキ兄に会うためにミツキ兄がくれたネクサスとともに戦いに身を投じていく。






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