THE IDOLM@STER 輝く星になりたくて   作:蒼百合

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先ず初めに、ハーメルン六周年おめでとうございます!

ようやくDSとザワワンに例のアイマス公式漫画を確保しました。来月は、二次創作漫画を購入だ……

それにしても、少し前に更新された楓さんのカード、素敵ですね。
そんな楓さんは、今回のしゅやくです。




9話 ウィンターライブ(穹の弐)

 それは二年前のこと。ちょうど765プロとして初のアリーナライブを行う少し前のことであった。

 

 その日は、久しぶりの()()の休日を過ごしていた。

 何も予定が無い日は本当に珍しかった。ゲーム内でのイベントが行われていなければ。積みゲーも積み本も存在しない。暇な日であった

 ベッドの上でごろごろとしようにも遊ぶネタがなかったのだ。

 

 ――凄く暇ね

 

 材料が無いのでお菓子作りも出来ない。材料なら買ってくれば問題は無いけれど、明日は事務所に立ち寄れないのでたくさん作っても余らせてしまうので、やる気は起きなかった。

 たまには外に出かけよう。最近やっていなかったこともしたいし。

 

 

 やって来たのは、最寄り駅から程近い渋谷で乗り換えて直ぐにある原宿だ。竹下通りにも近くに豊富なお店が揃っている。

 けれど立ち寄るのは、古本屋と古着屋だ。レア物がないかをのんびりと探すのはかなり楽しい。

 ファッション雑誌のモデルとなることも多いアイドルは、撮影で着た衣装をサンプルとして貰ったり、買い取る(此方の場合は買い取らせる)ことが多い。

 テレビでなくてもSNSで写る写真で着てくれたら広告に繋がるからだ。

 なので、古着を愛用するのは余り好ましくは無いのかもしれない。でも、春香や美希と買い物に出かけると押し付け同然で沢山の服を買っているので問題ない、はずだ。

 

 ――あ、これなら千早に似合いそう

 

 ある意味千早らしいけれど、彼女は服に拘りがない。とはいえ私もこだわりが強く、貰い物も含めて服は沢山あるけれど、そこまで熱心ではない。お互い様だ。

 中古品である以上、存在するのは一点物だ。欲しいと思ってもサイズが合わないことも多いが、他の誰かが着ているイメージを考えるのはかなり楽しい。そこが面白いのだ。

 

 *

 

 四月から始まった律子と私がパーソナリティーを勤めているWEBラジオ。プロデューサーでもある律子がいるので「竜宮小町」や765の裏側を話題にすることも多くコアな765ファンからの反響は大きい。

 

 お便りコーナーで「最近新しく見つけた趣味」という一通の質問があった。

 それに私が古着屋巡りと答えてしまったのがそもそもの原因だった。

 

「それって、只の妄想じゃないかしら」そう指摘したのは律子だった。

 

「…………あ、確かにそうかも」

 

 私は無自覚であった。だから恥ずかしがることもなく普通に返答できたのかもしれない。

 しかも生放送だから取り消しが出来ない。

 

「ふふぅーん。なっちゃんにもピヨちゃんみたいな妄想癖があったかぁ。

 真美たちにあんな服やそんな服を着せてニヤニヤしていた……」

「真美ストーーップ! 今ラジオだから、ね。ね?」

 

 最悪なのがゲストに双海真美(ふたみまみ)がいたことだろう。どこまでが本質か解らないが、からかってきた

 私の顔はみるみる赤くなっていた。やってないと否定が出来ないところが悲しい。小鳥さんと同列になっているようで余計に落ち込んだ。

 

「でも、その気持ち解りますよ。みんなの新衣装どうしようかって考える時は、みんなが着てるイメージはしますから」

 

 律子はすかさずフォローを入れた。

 ナイスです。

 

「そ、そう! だからこれは職業病みたいなものなんだよ」

「そっかー……。それでなっちゃんは真美たちにどんな服が似合うって思ったの?」

 

 真美は納得したようで話題を変えた。

 しかし彼女は、獲物を見つけたようにギラリと目を輝かせていた。

 

 ――これは、しばらくネタにされるな

 

 諦めに近い笑みを浮かべながら、真美からの質問に私は答えた。

 

「それはだね――――――

 

 *

 

 やっと忘れかけていた出来事を思い出してしまった。

 手に持っていた服を慌てて元に戻す。これは、私には合わない服だ。

 胸が大きいと、横は問題なくても服の柄の位置が合わないことが多いのはかなり不便である。

 全く気にしてないだろう美希やあずささんが少し羨ましい。二人とも自分よりも大きいのに気にしていないからだ。

 

 結局何も買わなかった。

 その後向かったのは秋葉原。

 PCのパーツ探しに、アイドル探しだ。 東京23区だけでも、毎週のようにアイドルのイベントは行われている。

 毎週のように新人アイドルのデビューイベントがあり、人気アイドルのCD発売イベントも行われている。

 

 未来のトップアイドルを探すのは、アイドルオタクとして楽しいのだし、『ライブバトル』で私たちが対戦する可能性もある以上、戦力分析にもなる。

 今回は運がよかった。

 あの時、ゾフマップに行かなければ、私はあの人と出会っていなかったからだ。

 逸材を知らないままでいた。

 

 そこで私は、女神と遭遇した――――

 

 

 *

 

 

「楓さん……」

 

 高垣楓は、にこやかな笑みを浮かべながら私を見ていた。

 

「昨日は朝まで瑞樹ちゃんと飲んできたのよ~」

「一体なにやっているんですか」

 

 やはりというべきか、当然というべきかもしれない。

 川島さんや他の大人組が酔っているのも、確実に彼女が原因だ。

 彼女たちは本番当日の数時間前だということを理解しているのだろうか?

 頭が痛くなる。何故こんなことになっているのだ。 

 一刻も早く机に積まれたビニール袋とビンを奪わなければ。

 

「まあ、怖い。そんな顔をしたいたら老けちゃいますよ」

「でしたら、今すぐお酒を飲むのをやめてください」

「いやです♪」

 

 楓さんは可愛らしく否定した。

 テレビでよくみるミステリアスな雰囲気とは違い、見ている男を一瞬で虜にしてしまうような優しい笑みだ。

 可愛いと思ってしまう自分が悔しい。

 

「っ……可愛らしくしても、駄目ですよ。ライブなの忘れてませんか?」

「勿論、覚えてますよ。お酒はライブに()()られないエネルギーですから」

「そう! 酒は燃料なのよ!」

 

 援護射撃をしたのは早苗さんだった。

 

「ねぇ、二人とも何を話してるのかしらぁ?

 みずきも混ぜてぇー」

 

 二人で話していたというよりは、私が一方的に怒って、楓さんがひらりと避けていた。という方が近いだろう。

 川島さんも混ざりたがっていたらしい。

 そして彼女は、私の身体に横から乗ってきた。

 

 お願い。と言っているような彼女のウィンクは大変可愛らしく上目遣いの目線も合わさって私の感情を揺さぶるには十分すぎる効果があった。『パーフェクトコミュニケーション』だろう。

 けれど残された理性は、妥協を一切許さない。

 

「甘えても駄目ですよ、川島さん」

 

 ほんの一瞬だけ、もしかしたら彼女が救世主ではないか。と思ってしまった自分が悲しい。彼女も酔っぱらいだ。

 ブーと、頬を膨らませた川島さんもちょっと可愛かった。 髪を撫でるくらい許される行為だよね。と言い訳をしながら自然に彼女の髪を触っていた。

 346も十分混沌(かおす)な事務所だ。

 

「あら、羨ましい。それじゃあ雪乃ちゃんも一緒に飲みながら――」

「飲、み、ま、せ、ん! そもそも私は未成年だから飲めないし薦めるな!」

「まぁまぁ、とりあえず水でも飲んで落ちつきなよ。今日は私たちのライブなのよ? 楽しんで頂戴ね」

 

 川島さんは水の入ったコップを、私の口元に近づけた。

 

「ありがとうございます。

 ……って違う! 貴女たちが飲みなさい!」

 

 私は酔ってはいないのだ。

 酔っぱらい女たちを冷静に戻すためにも、本来はライブの休憩用に用意されている各名前の貼られたペットボトルを、それぞれに差し出す。

 

「あら。雪乃ちゃんは、瑞樹さんを食べちゃうの?」

「……いゃあ~ん! 雪乃ちゃんったら、だーいたーんー」

 

 数秒遅れてから、川島さんは急に立ち上がった。二三歩距離を取ってから、胸を隠しつつ可愛く少女っぽい悲鳴をあげる。

 

 ――――何故わたしが弄られてるの!?

 

 早くここから離れてしまいたいが、放置しておくわけにもいかなかった。

 こんなところに未成年組は絶対に立ち入らせては行けない。なんとかしなきゃ!

 

 場の空気には酔っていたのだろう。

 そろそろリハーサルが終わり未成年組も来てしまうだろう。それは目に毒だ。

 この酒やいつの間にかつまみが散乱しているこの状況を、迅速に処理するべきだ。

 具体的にはあと10分くらいで、出来ると信じて――

 

「さっ、水を飲み終わったらさっさと片付けますよー。

 高垣さんも、禁酒なんかになりたく無いですよね? 早くしますよ」

「えー」

「文句も言わない。今すぐ処分したら見逃してあげますからね」

「見逃すって、誰からよ?」

「当然、今西さんですよ」

「嘘でしょ」

 

 その名前を聞いた酔っぱらい共は、少しだけ顔色が薄くなったように見えた。

 きっと、前科持ちなのだろう。反応が薄いということは、彼ではもう怖く無いのかもしれない。

 そもそも、346社員との繋がりは彼以外にないから密告は彼にしか出来ない。

 

「もう。もがなちゃんは冷たいなー」

「冷たくて結構。そもそも私は部外者なんですからね」

「そうよ。そこの貴女。どうして普通に会話しているのよ? 一体何者!?」

「早苗さん、それは今さらな話じゃない……」

 

 突っ込みを入れたのは、完全に空気とかしていた松本沙理奈(まつもとさりな)さんだ。彼女も胸はデカイ。

『ブルーナポレオン』に所属しているが、今回は貰った資料によるとサポートメンバーのようだ。

 

「そうよぉ。それに誰だっていいじゃない。そこにお酒があればさ……」

「わからなくはないわ。(しん)ちゃん」

「フフっ。それはね、早苗さん――」

 

 楓さんが答えようとした時に、扉を開ける音がしてしまった。

 これって私まで怒られなたりしないよね?

 

「おっはよーございます★」

「おはよぅー」

「あら、おはよう。美嘉ちゃん」

 

 明るく挨拶する声の主は、カリスマJKアイドルの城ヶ崎美嘉(じょうがさきみか)だった。

 

 

 結論から言えば、()()も大人組の被害者だったようで、大した問題にはならなかった。

 この現状を見るなり、「またお酒を飲んでいたんですね」と呆れていたのだから間違いない。

 

「全く、どっちが大人なんだか」

「あはは……」

 

 私のぼやきに、美嘉は微妙な反応をした。

 楓さんたちにはもう少し大人として。そして美嘉たち346プロにいる後輩の為にもしっかりして欲しいと思ってしまう。

 全く、どうして年下である私が思わなければいけないのだろう。

 

「城ヶ崎さーん! 先程のことで、少しいいですか?」

 

 扉を開けながら声をかけたのはスーツ姿の女性だった。346プロの社員だろう。

 

「「「あっ……」」」

 

 見つかってしまった、この惨状は隠しきれない。

 

「そのぉー……美嘉ちゃん、お疲れ様。また来るね」

「ええっ!? ちょっと待って下さい!! 」

 

 突然怒りだした女性は、今度は白い眼をしてそっと閉めた。

 美嘉は、慌てて追いかけた。

 

 ――こりゃ逃げたね

 

「ぁー。ちょっと刺激が強かったかしらね?」

「わかるわ。この有り様を見たら逃げ出したくもなるよね」

 

 騒ぎを聞き付けてやって来たけれど、毎回お馴染みの厄介事だったので関わりたくない。ってことか。

 

 ――もしかして、この状況を見越して今西さんは……

 

 私を呼んだのではないか? そんな考えたくもない想像が浮かんでいた。

 私や美嘉のことを助けて下さいよ! 大体私はこんな“子守り”紛いなことをやる必要も無いのに――

 そうだ。私は身内ではないから、情けなんてかけてやる必要は無かった。

 

「まっ。これは没収して、報告するからね」

「えぇ!」

 

 中身がまだ残っている酒やお菓子をすっと奪い去る。

 こうなれば今西さん経由で、担当プロデューサー及び各所に告発だ。バレた以上仕方ないし、慈悲はない。

 駄目な大人たちは、明らかに不満そうな顔をしているが、酔った状態でライブに出るなんて言語道断。

 生放送で酔った状態で出演するのも大迷惑な話しであるがまだどうにか乗り越えられる。歌って踊るライブでは、周囲も巻き込んだ大惨事になりかねないくらいに危険な行為だ。

 そうでなくても、世間に露見したら一体全体どんな結果になるかどうかなんて想像もしたくない。

 せめてもの情けで、袋が既に開けているだけは後で返してあげようか。なんて油断したのが過ちだった。

 

「わかりました。それなら、私にも考えがあります……」

 

 楓さんは静かに宣言した。

 彼女の目付きも変わっていた。ステージに挑むような、覚悟を決めた目であった。

 

「か、楓ちゃん?」

「楓さん。一体何を……」

 

 自然と目線が楓さんに集まる。

 違う、そうでは無い。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 彼女はビールにつまみを必死でかき集めている。

 右手は、全てを離さないように抱き締めていた。

 左手では、ビール瓶を口元に近づけつつあった。

 ようやく私は、一連の行動の目的を把握出来た。

 

「まさか!?」

「ふふっ。もう遅いですよ……」

 

 楓さんは……否、酒の亡霊は、没収されるくらいなら、全部飲んでしまうつもりだ。

 

「やめてください楓さん! ステージはどうするんですか!?」

「楓ちゃん、後で美味しいお酒を飲みましょう。ね?」

「い、や、で、す! 絶対にはなひましぇんよ」

「これは、ちょっと不味いわね……」

 

 子供か。

 私たちは、必死で暴走した楓の飲酒を止めようとする。急性アルコール中毒になっては洒落にならない。

 それでも楓は、酔っぱらいならが酒を浴びるように飲んでいるにも関わらず、必死に抵抗する。

 華奢な体型だというのに、どこに馬鹿力が眠っているのか解らなかった。

 

「そうだ、三船(みふね)さん! 三船さんを呼びますよ! それでもいいんですか!?」

「それよ、もがなちゃん! 楓ちゃん、もう辞めましょう? お酒、止められたく無いでしょ?」

 

 楓と仲のいい彼女なら、と望みを賭けて訴える。

 

「美優さんなら、お家で寝てますから、気がつく筈がありませんよ?」

「そうだったわ。あの娘、楓ちゃんが連れて帰ったんだったっけ」

「それって……」

 

 ()()()()()()()()()()

 

 

 

 結論から言えば、楓は酔い潰れた。

 三船さんが来る頃には、楓は気持ち良さそうに寝ていたので、彼女は呆れてしまった。

 けれど、よくあることらしく、「起きたら、しっかりお説教しておきます」と言い切った。

 三船さんは、寝ている楓の横に腰かけた。

 

 

 

 *

 

 

 

『ご来店の皆様にお知らせします。本日の公演は、予定を変更しまして開始を一時間遅らせての開始となります。皆様には――――』

 

 そのアナウンスに、来場者はざわめいた。

 

「ねえ、アーニャちゃん。どうしたんだろうね」

「ンー、わからないです。ミク」

「だよねぇ。怪我とかしてないといいけど」

 

 前川みくは、隣に座っているアナスタシアと話していた。

 みくは、不安だった。演劇やライブでは、どうしても事故にトラブルは起きてしまう。

 実際のところ、事故は起きていない。けれど真相については、絶対に公表されないだろう。

 

 疑問に思ったのは、彼女たちだけではない。

 

「なぁ、秋月。実際のとこ、どうなっていると思う?」

 

そう言ったのは、整ったスーツを着ている赤髪の女性だった。

 

「そうねぇ、寝坊して遅刻でもしているんじゃないかしら?」

 

 秋月と呼ばれた女性は、極普通なことのように返事をした。

 

「いやぁ……それは無いだろ?」

「そうかしら? うちも迷子になる人や、ゲームで遊んでて遅れそうになることよくあるから、そんなもんだと思うけど」

「それって……『竜宮』の三浦と双海じゃないか。お前の"担当"だろ?」

 

 秋月――秋月律子は、苦笑いをしつつ否定をした。

 

「いえ、もがなもよ。麗華」

「はぁ! あいつが?」

 

 麗華は、驚いた。まさかあいつが遅刻をするとは予想外だからだ。

 

「そうなのよ。メールや資料見てたら出るのが遅くなった、ってね……。もぅ、ライブに集中すればいいのに」

「ははっ。そりゃあいつらしいや」

「でしょ?」

 

 二人は、同じ人物を想像しながら笑いあっていた。

 その後も、もがな――雪乃――について思い出していた。

 

「――ねぇ、麗華」

「なんだよ、()()

 

 

 

「あんたが、雪乃を辞めさせたってのは本当?

 

 

「―――嘘でしょ。東豪寺麗華ちゃんが……」

 

 みくが小声で悲鳴をあげた。

 

 




手にいれた漫画はrelationsでした。アイマス要素前回のいい漫画ですね。未読の皆さんは是非読んで見てください。
資料があっても麗華の話し方が難しいですね……

さて、主役と酒(しゅ)役の楓さん。酔っていただけですね、ハイ。次回、踊ります!

東豪寺麗華と秋月律子、みくとアーニャについてはまた次回。
そんな次回で、ようやくウィンターライブ編(?)が終われそうです。


実は、前回の更新後、日刊ランキングでまさかのトップ10を入りしていました。皆さん閲覧ありがとうございます。
引き続き、応援よろしくお願いします。

最後に、よろしければお気に入り登録、コメント、評価もお願いします。

次回は、福岡公演が終わる頃に出来るといいですが……

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