THE IDOLM@STER 輝く星になりたくて   作:蒼百合

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2話 未知との遭遇??

 アイドルランクは、アイドルの人気が人目で解る制度のことだ。十年以上前に誕生したこの設立の最大の理由は、一人のアイドルの実力と、その凄さを知らしめる為に、アイドル関係者が作り上げたものだ。

 新人のF~Aランク、そして最高ランクであるSランクの計7つが存在するが、設立当時を除いて長い間その座に着くアイドルは存在しなかった。

 また、上位のランクに上がれる目安になるのはファンの人数だ。そして、ランクアップオーディションで上位入賞する必要がある。

 上位アイドルになるほど、仕事のオファーがあり、年に一度あるアイドルたちの決闘とも言える、『アイドルアルティメイト』への参加権を得られる。

 しかし、一人のSランクアイドルによって全て打ちのめされる。その少女名は、日高舞(ひだかまい)。今から十年以上昔のことなので、今は大人となっている。しかも彼女はその後直ぐに引退してしまった。

 彼女の伝説と記憶は、テレビ業界、アイドル界に多くの影響を残していく。

 アイドルランク制度は、多くのアイドルを苦しめることとなったが、それによりアイドル全体のレベルが向上したとも言える。

 その結果、アイドルに憧れる少女は増えて更にアイドルの母数が増える。そして、上位ランクに行くにはさらに狭き門を潜る必要が出来た。

 その先に待っているのは、多くの期待。『第二の日高舞』に成るかもしれない、という重い重圧。期待。プレッシャーだ。しかも、その看板を掲げることとなった彼女たち全ては、「日高舞と比べたら駄目だなぁ」という年長の番組プロデューサーや、カメラマンといった何処からともなく聞こえてくる、心ない言葉に、打ちのめされていった。

 

 反発する者は大勢いた。しかし、変わることはない。それどころか、その影響で、事務所やグループの分裂や崩壊さえ起きた。

 

 そんな負の流れは、永遠に続くものだと思われていた。

 

 しかしある時、アイドル界の風潮に逆らうかの如く一つのユニットが誕生した。それが、魔王エンジェルというユニットだ。

 

 彼女たちは、リーダーである東豪寺麗華(とうごうじれいか)の実家、東豪寺財閥の力を利用し仕事をもぎ取っていった。つまり、金持ちだから成せる力業に過ぎない。当然、周囲からは嫌われる。

 けれども魔王エンジェルには、確かな実力があった。早い話が視聴率も取れた。

 悪い噂は絶えないが、権力と、実力で握り潰していく。その姿は、当に魔王と言う他にないだろう。

 そうして少しずつ、アイドルの世界は替わり初めて行く。

 現在は、765プロが覇権を握っているといっても過言ではない。

 この先はどうなるのか、それは誰にも解りそうになかった。

 

 

 とあるアイドル記者の書記より抜粋

 

 

 

 *

 

 

 

 765プロを辞める――果たしてこの選択は間違っていなかったのか。

 雪乃は、今も悩み続けていた。これまでの全てを捨て去ってしまう必要があるのか……。

 否、そうではない。後悔はあるけれどこうなったのは当然の結果だった。自ら去るのか、地位に置いていかれるか、その2択でしかなかったはずだ。

 今の自分が事務所で座っているのは、前者を選らんだ結果、仮初めの地位を棄てようとしているだけのことだ。

 

 とはいえ、仮初めの地位にいるのは、同じことかもしれない。初めは誰もが右も左も解らなかったからだ。

 

 そんな中で、一席しかないトップアイドルの座を懸けて互いに切磋琢磨し合った結果、家族のような強い絆で結ばれたトップアイドル集団の765プロとして世間からも知られるようになっていった。

 

 ……元から、和気藹々としていたことは気にしてはいけない。

 

  しかしそれは、遠い出来事のように思えてしまった。視覚では近くにいると理解している筈なのに、私と765プロの間にはとてつもない距離が開いているのではないかと、頭のなかでは考えてしまった。

 進もうにも透明な壁が有るように感じでしまい、歩むことが出来ない。どうしてこんな隔たりを感じてしまうのだろう。前までは気軽に話せたのに―――。

 

 

「私は、ずっと努力してきました」

「えぇ。今も貴女は前よりもまして頑張っているわね。それも、やり過ぎなくらいよ」

 

 過剰? それなら律子自身はどうなる、と雪乃は思う。自身を上回る実力を持ったアイドルとして大成し、その人気が留まることを知らない中で引退。

 そして、律子はプロデューサーとなり、彼女のプロデュースするアイドルに雪乃は、実力で追い越されてしまった。そこには計り知れない努力があったに違いない。だからこそ、負けない為に、追い越すためにもそれ以上の力が必要だった。

 

「やり過ぎ? そんなことない。みんなは、それ以上の速さで遠くへ、先へ先へと進んで行ってるのに、私だけのんびりしてられない!」

 

 その結果は、異常なまでの大成功。それだけ考えると幸運なことではあるが、ファンや、メディアの人間が、これから求めるのはあれ以上か、あれと同じくらいの演技を期待する。

 勿論、一度や二度なら問題ないだろう。しかし、何度も続けば、ファンが離れてしまうに違いない。

 

「だから、これからじゃない! 次の目指す姿が見えたなら、それを目指して行けば――」

 

  何かを言わなければ。伝えなければ――

 

 律子は、額に垂れた汗を拭いながら口にする。

 

「二年」

「え?」

 

 雪乃の呟く声は、震えていた。

 

「もう二年近く、100週もAランクに行けてないんだよ! それなのに、今までアイドルを続けられただけでも奇跡じゃないですか!」

 

 嘆くように、雪乃は叫ぶ。

 

「それは………」

 

 律子は、目を見開いた。そして目線を動かす。

 

「でも、ランクが全てじゃない。それは雪乃が一番解っているわよね」

「うん。だけど、実力が全てであることに変わりませんから……」

 

 理不尽さと不正確さもあるが、基本はアイドルの力の目安だ。それを雪乃は理解した。だから、無視できなかった。

 

 律子は、長く黙っていた。

 

「本当に、辞めちゃうのね」

 

 律子の声は震え、目線を下に向けながら口にした。

 

「はい」

「高木社長には、話してたの?」

「数ヶ月前から相談してた」

 

 律子は驚いた。それから、そんな前から悩んでいたのに、気づけなかったことに悔やんだ。

 

「そう……みんなには挨拶しないの?」

「会いません。みんなに会ったら、生き恥晒しながらアイドルやり続けそうだから。でも、そんなのは嫌なんです」

「そっか。今までお疲れ様」

 

 律子は静かに笑った。

 雪乃は立ち上がり、後ろの下がると深々と頭を下げた。

 

「秋月先輩。今まで本当に、本当っにありがとうございました」

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 私は、逃げ出すように外に飛び出した。

 走りづらい和服姿の上に、下駄をカンカンと煩く鳴らしながら、夜の町をひたすら走る。遠くへ逃げたかった。途中、何度も転けそうになるが、それを気にしないで只走り続けた。

 

 長いこと下駄を履いていなかったこともあり、限界は直ぐにきた。まだ765プロのビルは、うっすらと視界に入っていたが、律子の追ってくる気配は無かった。

 彼女なりに気を使ってくれたのだろうと考えた。心のなかで、律子に感謝した。

 

 彼女は、アイドルとしての理想であり、憧れだった。懐かしい言葉に言い替えると、『担当』だ。

 今では、アイドルとしては、先輩で、プロデューサーとては、後輩(多分)の不思議な関係だった。それもこれで終わりだ。

 元々、ランクアップに必要な期限は47週。とはいえこれは、あくまでもゲームでの話。現実は、こうも上手くいかないことは解っている。

 それでも、私にはここまでのスランプと言ってもいい伸び悩みには耐え難かった。

 

 ここは、アイドルマスター。アイドル全盛期の時代に、旗揚げした765プロのプロデューサーとしてプレイヤーが、アイドルを育てるゲームの世界。

 そんな世界に私は、第二の生を受けた。気がつけば、テレビに出るようになり、アイドルとなって多くの人と出会った。気がつけば、765プロに所属していた。

 そして、辞めた。

 Bランクエンドだけど、最終ライブはSランク並だろうと自己評価してみる。うん、我ながら良いプロデュースだったであろう。

 

 人気の無い路地裏で、はだけた衣服を整える。足の皮が剥けていないかと確認をしていると、太陽の光と感じた。

 

 空を見上げる。両手を思いっきり伸ばして暖かな光を全身で感じ取った。

 雲も薄くなり、見渡せるようになった青空は、広大だった。

 飛行機の中や、南国の島で見た空よりも、広く、遠くまで続いているように、思えた。

 

 

 ――だけど、寂しい。

 

 ビルとビルの間から見える、星の見えない空は、心に空いた大きな穴のようにも思えたからだ。自身を縛る枷のようで、自由な表現への翼でもあったアイドルという存在。

 当たり前ではあるが、自身の中で重大な位置を占めていたことにようやく気が付いたのかもしれない。

 

 視界がぼやける。涙腺が決壊してしまった。

 

「……悔しい、悲しいよ。上手くなりたかった!」

 

 声に出すと余計に悲しくなってくる。わたしは、涙を流し続けた。

 

 

 

「……あの、大丈夫ですか?」

 

 どれくらい泣き続けていたのかは解らない。バリトンボイスの男性らしき人にまで心配されてしまった。

 腕で顔全体を拭う。

 

「すいません……わざわざありがとうございました」

「……気にしないで下さい」

 

 優しく言う、相手の方に顔を向けると、顔は私より随分と上にあった。しかも、その顔はぎょっとするほど恐い。スーツ姿なのはせめてもの救いかもしれないが、全く安心できなかった。

 

 ――ヤバイ、もしかしたらアイドルだって解って話しかけたのかも。

 

 真っ赤に腫れている顔から、色素が抜けていく。ある意味お化けだ。こんな姿を悦ぶ変人なのかもしれないのに、体は言うことを聞かなかった。

 

「大丈夫です。私は、怪しい者ではありません!」

 

 必死に訴えるも、逆効果でしかない。それは、怪しい人間の決まり文句だ。

 

「……その、救急車でも呼びましょうか?」

「はい?」

 

 解らない。一体何を観て、病院に連れていかれそうになっているだろうか。

 

「失礼だとは思いますが、誰かに襲われた、のでしょうか?」

「あ、あぁ~! いえいえ、全然っ! 全くそんなことは無いです。大丈夫です。五体満足なので。」

 

 男性は、凄く言い辛そうだった。それも当然だ。同時に、被害者に間違われてしまったと思うと、恥ずかしくなってくる。色素も真っ赤に逆戻りだ。

 しかし、理由は解って安心した。少なくのも、怪しい人物では無さそうだ。ちょっとおかしな人ではあるけれど。

 

「心配してくださり、ありがとうございます。」

「いえ、此方こそ間違えてしまいすいませんでした」

 

 丁寧に、頭も下げて謝罪した。流石サラリーマン、ってとこだろうか。

 

「えっと、どうしてこんな路地裏にいる私に声をかけたんですか?」

「……ふと、目に入ってしまいまして………」

「なるほど。こんな格好ですし、目立ちますからね」

「いえ、それだけでは無いです」

「と、いうと……?」

 

 やはり、悪質――かどうかは解らないが――追っかけか。だけど、ごめんなさい。もう辞めたんです。貴方もどうせ、飽き始めたんでしょう……?

 

 

「あの、間違われてしまったのに、どうかとは思いますが」

 

 そう区切って、ポケットの中に手を突っ込んだ。

 

「アイドルに、興味はありませんか?」

「…………………………はぁ?」

 

 346プロダクション、と目立つように書かれている名刺を、差し出しながら言ってきた。

 その答えは、予想外すぎて絶句した。

 

 ……どうやら、私がアイドルだとは全く気づいてないらしい。

 

 

episode Ⅱ 未知との遭遇??




まさかの連日投稿。早く改訂前の1話に追い付かないとですから……
デレマスしか知らない人には見知らぬ名前も多かったと思います。ですが、安心して下さい。武内Pも出ましたし、暫くはデレマスキャラオンリーです!

ところで、麗華って良いキャラしていると思いませんか?

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