終わり無き孤独な幻想   作:カモシカ

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第六話 彼は、あの日のすれ違いを思い出す。

「……知らない天井だ」

 

 これ一回は言ってみたかったんだよな。

 確か俺は魔理沙と弾幕ごっこをして、バリスタ撃ったけどマスターなんちゃらってスペカで返り討ちにされた。まあド素人の俺がここの住人に勝てるはずが無いから予想通りだ。

 そこまで考えて、俺が寝かされているのは何処なのか確認するため体を起こす。どうやら俺は和室に寝かされているようだ。

 すると様子を見に来てくれたのか、霊夢が襖を開き、何に使うのかも分からない道具を乗せたお盆を持って入ってくる。

 

「あー、金欲しい……あ、八幡起きたのね」

 

 何だろう。今物凄く残念な独り言が聞こえた気がする。……気のせいにしておこう。その方がお互いにとって良い筈だ。

 

「おう。お陰さまで。ところでどのくらい寝てたんだ?」

「ちょうど二日ね。……ところで、大丈夫なの?」

 

 何がだろうか。二日も寝てたのは驚きだが体に異常は無さそうだし。それともあのとき喰らったスペカはそんなにヤバイ奴だったのだろうか。……流石に魔理沙でもそんなものを初心者に撃ったりはしないだろう。しないよね?

 

「ああ。特に異常は無さそうだが」

「ああ、体の方は私が治療したから良いんだけど……その、随分と魘されていたようだから」

「は?魘されていた?」

「ええ。何があったのかは聞かないけど、あんまり溜め込んでると何時か駄目になるわよ」

「…………ああ」

 

 どんな夢を見て魘されていたかは思い出せないが、ここまで心配されるほど酷かったのだろうか。今まで意識的に思い出さないようにしてきたが、修学旅行の一件でのトラウマは案外俺に深い傷を作ったらしい。まああのときの嘘告白は完全に俺の自己責任だからあの二人を責めるのは筋違いもいいとこだが。

 あの時俺は、愚かなことに思ってしまったのだ。こいつらなら、俺が信じて、信頼を返してくれたこいつらなら、話さなくても解ってくれるんじゃないか、と。

 今思えばそんな関係を一年も経たない内に築けるわけが無いのだ。そんな当たり前のことに気づけないほど、あの時の俺は依存していたのだ。あの二人に、奉仕部と言う初めての居場所に。あの時は勢い余って自殺なんかしようとしていたが、今冷静になって考えると何故そんなことをしようとしていたのか分からない。あの時八雲が止めてくれなかったらと思うとぞっとする。

 それでも、何時かはやっぱりすれ違っていたのだろう。俺が求めるものと、彼女らが求めているものはきっと違うから。大体、俺ごときがあいつらみたいな住む世界が違う人間とそんな関係を築こうとしたこと自体が間違っていたのだ。

 だから、これで良い。

 

「悪い、ちょっと一人にしてくれ」

「……ええ」

 

 霊夢は不揃いな形の、あまり美味しそうには見えないおにぎりと、コップ一杯の水を置いて部屋から出ていく。ここで昼飯でも食うつもりだったのだろうか。

 そう言えば、随分と腹が減っている。二日も何も食べなかったのだから当たり前か。ここに置いていったのは食べても良いと言うことか。

 そう判断し、空腹を満たすべく三つあるおにぎりの内、一番大きそうなおにぎりをかじる。

 

「うめぇ」

 

 おにぎりはとても暖かくて、お世辞にも美味しいと言える味ではなかったが、何故かとても美味しく感じた。

 

「っく、っ、うぅ」

 

 ただただ一心不乱におにぎりを貪る。何故だか、涙が止めどなく溢れてきて、俺の視界を滲ませる。

 今更ながら、あの日の事が思い出される。俺が二人に願望を押し付け、勝手に失望し、勝手に裏切ったあの日。全部俺が悪いとは言わないが、少なくとも俺の行動の責任は全て俺にあるのだ。だからあいつらの主張は全くもって正当で、なのに俺は勝手に傷ついている。勝手に傷ついて、裏切られたと錯覚して、危うく命を散らすところだった。

 本当に、自分の馬鹿さ加減に呆れる。そもそもあの二人が否定したのは俺のやり方だけであって、俺自身は否定されていないし。何を勝手に勘違いして傷ついてるんだか。

 

「っ、うっ……はぁ、いつか謝らないとな」

 

 そう考えを纏めると、俺は残りのおにぎりを口に放り込んだ。

 

 

 

 side霊夢

 

 

 

「悪い、ちょっと一人してくれ」

 

 そう私に告げたときの彼は、何かを後悔しているようだった。

 言われた通りに部屋から出てきたが、本当に一人にして大丈夫かしら。こういう時にどうしたら良いか何て私には分からない。一応作ったおにぎりを置いてきたし、食べてくれると良いのだが。

 

 このことを紫や魔理沙に伝えるべきか、はたまた八幡を慰めに行ったほうが良いのか悩んでいる内にすっかり日が暮れていた。どんだけ悩んでんのよ……

 そろそろ八幡の様子を見に行こうと立ち上がったとき、ちょうど八幡が部屋から出てきた。泣いていたのか目は充血し、腐った目と相まって完全に不審者だった。人里に行けば慧音と妹紅辺りが飛んでくるに違いない。

 しかしその顔は、私が部屋を出たときよりもとてもすっきりしたものだった。

 

「そろそろ帰るわ」

「そう」

「だから、まあ、なんだ」

 

 そこまで言って、八幡は手を頭の後ろに回してがしがし掻く。

 

「……おにぎり、ありがとな。すげー美味かった」

 

 ……はっ!

 私としたことが、八幡の不意打ちを食らって放心してしまった。何よあれ、目はすごく腐ってるのに良い笑顔でありがとうとか。

 

「じ、じゃ、じゃあ俺はもう帰るから」

 

 そう言うが早いが、顔を少し赤く染めた八幡は急いで神社から出ていこうとする。

 

「また来なさいよ」

 

 大急ぎで駆けていく八幡の背中に、そう声をかける。

 

「……おう。気が向いたらな」

 

 そう告げると、八幡は神社を飛び出し、夜の空に消えていくのだった。


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