終わり無き孤独な幻想   作:カモシカ

17 / 20
今回ちょっと短めです。遅れたくせに酷いですね。
……や、次は、きっと……ね?

ではどうぞ。


第十七話 動き出した何かとその後のお話

「おーい、八幡!んなとこでぼーっとしてないでお前も飲め!」

 

 異変解決後、帰ってきた春が幻想郷のすべてを暖かに覆い、生命の息吹が如実に感じられるようになった今日この頃。俺の体は能力の使用によってボロボロだったが、胡散臭い賢者とその知り合いによって治された。俺薬飲んだだけなんだけど。何で全快しちゃってんの。怖い。幻想郷怖い。

 

「お前……俺一応病み上がりなんだが」

「あ?お前ゴキブリ並みにしぶとそうだし大丈夫だろ」

「ゴキブリとは何だゴキブリとは。せめてゾンビにしとけ」

「あー、目とか腐ってるしな」

 

 と、当たり前のように開かれた宴会の席で魔理沙と軽口を叩き合う。ゾンビはともかくゴキブリは初めて言われたぞ……

 というか怪我人(元)に酒を飲まそうとするな。いや治ってるから良いのか?

 

「ひっく……ねぇねぇ八幡くーん」

「……げっ」

 

 唐突に話しかけられ振り返ると、そこには酔っぱらった西行寺幽々子が居た。嫌な予感しかしねぇ……

 

「げってなによー。私みたいな年増は嫌いなのー?」

「もうあんた黙れよ」

「へ……は、八幡くんに嫌われたー!!!」

「だーもう嫌いじゃないですから!ちょっとめんどくさいなと思っただけですから!」

「それはそれで酷いわよー!うわーん!」

 

 ……鬱陶しい。平塚先生とは違ってこの人幼児化して絡んでくるとか曲者過ぎるんですけど。そして周りの視線が痛い。特に西行寺さんの後ろの魂魄妖夢からの視線が怖い。というか今にも剣抜きそうなんだけどあの人。半霊も荒ぶってるし。

 

「あー、八幡が泣かせたー」

「うぐっ」

 

 霊夢に視線を送るも普段の食料不足を補うためかバカ食いしているため救援は望めない。紅魔館勢はニヤニヤしてるだけだし、八雲がここに居る筈もない。端的に言って孤立無援だった。控えめに言って絶体絶命である。……後で紅魔館にイワシの頭と折った柊の枝を大量に送ってやろう。

 

 心中でそんなことを考えつつも、こんなどたばたを案外楽しんでいる自分に気づいた。

 

 

 

 ****

 

 

 

『……お、そろそろ行けるか。……だがどうするか。八雲に気づかれたら終わりだからな。んー、結界を越えるほどの力を出したら確実に気づかれるよなぁ。かといって力を押さえると外に行けねぇし……よし、取り合えずそこらの木っ端妖怪と同程度まで妖力は抑えてーっと。うし、これなら結界は越えられないが、八雲に気づかれることもない。力を集めるならこいつの外に出てからでも出来るしなっと』

 

 ――比企谷八幡が宴会を楽しんでいたその頃、既に事態は動き出していた。それに気づくことは八幡自身出来ず、それは博霊の巫女や賢者とて同じであった。だから未然に防げなかった彼らを責めるのは筋違いと言えよう。だがしかし、彼らは、幻想の郷に生きるものは皆、絶望を知ることになる。それが顕在化するのはまだ先の事で。だからこそ、気づいた頃には致命的に手遅れだった。

 

 

 

 

 ****

 

 

 

 女の人に八幡の事を聞かされてから数ヵ月が経つ。未だに向こうからの接触はない。

 もちろん、僕だってその間なにもしなかった訳ではない。奉仕部の皆やクラスの皆。とにかく八幡と関わりの会った人に、直接的にも間接的にも八幡の事について問いを投げ掛け、それでも思い出すそぶりは見せない。――数人を除いて。

 その数人とは小町ちゃん、雪ノ下さん、由比ヶ浜さん、平塚先生だ。とは言っても明確に何かを覚えているわけではなくて、僕が八幡を連想させる話や、八幡自身のことを話すと何かが引っ掛かっているような、そんな態度を取るのだ。平塚先生はまた違う感じがするけど。

 

「幻想郷……か」

 

 現国の授業中、女の人が言っていたその名を何とも無しに呟く。そしてその呟きが聞こえたのか、平塚先生がこちらを振り向く。その顔には、驚愕と納得の表情が張り付いていた。

 

 

 

 

 ****

 

 

 

 

「幻想郷……か」

 

 そう戸塚が呟くのを、私は確かに聞いた。

 幻想郷。それは現世を追われた神秘の者達が暮らすとされる隠れ里。少なくとも母からはそう聞いている。何でも私たち平塚の一族は、無縁塚と呼ばれる場所をその郷の外から守護する一族なのだそうだ。母自身、何代も前から伝わっているだけに無下にも出来ず、かといってそれを信じているかと言われれば微妙なところだ、と言っていたしな。

 だが私は幻想郷の存在を半ば確信していた。何と言うことはない。その幻想郷の者と名乗る存在に出会ったのだ。ただ、それだけ。出会ったと言っても数分話をしただけだ。だがそれでも、その異様さを、異質さを、この身をもって体感した。

 もしや彼の一族もそうなのではないか。戸『塚』の名がそれを表していると言えるのではないか。だがわざわざこの年齢で話をされるものか。私だって成人してからだったし。いや一族によって違うのかもしれないが。……まぁいい。直接聞いてみるとしよう。

 

 

 

 

 ****

 

 

 

 

 放課後、平塚先生に呼び出された。やけに真剣な顔してたけどどうしたんだろう……?

 

 生徒指導室に通され、平塚先生が恐る恐るといった感じで話し始める。

 

「戸塚。今日の授業中、何か……いや、『幻想郷』、と言わなかったか?」

「!……先生、幻想郷を知ってるんですか!?」

 

 思わず立ち上がって叫んでしまう。もしかして、先生なら幻想郷への行き方とか知ってるんじゃ……

 

「あ、あぁ。私の一族は幻想郷に関わっていたらしくてな。君の家もそうなのでは無いかい?」

「え、い、いえ……僕はそんなこと聞いたこと無いですけど……」

「?……なら、何故知っているんだ?」

「あ、いえ……」

 

 話しても良いのかな?八幡のこと。この様子だと思い出した訳じゃ無さそうだけど……

 

「……実は、友達が幻想郷に行ってしまったんです」

「……詳しく聞かせてくれ」

 

 

 ─────────

 ─────

 ──

 ─

 

「……なるほど……済まないが、幻想郷への行き方は分からない。だが君だけが思い出したと言うのなら、やはり君の家系には何か秘密があるのかもしれないな」

「……そう、ですね。帰ったら聞いてみようと思います」

 

 そう言って生徒指導室を後にする。

 

 もし、僕の一族が先生のように幻想郷に関わりがあるのなら、僕はそれに縋るしか無いのかもしれない。それでも必ず、八幡に会いに行かなきゃ。そして八幡に謝るんだ。そうしないと、親友なんて名乗れない。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。