終わり無き孤独な幻想   作:カモシカ

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投稿が遅くなってしまいすみません!
ただいまテスト期間なもので……来週からは出来るだけ週一投稿が出来るようにします。今後ともこの作品をよろしくお願いします。


第十五話 彼は、能力の真価を発揮する。

 俺の能力は諸刃の剣だ。使い方を間違えれば、いや、持っているだけで常に自分を傷つける。そういう意味では諸刃どころの騒ぎではない。寧ろ普通の人間なら生きて生まれることすら不可能だろう。だが何の因果か、俺は良くも悪くも『普通』の人間では無かった。だからこの能力を理解し、使いこなせている。

 何しろこの能力は極論すれば世界中の人間動物妖怪妖精幽霊亡霊神問わず、それどころかありとあらゆる不幸や災いやその他沢山の『悪い』物を無意識に集め、それを己の力へと変換するもの。一見すれば世界中から悪いものが消えて、次いでに俺もパワーアップしてWin-Winだと思うかもしれないがそれは違う。

 世界中のありとあらゆる『負や悪い物』を集める。それはつまり俺の中にどんな悪感情さえも望まぬ内に入り込むということ。そして己に蓄積された『負』は俺の環境さえも悪い方へと持っていく。些細なことからイジメが始まる。すれ違っただけの見知らぬ人間から遠慮無い不快感をぶつけられる。実の親からも不吉な子、と罵られる。

 そんな環境に生まれて、生きて、生きて、生きて、生きて、生きて生きて生きて生きて生きて生きて生きて生きて生てて生きて生きて生きて生きて生きて。やっと掴んだ一筋の希望さえ、結局は自分が壊してしまった。

 

 ああ、だからだろうか。

 目の前のこの少女は、どこか俺に似ている。だから無視できない。助けたいと思ってしまう。

 

 

 

 なんて、初めてあいつに会ったときにも、そんなことを考えたっけか。

 

 

 

 そしてまた、俺は西行妖に斬りかかる。

 

 

 

 

 

 ****

 

 

 

 

「?……あら?変な人間ね。霊力、魔力、妖力。どれも良い質じゃない」

 

 今回の異変の首謀者である目の前の女性。確か西行寺幽々子とか言ったな。ともかく、目の前の俺と似て非なる能力を持つ亡霊が話しかけてくる。

 西行寺の視線は値踏みをするかの様であったが、何が気に入ったのか嬉しそうに微笑む。西行妖が咲いたという異常な状況下でもはしゃぐその姿は年相応の可愛らしいものであり、同時に幼さゆえの残虐さが感じられるものでもある。

 

「そりゃどーも。けどそこ退いてくんねえか。あんたの後ろの桜。ぶっ潰すからよ」

 

 俺がそう答えると、目に見えて不機嫌になる。だが西行寺は未だ分かっていないのだ。あの桜の麓には何が居るのか。ならば分からないままで良い。わざわざ呪われた記憶を取り戻す必要は無い。

 

「ぶーぶー。独り占めはんたーい」

「知らん。退かねえならお前ごとたたっ斬るぞ」

「……へぇー。言ってくれるわねぇ?」

「はいはい」

 

 そう言って、俺はやけに大人しい西行妖を見据える。妖怪と化した桜には意識が有るのか、はたまたこちらの出方を伺っているのか。それは分からないが俺と西行妖の間に緊張した雰囲気が作られる。しかしそんなものを気にしないのが西行寺幽々子という少女。年齢的には向こうの方がずっと上だとは思うが精神的にはとても幼い。

 

「ふーん。そういうこと言っちゃうのねー……――『亡舞:生者必滅の――』っ!?きゃあっ!」

 

 スペルを唱え始めた西行寺を、いきなり動き出した西行妖が幹を伸ばして弾き飛ばす。西行妖と俺の間に入っていたので完全に背中ががら空きだった。警戒も何もしていなかったからか一撃で気を失ってしまう。そしてまた西行妖との間に緊張した雰囲気が流れる。

 そんなある意味好都合ともとれる展開に僅かながら笑ってしまう。これから俺がやることを、そして生前の西行寺幽々子を今の西行寺に見せるわけにはいかない。

 

「けほっ、けほっ……おい、八幡。あれは一体何なんだぜ?」

「つーか来るのが遅いわよ。一体どこで道草食ってたわけ?」

「……すまんな。だが後ろを見てくれれば大体分かると思う」

 

 俺の言葉に霊夢と魔理沙が揃って後ろを振り向くと、そこにはスキマから上半身だけを出してこちらに手を振る八雲が居た。それを見てあからさまに嫌そうな顔をする霊夢と魔理沙。だがまあこれから俺がやることは周りに人が居ては成り立たない。それこそ八雲のように境界でも弄くって自分への影響を無くせない限りは。

 だから八雲にも頼んである。霊夢と魔理沙を回収するように、と。

 

「何しに来たのよ、紫」

「そうだぞ、八幡と二人で何してたんだぜ?」

「ふふふ、秘密よ……と言いたいところだけど、すぐに分かるわよ」

「は?それはどういう――」

「……ごめんなさいね」

 

 そう八雲が言うと、霊夢と魔理沙の足元にスキマが展開される。突然の事に驚き、対応をする間もなく二人はスキマの中へと落ちていく。

 それを見届け、俺は西行妖へと向き直る。

 

「……幽々子と妖夢も回収できたわ。後はお願いね」

「ああ。分かった――『魔槍:ザ・ロンリースピア』『魔刀:欺瞞者』」

 

 本来は飛ばすべき物である弾幕を、それぞれ槍の形と反りの浅い刀の形で作り出す。そこにさっきから無尽蔵に生成される霊力、魔力、妖力を注ぎ込み、ただの弾幕や武器とは違う『ナニカ』へと変貌させる。

 

 始まりは突然だ。武器を構えた状態で睨み合うことに痺れを切らした西行妖が、俺の腰ほどの太さはあるであろう枝をしならせ、俺を叩き潰さんがために殺到させる。

 

「――『独符:独房』」

 

 何度も使ってきた防御用スペルで枝の猛攻を防ぐ。しかしこれまで誰の攻撃も通したことの無いこのスペルでも耐えきれず、何発かくらってしまう。信じがたい激痛が体の中を駆け巡り、しかしそれさえも己の能力で力へと変えてしまう。

 

「――『集負:不詳の負傷』」

 

 いくらダメージを力に変換できても、体の傷を癒すのにはそれ相応の時間が掛かる。これはその傷を一時的にうやむやにして誤魔化すというもの。もちろん一時的に無かったことになるだけで後からツケは回ってくる。だがこの戦いで『癒負:集負者の救済』を使うとダメージ量がヤバイことになるので使えない。

 

 西行妖は俺を仕留めきれなかったと理解すると、またも十は軽く越える数の枝を殺到させ、俺を殺し養分とするために攻撃を続ける。

 

「それはさっき見たっつうの」

 

 ロンリースピアと欺瞞者に少しの『負』を纏わせ、迫り来る枝を今度は此方から切り伏せる。

 西行妖に吸収された死人たちの怨恨の声を聞きながら、その恨みという『負』を吸収し、力へと変換する。フランの狂気に勝るとも劣らないそれを力へと変換しながらも、俺は何も感じることはない。余りにも簡単に命が消えていくこの世界に来てから、あるいは来る前からか、それは分からないが俺にとって人の死というのはそれほどに下らないものらしかった。自分の大切なものが失われそうになれば或いは違う反応も出来るかも知れないが、少なくとも妖怪桜に取り込まれた見ず知らずの人間の死などどうでもいい。

 

「埒が開かねぇな」

 

 しかしそれとこれとは別問題。西行妖が満開になってしまった以上、封印が完全に解けるのも時間の問題だ。そうなってしまえば幻想郷全域から命あるものが消えるだろう。そしてそれを俺は容認できない。何故かは分からないがそれだけはしてはならないと心が叫ぶ。既に戦闘開始から三十分ほど経過した。残り時間はほとんど無い。

 だから俺は、この桜を消す。

 

「――理から外れたこの身は、負を喰らい糧とする

 

 無尽蔵に沸き続ける霊力、魔力、妖力を放出する。

 

如何なる力も負の前に散る。それは儚き夢の如く

 

 人の身では耐えきれる筈もない量の力を放出し、纏まる筈の無い三つの力を一つに練り上げる。

 

定めなど無い。枷は壊れた。鎖は消えた。この身を縛る物は何も無い

 

 練り上げられた『ソレ』は強大なる負。全てを飲み込み喰らい尽くさんとする力を、全身に纏わりつかせる。

 

この身は堕ちた。我が魂は最早人に非ず

 

 負の量はフランと戦ったときとは比べ物になら無い。それを成長と取ることは躊躇われるが。

 

さあ、壊れたように踊れ。狂ったように泣き叫べ。それは我が力となる

 

 瞬間、西行妖からさらなる負の感情が溢れ出る。それは俺の力へと変換され、さらなる負を産み出す。

 

「――『負界:幻負双終』

 

 それは結界。冥界の全てが『負』そのものに覆い尽くされる。その中で佇む俺と、何かを感じて恐怖する西行妖。だがもう遅い。この結界がある間は、世界中から全ての『負』が俺へと収束する。それは即ち、全ての破壊も恐怖も殺戮も悲嘆も何もかもが俺へと向かうということ。この場合の世界中というのは幻想郷全土に過ぎないが、集まる『負』の量は西行妖を消すには充分すぎる。

 

「『集負』――『負撃:絶対絶命』」

 

 両手に持ったロンリースピアと欺瞞者へと途方もない量の『負』を集める。それは使い方を間違えれば災害規模の破壊をもたらすことさえ可能である。それだけの破壊力をこのスペルはもっている。

 

「ぐっ、かはっ!」

 

 それだけの技をノーリスクで使える筈もなく、その力の代償は俺自身。自分をベットすることで高い効果を得る。この能力を使う限りはついてまわる究極の自己犠牲のように見えるナニカ。

 

「……はぁ、はぁ……これで、終わり、だっ!」

 

 外の世界でもしてきた筈の、己を賭けることでリターンを得るその行為。もうしたくないと思った筈のその行動。けれど今、俺は俺自身を代償とし、西行妖を消そうとしている。この矛盾が、何より俺を的確に理解しているように思えた。


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