話の展開に関わる部分を変更したので、これを読む前に少しだけ目を通して頂きたいです。
よろしくお願いします。
第十二話 彼はまた、異変に巻き込まれる。
「最近やけに寒くないか?」
今日も今日とてキノコ採り。魔理沙の魔法の材料に、または食料になるであろうキノコを採るのに付き合わされていると、魔理沙が不意にそんなことを言ってきた。
「そうか?」
確かに厚着をしないと凍えそうだが、そんなものは霊力でどうにでもなる。ほんと霊力とか魔力とかって便利よね。
とはいえ魔理沙の訴えも尤もなもので、紅霧異変が終わってから一ヶ月は経つのにも関わらず未だ雪が時おりちらつくのである。俺や霊夢のように霊力を扱える人間はまだ良いが、人里の普通の人間達にとっては大迷惑だろう。農作物にだって影響は出るし、雪が積もれば家から出ることさえままならない。霊夢達のように取り合えず邪魔なものはブッ飛ばすなんてことが出来る人間は少ないのである。
「ああ。これは間違いなく異変だぜ」
「……お前最近そんなことばっか言ってんじゃん」
「うっ……」
この一ヶ月、魔理沙は紅霧異変で大した活躍ができなかったのが悔しかったのか、少しでも普段と違うことがあれば異変だ異変だと騒ぎ、その度に俺は連れ回されていたのである。
「また妖精狩りみたいなことし始めんなよ」
「……ごめんなさい」
この前は魔理沙の家からキノコが幾つか減ったとかでそれを異変扱いしたりしていた。まあ実際は妖精のイタズラで異変でも何でも無かったんだが。
「でもよー、いくらなんでも春が来るの遅すぎるだろ」
「……まあ言われてみればそんな気はするが」
「だろ?まるで誰かが春を集めてるみたいに」
「いや、そんなこと流石に常識も何も無い幻想郷でも出来ないだろ」
「それがそーでも無いんだなー」
魔理沙は何故か得意気な顔でこちらを見てくる。何だろう。すごいうざい。
「はぁ……どういうことだよ」
魔理沙が早く聞けと目で語っていたので溜め息を吐きながら一応聞いてやる。
そして魔理沙はふっふーんとドヤ顔でキノコを持ったままの右手で俺をびしっと指し、
「犯人は、春を結晶化させてるんだぜ!」
「ナ、ナンダッテー」
ものっそい棒読みだったが俺は特に気にしない。だって魔理沙だし。魔理沙は不満げにジト目で俺を軽く睨んでくるが気にしない。俺は悪くない信用を根こそぎぶち壊した魔理沙が悪い。俺の休日を潰した罪は重いのだ。
「信じてくれよー。ほんとに捕まえたんだってばー」
「……なにをだよ」
「だから、春の結晶を!だぜ!」
「おーすごいな」
「だーかーらー!」
「はいはい。じゃあ霊夢にでも聞いてこいよ。俺は帰って寝る」
そう言って俺は自分の家へ向かう。一歩一歩確実に。堂々と、己の引きこもり精神に誇りを持って。
だが、現実とは常に俺を苦しめたいらしい。
「……おい」
「ん?どうかしたのぜ?」
「……はぁ」
まあ要するに。
俺も連れてかれてます。
****
「おーーーい!れーいむーーー!」
俺は魔理沙に魔法か何かでがっちり捕獲され、博霊神社へと連行された。これって誘拐だと思うの。訴えれば勝てるけどそもそも幻想郷には裁判というものがありませんね。
「……なによ魔理沙。誘拐するにしても趣味悪くない?」
「おいこらてめぇ何てこと言いやがる」
「なによ。私なにもおかしなこと言ってないでしょ?」
「ああはいはい」
ほんとにこいつらは俺に対して失礼すぎだと思う。いやまあ雪ノ下の罵倒に比べれば楽勝だが。だからといって許されるかと言えば勿論そんなことは無く、かといって報復する勇気も無いので結局そのままである。決して罵倒されることに快感を感じたりはしていない。
「それで、二人して何の用?私そんなに暇じゃないんだけど」
「そうか邪魔して悪かったそれじゃあなぐへぇっ!」
「おいおい。何帰ろうとしてんだぜ?」
俺は面倒くさくなってトップスピードで空へと逃れようとするも、魔理沙がとっさに服を掴んできたせいで変な声と共に急停止する。
「おい、殺す気か」
「ははは、別にそんなつもりはねぇよ。悪かったのぜ」
「そう思うなら最初からやらないでくれ……」
「……で、用があるならさっさと終わらしてくんない?」
俺が魔理沙に呆れていると、些か不機嫌になってきた霊夢が俺と魔理沙を軽く睨みながら催促する。魔理沙が俺を掴んできた時点でもう帰ることを半ば諦めた俺は、魔理沙にさっさと話すように促す。早くとしないと俺がストレス発散の弾幕ごっこに付き合わされる危険性が高まる。
「なあ霊夢。春が来るの遅いと思わないか?」
「はぁ?それが用と関係あるの?」
「おう」
「……まあこれまでだったらとっくに桜の一つでも咲いてそうなもんだけど」
それがどうかしたの?と霊夢は首を傾げる。そこだけを切り取ればただの美少女なのだが如何せん普段の粗暴さやがさつさを知っているため特に何も思わない。ホントだよ。普段からもうちょいお淑やかにすれば良いのにとか思ってない。まあお淑やかな霊夢とか鳥肌もんだが。
「ってまさか異変だとか言うつもりじゃないでしょうね?」
「ふっふっふっ、そのまさかだぜ!」
魔理沙は自信満々にドヤ顔をする。そして霊夢はまたかと言わんばかりに溜め息をつくも、異変解決を生業にしているせいなのか異変と聞いたら放っとく訳にもいかないらしく一応話だけは聞くようだ。ツンデ霊夢。
おっと危ない睨まれた。あんまり変なこと考えてると修行という名目でストレス発散のサンドバッグにされるとこだった。
「……それで、今度こそ証拠はあるんでしょうね」
「もちろん!私だって学習するんだぜ!」
そうは言うものの、これまでしてきた筈の学習が活かされている気配は全くしない。まあ良くも悪くも変わらないというのはそれはそれで一つの長所かもしれんが、もう少しその猪突猛進具合を緩めて欲しい。後片付けをする俺や霊夢、そしてミニ八幡の身にもなって欲しい。
「これを見てくれ」
そんなことを考えている俺をよそに、魔理沙は何時の間に確保していたのか何か淡く優しく光る結晶のようなものを霊夢に見せている。
「これは?」
「春の結晶だ」
「春の結晶ねぇ?……それで、これと異変に何の関係があるっていうの?」
「ふっふーん。それっ!」
するといきなり魔理沙は確保していた筈の結晶を放り投げる。その結晶はゆらゆら揺れながら空に昇っていく。最初は風に乗ってひらひら舞っているだけかと思ったが、良く考えるとそよ風程度で、こんな風にぐんぐん昇っていくはずが無い。
「あれを追っていけば異変の犯人のところに行ける筈だぜ!」
「……要するに、誰かが春を結晶化させて集めてるってこと?」
「おう!」
「まあそれは良いけど、解決に行くにしてもまだ何の用意もしてないんだけど」
「……あっ」
良くも悪くも、霧雨魔理沙は馬鹿である。
****
八雲の指令のもと、俺を含めた三人で異変解決に行くことが確定した。もちろん働きたくない俺は全力で抵抗したが努力もむなしく参加が決定した。解せぬ。
「ここ、かしらね」
その後、魔理沙がもう一度捕獲した春の結晶を追い、俺たち三人は異変の首謀者が居るであろう場所までやって来た。八雲曰くここは現世とは違う場所である冥界だそうだ。幻想郷ってのはそんなところにまで行けるのかと呆れていたが、普段は行こうと思って行けるような場所では無いらしい。まあ死者の国にそうほいほい出入りできても困るが。
「……階段なげぇ」
上が全く見えない程に長い階段が俺たちを待ち受けていた。んだよ歓迎する気全くねぇじゃんふざけんなばーろーと思ったがそもそも犯人が歓迎する筈ありませんでしたね。
そしてその階段を完全に無視して飛んでいく。飛べてよかった……
この階段を一段一段登らなきゃいけなかったら俺発狂するところだった。
「はっ!」
そんなことを考えていると、小さな、しかし力強い掛け声と共に何かが俺たちの前に躍り出る。
しかしというかやはりというか一筋縄では行かないようだ。