腰が痛い。
10月22日編集
このオーラを感じる修行ってのは筋トレに似ている気がする。
最初はどちらも成果は直ぐには目に見えて現れないだろう。筋肉も直ぐには大きくはならない。1日にして成らず。簡単ではない。
しかし、何にしても続けていれば何かしらの成果は出る。只の空想ではない、オーラとはこの世界で純然として存在しているのだから必ず感じる事が出来る様になると信じて鍛錬する。
1時間瞑想を行い、1時間筋トレ。
筋トレ、身体を動かす時も自分のオーラが身体を覆っていると信じながら身体をイジメる。何かをしながらイメージする方が自分にとってはやり易いかも知れない。
それにしてもこの身体は良い。思うように動く。現実の身体は言わずもがな、VRの身体も完璧とは行かないものだった。確かに滑らかに動くし、現実離れした動きも出来たが、感覚が付いてきていなかった。普段現実で意識もしていなかった微細な感覚がVRにはなかった。
故にここは現実なのかも知れないと思った。
繊細な動きが肉の中にある。単なる鼓動ではない、熱を持った鼓動がある。肺が酸素を取り込む感じがする。汗の流れが皮膚を刺激する。
ぐううと腹が鳴る。
そういえば何も食べてなかった。所持金は零。手持ちでどうにかするしかない。フォールアウト4の世界では空腹ゲージ・水分ゲージがあり時間経過と共に減る仕様だった。
それを回復するのに食べ物と飲み物も多数存在していて、元々あったアイテム以外にもMODで新たに追加した食べ物・飲み物を追加してあった。
左手に嵌めたピップボーイ(携帯式コンピューター/メニュー画面)からINV インベントリ (所持品一覧) を開く。
簡単に分けると武器・防具・弾薬・食料・薬・ガラクタ・貴重品とカテゴライズされている。それぞれのアイテムには重量が設定されていて、持てる重量を超えて持つと走れなくなり、ファスト・トラベル出来なくなる。
どれを食べるか。無難な所でと考えるが殆ど食すのに躊躇するものしかない。よく考えたら殆ど放射能に汚染されてるじゃないか。ゲームの中では、回復できるから躊躇わないがここでは心理的にも身体的にも遠慮したい。
取り敢えずリブアイ・ステーキとヌカコーラにする。大皿を出してその上にステーキを出現させる。1キロはあるだろう肉が現れる。断面からは肉汁が染み出し、今焼いのかと思うほど熱々だ。
ヌカコーラもキンキンに冷えている。
リブアイ・ステーキは放射能汚染で双頭となった牛バラモンの肉を焼いた物。ヌカコーラはフォールアウト世界では絶大な人気を得て大量生産されたコーラ。大量に在る為、フォールアウト世界ではそのキャップが通貨として使用されている。
ヌカコーラを開けようと思ったが栓抜きがない。確かスプーンで代用出来たはずだ。
ガラクタの中から銀のスプーンを取り出す。ちなみにフォールアウト4とゆうのは半分ガラクタを集めて資源へと変えてクラフトするのがゲームとして半分は占めると自分は思っている。
きゅぽ
スプーンの先端をキャップの下に入れてテコの原理を使うと外れる。イベントリから出すのは選択すれば出たが、回収するのはどうすればいいのだろう。
キャップを注目して念じる。
パッと机の上に置いたヌカコーラのキャップが忽然と消える。はた目には摩訶不思議な光景だろう。感覚的なものなもので言葉にするには難しいが、自分の中に回収された様な感じがする。それとともに何かが減った様な気もする。
この「何かが」もしかしてオーラなのか? なるほど、喪失感の方が感じやすいのかも知れない。
何の手ごたえもない瞑想やイメージトレーニングよりもこれはいい。喪失感でも感じているのだ。これを手探りにしよう。
さて、この火照った体にキンキンのヌカコーラを流し込むぜ。
美味過ぎる! 生き返るぞ。染み渡るぞ。潤うぞ。
スプーンを回収、代わりにナイフとフォ―クを取り出す。ナイフで切ろうと力を入れるが、刃が短すぎてこの肉塊を両断するのは難しい。
何かいいものはないか。ガラクタにはない。武器でいいものはないものか。
「機敏なコンバットナイフ」
道具整理を忘れて来て助かった。コンバットナイフなんて武器は殆ど使ったことはないが、この「機敏なコンバットナイフ」は伝説の武器と言って、簡単に言えば特殊能力付の武器だ。なので回収しておいたんだ。
基本的には「伝説の○○○」となっている敵から略奪する。他にも「機敏な○○○」の武器はあるし、例えば狂戦士のとか血濡れのとか早打ち等がある。
ちなみに「機敏な」の効果は構えている間の移動速度が75%上昇する。ゲーム中では使えない能力だったがな。
それよりも肉だ。
ザクザクとワイルドに切って、口に放り込む。なんとも肉肉しい。
和牛の様に柔らかい訳ではないが肉らしい肉だ。程よい塩加減が良いぞ。そ、そうだ!米を忘れていた!
本来の仕様だと米ことライスはフォールアウトの世界では存在していないのだが、数多のアイテムと共にMODで追加して置いたのだ。
ライスを出現させると、茶碗に入ったライスが現れる。残念ながら箸はない。正直フォ―クで食べるのは食べ難い。
「わん!」
すまない相棒よ。忘れていたぞ。半分切り分けてやるからな。「機敏なコンバットナイフ」で肉塊と化しているステーキをスライスして何枚か、取り出したドッグボウルに乗せてやる。
床に置いてやると尻尾を激しく振りながらこちらをじっと見てくる。
いいぞ!と声を掛ける。
わん! と嬉しそうに一鳴きすると猛然と食べ始める。器用に前足を使って肉を抑えて噛み千切る姿は少し怖かった。
◆アントキバ 夜◆
俺は息を殺し、その時を待っている。
敵がどんな人物かは分からない。被害者が男性だからと言って加害者が女性とも限らない。どちらにしても力で抑えられるだろうと思う。
いつでも武器を取り出せるがまだ正直な所人を殺す覚悟はない。当たり前だが人に危害与える事に慣れていない。このHUNTER×HUNTERの世界でも平和な場所にいれば通用するだろうが、きっとここはそんな常識通用しない。原作に近づこうものなら尚更だ。ヤルときはヤレなけば死。
物音はしない。月だけが部屋を照らしている。感覚が研ぎ澄まされて行くような感覚。どんな些細な変化も見逃さない様にと耳と目に意識を集中させる。イメージするオーラは無。身体は闇と同化していると信じる。
被害者の男は布団に包まって様子は伺えない。きっと寝てはいなだろう。いや、目の下の隈を見るに何日も碌に寝れていない設定なのだろう。
ドッグミートはベットの陰に伏せさせている。何かあれば援護を頼んである。ある程度自立して行動してくれるだろう。援護があると思うだけで少しは安心感がある。
心は至って平坦だ。程よい緊張があるだけだ。普段生きていた現実の自分ならこうはいかないはず。肉体に精神が引っ張られているのかも知れない。現実世界の俺は従軍経験もないし、格闘経験もないがどうやらこの身体は知っているのかもしれない。淀みない待機の姿勢が物語る。いつでも全力で飛び出せるように身体は備えている。まるで意志を持っているかの如く。
ギシギシと音が聞こえる。階段を上がってくる音だ。何かが上がって来る。
入ってきたと同時に取り押さえる。絶対に逃がさないと覚悟を決める。
ガチャリ。ドアノブが回された。
空気が一変する。それと目が合った。合ってしまった。それはまるで少女の様であったけれど、直観が的確な言葉を告げる。
鬼だ。角はない。外見ではない。きっと心は鬼の様に成っている。奴の目がそう俺に告げている。眼は赤く光って、身体は何かどす黒いオーラを纏っていた。
「邪魔者はシンデ?」
鉈だと認識する前に視界がぶれる。先ほどまで居た場所を、武骨な鉈が空を切っていた。
「シンデシンデシンデ。愛し合っているの。オマエハイラナイイラナイ」
心拍が急上昇、血圧が上昇して血流が上がる。身体のギアが一段上がって戦闘態勢に入るのが分かる。斬撃を見てから避けるのは厳しい。
避けるには身体の反応を信じるしかない。前方に全感覚が広がっていくような幻視。それは円状ではなく、蟻編に出て来る護衛軍のピトーの様な円に似ていた。
凡そ普通に生きて来て聞くことはないほどの金属音と共に空で火花が散る。
自身の右手には「機敏なコンバットナイフ」
鉈とナイフが何度もぶつかる、削り合う。その小さい身体で振り回されもせず大きい鉈を振り回す様はさながら妖怪の様で恐ろしい。
鉈に込められた力は侮りがたい。体格差など無いかのような圧力を受ける。
攻めきれない。防御は出来る。相手も反対に攻めあぐねている。その証拠に
「ジャマジャマジャマジャマイカジャマジャマジャマ。ジャマナンダヨー!」
益々、鉈の攻撃が加速する。狂気を孕んだその眼差しは何ともし難いものだ。恐ろしくはない、ただただ気落ち悪い。そのねっとりした何かが気持ち悪い。どこまでも不快だ。
弾く、避ける、いなす。
敵の攻撃は単なる力押し。その華奢な身体に似あわない力だが言ってみればそれだけだ。きっと現実の俺の動体視力と反射神経では今頃なます切りがいい所だったろうが、この身体は違う。現実の俺がママチャリならこの身体はハーレーダビットソンだ。
上段からの一撃を弾き飛ばし、相手の体勢を無理やり崩しに掛かる。
一瞬の隙を逃さず、己の巨体を収縮させるかのように腰を落とし、肉弾と化した自分を少女の形をしたそれにぶち当てる。
「うおおおおおおおおおお!」
当たると同時に肩が熱湯を掛けられた様に熱くなる。しかし、そのまま壁に衝突。壁にはひびが入り、被害者の怯える声が聞こえた。
まだだ。これでは足りない。敵の意思を砕いていない。止まるな。砕け!
よろめくそれを片手で掴み上げ、力の限り掴んで床に叩きつける。砕ける床、飛び散る鮮血。しかし、まだ目は死んではいない。右手がピクリと動く。
「ドッグミートおおお!」
いつでも飛び掛かれるように待機していた相棒は声を聴くと一速でそれの右腕にその牙を突き立てる。それでも残った手が俺を襲おうと伸びてくる。
それと交差するようにその固く握られた拳がその怨念に彩られた顔を粉砕する。