イレギュラーは家族と共に 〜ハイスクールD×D'sバタフライエフェクト~ 作:シャルルヤ·ハプティズム
ギャスパー「······大丈夫だよヴァレリー······今度こそ僕が守るから······一緒に日本に帰ろう」
ギャー君は俗に言うお姫様抱っこで女王ヴァレリーを抱えており、優しく女王を床に降ろすと、首に触れた。すると、女王の体からは力が抜けたかのように崩れ落ちた。
ギャスパー「······だから、もう少し待っててね」
ギャー君は亜空間からルーマニアに来た時に着ていた黒いコートを女王に掛けると、姉様に女王を任せた。
ギャスパー「······黒歌さん、ヴァレリーをお願い」
黒歌「······任されたにゃ」
姉様はしゃがんで、女王の肩を抱いて女王に体を支えた。
黒歌「······ギャスパー。やっちゃって」
ギャスパー「······うん」
ギャー君はそのまま前にゆらゆらと歩いていく。
ギャスパー「······お前ら。何か言うことはあるか」
ぞわっ。
ギャー君が言葉を発した瞬間、凍てつくような何かが背筋を突き抜けた。
「よくも儀式の邪魔をしてくれたな!」
「何故我らの本懐の邪魔をする!?」
宰相マリウスの近くにいた吸血鬼が声を上げた。
······本懐?
ギャスパー「·······本懐だと?」
ギャー君が、人を動けなくするほどの凍えるような雰囲気を放ちながら言う。吸血鬼達はそれに気付いていないのか、更に続けた。
「······我らヴァンパイアは弱点の多い種族だった」
「日の光、流水、十字架に聖水······人間などよりも優れている筈の我らは多数の弱点のせいで人間の繁栄を許してしまった」
「我らは聖杯を用いて吸血鬼を超越した存在に作り替える!」
「そして、人間どもの繁栄するこの世界を再び支配せねばならない!! 上位種たる吸血鬼に支配されてこそ、人間どもは······家畜としての本懐を遂げられるであろう!!」
人間が······家畜!? 吸血鬼は悪魔以上に貴族第一主義なのだろう······夏休みの若手悪魔の会合で、悪魔の上役達が貴族主義であることを垣間見た私ですら驚くほどだ。
吸血鬼の一人が嘆くように息を吐く。
「放逐された輩が無駄に増えるとはいえ、長かったですな」
「全くですな。しかし、これで世界は真の姿を取り戻すでしょう」
「後は現王と憎きカーミラですな。折角齎された聖杯を使わないなどという愚鈍な考えを示した。彼らさえ始末すれば計画の最終段階だと言うのに」
私達は絶句する他なかった。彼らの価値観は危険すぎる······!! 聖杯を使って世界を支配しようだなんて······!!
「だから我らの聖杯を───」
ギャスパー「クッ、ククッ·······ハハッ!! アハハハハハハッ!!」
吸血鬼の男性が話すのを遮って、ギャー君の笑い声が広大な空間に響いた。
ギャスパー「ハハハッ!! アハハハハハッ!!」
ギャー君は左手で顔を押さえながら笑い続ける。
マリウス「······ギャスパー・ヴラディ。何かおかしいことでも?」
マリウスが突然豹変したギャー君の様子を訝しんで尋ねた。
ギャスパー「ハハハハッ······いやなに、お前らみたいな三流未満の戯言に振り回されてた自分が滑稽に感じただけだ」
──ギャー君······?
ギャー君は続けた。この程度の連中に昔の自分は怯えながら過ごしていたのか、と。
「······何だと貴様!! ハーフ如きが我々の聖杯を奪っておいてその言い草か!!」
吸血鬼の一人が叫ぶ。すると、嘲笑を浮かべていたギャー君の顔から一切の感情が消えた。
ギャスパー「
ギャー君は更に続けた。抜き出している段階でただの搾取だ、と。
マリウス「······ですが、ヴァレリーは言いましたよ? 私達に協力すると」
マリウスは平然とした顔で答えた。
ギャスパー「協力? 聖杯を抜き出したらヴァレリーは死ぬぞ? それも協力と言うのか?」
私はギャー君から黒いオーラが漏れ出していることに気付いた。
マリウス「ええ。例えヴァレリーが死んだとしても、ヴァレリーの
マリウスがそう言うと、周りからはそうだ、そうに決まってるとばかりに賛同の声が上がった。
家畜、支配、上位種······吸血鬼の彼らはとことんまで人間を見下していた。
そこで、ずっと黙っていた隣にいた姉様が溜息をついた。
黒歌「······あ~あ。あいつらも馬鹿にゃ。適当に媚売っとけば楽に死ねたのに」
私は姉様の漏らした一言に目を見開いた。
小猫「······!? 姉様、それはどういう────」
楽に死ねたのに······!!?
それはどういうことですか。そう姉様に訊こうとした時、ギャー君の発した声が、決して大きくなかったその声が、私には恐怖や絶望と言ったものを、凝縮したものに感じられた。
ギャスパー「······お前達、僕が昔何て呼ばれていたか知っているか?」
こちらが凍えるような声で言葉を発するギャー君の問いかけに、吸血鬼は問い返す。
·······私は、ギャー君がギャー君ではない何かに感じた。
「な、何の話だ······?」
吸血鬼の様子に、ギャー君は笑みを浮かべた。
ギャスパー「答えは─────『バケモノ』だよ」
ギャー君はそう言いながら、靴で床をトン、と鳴らした。
その瞬間、世界は闇に包まれた。
小猫sideout
クルルside
ツェペシュ城城外に飛び出した私は、追い掛けてくる
四鎌童子「······死ね······!!」
奴は手にする聖剣のオーラと巨大な光の矢を飛ばして攻撃してくる。
それを私は、義兄さんが宿る刀──『
四鎌童子「······貴様さえ······貴様さえ生まれて来なければ!!!」
奴は今までのものよりも遥かに巨大な光の矢を作り出し、こちらに投擲してきた。
クルル「······何の話だ」
それを『阿朱羅丸』を揮い、粉々に切り裂く。そしてお返しとばかりに、奴が飛ばしてきたものよりも更に巨大な光の矢を投擲し返す。
奴は、私が飛ばした光の矢を聖剣で破壊しようとする。が、聖剣は光の矢に耐えられずに砕け散り、奴は光の剣を作り出して私の光の矢を受け流した。
クルル「······一つ聞く。700年前、何故『
私が尋ねると、奴は表情を更に歪ませて叫んだ。
四鎌童子「何だと······? 自分のことを棚に上げて、まだしらけるのか!?」
クルル「······は?」
別に私は自分を棚に上げてるわけでも、
······この女の妄想か?
奴は堰を切ったように叫ぶ。
それは、聖書勢力の根幹に関わるものだった。
そして、私が何も知らない頃の話だった。
四鎌童子「······お前のせいで、
────お前に分かるか!? 死ぬことも出来ず、
······私は、私達は、ただ平和に暮らしていただけなのに!!」
クルル「······ッ!!!?」
奴は何を言っているの······!?
父も母も死んだ······!? 奴は
一族······!?
私の父親が四鎌童子の弟······!?
四鎌童子「······お前さえ生まれなければ誰も死ななかったのに······!!」
奴から明かされたことに私は動けなくなった。
クルルsideout