イレギュラーは家族と共に 〜ハイスクールD×D'sバタフライエフェクト~ 作:シャルルヤ·ハプティズム
八幡side
ルーマニアに来て一夜明け、俺とクルルはツェペシュの城にいた。そして今は─────
八幡「······貴女がヴァレリーか。ギャスパーが世話になったと聞いている」
クルル「······ここに来るまで、ギャスパーから話は聞いていたわ。自分に初めて家族の温かみを与えてくれたと。今の自分があるのはヴァレリーのお陰だと言っていたわ」
俺とクルルはヴァレリー・ツェペシュに謁見していた。玉座に座るヴァレリーの隣には、薄っぺらい笑みを顔に張り付けた男が立っている。あれがギャスパーと黒歌が言っていたマリウス・ツェペシュか。
ヴァレリー「はい。話には聞いていますわ。ギャスパーの新しい両親の方々だとか」
クルル「ええ······出会いはあまりいいものとは言い難いけども、私達はギャスパーのことを愛しているわ」
ヴァレリーは優しい笑みを浮かべているが目は光を失っており、俺達を捉えているかは怪しい。
ヴァレリー「良かった······昨日ギャスパーには会いましたが、ギャスパーが今どうしているか訊きそびれてしまって。良ければ話していただけませんか?」
確かに、昨日は面会時間に限界がきてあまり話せなかったとギャスパーから聞いた。俺達に与えられた面会時間もそこまで長いものでもないが、息子自慢なら一週間ぶっ通しでやる自信はある。
ギャスパーのことが聞きたいなら時間ギリギリまで語ってやるとするか。
八幡「俺達で良ければ」
クルル「喜んで」
八幡sideout
ギャスパーside
ルーマニアに来て一夜明けた朝。
僕と黒歌さんはツェペシュ側から与えられた部屋で、ルーマニアに潜伏しているお兄様達と連絡を取っていた。もちろん、外からは干渉出来ないように結界を張ってだ。
ヴァーリ『······こちらからの報告は以上だ。ギャスパー達はどうだ?』
報告を終えたお兄様が、こっちに訊いてくる。
昨日ゴミ屑に遭遇した······と言ってもいいものだろうか······
ギャスパー「············『アイツ』はやはりいました。この国に」
迷ったが、結局伝えることにした。お兄様は血眼で探していたのはよく知っている。本音では隠したくはない。それにお兄様はいずれ知ることになるかもしれない。ならば今伝えた方が得策かもしれない。
ヴァーリ『··········そうか』
お兄様はそう一言だけ言った。
尚、お父様とお母様にはクロウさんが報告を済ましたらしい。
黒歌「······ねえヴァーリ」
そこで、黒歌さんはお兄様のふいと問い掛けた。
ヴァーリ『どうかしたか?』
黒歌「ヴァーリはさ······復讐を終えたとしたらどうするの?」
ギャスパー「······黒歌さん?」
ヴァーリ『······どうもしないさ。アイツを殺せば、姉さんとカルナが少しは安心出来るからな。特に姉さんは今でも入院生活だ。俺はこれ以上姉さんに辛い思いをさせたくないだけさ。この力はそのためのものだ』
お兄様は顔の前で拳を握る。
黒歌「············そ」
ギャスパー「黒歌さんどうしたの?」
ヴァーリ『······? 突然どうした?』
僕とお兄様が黒歌さんに尋ねる。
『復讐』か······もしかして黒歌さんは今でもあの時のことを······
黒歌「別にぃ? もしあの時ジェロマ・リバートリンをしっかり殺せてたら、今どうしてたかなってだけにゃ。少なくとも······白音を彼処まで追い詰めずに済んだかもしれないし」
黒歌さんが皮肉げに笑いながら言う。僕もお兄様も事情を知っているだけに口を噤んでしまう。
ギャスパー「······でも、黒歌さんはあの時最善の行動を取っていた。確かに白音を追い詰めていたかもしれないけど、黒歌さんがいたから白音はグレモリーに保護してもらえたんだよ?」
黒歌さんは元々力のある悪魔の誰かに小猫ちゃん───白音を保護してもらうつもりだったらしい。それが偶々、魔王サーゼクス・ルシファーだった。
途中ではぐれてしまったけど白音が保護してもらえたのは黒歌さんが白音の手を引いていたからだ。実際に保護した魔王サーゼクス・ルシファーのお陰というのももちろんあるが。
ギャスパー「それでも黒歌さんが不安なら、黒歌さんと白音は今度は僕が守るよ」
そう言って黒歌さんに微笑みかける。あ、黒歌さんの顔が真っ赤になってる。可愛い。
·······二度と黒歌さんに寂しさを思い出させない。生涯添い遂げると誓ってくれた人に寂しい想いをさせてたまるか。
ヴァーリ『······ふむ。俺はどうやら邪魔者らしい。では伝えることは伝えたから失礼する。また後でな』
ギャスパー「はい。また後で」
お兄様が通信を切る。魔法陣から出ていたホログラムがゆっくり消えた。
お兄様との連絡を終えた僕と黒歌さんは、ツェペシュの城の地下に向かっていた。城の中は静寂に包まれており、偶にメイドや巡回中の衛兵とすれ違うくらいだ。
僕達は、城の地下にいるというヴラディ家現当主······すなわち、
だが、城の地下に幽閉されているのなら、何かしら情報をもっているかもしれないと踏んだからだ。テロの予兆なども、情勢の細かい変化から読み取れた可能性だってないとは言えない。
石造りの城を進んでいき、地下への階段を下りてゆく。暫く下りると広い空間に出る。扉が幾つかあり、その中の一つにメイドが側に立っていたので、面会に来た旨を伝えた。
メイドは扉をノックした後「お客様がお見えです」と中の者に報告した。施錠した扉を開き、中に入るよう僕達2人に促した。それに従って入室する。
中は、質素な造りだった外に比べて、正反対なくらいに豪華だった。
中に配置されている家具も高級品ばかりだ。天井にはシャンデリアが釣られている。
······腐っても貴族か。
室内でソファに座っていた男が立ち上がった。
ギャスパー「······どうも。お久しぶりですね。何年ぶりでしたっけ?」
「お前は··········そうだな。まあお座り下さい」
ヴラディ家現当主、トリスト・ツェペシュ。僕の血縁上の父親であり、僕の血縁上の母親を慰み者にした。血縁上の母親は既に死亡している。
黒歌「······どうも。二度と会うことはないけど一応言っとくにゃ。『堕天魔』の『
トリスト「······それで、ここへは何をしに来たのでしょうか?」
先程言ったように、情報収集の過程で色々分かってきているため、その補完のために来ている。
ギャスパー「······情報収集です。この国がクーデターで政権が変わっていることくらい知っていて然るべきですよね」
僕が言うと何やら瞑目し、その数秒後にトリスト・ツェペシュは両目を開いた。
トリスト「──────と、私が知る限りではこんなところです」
トリスト・ツェペシュ曰く、今から2週間ほど前。ツェペシュ側は、武装した吸血鬼達およそ200人に襲撃を襲撃を受けたらしい。
彼等は警備の交代時間を見計らい、待機していた兵と警備を終えた兵が一度に集まったタイミングで城内に強い睡眠ガスを流すことで無力化。一気に制圧し、捕縛した。逃げ延びた者は追わなかったらしいが。
そして、彼等はツェペシュのトップだった者を強引に退陣させると、新たな王としてツェペシュのトップにヴァレリーを据えた。
尚、トリスト・ツェペシュが捕まって幽閉された理由てしては、おそらくやってくるだろう『堕天魔』やその一派達に備えるため、『堕天魔』に度々接触されていたかららしい。
トリスト「────しかし、何故お前が来た? お前はヴラディ家を嫌っていただろう」
トリスト・ツェペシュは突如口調を変え僕に言った。黒歌さんが臨戦態勢に入ろうとするのを首を横に振って止める。
こんなのに一々黒歌さんが出る必要はないだろう。
ギャスパー「······何故って何の話ですか?」
だから言う。僕はもうヴラディではない。封印された時に、寂しさに潰れないようお父様やお母様を思い出さないために思わずヴラディ姓を名乗ってしまったが、僕はルシフェルだ。
ギャスパー・ルシフェル。それこそが僕の名前であり、大切な人達との家族の証。
ギャスパー「······僕はギャスパー・ルシフェルです。そして、僕の父親は比企谷八幡で母親はクルル・ツェペシです。ヴラディに対しては正直なところもう何とも思ってません。ルーマニアだって、来るのは此れっ切りにしたいですから」
僕は今でも偶に昔の夢を見る。虐げられていたあの頃の夢だ。僕の深層心理には、あの頃のことがきっと深く深く根付いている。
だがそれだけだ。僕としては、一々昔のことを夢に見て怯えるより、今の生活の方が大事だ。
ルーマニアに来たのだって、それをヴァレリーに味わって欲しいことと、聖杯に縛られているヴァレリーを今度こそ助けるためだ。僕にとって重要なのはヴァレリーであり、ヴラディなんてもうどうでもいい。強いて言うなら、産んでくれてありがとうと言ったところか。それも、捨てられてからは一切思わなくなったが。
ギャスパー「······今まで知らなかった情報も少しは入ってましたね。情報提供感謝します。ありがとうございました。行こう、黒歌さん」
黒歌さん「そうね」
僕達は、トリスト・ツェペシュの幽閉されている部屋を後にした。そこで、僕と黒歌さんはメイドに呼び止められた。
「ギャスパー・ルシフェル様、黒歌様、ヴァレリー陛下がお呼びでございます」