イレギュラーは家族と共に 〜ハイスクールD×D'sバタフライエフェクト~   作:シャルルヤ·ハプティズム

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今回は久しぶりにアザゼル視点で書いて見ました。おそらく、暫くイッセー視点で書くことはないです。原作のグレモリー眷属ファンとイリナファンの方々ごめんなさい。これからどんどん空気になって行きます。




第84話 想いとオモイ、愛とサツイ、イカリと悲しみ

 

 

 

 

 

アザゼルside

 

 

 

ギャスパー「ヴァレリー······」

 

クーデターを起こした一部の吸血鬼によって新たなツェペシュの王となったヴァレリー・ツェペシュに抱き着かれた直後、ギャスパーは硬直して動かなくなった。

 

······見たところ、ヴァレリー・ツェペシュが『幽世(セフィロト)の聖杯(・グラール)』にかなり精神を汚染されていることまでは察しが着いたのだが、ギャスパーはいったい何があったんだ?

 

ギャスパー「······ごめんね······」

 

ヴァレリー「? ギャスパー、どうかしたのかしら?」

 

ギャスパーがボソッと呟いたことの意味を理解出来なかったのか、女王ヴァレリーはギャスパーに聞き返した。

 

ギャスパー「······ううん、何でもないよ」

 

ギャスパーは女王に笑顔で返していたが、普段の笑顔に比べると僅かにぎこちなく感じる。

 

だが、ギャスパーの言葉の意を俺やリアス達も理解出来ていないため、何故ギャスパーが謝ったのかは分からない。白音の姉であり、八幡の眷属の一人でもある黒歌だけは理解出来ていたようだが······

 

俺は女王の側にいた若い男に問いてみることにした。

 

アザゼル「······よくもまぁここまで仕込んだもんだな。それを堂々と俺達に見せるとは趣味が悪い。この娘を使って何をする気だ? 今回の件、お前さんが首謀者で間違いないんだろう?」

 

男は吸血鬼特有の、人形のように端正な顔立ちを醜く歪ませた。今ので分かったが、こいつは危険だ。まるで、悪意というものが服着て歩いているとでもいうかのような存在だ。

 

「首謀者、と言えばそうなのでしょう。おっと、ご挨拶がまだでしたね。私はツェペシュ王家、王位継承第5位のマリウス・ツェペシュと申します。暫定政権の宰相兼、神器(セイクリッド・ギア)研究機関最高顧問を任されております。まぁ本職は後者ですが······叔父上方に頼まれまして。そちらともよい関係を築きたいものです」

 

ツェペシュだと······!? この男、王族だったのか!? だが、それならハーフである女王よりこのマリウスという男が政権を継いだ方が自然な流れてある筈だが······この国、いったい何が起きている?

 

マリウス「あ、私実は系譜的にはヴァレリーの異母兄でして。ツェペシュの将来を憂いた可愛い妹が、王としてどう吸血鬼の世界を変えていくのか見守りたいのです」

 

何だと···!? ツェペシュと名乗ったから王族であるとは思ったが、女王の兄だと!?

 

 

しかも、奴の発言は見え透いた嘘で塗り固められていた。女王の異母兄であることは事実なのかもしれないが、女王に関する発言は全て嘘だ。口から出て来たものが全て悪意に感じたほどだ。

 

ギャスパーはマリウスを強く睨んでいた。おそらく、マリウスの悪意を一番感じていたのはギャスパーなのだろう。女王には見えないように握り締めていた拳からは、血が滴っていた。

 

 

そこでマリウスが手を鳴らした。

 

マリウス「今日はここまでにしましょう。皆様もしばしご滞在下さい。そうそう、ヴラディ家の現当主の方もこの城の地下室にて滞在しております。一度お会いになってみてもよろしいかと」

 

ヴラディ······そう言えば、ギャスパーはヴラディ姓を名乗っていた。ルシフェルを名乗らなかったのは八幡の指示か?

 

マリウスの一言で謁見は終わりを迎え、俺達は退室を余儀なくすることとなった。

 

 

 

 

 

 

 

王の間の扉が完全にしまり、ガチャンという音を耳にした俺達の耳に、破砕音が届いた。

 

ギャスパー「はぁ······はぁ······」

 

黒歌「ちょっとギャスパー!?」

 

俺達がその音に慌てて振り返ると、ギャスパーの拳が壁を破砕していた。

 

ギャスパー「······あぁ、ごめん黒歌さん······少し感情が抑えられなくなってきた」

 

黒歌「いいにゃ。私も気持ちは同じだし」

 

俺達は声を掛けようとしたが、ギャスパーのもつ雰囲気に気圧されて声を出すことが出来なかった。黒歌も苦々しい表情を浮かべながらも、ギャスパーを宥めていた。

 

堕天使総督の俺が、雰囲気だけで声すら上げることが出来ないとは······

 

 

 

その時、廊下の向こうから何者かが歩いてくるのに気が付いた。数は2。2人ともローブを羽織り、フードを深く被っているので顔までは分からないが、片方は体のラインから女であることが分かった。もう片方は男だろう。

 

そして、オーラから吸血鬼ではないことも分かった。

 

 

 

俺達がその者達を疑問に思っている中、ギャスパーと黒歌だけは違った。

 

ギャスパー「お前は······!!」

 

黒歌「······会うのは初めてとは言え······こうして会うと殺したくなるわね······!!」

 

2人は一瞬で臨戦態勢に入る。ギャスパーは亜空間から魔剣と思しき物を取り出し、黒歌は両手の爪を尖らせて重心を下げた。

 

「およよ? こいつは珍しいこともあったな♪」

 

男だと思われる者は軽い口調でギャスパーと黒歌に声を掛けた。

 

その声に俺は目を見開いた。こいつはまさか······!!!

 

ギャスパー以外のグレモリー眷属は誰だか分かっていないようだ。それもその筈、こいつは姿を晦まして久しい。何故今頃になって······!!

 

「へぇ~。君達が、うちの孫娘と孫息子の義弟君とそのお嫁ちゃんの黒猫ちゃんか♪」

 

俺が驚愕と怒りに震えている中、この男はギャスパーに更に話し掛けた。それに対し、ギャスパーも返答した。

 

ギャスパー「······黙れゴミ屑。お前如きがお姉様とお兄様のことを語るな」

 

ギャスパーの怒りが、純粋なまでの殺気に変わる。それは俺を遥かに圧倒するものだった。黒歌の放つ殺気も、俺と同等クラスのものであるといえる代物だった。

 

「うっひょー、いい殺気♪ 八幡君は中々にいい鍛え方してるじゃん」

 

奴はこの殺気を無かったかのように続けた。

 

ギャスパー「お前がお父様の名を口にするな······!!」

 

「んほほっ! また殺気が一段階上がった♪ それに、こっちにいるのはアザゼルのおっちゃんじゃん♪ 元気にしてた?」

 

マリウス以上に悪意の篭った言葉を口から吐きやがる。

 

アザゼル「てめぇ······今更何のつもりだ!?」

 

溜まっているものを吐き出すように言う。こいつはヴァーリを虐げてきた男だ······!! 許せる筈がねぇ···!!

 

「いや~、ちょっと前までソファに寝そべってワイン煽るような半分死人ライフを満喫してたけどさ♪ 色々面白いこと聞いたからには、俺が割り込む以外にないじゃん?」

 

ギャスパー「面白いことだと······!? 散々お姉様とお兄様を虐げておいて言うことがそれか!!」

 

ギャスパーが親の仇を見るかのような目で睨みながら言う。

 

ん? お姉様? 八幡とクルルには、俺が知らない娘がいるのか?

 

「うひゃひゃひゃひゃひゃひゃっ、そう睨むなって♪ 俺はビビりなバカ息子に、『怖いんなら虐めとけよ』ってちょ〜う的確なアドバイスしてやっただけなんだぜ? ま、魔王の血族から、白龍皇と、体に神でも侵すような猛毒宿した奴が生まれたら、あの豆腐メンタルが耐えられるわきゃないけどさ」

 

軽く言うこいつは······!! 正真正銘本物の外道だ······!!

 

「結局、孫2人は八幡君に攫われちゃったしー? あのバカは見てていらついちゃったから殺しちゃったし☆」

 

こいつは巫山戯た口調で続ける。ギャスパーがゴミ屑だと言えるのも頷ける。ここまでの外道はゴミ屑と呼んでも何の問題もないと、俺ですら思ってしまう。

 

グレモリー眷属は、さっきのギャスパーと黒歌の殺気で腰が抜けていて

まともに話を聞けてすらいないようだが。

 

ギャスパー「······今すぐにでも殺したいな······!!」

 

黒歌「······同感にゃ。まさしく害悪そのものでしかない」

 

2人の殺気が更に強まる。見れば、殺気によってアーシアは既に意識を刈り取られていた。

 

「うひゃひゃひゃひゃっ♪ まぁちょっと待てばとんっでもないサプライズが待ってるからさ〜♪ もうちょっと我慢してみるのもいいかもよ? あ、今、俺とこの『シーちゃん』は偽名使って国賓として来てるから手は出さない方がいいかもよ~?」

 

やっぱりか!! ここにいる以上、簡単に予想は付いたが······しかし、このシーちゃんと呼ばれた女。気配が悪魔ではなく、堕天使のものだが······いったい誰だ? 妙に懐かしい気配だが思い出せん······『神の子を(グリ)見張る者(ゴリ)』にはこんな気配はいなかったから、はぐれの可能性が高いな······そうなると、俺が知らない奴の可能性もあるが······

 

黒歌「······!!」

 

「んじゃ、俺はマリウス君にお話があるので通らせてもらうよ〜? ここでは平和的に過ごしましょ~う。ヴァンパイア君達のお家なのですから〜。ケンカはんた〜い」

 

そのまま歩み出した奴等に、声も掛けられなかったが、ギャスパーと黒歌が告げた。

 

ギャスパー「······一つ言っておく。お兄様はいつでもお前の首を刎ねることが出来る。精々、残り少ない余生を謳歌していろ」

 

「おっ、マジで? 超楽しみなんですけど♪」

 

ここまでされて尚この調子を崩さないとは······

 

黒歌「それと、済まし顔のアンタにも言っといてやるにゃ。アンタが何しようがクルルには絶対に勝てない」

 

「······!! 何だと······!?」

 

アザゼル「······!!!!?」

 

奴の後ろに控えていた女が初めて口を開いた。そこまで大きな声ではなかったが、俺はその声に驚愕する他なかった。

 

「獣の娘風情が······!!」

 

「おいおいシーちゃん。ここでやり合うのはナシっつったぜ?」

 

「······クッ」

 

奴の制止を受け、女はそのまま奴の後を付いて立ち去ろうとしていく。俺は、立ち去ろうとしている女に声を掛けてしまった。

 

アザゼル「おい、待ってくれ······!!」

 

「······アザゼル」

 

彼女は俺の名を口にした。

 

口の中がカラカラに渇く。嫌な汗が噴き出してくるのが分かった。

 

ギャスパー・黒歌「「······?」」

 

アザゼル「お前なのか······? 何故こんなことを······」

 

俺には、何故奴に加担しているのか分からなかった。もしかして、彼女は奴に脅されているのか······? そう思った俺は聞く必要を感じていた。

 

「······もう貴方の隣に戻ることはない」

 

アザゼル「あ······」

 

だが、彼女はそれだけ言って奴の後について行ってしまった。

 

 

 

 

 

暫くその場に立ち止まっていた俺達だったが、あそこまでの殺気を出していながら奴を見送ったギャスパーと黒歌が口を開いた。

 

ギャスパー「······僕達は少し外の風を浴びて来ます。頭を冷やしたいので」

 

黒歌「私も。今の調子だと誰かを殺したくなるにゃ」

 

アザゼル「······待ってくれ!! あいつについて何か知っているのか!?」

 

先程の口ぶりから、何かしら知っていることは分かった。尤も、八幡が生前のルシフェルか、ミカエルに聞いたことを、そのまま聞いた程度がいいところではあると思うが······

 

俺は聞くべきだと感じていた。生きていたなら。ルシフェルに殺された筈の彼女が生きていたなら、俺には聞かなければならなかったから。

 

 

 

──────彼女が(・・・)ルシフェルに(・・・・・・)殺されたこと(・・・・・・)を、知っている俺には·······

 

 

 

ギャスパー「······すいませんが、アザゼル先生でも無理です。これはお母様に関わることなので」

 

黒歌「そういうこと。何があったかは知らないけど、総督には悪いけどアイツも生かしておくつもりはないにゃ」

 

アザゼル「······そうか。いや、今のことは忘れてくれ······」

 

外に風を浴びに行くといって、奴とは反対の方向に歩き出したギャスパーと黒歌を見送りながら、俺は力なく壁に寄りかかった。

 

 

 

──────どうしてだ四鎌童子(しかまどうじ)······生きていたなら、どうして俺には何も言ってくれなかった······?

 

 

 

アザゼルsideout

 




何故、四鎌童子はルシフェルに殺されたのか。

アザゼルが四鎌童子に聞きたいこととは何なのか。




──────物語の全ての鍵はルシフェルが握る。真相を知るのは彼女一人。


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