イレギュラーは家族と共に 〜ハイスクールD×D'sバタフライエフェクト~ 作:シャルルヤ·ハプティズム
ギャスパーside
僕はお父様が治める『サングィネム』の屋敷の地下にある、宝物庫の最奥部にいた。
ここには基本的に、ティアさんが所有していた物やお父様方が集めたアイテムの中で、伝説に名が残るような物が保管されている。
僕が封印されていた時は、ブリューナクもここに保管されていた。
ギャスパー「······久しぶりだね」
目の前にある、『
だが、目の前の槍は僕が触れても何の反応も示さない。その予兆すらない。
ここにある物で、所有者が決まっていない、或いは所有者を見放したなどの物には『魔の鎖』を巻き付けて力を抑えている。
目の前に鎮座する純白の槍は、僕が封印された時に僕を完全に見放したらしい。
ブリューナク以上に所有者を選ぶこの槍なら、まぁ当然とも言えるだろう。
ギャスパー「······はぁ。やっぱりダメか······」
そもそも、本来の所有者は僕ではない。暫定的に、仕方なく、僕に使われることを承諾した。と言った方が正しいとすら感じる時もある。
諦めて手を離し、入口で待っていた黒歌さんと合流すると、そのまま人間界に戻った。
ギャスパーsideout
八幡side
エルメンヒルデ・カルンスタインが訪れてから5日。俺はオカ研の部室にいた。これからルーマニアに向かうからだ。行くことに関しては、魔法陣による転移一回で出来る。
俺とクルルは、ルーマニアに着くと先にカーミラ側に向かう。ギャスパーが取り付けた交渉を、改めてカーミラに確約させるためだ。俺達以外はツェペシュに向かうことになっている。
まぁギャスパーには黒歌が付いて行くし、今回はアザゼルを初めとするグレモリー眷属がアザゼルの護衛としてルーマニアに行くから、そうそう大事になることはないだろう。
······向こうにいるであろう『クリフォト』も、突然仕掛けたりはしないだろう。
ギャスパーのことを考えると安心は出来ないが、念の為に、黒歌を除いたヴァーリチームにクロウ、ジン、シフラを加えた混成チームをバックアップ要員として待機させている。クロウがいれば、何らかの事態になっても対処は出来る筈だ。
それでもどうにもならない場合は、俺達全員でかかるしかない。
もう一つ、重大な問題がある。3日前、俺の眷属の一人であるディオドラと、ディオドラの『
また、ギャスパーは神殺しの影響で全開ではないものの戦闘なら全く問題ないくらいには回復した。それに、ギャスパーが襲われた時一緒にいたレイヴェル・フェニックスは、ヴァーリがレイヴェルの兄であるライザーに引き渡した。俺やギャスパーでないのは、その時ヴァーリしか手が空いていなかったからだが。
そちらに関しては、ヴァーリを通して、一人で行動させないように言ってあるから大丈夫だろう。元々、狙いは俺達だしな。下手に俺達と行動していれば更なる危険が舞い込む。それはオカ研も同じなのだが······アザゼルが、聖杯に関して現地で調べたいことがあるらしい。つまり仕方なく、だ。
俺は、全員が魔法陣の上に立ったことを確認して魔法陣を操作する。確認出来ると、魔法陣を操作する。魔法陣は光を強めていき、弾けた。
転移が終了すると俺達は石造りのドーム状の建物にいた。吸血鬼側が指定した座標に
エルメンヒルデ「······皆様、よくぞお越しになられました。
───手前どもは、ギャスパー・ヴラディだけでも宜しかったのですが」
俺達全員を見たあと、ギャスパーを見てから、再び俺達を、邪魔そうな目で見てくる。やっぱ吸血鬼は人をイライラさせるのは天才的だな。
エルメンヒルデ「到着そうそうでございますが、車まで案内致します」
俺達は建物を出る。外は時差の関係から深夜であり、雪が降っていた。俺達は防寒着を着てはいるが、かなり突き刺さるような寒さが襲ってくる。
ルーマニアの山奥にあることもあって、この時期には吸血鬼の領地は既に氷点下が当たり前となり、純血以外の吸血鬼ならば防寒着は必須だ。
現に、ギャスパーは防寒着を着込んでいるし吐く息も白いが、カルンスタインは防寒着を着ていないし、吐く息は白くない。
ギャスパー「は~······寒っ」
手袋はしているが、それでも両手が冷えるのでポケットに手を突っ込んでいだ。
尚、ここに来るまで普通に人の姿だったくせに、外がこれだと見るや否や、黒歌は猫の姿になってしれっとギャスパーのコートの胸元に潜り込んだ。お前その姿でいれば防寒着いらねえだろ······
待機してるヴァーリやクロウ達には後で何か温かい物持ってってやるか······そういや、城下町に既に潜っていると聞いたが何処にいるんだ?
アーシア「わぁ······」
そこで、シスター・アーシアが目の前の光景に感嘆の声を上げた。
眼下に広がる城下町は中央の城を囲むように建造物が立ち並んでいる。城下町は周囲が雪山なだけあって、余計映えるらしい。近代的な建造物も散見されており、家畜家畜言ってる割に、しっかり人間の文化を取り込んでいることが分かる。
因みに、俺達が出て来たのは監視用の塔であり、魔法陣はそこに用意されていたものだった。ドーム状の空間はそこの1階のものらしい。
俺達は塔を抜けると用意されていた2台のワゴン車に乗り込む。運転は俺とアザゼルですることになった。言っておくが、ちゃんと免許は取っている。人間界で暮らすなら当たり前だ。
こちらに乗ったのは、運転手の俺、クルル、ギャスパー、黒歌、塔城、ロスヴァイセ、カルンスタインで、他はアザゼル運転のもう1台になった。
ただ、猫の状態の黒歌はギャスパーの膝の上に乗っかっていればいいので、車内のスペースに余裕が出来た。
俺達は車内の中で、カルンスタインからの説明を受けていた。
ギャスパー「······ヴァレリーが···ツェペシュのトップ······!?」
カルンスタインの話によると、今から1ヶ月ほど前に、ツェペシュのトップがヴァレリー・ツェペシュにすげ変わったらしい。
八幡「······お前らは『
カルンスタインに尋ねる。せめて、何処か別の勢力と交流があればこんな事態にはならないと思うんだが······
エルメンヒルデ「······最近になって、ですが。やっと存在が認知されだしたところです。民衆の中には知らない者もいるでしょう」
カルンスタインは平然として言う。相変わらず自分達以外への興味が欠片もねえ奴らだな。そんなんだから簡単に侵入されるんだろうが······
周囲に張っている霧の結界は何なんだ······ハリボテか? それとも、俺が勘違いしてるだけでただの自然現象なのか?
ロスヴァイセ「男性真相を尊ぶツェペシュのトップがハーフの女性ですか······かなりのことが起こっているのは間違いないようですね」
ロスヴァイセが言う。
クルル「······カーミラは何て言ってるのかしら?」
クルルが窓に頬杖つきながら訊く。クルルから見ても、ギャスパーを利用したいという魂胆が見え見えで、気持ちいいわけがない。それでも、ギャスパーが受け入れたから無駄に口出しするつもりは俺達にはないが······
エルメンヒルデ「カーミラ様は、止められるのならそれに越したことはない、と。それに、上手くすれば救援を要請してきたツェペシュの王に貸しを作れるだろう、と仰られておりました」
何だそりゃ······
八幡「本当に止める気あんのか······?」
思ったより面倒だな。割とギャスパーに投げてやがる······溜息止まらなくなりそう···
簡単に言えば、『禍の団』が裏からツェペシュ側の一部、特に反政府グループを誘導して政権を乗っ取った。逃げ出した政権側はカーミラ側に頼らざるを得ず、カーミラはこの状況を打開するための一手に、元ヴラディ家のギャスパーに白羽の矢を立てたのだ。
勢力内の内輪揉めに一々外部の者を使うな······傲慢な態度でいるくせに、こんな状況になるとプライドはないのか。
こう悪い状況が続くとな······大規模な戦闘は免れないとは思っていたが、下手したらギャスパーをルーマニアから脱出させる必要があるかもしれん。
一番の問題は······
八幡「······ギャスパー。最悪の場合になったら、お前は黒歌とヴァレリーを連れてルーマニアから出ろ」
最悪の場合······全滅になる可能性も視野に入れなければならない。そうなった場合は、せめてギャスパーとヴァレリー······と黒歌ぐらいは逃がしたい。クロウにも、最悪の場合はヴァーリを縛り上げてでも離脱してもらうように頼んでいるからな。
だから先に言っておく。分かっていても免れない状況はでてくることもある。そうならないように力をつけてきたつもりだが······
本当のことを言えば、俺が自分の命を賭ける覚悟を決めるために言った。出来ればクルルがギャスパー達を連れていってくれるのが一番安心なんだが······クルルはここまでお見通しだろうな。俺一人が残ると言っても絶対に聞かないだろうな。
当のクルルは何も言わないが分かっているからこそ何も言わないのだろう。
ギャスパー「ッ!!······でも、これは僕が引き受けたことです」
八幡「でもだ。お前の目的は生きてヴァレリーを連れて帰ることだ。ならその想定はしとけよ」
ギャスパー「······分かりました」
ギャスパーだってそのくらいの覚悟があるからここにいる。そうでなければ、狙われているギャスパーを態々敵地に連れて来るようなことはしない。ギャスパーには生きて帰る覚悟をもっていてもらわなくては困る。
それからも暫く車を走らせていると、吸血鬼の領土の中心にある、ツェペシュとカーミラの領土を繋ぐ巨大な橋が見えてくる。俺は車を路肩に停めると、車外に出て伸びをする。3時間ぐらい走っていたが、この時間車を走らせるのは割と久々だったな。
車からはクルルとカルンスタインも降りる。俺達3人は一度カーミラの下に赴く予定になっている。
この後は、カーミラ側からの使者が車を寄越してくるので、それに乗ってカーミラの城に向かう。
アザゼルが運転する車が通りすぎるのを横目で見て、ギャスパーと黒歌に声を掛ける。
八幡「······じゃあ俺達はカーミラ側に行ってくる。先にツェペシュに向かってくれ」
クルル「黒歌、ギャスパーのこと頼んだわよ」
黒歌「了解にゃ。ま、ギャスパーから離れるつもりは一切ないけど」
クルル「······そう。なら良かったわ」
クルルが言った直後に、別の車が停めている車の後ろに停る。
エルメンヒルデ「······来たようですわ。それではこちらに」
カルンスタインに後ろに停った車に案内される。こちらは普通のワゴン車ではなく、黒塗りの車だった。おそらく、要人警護車両かと思われる。俺が向こうからどう思われてようがどうでもいいが。
運転席にロスヴァイセが座った車が発進したのを見送って、俺達も車に乗った。
······その際に、黒歌が運転席に座らなくて良かったと密かに思ったことは胸の内に留めておこう。黒歌は運転席に座ると、やたらはしゃぐからな······