イレギュラーは家族と共に 〜ハイスクールD×D'sバタフライエフェクト~   作:シャルルヤ·ハプティズム

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────これでよかったのだろうか。



────他にも選択肢はあったのか。




────いや、例えどの選択肢を選んでも結果は変わらなかっただろう。





────どう転んでも、自分はこの無意味な自問自答をしただろう。







────そもそも、自分に選択肢など最初から与えられていなかったのだから。





第80話 命の灯火

 

 

 

 

 

自分の目の前で浮いている黒いローブの目付きの悪い男──悪神ロキを睨みながら、思考を巡らす。

 

 

こっちは僕一人。先程スコルとハティを呼ぼうとしたが、呼ぼうとした途中で魔法陣が突然弾けた。空間に転移阻害の術式が仕込まれている。

 

解除は出来なくはないだろうが、向こうは北欧の悪神ロキに、顔が隠れるくらい深くフードを被った男。この男は気配から悪魔だと思うが、最上級クラスの実力者であると見て間違いない。

 

それに、金髪の少女──レイヴェル・フェニックスが人質に取られている。親しいわけではないが、顔見知りが拘束されているのはあまり気持ちのいいものではない。

 

 

 

 

ギャスパー「ロキ。何のつもりだ。お父様にフェンリルさんとスコルとハティを奪われたのがそこまで悔しかったか?」

 

 

ロキはお父様のエクスカリバーの力で、フェンリルさんとスコルとハティが支配下から抜けた。ロキは自分の切り札が奪われてさぞかし悔しかっただろう。同情はしないが。

 

 

ロキ「······黙れ。貴様らは黄昏の障害。排除して今度こそ我が黄昏を始めるのだ」

 

ギャスパー「······そうはさせられない」

 

レプリカのダインスレイブを亜空間から取り出しながら言う。ロキには、ある一件の際に、僕がブリューナクを所持していることを知られてしまっている。だが、どれくらい使えるかは分からない筈だ。

 

 

ロキ「······神魔槍を使わないだと? 嘗められたものだ!!」

 

ロキの両手に濃密なオーラが集まっていく。まともに食らうのはまずい。

 

僕は左手に魔力を集中させる。ロキが波動を放つと同時に、僕も魔力弾を放ち、ロキが放った波動にぶつける。ぶつかると爆発し、白い爆風が発生する。

 

 

僕はその隙に、フードを深く被った男の隣で拘束されているレイヴェル・フェニックスを抱えてロキとローブの男から距離を取る。

 

今まで気を失っていたが、今の爆発の音で目が覚めたらしい。

 

 

レイヴェル「······ここは?」

 

ギャスパー「ごめん、ここから動かないでね······後ろにいてくれないと命の保証は出来ない」

 

レイヴェル「貴方は······ギャスパー・ヴラディ?」

 

 

 

ロキ「チッ···今までのは全てブラフか。高々その程度の子供を助けて何になる」

 

ロキは恨めしそうにこちらを睨んでくる。

 

ギャスパー「別に。顔見知りがこんな所にいるのにいい気分がするわけがないだろう」

 

 

100以上の魔法陣を一度に展開し、全てから魔力弾を放つ。流石に、これで傷を負わせるのは無理だろうが、それでいい。幸い、ローブの男は今のところ参戦するつもりはないらしい。

 

まだお互い手の内を見せない腹の探り合いをしているのだ。せめて、出来るだけ時間を稼いでお兄様と黒歌さんが来るまで持ち堪える。

 

 

レイヴェル「あ、あの······」

 

ギャスパー「?」

 

レイヴェル「貴方は何故ここに······? それよりここは······?」

 

レイヴェルが視線を落としながら聞いてくる。何処を見ているかと思えば、僕が手にしているダインスレイブに視線が注がれていた。

 

ああ······このクラスの魔剣を見たことがないのかな?······まぁ、いくらレプリカと言えど、ダインスレイブ並のクラスの魔剣はそうそうある物じゃないのか。

 

ギャスパー「どこまで覚えてる?」

 

ロキに向き直って、訊く。波動の雨を大量の魔力弾で相殺する。爆発は防御の魔法陣で防ぐ。

 

レイヴェル「······魔獣の森で、数人の男性に襲われたところまではっ······!」

 

そこまで言ったところでレイヴェルの体が震え出す。嫌なことを思い出させてしまったらしい。襲われたことを失念していた僕が悪かった。

 

ギャスパー「もう言わなくて大丈夫だよ······君は『禍の団(カオス・ブリゲード)』に捕まってここに連れて来られたんだ。で、彼処にいるのが『禍の団』の構成員の一人で、僕に攻撃を仕掛けているのがテロ組織に下った馬鹿な悪神だよ」

 

上空に数千本の魔力で形成し、電撃を付加した矢を出現させる。

 

ロキ「ここで死ね······!! ギャスパー・ルシフェル!!」

 

ロキが無数の波動弾を放ってくる。

 

ギャスパー「······ここで死ぬつもりはない!! 『天雷星群(サンダラ・インペルディオ)』!!」

 

手を振り下ろす。上空に出現させた電撃を帯びた矢がロキの放った波動弾に降り注いで相殺していく。相殺した矢は電撃を周囲に飛ばして消滅していく。

 

 

 

 

 

 

ギャスパー「······グッ······何だ·······?」

 

レイヴェル「ギャスパー様?」

 

『天雷星群』が全て消滅した時だった。降らせた矢は、ロキの波動弾の数を上回った。ロキにも少なくないダメージを与えた······が、その時突然体から力が抜けて、地面に手を付いた。

 

ロキ「ふははははっ!! どうしたギャスパー・ルシフェル。情けない姿を晒しているぞ?」

 

ロキが高笑いを上げる。それなりにダメージは与えたようだが、そこまで大きなダメージを与えられていない。反対に、僕は力がどんどん抜け続けている。

 

 

 

······まずい。相手は狡猾な神ロキであるというのに、失念していた。最初から僕が目標だと言うのだから、僕を苦しめてくるあらゆる罠を仕込んでくるに決まっている······!!

 

 

ギャスパー「うあぁぁぁっ!!」

 

抑えていた分のオーラに術式破壊の術式を付加したものを解き放って、強引に術を破壊する。

 

ギャスパー「グッ·······はぁ······はぁ······」

 

消耗が酷い······相当持ってかれてたのか······

 

ロキ「······ほう? だがそんなことが何時まで続くかな?」

 

その時、ズゥゥゥン、と低音が響く。そして、ロキの向かって右側の空間が激しく歪み出した。

 

マズイッ······!! ここで何か呼び出されたら終わりだ!!

 

ギャスパー「はぁッ!!」

 

レプリカのダインスレイブをロキに投擲し、レプリカのブリューナクを亜空間から取り出す。

 

だが、投擲したダインスレイブは······空間の歪みから出て来たフェンリルさんとそっくりな魔獣に爪で弾き飛ばされた······!!?

 

ギャスパー「なッ······!!?」

 

ロキ「ふはははは!! それはフェンリルの量産型だ。力はスコルやハティにも劣るし中々量産が効かないが、今の貴様なら十分だ」

 

最悪だ······まさかフェンリルさんの量産型まで投入してくるなんて······!! 『魔の鎖(グレイプニル)』で対処出来るだろうか······?

 

ギャスパー「クッ······『魔の鎖』!!」

 

複数の魔法陣を展開し、鏃の付いた鎖を操って量産型フェンリルを狙う。

 

これでいけるか······!?

 

ロキ「『魔の鎖』だと······!?」

 

量産型フェンリルを『魔の鎖』で捕縛する。ロキはそれを見て狼狽している。これで少しは大丈夫な筈だ。ロキが量産型を改造してなければだが······

 

レイヴェル「ッ!? ギャスパー様!!」

 

 

 

ギャスパー「え?······ごぷっ」

 

その時、口から大量の血が吐き出される。見下ろすと、胸の真ん中から少し右あたりを、黒く光る剣が貫いていた。

 

剣は間もなく引き抜かれる。

 

 

ギャスパー「······何、で···············ディオ、ドラ、さん······」

 

何とか振り向いて、僕に剣を突き刺した人に尋ねる。

 

ディオドラ「すまないギャスパー君······すまないッ······!!」

 

 

 

······ディオドラさんは、涙を零しながら、もう一度同じ所に黒い剣を突き刺した。そしてすぐに引き抜いた。

 

ギャスパー「がはっ······」

 

やばい······あの剣は、僕にとって猛毒か······意識が······

 

 

とうとう立つことさえ出来なくなって、倒れ伏す。

 

量産型フェンリルを捕縛していた『魔の鎖』は解けてしまった。

 

 

 

 

ロキ「ふははははっ。こうもあっさり終わるとは······拍子抜けもいい所だ」

 

ロキが高笑いを上げている。

 

「······さて、この空間はそろそろ崩壊します。我々は離脱しましょう」

 

ローブの男が魔法陣を展開している。おそらく、転移用魔法陣だろう······

 

「では、貴方も行きましょう。ディオドラ・アスタロト」

 

ローブの男がディオドラさんに言う。ディオドラさんは苦しそうな表情を浮かべつつも、頷いた。

 

ロキと量産型フェンリルとローブの男、そしてディオドラさんが魔法陣の光に包まれていく。ディオドラさんは、転移する直前に、持っていた黒い剣を僕の側に放り投げた。

 

剣が地面に落ちるより先に転移用魔法陣は弾けて、魔法陣に包まれた者は全員消えていた。向こうの転移が成功したと言うことだろう。

 

 

 

······ディオドラさんが吐いた去り際に投げた剣を見て気付く。この剣は、僕に三重の意味で特攻作用があるらしい。

 

刺された所は、『闇』で再構築したが、剣から流れた力が問題だ。

 

 

 

剣には、サマエルの毒が塗られており、剣自体も強い『聖』の属性を帯びていた。

 

 

······それに、この剣はどうやら、量産型フェンリルの牙から作られているらしい。神性を帯びている(・・・・・・・・)今の僕には、必殺の効果を発揮する。

 

 

やばい······もう意識が限界だ。せめて、さっきからずっと僕に声を掛け続けているレイヴェルだけでも逃がさないと······

 

ギャスパー「それで逃げて······」

 

レイヴェル「なっ······!?」

 

転移用魔法陣を展開する。意識が朦朧としているが、家かオカ研の部室のどちらかを目的地に指定出来た筈だ·······

 

 

ギャスパー「こぷっ······」

 

レイヴェル「ギャスパー様!! ギャスパー様!!」

 

仙術で、サマエルの毒と『聖』の力を、吐き出して、体から排出する。ああでも、ここから動けないんじゃ、神殺しだけでも死ぬ(・・・・・・・・・)か······

 

 

ああ、意識が薄れていく······

 

走馬灯ってあるんだなぁ······脳裏には、お父様とお母様に引き取られてからのことが鮮明に映し出されている。

 

 

そう言えば、ルーマニアに行って、ツェペシュの暴走を止めて、ヴァレリーを助けなきゃいけないんだ······まだ死ねない······それに、また黒歌さんに寂しい思いをさせられない······結婚するって、約束したのに······

 

 

 

「·······ギャ····パー······」

 

「ギャス······················」

 

「ギャ··························」

 

「···································」

 

 

 

誰かが呼んでる? でも、もう誰の声なのか判別出来ない······これ、この前見た夢みたいだ······でも、もう僕には助けてって言う力も残ってないからなぁ······

 

 

 

 

僕の意識はそこで途絶えた。

 

 

 

ギャスパーsideout

 

 

 

 

 

 

 

 

ディオドラside

 

 

 

すまないギャスパー君······こうするしか、他になかったんだ······

 

 

彼女を助けるためには······君に剣を突き刺すこと以外に他になかったんだ······すまない。

 

 

君には殺されても文句は言えない。いや、僕はもう八幡様の眷属(家族)でいる資格はない。そうだとすれば、誰かが必ず殺しに来るだろう。

 

 

僕の命はどうでもいい。こうなってしまった以上、僕の命は風前の灯というやつだ。でも、彼女が助かればそれでいい。それだけでいいんだ。僕の『女王(クイーン)』であり、婚約者でもある彼女を······こうして救えるなら······

 

 

 

僕は、自分の体内から、八幡様にいただいた『悪魔(イーヴィル)の駒(・ピース)』を取り出すと、感知されないように術を掛け魔王である兄の元に転送した。

 

 

 

ディオドラsideout

 

 

 







ギャスパーを呼んだのは、上から順に、ヴァーリ、クルル、八幡、黒歌です。


牙ってあまり武器にはされないと思いますが、フェンリルの牙って原作二天龍の禁手(バランス・ブレイカー)の鎧も軽々と破壊出来るんで、余裕でアリだと思いました。

ギャスパーが刺された剣のイメージは、赤い外套着た弓使わない弓兵が、赤い槍持った顔以外全身青タイツと初めて戦った時に、最初に壊されたやつです。



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