イレギュラーは家族と共に 〜ハイスクールD×D'sバタフライエフェクト~   作:シャルルヤ·ハプティズム

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今回の話は飛び飛びになります。今回のメインはヴァーリ(とギャスパー)になります。


第32話 白を宿した少年(後編)

 

 

 

ヴァーリside

 

 

 

俺と姉さんが八幡さん────父さんに引き取られてから3年が経った。

 

父さんと呼んだ当初は無理しなくていいと言われたし、母さんにも言われたが、血縁上の父親(アイツ)を父とは呼びたくなかったし、あの時助けてくれなかったら俺と姉さんは今もあの部屋に監禁されていた。きっと、俺も姉さんも死んでいただろう。

だから、今生きているのは、この命がまだあるのは護ってくれた人達(父さんと母さん)がいたからだ。 せめて恩返しぐらいはしたかったが、今の自分には、返せるものが何もなかった。

 

 

八幡「······どうした? ボーっとして」

 

俺は病院を退院してすぐ、父さんに強くしてくれと頼んだ。もう姉さんが目の前で暴力を振るわれるのを見たくない。姉さんは周りが驚く程回復したが、長い監禁生活の後遺症で今もまだ入院中だ。理由は父さんにも母さんにも言ってないが、気付いているだろう。

 

 

ヴァーリ「なんでもない······もう一本お願いします」

 

八幡「あいよ」

 

今しているのは剣の修行だ。父さんが強いのは知っていたが自分の想像より遥かに強かった。父さんの下で、剣以外にも体術や魔法の修行もしている。

 

······一番驚いたのは父さんの師匠が母さんだったことだろうか。母さんは体にデメリットを抱えているため殆ど戦闘で前線に出ることはないらしいが、父さん曰く、短い時間で限って言えば母さんには絶対に勝てないとか。目指している人達が途方もなく遠いことを修行が始まって3日で実感したが、俺の尊敬する目標になった。

 

 

 

 

 

八幡「······今日はここまでな」

 

ヴァーリ「はぁ······はぁ······はぁ·····ありがとうございました」

 

今日も一太刀も当てられなかった。というか、父さんは全く息が切れていない。対して、俺は立っているのも限界だった。

 

クルル「2人ともお疲れ様。はいコレ」

 

母さんが渡してくれたスポーツドリンクを一気に飲み干す。父さんは母さんと何か話していた。スタミナの差が······

 

『ヴァーリ、気に病む必要はない。アイツとお前では年季が違う。体格もな。差があるのは当然だ』

 

俺を慰めてくれているアルビオン。修行が始まってすぐに、こいつとは会話出来るようになった。今では頼もしい相棒だ。父さんは二天龍に余りいい印象を抱いていないが、どうやら、アルビオンはもう片方の巻き添えを食らったらしい。

 

 

ヴァーリ「そうは、言ってもさ······」

 

『急いでも仕方がない。一朝一夕で身につくものではないからな』

 

ヴァーリ「そうだな······よし、明日からも頑張るか」

 

『その意気だ』

 

 

 

 

 

そうこうすること更に2年後。

 

俺に弟が出来た。名前はギャスパー。人間とのハーフヴァンパイアで、血統を強く重んじる一族の出で、家を追い出された所を母さんが引き取ったらしい。

 

新しく出来た弟······ギャスパーの目には光が宿ってなかった。自暴自棄の一言で済ませてしまえばそれまでだけど、人間、そんな簡単には出来ていない。

 

 

 

ヴァーリ「······食べないの?」

 

ギャスパーが来てから毎日のことだったが、俺が食べ終わっても、ギャスパーは食べ始めてめいなかった。それに、流石にイラッときたが、押さえてギャスパーに尋ねた。

 

ギャスパー「食欲······ないので」

 

ギャスパーはそう一言だけ答えて、出された料理には全く手を付けず自室に戻ってしまった。

 

クルル「······難しいわね」

 

ヴァーリ「そうなの?」

八幡「······心を開く(何かを受け入れる)のはな、それだけ大変なことなんだよ」

 

父さんも言っているし、理由があることは簡単に理解出来たが、父さんにも何を出来ないらしい。これは本人が解決するしかないんだとか。

 

 

八幡「あの子の、ギャスパーの気持ちも分かってる筈なんだけどな······」

 

 

ヴァーリ「なんか言った?」

 

八幡「······聞き間違いだ」

 

ヴァーリ「ふ〜ん」

 

最初はそんな感じで、ギャスパーは家の中でも独りだった。独りでいた。

 

 

 

八幡「······食わないのか?」

 

ギャスパー「······入りません」

 

また始まった。ギャスパーはこの度に部屋に戻ってしまう。ただ、ギャスパーはこちらに来てから明らかに碌に食べていない。

 

クルル「食べなきゃダメよ? 倒れちゃうわ」

 

ヴァーリ「······美味しいのに」

 

クルル「ありがとうヴァーリ」

 

母さんの味を否定されているみたいで、嫌だった。それを見て母さんは、俺の頭を撫でてからキッチンに戻った。

 

ギャスパー「別にいいです」

 

八幡「ダメだよ。食え」

 

ここに来て父さんも流石に見かねたようで、ギャスパーに無理にでも食べるように強く言った。

 

ギャスパー「·····要りません!!」

 

反抗したギャスパーが勢いよく立ち上がるが、その際に手が引っかかり皿が落ちた。地面と衝突した皿は高い音と共に、細かく砕けた。

 

ギャスパー「あ·······」

 

八幡「······怪我、してないか?」

 

ギャスパー「え?」

 

怒られるとでも思ったのか。キョトンとしていた。ここで怒るようなら、父さんも母さんもとっくに怒鳴っているだろうに。

 

八幡「どうした? そんな顔して」

 

ギャスパー「え·······怒らないんですか?」

 

父さんが皿の破片を拾っているので、持ってきた雑巾で零れたスープを拭き取る。その後、母さんが新しいスープが装られた皿を持ってきた。

 

クルル「はい。新しいスープ」

 

ギャスパー「これ·······」

 

クルル「食べてないでしょ? 食べなきゃダメよ?」

 

ギャスパー「ありがとうございます·····」

 

ギャスパーは大人しく席について、スープを咀嚼し始めた。

 

ヴァーリ「こうなるって分かってたの?」

 

クルル「まあね」

 

その後、初めてギャスパーを交えた4人で食事を終えた。ギャスパーの顔が少し緩んだように見えた。

 

 

 

食事を終えてから、俺はギャスパーの部屋を訪ねていた。

 

ヴァーリ「······入っていい?」

 

ギャスパー「······どうぞ」

 

ギャスパーはベッドの上で膝を抱えて窓から空を眺めていた。

 

ギャスパー「······何か?」

 

ヴァーリ「······今日のスープ」

 

ギャスパー「?」

 

ヴァーリ「どうだった?」

 

ギャスパー「······美味しかったです」

 

ヴァーリ「ならよかった······お前のこと聞いたよ。ここに来るまでのこと」

 

ギャスパー「······え?」

 

実は昨日、父さんから聞いたのだ。ギャスパーの今までの暮らしを。

 

 

実の母はもういない。

 

実の父は自分を遠ざけ、兄弟は自分を忌避し、家に居場所はない。

 

外では自分は穢れた血だと罵られ、石を投げられ、暴力を振るわれる。

 

 

父さんは放っておけず、引き取ることを決めたらしい。俺や姉さんが同じ立場だとしても父さんは放っておかなかっただろう。そういう人だ。

 

ヴァーリ「······俺もさ、5年前まで血の繋がった父親に虐待されてたんだ」

 

ギャスパー「·······!!」

 

目を見開いて驚くギャスパーを他所に、俺は続ける。

 

ヴァーリ「姉さんも同じように虐待されててさ、後遺症で姉さんは今も入院中」

 

ギャスパー「······何でそれを僕に?」

 

ヴァーリ「深い意味はない。でもさ·······一つ言うなら、()()()()()抱え込まなくてもいい。そんなの、辛いだけだよ」

 

ギャスパー「でも僕は······」

 

ヴァーリ「別にいいじゃん」

 

ギャスパー「!!?」

 

何を勘違いしてるんだろうこいつは。

 

······こいつを見て、父さんが言っていたのを思い出す。

 

八幡『······俺が何で強いかって? ······ヴァーリ。別に、俺は強くない。俺なんて、クルルがいないと何も出来ないしな。大事なのは······そうだな、強いかどうかじゃなくてどうして強く見えるか、だな。俺が強く見えたのは、俺が、クルルとかメリオダスとか······オーフェリアとかお前に、カッコつけたいだけだよ。

······人間は、誰かを支えにしないと生きていけない。せめて、支えにしてるやつに格好の一つもつけてやらないと、申し訳ないだろ? そんだけだよ』

 

 

ヴァーリ「俺だって最初は怖かったよ。あの2人が」

 

環境の変化に順応出来ない、と言ったら多少は見栄えがいいだろうか。なんであそこまでしてくれるのか全く分からなかったし、どう接したらいいのかも分からなかった。

 

けど、2人とも嫌な顔一つせずに笑いかけてくれた。そんなこと、もういない実の母(おかあさん)だけだった。俺も姉さんも、少なくともそんな2人に救われた。

 

ヴァーリ「少しずつで、いい。父さんはそう言っていた」

 

ギャスパー「······そうですか」

 

ヴァーリ「俺が話したかったのはそれだけだよ。付き合ってくれてありがとな」

 

ギャスパー「······いえ」

 

ヴァーリ「おやすみ、ギャスパー」

 

ギャスパー「······おやすみなさい」

 

 

それから1ヶ月後のことだった。ギャスパーが誘拐されたのは。

 

 

 

 

 

その日、学校から帰ってくると、父さんと母さんが妙に慌てていた。聞くと、出掛けたままギャスパーが帰ってきていないらしい。ギャスパーの足でも歩いて20分もあれば行ける所らしく、もう2時間も帰ってきたいないらしい。

 

八幡「······俺達は探してくるから。ギャスパーが帰って来るかもしれないからヴァーリは家にいてくれ」

 

ヴァーリ「分かった」

 

父さんと母さんは飛び出して行った。斯く言う俺も、『白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)』で飛び出して行きたかった。

 

『·····心配なのも分かるが、任せておくべきだろう』

 

ヴァーリ「······分かってるよ」

 

アルビオンに不満げに返す。いや、7歳の弟が心配に決まってるだろ。でも、何かあった時に下手に迷惑を掛けるわけにもいかないので、大人しく待つことにした。

 

 

 

 

ギャスパーが父さんにおんぶされて帰ってきたのは1時間後だった。

 

 

ヴァーリ「おかえり父さん。ギャスパーは······?」

 

八幡「心配ないよ······今寝てるから静かにな」

 

ヴァーリ「うん、分かった」

 

 

父さんがギャスパーを布団に寝かせると、ギャスパーの頬に、泣いた跡があったことに気付いた。

 

ギャスパー「······お父様······お母様······」

 

ヴァーリ「今お父様って······」

 

寝言で確かにそう言った。今まで言わなかったのは無意識で遠慮していたのか気恥ずかしかっただけなのか。

 

八幡「ああ」

 

 

ヴァーリ「······俺は前から弟だと思ってたけど」

 

八幡「俺も自分の子供だと思ってたけどな」

クルル「私もね」

 

ヴァーリ「俺······お兄さんって呼んでもらえるのかな」

 

八幡「大丈夫だろ」

 

俺だけ「ヴァーリさん」とか呼ばれたら悲しすぎるよ。多分ないけど。

 

······姉さんとカルナにもあって欲しい。学校にもほぼほぼ行けない姉さんも、遊ぶ相手の少ないカルナもきっと喜ぶ。

 

ヴァーリ「·····今度姉さんに会ってもらいたい。カルナとも、友達になってもらいたい」

 

八幡「······そうだな。ギャスパーなら······」

 

 

 

2日後。

 

 

ヴァーリ「······来たよ姉さん」

 

 

2日経って、俺達は入院している姉さんの下に訪れていた。姉さんは栄養失調と虐待による暴力で脊髄を損傷し、下半身麻痺と言語障害により、今も尚入院中だ。皮肉にも、俺が綺麗に回復出来たのは忌避していた悪魔の血による治癒力の高さ故らしい。姉さんは人間の血の方がかなり濃いんだとか。俺は半々ぐらいだった。

 

 

ギャスパー「お、お邪魔します」

 

オーフェリア「······?」

 

事情を知っているとはいえ、初めて会うギャスパーに首を傾げる姉さん。その姉さんの隣にはスヤスヤ眠っているカルナがいる。カルナの頭をそっと撫でる姉さんは、14歳とは思えないくらい大人びている。

 

八幡「······オーフェリア。今度家で引き取ることになったギャスパーだ」

 

ギャスパー「ぎ、ギャスパーです。よ、宜しくお願いします······」

 

宜しくね、この子(カルナ)とも仲良くしてあげてね、と言っているようだった。いや、きっとそう言っている。

 

ヴァーリ「ギャスパー、もっと楽にしていいよ」

 

ギャスパー「は、はいぃ······」

 

仕方ないことなんだけど、ギャスパーの動きはかなりぎこちない。緊張する気も分かるけど、

 

ヴァーリ「今日は姉さんとカルナにギャスパーと会って欲しかったんだ。カルナは寝ちゃってるけど」

 

そう言うと不思議そうな表情を浮かべる。「どうして?」と聞いているのだろう。

 

ヴァーリ「大した理由じゃない。姉さんに、新しくできた弟を紹介したかっただけだよ」

 

姉さんは、「······そう」と簡単に返した。けど、微笑んでいたのは言うまでもなかった。

 

 

姉さんがギャスパーに手招きする。ギャスパーが不思議そうな表情を浮かべつつ姉さんの所まで行くと、姉さんはギャスパーの頭に手を置いて優しく撫で始めた。

 

ギャスパー「あ、あの?」

 

微笑みながらギャスパーの頭をひとしきり撫でた姉さんは、何やら紙に書き出した。筆談をするつもりらしい。姉さんが今まで筆談をしようとしたのは、父さんと母さんだけだ。

 

凄いことだ。医師との会話にすら俺達を挟んでいた姉さんが、今日会ったばかりのギャスパーと筆談しようとしている。

 

 

······今はもう、父さんも母さんも筆談しなくても姉さんの言ってることが理解出来るらしいけど。当然俺もだがな。

 

 

書き終わったようで姉さんがギャスパーに紙を見せた。

 

【改めてまして、私はオーフェリア。こっちは娘のカルナ。ヴァーリとカルナと仲良くしてあげてね】

と、紙に書かれている。

 

ギャスパー「······あ。は、はい」

 

【よかった。特にカルナは人見知りが激しいの。めげずに仲良くして欲しいの】

 

姉さんは続けて紙にそう書いた。まだ5歳のカルナが、ギャスパーを見てどう感じるかは分からないけど、悪いことにはならないと思う。

 

ギャスパー「僕に出来ることなら······」

 

【ありがとう。私はいい弟をもったわ】

 

ギャスパー「そ、そんな······僕なん、いえ何でもないです」

 

僕なんてとは言いそうになったけど、変わり始められたんだな。姉さんが頼むまでもなく、カルナとギャスパーが仲良く出来ればいいんだけど。

 

クルル「······カルナも寝てるし、今日はこの辺でお暇するわ」

 

ヴァーリ「もう?」

 

クルル「文句言わないの。オーフェリアが疲れちゃうわ」

 

あと、3時間ぐらい使って、姉さんに話したいことが山ほどあるのに。

 

ヴァーリ「·······はい」

 

【ギャスパー来てくれてありがとう。皆も】

 

八幡「また、来るからな」

父さんはそう言った姉さんの頭を優しく撫でる。姉さんは嬉しそうに目を細めていた。大人びているように見えても、こういう所は俺やギャスパーと変わらない。

 

ヴァーリ「また来るよ姉さん」

 

ギャスパー「あの、今日はありがとうございました」

 

ギャスパーに対して姉さんは

 

【気にしないで欲しいわ。今度改めてカルナを紹介するわね】

 

と答えた。

 

ギャスパー「あ、ありがとうございました······ま、また来ます」

 

 

今度は姉さんが見守るように目を細めた。

 

 

 

 

 

 

ヴァーリ「······ギャスパー、姉さんはどう見えた?」

 

ギャスパー「······優しくて強そうで······でも脆そうだと思いました」

 

ヴァーリ「·····俺が強くなりたいのはさ、姉さんを守れる力が欲しいからだ。笑うか?」

 

ギャスパー「······笑いません。カッコイイです」

 

ヴァーリ「そっか······俺達もいつまでも守られてばかりってわけにいかないしな」

 

ギャスパー「······はい。僕も強くなって────」

 

 

 

少年達は守りたいと······強くなりたいと。願った。

 

 





カルナは、学戦都市アスタリスクのフローラが茶髪になった感じ。


過去回はもう少し続きます。

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